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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で最凶を目指すことにした 。



 俺は二人に抱えられ、(おさ)の家に戻った。


 クロイツの亡骸を先に運んでもらいたかったのだが、声がでないので意思の疎通ができない。


「来るのが遅いのう」


 神を囲むように、(おさ)達が頭を下げ土下座をしている。

 これはいったい、どういう状況なんだ。


「まずは自己紹介をしようかのう。我が名は高杉伸也(たかすぎしんや)、七人の勇者の一人で魔族でもありヴァンパイアで美少女神じゃ」


 七人の勇者ってなんだ? 勇者は六人じゃないのか?


 だが、神はそれを否定する。勇者は全部で7人いると。

 魔族であるこいつが勇者の一人でそれでいて神でもある、クロイツの言う神話と話が違うじゃないか。

 そもそも勇者って何なんだよ! そんなのがあるからミスティアやクロイツが……。


 「ふむ、勇者とは魔王を倒すためのシステムじゃ。そして魔王と言うのは魔族の身でありながら神になろうとした愚か者の末裔じゃ」


『神に?』


「そうじゃ。そして我はここから出れぬ身なので、我の代わりに魔王を倒させる為に異世界人を呼び寄せておる」


『今、勇者はいるのか?』


「いる。だが今代(こんだい)の勇者はやる気がなくてのう、ためしの剣がないのを良いことに逃げておるのよ」


『勇者じゃなくても、魔王は倒せるのか?』


「倒せる。倒すだけならばな」


『じゃあ、』


「ええい、うるさいわい。今はそれどころではない貴様の処遇を決めておるのじゃ静かに沙汰(さた)を待てい!」


 今のこの状況は俺の処遇について話し合いをしていると言う。神としてはハコブネを破壊しようとした罪は万死に値するので死刑にしたいそうなのだが、里の者たちが俺の減刑のために集まり、神に懇願しているのだという。


『俺の命ならいくらでもくれてやる。でもそれはクロイツとミスティアを救ってからだ』


「しかし、主は学習せんのう。すぐに自分の命を軽んじる。まあよいわ」

 そう言うと俺のをつまらない生き物でも見るように目を細めるとため息を一つつく。

 自分の命など惜しくない、全ての元凶たる俺が死ねにが一番良いのだ。

 クロイツが生き返るなら、俺はなんでもする。


「では、ミスティアと言う娘の方は諦めるのじゃな?」


『それは……。無理だ』


「煮えきらない男じゃのう」

 神は呆れ顔で俺を見る。


「まあ、よいわ。沙汰(さた)を申す。(ぬし)はハコブネから追放処分、ハコブネの事を他言せぬようアリエル、カイエル両名は人質としてハコブネに残ってもらう。以上じゃ!」


 アリエルとカイエルを俺から奪うのか。やだ、二人は渡さない。それに俺一人じゃクロイツを生き返らせられない。


「何を言っておる。魔王を殺す気がないのじゃろ? ならば生き返るはずがないじゃろ」


『もう少し、もう少しだけ考える時間をください』


「愚か者が!!」


 そう一括すると神は俺の。優柔不断な態度がクロイツを殺したと言う。そして今大事なものはなんなのか、それを考えることすらしていないと言う。選べない。選べないことを理由に考えることをやめていた。

 考えることをやめた俺の判断に他の者を巻き込むなと言う。


 ミスティアやクロイツだけじゃない、アリエルやカイエルも俺が巻き込んでいる。

 俺の決められない優柔不断さが皆を苦しめる。


『だからって、どうすれば良いんだ』


(ぬし)は精神が弱すぎる、強くなるよう我が協力してやろう」


 神はそう言うと俺から奪った全ての力を封印すると言う。LVと神の祝福(プライム) そして魔力、それらを封印すると。


(ぬし)は今後、いくら魔物を倒そうがレベルは上がらんし強くもなれん。その状態で魔王を倒して見せよ。さすればクロイツの命を蘇生させてやろう、以上じゃ。即刻この者を追い出せ」


