走馬灯
私は物心ついたとききから、使徒を倒すためにだけに肉体を極限にまで鍛えられた戦闘マシーンだ。
その修行はとても厳しいもので、何度も死にそうになった。
妹のマリアは、私ほどの修行を強いられていない、基本をやらされてるだけだ。
『ズルい、なんで私だけこんな目に遭わなければいけないんだ』
私は自由奔放に育てられている妹を嫌った。
ある日のこと修行に向かう私の前に立ち『姉様ばかり剣の修行ができてズルい』と言うのだ。
姉妹揃って相手の事をズルいと思っていたのは滑稽で笑ってしまった。
その事を父に言って一緒に修行したいと言ったのだが、父は許してくれなかった。妹はお前のスペアだお前が死んだとき次の世代を残すための物だと言われた。
私達は道具なのだ。使徒を倒すためだけの……。
15歳の誕生日、私は使徒を探す旅に出された。
これまでの修行で、私の使徒への憎しみは極限にまで達していた。
「私達姉妹をこんな運命にした使徒、必ず地獄に送ってやる」
しかし、探せども探せども使徒などどこにもいなかった。
冒険者ギルドから送られてくる被疑者はどいつもこいつも、弱い連中ばかりだった。
もう300年も使徒は出ていない、使徒は本当に消滅してしまったのだろうか。消滅していたとしていたら、私の今までの人生はなんだったのだろうか。
21歳になったある日、王国連合からの依頼で、勇者のパーティーに加わることになった。
若い女性と言うこともあり、私が選ばれたのだろう。
私には使徒を倒す使命があると言うのに、王国連合は何を考えているんだ。
しかもその勇者と言うのが試しの剣が無いことから暫定的に選ばれた勇者なのだと言う。
初めてミスティアに会ったとき勇者と呼ぶにはあまりにも弱く、貧弱な存在にビックリしたものだ。
私を上回るところが何一つ無い、こんなのが勇者なら私がなった方が良いんんじゃないかと思ったほどだ。
こんな奴に倒される予定の魔王もたかが知れている。だがそんな彼女も私に無いものを一つ持っていた。
彼女は恋をしていたのだ。
幼馴染みの少年を愛していて、その少年がすごい人なんだと言うことを証明するために勇者になったと言う。
だがそんなものは別に羨ましくない。正直、愛だの恋だのバカな女だと思った。
1年間は私達二人で活動していた。
ダンジョンに潜ったり迷宮などを探索してるうちに、私達は仲良くなった。
ミスティアとパーティーを組む前は風の羅刹と言われてた私が、ミスティアと組むようになって丸くなったのか風の女神と言われるようになって苦笑したものだ。
ミスティアとのパーティーは楽しく私の心の剣をナマクラにさせるほどだった。だけど、それが私には心地よかった。一つだけ嫌な点は毎日寝る前に幼馴染みとののろけ話をするのは勘弁して欲しかった。……不思議と悪い気はしなかったが。
2年程すると、パーティーメンバーのランスロットとゲオルクと言う二人の男が加入した。
かなりの美男子だ。だが、私には関係ない、何度か付き合わないかと誘われたが、ぼこぼこにした。
だが、ミスティアはランスロットとイチャつきだした。
一度だけ、幼馴染みの事を良いのか聞いたが、その問いに答えることはなかった。
所詮、愛などその程度のものと馬鹿にした。
不快だった、裏切られたきさえした丸で私がその幼馴染みなった気さえした。
そして二人は婚約した。
私はそれを気に勇者のパーティーを抜けるつもりだった。正直ランスロットとイチャイチャするミスティアを見たくなかったのだ。
ガリウスに会ったのは本当に偶然だった。
ギルドに婿候補が上がっていないかを確認しに行った時の事だ。
まさか、私がギルド内でおしりを撫でられるとは思いもしなかった。
完全に油断をしていた。プライドが傷ついた。
幼少の頃から使徒を倒すためだけに鍛えられた私が油断していたとはいえ、こんな三下に体を許すなど有ってはならないのだ。
殺す!