 俺の優柔不断さで、神を怒らせてしまった。だけど、力がないまま追い出されたら、俺はクロイツを生き返らせる事ができない。


『待ってくれ、時間を、時間をください』


 だが、そんな俺に興味を無くしたのか、神は明後日の方向を向く。


「お待ち下さい、高杉伸也様、どうか私たちをガリウス様のお側に!」


 アリエルが神の眼前で土下座をして床に額を擦り懇願する。

 しかしその願いは神には届かずダメじゃの一言で一蹴された。


「どうか、お願いたします」

 なおも食い下がるアリエルを後目に、俺は獣人たちに抱えられて板状の乗り物の上に乗せられる。


 ごめんアリエル。


 そのままハコブネの出口から外に出ると(おさ)の息子は俺を担ぎ上げ歩き出す。ハコブネの入口の前から遠ざけたいのだろう。

「すまない、私たちも取りなしたのだが、神様の決定には逆らえないのだ。こんな状態のあなたを街道に放置するのは忍びないが、どうか許して欲しい」

 ハコブネの出入り口から十分距離があくと、荷物と一緒に木の側に俺をおろすし(おさ)の息子は土下座をして謝る。


 神には逆らえない、神が管理する場所に住んでいるのだからそれは仕方がない。

 俺は彼らを恨む気にはなれない、これは仕方がないことで俺のせいなのだから。


 ハコブネに帰る獣人たちの背中にすまないと思いながら俺は現状確認をすることにした。

 体は動かない、だがマップは使える、敵は近くにはいない。どうやら獣人達が周辺の魔物を狩ったようだ。


 しばらくはここにいても安全のようだ。俺はステータスをチェックした。


名前

種族:

職業:

HP0

MP0

LV0

力:0

瞬:0

知:0

技:0

魔:0

幸:0


 真名命名(ネーミング)


 そこには俺の名前さえない、オール0のステータスがあった、だけど真名命名(ネーミング)はあるのか。神は神の祝福(プライム)も封印すると言っていた。しかし真名命名(ネーミング)があると言うことは真名命名(ネーミング)神の祝福(プライム)じゃないのか?


 それよりもレベルが0だと、そんな事あり得るのか。

 これが動けない原因なのか?


 神は全てのマナ的要素を奪うとも言っていた。

 そして息もできなく、目も開けることができなかった。


 これは城塞都市の魔法屋のオババが言っていたことに関係しているのかもしれない。


 マナは大気に満ちている、MP(マジックポイント)はマナを呼吸で吸収することにより心臓に貯まる、そしてそれが体を動かし、MP(マジックポイント)にもなる。


 俺たちは魚と同じであり、マナは水だと言う。魚が水がなければ生きられぬように、俺たち人もマナがなくなれば呼吸すらできずに死ぬだろうと言っていた。


 だけど勇者は違う。


 勇者がなぜ強いのか、勇者は異世界人で筋肉の使い方が我々とは違うからと言うことらしい。

 俺たちはマナで筋肉を動かすが、彼らは神経と言うのを使い動かすらしい。


 だけど、俺達も勇者も肉体は同じだ。なら俺にだって出来ないはずがない。


 あのとき、クロイツを治したいと言う意思の力で這いずることができた。

 つまり、動かすと言う意思をもって、筋肉を動かすのだ。


 まずは呼吸だ。多分そんなに時間もかからずに呼吸が止まるだろう。

 今、呼吸ができるのは神がマナを部分的に送ったからだ。


 魔法屋のオババは言っていた。


 魔力操作は異世界人の筋肉の動かし方を魔力で再現したものだと。

 それならば魔力操作ができる俺なら普通に動かせるはずだ。


 息が吸えて当たり前だと思え。りんごの実が上から下に落ちるのが当然のように。

 意識を変えるんだ。自然に呼吸を出来るように。


 そう考えて深呼吸をすると、少し深い呼吸が出来た気がする。


 次に、俺は体の全てに意識を集中して魔力操作の時と同じように意識を全身の隅々(すみずみ)までいきわたらす。

 俺は木に寄りかかったまま指を一本ずつ動かす、鈍いがなんとか動く。完全に魔力操作と同じ感覚で行ける。


 今体を動かして分かった。俺の魔力操作はつたない。だから大量のMPで暴走してしまったのだ。ちゃんと動かせるようになれば全力でも動かせるようになるだろう。そうすればクロイツは粉々にならなかった。


 ……やっぱり、俺のせいじゃないか。


 荷物の横に置かれていた俺のひのきの棒を手に取り。それを杖にして立った。

 足はガクガクしているし、体は重い。

 だが立てた。問題ない、いける。


 そのとき、マップに敵属性が二つ表示された。すごい速さで街道をこちらにめがけ移動している。


 暫くすると馬の走る音が聞こえてきた。草食の馬が敵性を示すはずはないから、何者かの敵襲と言うことか。


 まあ、公爵家の手の者だろうな。

 まずいな、手加減はできない殺すしかない。

 俺は足下の木と石を拾うと、木の棒には「一撃に全てを懸ける剣(エナジーブレイク)」、石には「必中の一投(ストライクショット)」をかけ敵を待った。


 姿が見えた瞬間追っ手の二人を殺そうとしたのだが。その二人は見たことがある人物だった。


 「ミスティア……」

 追っ手の二人はミスティアとランスロットだった。


「ガリウス!」

ミスティアが俺の名を呼び叫ぶ。隣のランスロットが俺を睨むが、その表情には薄ら笑いが浮かんでいる。


「貴様がガリウスか、貴族の屋敷を襲撃するとはだいそれた事をしおって。その罪、命で償ってもらう」

 ランスロットが俺に向かって、剣を向ける。

 ミスティアはなにか挙動がおかしい。ステータスを確認すると性格の表示が異常だ。


ランスロット◎※○▽●>ガリウス◎◆◆《>※△◎〓#⊇’“〟》>%◎ ̄#


 こんなステータスは見たことがない。

 ミスティアは俺の前まで来ると馬を降り、目の前に立つ。

 正直ミスティアの顔を見るのが怖い。あの目でみられたくない。


「ミスティア、彼は危険だ剣を抜け」

 ランスロットがミスティアに注意換気する。


「あなたは黙ってて!」

 ランスロットはミスティアに黙れと言われて、不快感を表していた。


「久しぶりだねミスティア。と言っても彼と仲良くしてる時にあったか」


 ああ、俺は嫌な人間だ。こんなこと言うつもりはなかったのに。第一声がこれか。


「あれは違うの無理やり彼が」

「でも、抵抗しなかった」

「……」


 分かってる。こう言えばなにも言えなくなる。分かってて言った。

「彼と婚約したんだろ、おめでとう」

 俺の口から出てくるのはミスティアに対する嫌味な言葉ばかりだ。


「違うの、それは解消したわ。あなたが、あなたが好きって思い出したから」

 俺もミスティアが好きだ。だけど、今はそれを受け入れられない、アリエルやカイエルはこの国では暮らせない、何よりミスティアの為にも。


「俺は忘れたことがなかったよ、君が出ていったあの日から、ずっと君の事を思ってた」


 そう、一日たりとも忘れたことなどなかった。


「私はガリウスがすごい人なんだって皆に知ってほしくて」


「そんな事、頼んでない! いつも側にいたかった、側に居て欲しかった。だから俺はミスティアを奪った国が憎かったよ」


「だから、公爵を殺したの?」

 公爵を殺した? 何をいってるんだ?