その時の私は、怒りで周りが見えなくなっていた。
たぶんミスティアに裏切られたと言う気持ちが強く、誰かに八つ当たりをしたかったのかもしれない。
暴漢を殺そうとした時だった、そいつを庇う男が現れた。
最初は暴漢の仲間だと思った。
だから本気で攻撃をした。
だが、見えないはずの私の攻撃を避けた。
それで冷静になれた。
彼は強者だ。ならば使徒の可能性もある、少し様子を見よう。
私はその少年に名前を名乗った、だが彼は名のならなかった。
私は怒った。私は名乗ったのに彼は名乗らなかった。
つまり、彼は私の事など歯牙にもかけていない。私を弱者だと見下したのだ。
私は本気で彼を殺しに行った。こいつは使徒だ! そうでなければ私の攻撃をこんな若いみそらで避けれるはずがない。
彼の体の至る所から、魔力を感じる。
こんなこと普通はできない。彼はやはり使徒だ、使徒は殺す!
だが、どんなに攻撃してもまったく当たらない。
使徒とは、これほど強いものなのだとは。
私が黒ノ神剣の能力を解放するか迷った一瞬。彼が私の剣を殴って折ったのだ。
神話の時代から受け継がれてきた六大力ノ神剣の一本である、黒ノ神剣をあろうことか素手で破壊してしまったのだ。
私は死を覚悟した。
使徒は冷徹で残虐だ、そう教わった。
しかし、彼の攻撃はデコピンだったのだ。
とは言え、その一撃は強烈で脳震盪を起こしてしまい、そのまま倒れるように失神してしまったのだが。
気がついたときには、私はギルド会館の医務室で寝ていた。
完敗だ。強すぎる。あの男に勝つビジョンがまったく見えない。
しかし、彼はなぜわたしを殺さなかったのだろうか。
使徒なら敵対する、特に黒ノ神剣を持つ私を生かして返すわけがない。
そうか、彼はただの強い人だ。私よりも強いただの人間だ。
ならば私がやることは一つだ。
強い血を王家に取り入れる。これは使徒の次に大事な命題だ。
彼を旦那様にする。
そう意識しだすと、急に恥ずかしくなる。
受け入れてもらえるだろうか?
殺そうとした人間を受け入れる 、そんな度量の大きい人間がいるだろうか?
断る事には慣れていても、告白は始めてなのだ。
不安だ……。
そう言えば母様が言っていた、好きな人ができたらその胸に飛び込みなさいと。
よし! なにも考えず彼の胸に飛び込もう。受け入れてくれるかくれないかはその後に考えれば良い。
私は受付で勇者パーティー脱退を宣言した。
受付の女が何か言っていたが知るものか、私は今忙しいのだ。
彼が今いる場所を調べる、すでにマーキングはしてある、当然だ、使徒に逃げられたら捕まえるのは困難だから、打ち合いの時にマーキングした。
彼の居場所を念視する。
どうやら、宿屋にいるようだ、周りには二人の男女がいる。
女の方はかわいい子だ。
彼女じゃないよね?