「あなたがストラトス公爵を殺したんでしょ」


「冒険者の連中は殺したが公爵は殺してないぞ」


「嘘! ブカロティ様は私に嘘はつかないわ」

 自信たっぷりに答える瞳には狂信者の怖さを感じさせる。


「俺の言葉よりブカロティの言葉を信じるのか?」

 ミスティアはなにも言わずコクりと頷く。


「そうか……。で? 俺をどうしたいんだ?」


「捕まえて裁判を受けてもらいます」


 裁判か。結果の分かっている裁判を受けるほど俺は馬鹿じゃない。ミスティアだって王国側にいるんだからその位分かりそうなものなのに。


「俺よりもそのブカロティや国を信じるんだな?」


「……はい、ですが大丈夫です、私が口添えして罪を許してもらいます。それが無理なら準国王権限を使ってでもあなたを助けますから」


 なるほど、裁判を受けさせ、勇者権限で助けたとしても。もう裁かれたわけだから罪はないと言うことにするわけか。


『貴族はそんなに甘くない』クロイツの言葉が頭をよぎる。そうだよな貴族は甘くない。


「そうか、わかった」


「はい、わかってもらえて嬉しいです」

 ミスティアは俺が肯定したものだと思い近づきてを差し出す。


「嬉しい提案だけど、その案には乗れない。俺には助けたい人がいるんだ。今、ミスティアに捕まるわけにはいかない」


「そう言えばクロイツはどうしたんですか?」

 ミスティアは俺の側にクロイツがいないことに気がつき彼女の所在を訪ねてくる。


「俺が、俺が殺した……」


 俺が殺した、クロイツを。


「殺したの? あなたのことを好きだと言った人を」


 クロイツの胸に、剣を突き刺して……。


「……そうだ、殺した」


「やっぱり、貴方は悪に染まってしまったのね」


 そう言うと、ミスティアはきらびやかな剣を抜いた。


 その瞬間見えない斬撃が俺の右腕を吹き飛ばした。

 魔法剣の風刃剣(ブラストソード)か? いや風刃剣(ブラストソード)なら緑色の太刀筋が見える。今のはなにも見えなかった。


「これが新しい勇者の剣(ブレイブソード)です。素晴らしいでしょう?」


 その剣は金色で大きな青色の宝石を中心に大小様々(さまざま)な宝石で装飾されていて見るからに成金趣味の剣だ。

 だがミスティアの剣を見つめるその目はまるで愛しい者と向き合うような、純真無垢な恋する乙女のようだった。


 ミスティアの現在のレベルは175、クロイツより高いがステータスは低い。


 ……(まが)(もの)か。


「見せてあげる、私の神の祝福(プライム)


 そう言うと、また剣を振るう。

 これは風刃剣(ブラストソード)じゃない。剣の半分が空間を飛び越えてる?


「うぐっ」


 その斬撃は俺の右足を切断し自由を奪う。


「これで逃げられないでしょ?」


 フフフと笑うミスティアにランスロットが近づき腰に手をあてると、キスをしだした。


「ミスティアはすでに俺の物だ、身も心もな」

 ランスロットは勝ち誇ったような笑みを見せ、ミスティアの胸を揉み俺に見せつけるようにイチャツキだした。


 こいつら戦闘中に何をしてるんだ。右手右足を切り落として油断してるのか?

 そう言えば、クロイツもミスティアが支離滅裂だと言っていたな。


 特に、あの剣を抜いてからミスティアの様子がおかしい。


 必中の一投(ストライクショット)を剣に向けて放つ。

 しかし、その一撃は簡単に打ち落とされた。


「なに? ガリウス嫉妬してるの?」

 そう言うと、ミスティアからランスロットにキスをしだす。

 こんなことになっても俺はミスティアを殺す事ができない。


 クロイツとミスティアの二人を助けたい。

 魔王を殺して魔王石を手に入れる。

 魔王を殺せばミスティアは死ぬ魔王を殺さなければクロイツは甦らない。


 クロイツは俺に第三の勢力になれと言ったけど、人をまとめるのは難しいだろうな。あれだけ一緒にいた、ミスティアのことさえ分からないんだから。


 いや、まてよ。一つだけあっるぞ、クロイツも救い、ミスティアをも救う方法が。


 だけど、まずはこのピンチを切り抜けないとな。


 その時、バサバサと羽ばたく音が響き渡る。空を見ると上空を旋回する黒い物体が目に入った。

 その黒い物体は急降下すると、俺たちの前に着地した。

その風圧でミスティアとランスロットが転げ回る。


「な! ドラゴン!」

 ミスティアとランスロットはドラゴンに身構える。


「リンクが切れたから何事かと来てみれば、貴様なぜそんなに弱くなってる」


「ドラゴンが喋った!?」

 ランスロットがミスティアの後ろで声をあげる。ミスティアの前に出ないで遠巻きから吠えるだけか。


『なんだ貴様は、ワシと戦うと言うのか?』


 そう言われたランスロットは急に弱気になり目が泳ぎだし、手と顔をブンブンと振るやいなやミスティアの後ろに隠れた。


 こいつ、どこまでクズなんだ。良いのは顔だけか。さすが″女勇者を利用する者″だな。


『何だこのゴミくずどもは、こんな者共にいいようにやられているのか?』


 俺がボロボロな姿をみて精霊龍(メルティナ)が憤慨する。


「そう言うなよ、精霊龍(メルティナ)。今は生きてるのも、きついくらいなんだわ」


 俺はこのチャンスを逃さずに、全ての力で復元する(エリキシー)で切断された腕と足を回復した。


『ふん。許せんな、このワシが認めた者がこんなにも弱くなるとは』


「すぐ強くなるよ」


『はははは、それでこそワシが認めた人間だ!』


 その時ミスティアが、ドラゴンに見えない剣の攻撃した。だが、その一撃はドラゴンに傷一つ付けることはできなかった。


『なんだゴミくず? この世界の頂点である、精霊龍であるワシに殺してもらいたいのか?』


 精霊龍(メルティナ)の口から息吹(ブレス)が漏れる。


「まって精霊龍(メルティナ)! そいつらは殺さないでくれ」


『なんだ? ワシに攻撃したものには死を与えてやるのがワシの流儀なのだがな』


「頼む、やめてくれ」


『ふん。まあいいわ、ゴミくずよ殺される前に去れ』


「ガリウス! このままでは済まさないからね」


 命拾いをしたミスティア達は捨て台詞を残し、逃げるように王都へ戻っていった。


『でだ。ワシと貴様のリンクをはずしたのは誰だ』


 俺は、村から出てからの話を全て精霊龍(メルティナ)に話した。そして、俺がこれからやろうとしていることも。


『ふはは、面白い。ならばワシも手伝ってやろう』


「いや、だけど」

『うるさいわ! 貴様が死んだらワシが寂しいだろうが』


「でも、ドラゴンのままだと目立つだろ?」


『なら、問題ない』

 その瞬間精霊龍(メルティナ)の体から黒い陽炎のような煙が立ち上がり、みるみる内に体が小さくなる。精霊龍(メルティナ)がいた場所には金髪碧眼の美少女が立っていた。


「え?」


「なんだ? なにかおかしいか?」

 精霊龍(メルティナ)は自分の体をキョロキョロ見回す。

 別にどこかおかしいわけでもない。完全に人間だ。

 むしろ美少女で可愛い。


「え、女?」


「そうだワシは人間で言うところの女だぞ」


 ええと、どうしよう、女だと思ってなかった。

 正直気まずい、龍状態の精霊龍(メルティナ)と何度も死闘をして友情すら感じていたのに、女だとなると本当に気まずい。

 “お前とずっとこうやっていれたら良いな“とか“お前のこと好きだよ“とか。

 あの台詞もこの台詞も女相手だと告白になるような言葉を色々言ってしまった。


 そう言えば今考えると精霊龍(メルティナ)は、モジモジしてた気がする。


「メルティナ、あのう、聞きづらいんだけど、俺のことどう思ってる?」

 そう聞くとメルティナは頬を赤らめモジモジしだす。


「……ワシの婿だ」

 やっぱり、勘違いをさせてたようだ。誤解だと言わないと、メルティナを恋愛感情で利用しているようで、嫌だ。


「ごめん、今まで言った言葉は全部男だと思って言ったんだ」


「そんな事は知ってるおるわ、それでもワシは貴様を好いておる、それだけの話だ」

 そう言うと少しふてくされた表情をする。

 俺って本当駄目だな、恋愛感情は迷惑だと思っているのに。


「ありがとう」


 俺はメルティナに、心からお礼を言った。

 これからやることを考えると、巻き込みたくないが精霊龍(メルティナ)は帰らないだろう。


 魔王の強さは分からないがやるしかない。

 クロイツの為に、ミスティアの為に俺は最凶を目指すことにした。



――――2年後――――



 目が覚めるとそこは窓一つない部屋だった。回りには銀髪赤眼の少女と、アリエル、カイエルが立っていた。


「……ここは?」

 二人に訪ねたがアリエルが抱きついて泣いている。


「クロイツ様、良かった、本当に良かった!」

 泣いているアリエルを引き剥がすと胸が大きい。


「アリエル、胸にメロンでもいれてるの?」


「違います! 本物ですよ!」


「だって昨日は……」


「少し、混乱しておるようじゃのう」

 銀髪赤目の少女がそう言うと二人は私から少し離れる。


「でも、これでガリウス様を追いかけられますね」


「ガリウス? 誰それは?」


「「え?」」

 アリエルとカイエルが驚愕の表情を見せる。


「そんなことより、アキトゥーに急ぎましょう」


 だけど二人はなにも言わず私を見る。本当に急ぐ旅なのに二人ともどうしたのだろう。


「ふむ、まあ忘れたなら忘れたままの方がいいじゃろう。また襲いかかってもあれだしのう」


 銀髪の少女が、アリエルに諭すように言う。アリエルがなにか忘れ物でもしたのだろうか。


 三人が話してるのを上の空で見ていると、右手に違和感があった。


 それはただの石ころだった。


 なんでこんなものを握っているのだろう?その石を捨てようとしたが、なぜか捨てられない。


 この石はとても大事な物のような気がする。


 私は泣いていた。

 訳もわからずに泣いた。

 子供のように声を上げて。


 小石を大事に抱き締めながら。





一章終了です。


二章はガリウスがハコブネから追い出されてから3か月後の世界で始まります。

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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
『おさじょ』に出てくるアディリアスとウルティアの二人の神たちの物語 『聖剣のネクロマンサー』
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