彼女だったらどうしよう……。
行きなり目の前に現れたらビックリするだろうから、宿屋の前に転移して会いに行こう。
宿屋の前に転移すると気持ちが高ぶり、頭の中が白くなった。
気がついたときは、彼に抱きついて胸に顔を埋めていた。
そして、どうやらこのかわいい子に暴言を吐いたようだ。
最悪だ、まさか気が動転して暴言を吐くとは。
私は彼女に素直に謝った、許してくれないかもしれないが、ちゃんと謝ろう。
彼女は快く許してくれた、優しい子だ。
その後、彼はあのミスティアの幼馴染みだと言うことが分かった。
彼女の話をする、彼の顔は暗い。
あれだけの強さをもつ彼が、弱さを見せるのだ。
そんな彼に私は惹かれた。
だけど、私は彼に魅力がないと言ってしまった。
今思うと、嫉妬だったのかもしれない。
私はその場から、逃げるように外に出た。
ファーストコンタクトは完全に失敗だ。まったく余裕がなかった。
しかも折った剣の弁償をちらつかせてまで結婚を迫るとは、なんとも浅ましい。
これはもうだめですね、完全に彼に恋してます。
空回りしまくりです。
取り敢えず私は転移してミスティアに報告をしに言った。
現在はランスロットと言う婚約者がいるとは言え、元はミスティアの想い人だ礼儀は果たそう。
ミスティアに、ガリウスと付き合うつもりがあることを言うと、かなり焦っていた。
ミスティアは情緒不安になって、言ってることが支離滅裂だった。
ただ、ミスティアがまだガリウスの事を好きなのは分かった。だけど、あなたにはランスロットがいるでしょ、二人も自分の物にしようとしているのだろうか。
私はミスティアに宣戦布告して王都に戻った。
次の日、私は朝一番で彼の眠る宿屋へと向かった。
朝の彼は、昨日と違って優しく接してくれた。そして一緒にクエストについてきてもいいと言う。
そしてクエストの最中私は驚愕の事実を知る。彼の神の祝福が勇者ミスティアを作ったと言うのだ。
ミスティアはやはり似せ勇者だったのか。少し寂しかった。
だけど、その能力は呪いでミスティアはいつ知れぬ存在になってしまったと言う。
その日、私はガリウスとキスをした。
まさか、私からキスするなんて、思っても見ませんでした。
私のファーストキス。
その日はとても楽しかった。
この人となら一生一緒にいられると思った。
アリエルとカイエルを、公爵から助けるまでは。
そう彼は回復の力を、部位欠損まで回復するほどの強力な力を使ったのだ。
一瞬、体が勝手に彼を攻撃しようとする。
私はそれを意思の力で無理やり止めた。
ガリウスは使徒じゃない! 使徒じゃない!
何度か言い聞かせると、体は言うことを聞くようになった。
恐ろしい、幼少の頃より鍛えられた私の肉体は、私の意志に反して彼を攻撃しようとした。
殺気も何もなく、攻撃するのだ。
だが、もう大丈夫だろう。ガリウスは使徒じゃないと言い聞かせた。
もう、勝手に襲うことなど無いだろう。
だが、その考えは甘かった。
私の体はガリウスを使徒として認識している。
これは私が、心の片隅でガリウスを疑っているせいだ。
神話を話すしかないのかな。
でも、もし使徒だったら、私はガリウスを殺せるの?
やだ、殺したくない。戦いたくない。彼は私のすべてだ。彼は私がはじめて、自分の意思で好きになった人だ。
失いたくない! 失いたくない! 失いたくない!
だが、その時は不意にやって来た。
神話を話さなければいけない。
そうだ、まだ使徒と決まった訳じゃない。
神話を聞いても、泣かなければ使徒ではないのだから。
だけど、その思いも虚しくガリウスは泣いた。
とっさに私の体が剣を抜く。
黒ノ神剣は自己修復能力がある、折れた箇所もすっかり繋がっている。
彼と、戦わなければいけない。
やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。
絶対にいやだ!
ここで戦わなくても、私の体は彼を殺そうとするだろう。
私の体は、そう作られているのだから。
なら私は……。
だけど、彼は自分が死ぬと言い出した。
似たことを考える、良い夫婦になれたなと思う。
たったの三日間だったけど、私にはいままで生きた時間よりも充実していた。
ありがとうガリウス。
あなたが使徒だとしても、世界を滅ぼす存在になるとは思えない。
だから、私が死にます。
あなたを死なさせない。
ガリウスが中段に剣を構えている。私は走りだし彼に近づく。
そして、剣を糸で私の心臓を貫く位置に誘導する。
できれば、私が死んでも泣かないで欲しい、これは私が望んだことだから。
せめて最後は、あなたの温もりを感じて死なせてくださいね。
さようならガリウス。




