ミスティアのクーデターまでの六日間 終演 後編
リミアの名前を元ネタのアイシャに修正します。ミリアの生まれ変わりで分かりやすくリミアにしようとしたら何となく見づらいのでアイシャに戻しました。
「なあ真奈美よ、三柱神と書いてアスラはダサくないか?」
ドヤ顔でキメた真奈美を否定するかのようにシンヤは三柱神のネーミングセンスを問う。
「な、なんでよ私達は三位一体よ、なら三柱神がふさわしいでしょ」
「それなら普通に阿修羅で良いだろうが」
「ぐっ、ちょっと待ちなさい会議するわ」
そう言うと真奈美瞳の色を失い虚ろになった。真奈美はその思考のなかで他の二人と話し合う。その間わずか0.5秒。
「では真奈美と書いてアスラと言うことに――」
「ダサいな」
「……」
「じゃあ、あなたが付けてみなさいよ」
シンヤは少し考えると腕を組考える。この間0.2秒。
「阿修羅はそもそも太陽神じゃろ、なら火輪天道神ではどうかのう」
「被ってるじゃない。それじゃ太陽太陽でしょうに」
「ふむ、批評はできても存外自分で名前をつけると言うのは難しいな。そもそも大和なのになぜアスラなのじゃそこは神道じゃろ?」
シンヤは根本から否定し出した。元祖魔王で厨二を魔族に伝授したシンヤは真奈美の設定の甘さをついた。
「そういえばそうね3人だから、ついつい阿修羅を選んでいたわ」
「神道だと日、月、スサノオは荒ぶる神じゃったか、悪日月で悪明神でアスラはどうじゃ。明神なら神仏習合でおかしくないしな」
「良いじゃない、悪明神でアスラ、名前に三神も入っていて突っ込みどころがないわね。さすが五人の勇者の名付け親ね。それいただくわ」
実はシンヤがアキトゥー、チバケインや黒騎士=黒いナイツ=クロイツ、二十一形=新潟などを名付けた大本なのである。
センスは言わずもがなだが、なぜか説得力があるせいで皆逆らえない。
「それじゃ、私は戻るわね」
「ああ、そうしてくれ。ガリウスの件は任せたからな」
「はいはい、古き盟友の為に約束は果たすわよ」
「ふむ」
そう言うと真奈美は空間を歪ませハコブネから出ていった。
大和神国の執務室に戻った真奈美はいつものように椅子に座ると机の上に足を投げ出し一息つく。その瞬間けたたましいサイレンの音が鳴り響く。真奈美はその音に眉を潜めた。
『何があったの?』
真奈美はすぐさまカスミに念波を送り報告を促した。
『おかえりなさいませ真奈美様』
『挨拶はいい、さっさと報告をしなさい』
『はっ、……ランスロットが暴走しました。マナリアクターは失敗です』
その報告に真奈美は首をかしげるマナリアクター自体は失敗するようなものではない。起動実験も成功しており。安全装置もある、マナリアクターの稼働による経年劣化もナノマシーンによる自動修復で問題は解決したはずだ。
『まあいいわ、ならランスロットを廃棄します。いまそちらに――』
「それには及びません」
念波でそうカスミに伝える前に彼女は数体のゴーレムとともに執務室に現れた。
「それには及ばないとはどういうこと?」
真奈美はすべてを見通すようにカスミを見てニヤニヤと笑う。
「真奈美様、あなたを拘束します」
そう言うや否や、真奈美の座る椅子と机が変形して真奈美を拘束する。拘束された真奈美の体はみるみるうちに金髪の美女へと姿を変える。その姿はアリエルの姉であるブカロディだった。
「これは?」
「その拘束具は真奈美様の神の祝福とレベルを封じます」
そう言われ真奈美はいくつかの神の祝福を使うがカスミが言うように使えないことを確認すると彼女に「それで?」と一言問いかける。
「真奈美様、あなたは、あなたの存在はすべての生き物にとって恐怖でしかありません。ですからあなたを封印いたします。安心してください殺すことはいたしません。まかりなりにもあなたは私達の母なのですから」
「本当にこれで私を封印できると思っているの?」
カスミは真奈美のその言葉に背筋を凍らせ喉を鳴らす。
「ブラフですね真奈美様。あなたの神の祝福とレベルは封じました、人程度の力ではもうなにもできないでしょう」
「まあ、いいわ好きになさい、全ては人生はゲームのお告げ通りなのだから」
一瞬なんのことだとカスミは思ったが。自分の心を乱すためのブラフだと無視することに決めた。
「それで、あなたに暴走したランスロットが止められるの?」
「止める気はありませんよ」
「どういうこと?」
「あなたの計画を潰すのです、サグルがミスティアに何かする前に私の作ったランスロットがサグルを殺します」
「ふふふ、サグルを殺すね。それでサグルを殺したらその後ランスロットはどうするの?」
「安心してください、あの暴走は意図的に起こしたものですサグルを殺せば暴走は収まりミスティアの仲間となり尽力を尽くすことでしょう」
「サグルを殺したランスロットをミスティアが受け入れるとでも?」
「はい、ランスロットはミスティアの元許嫁ですしパーティーメンバーです許さないはずがありません」
その問いに真奈美は大笑いをして呆れる。やはり人工生命体は愚かだなと。いやこれは論理的に考えるように設計した私のミスかとも真奈美は思う。
「なぜ笑うのです、あなたは拘束されなにもできないのですよ」
「ええ、そうねなにもできない無いわ。と言うことで私はしばらく寝るわね」
そう言うと真奈美の目から光が無くなり呆けたような顔になる。
「真奈美様?」
カスミは呆けた顔の真奈美に何度も問いかけるがまったく反応が無い。これ以上呼び掛けても無駄だと悟ったカスミは意識の無くなった真奈美を地下の封印室へと運びその身を封印した。
『そちらは順調のようね』
『真奈美様ですか? 珍しいですね直接こちらに来るなど』
男は自分の身体の中に真奈美の魂が入ってきたことに驚きを隠せなかった。
『ええ、ちょっとねカスミにクーデターを起こされ体を封印されてしまったのよ』
『助けにうかがいましょうか?』
『ふふふ、こんな拘束いつでも抜け出せるわ。折角だからミスティアの絶望する顔をライブで見て上げようと思ってね』
その言葉に男は嫌悪感を持つが、その感情を悟られないように封じて疑問を投げかける。
『これからなにか起こるのですか?』
『ええ、ミスティアの地獄が始まるのよ』
『……そうですか』
『不服そうね』
一瞬心を読まれたかと焦ったが、読まれたのは動揺だろうと考え、男は心を落ち着かせた。
『いいえ、そんなことは。ただ少しの間ですが生死を共にした仲ですので動揺したまでです』
『まあいいわ。しかし、これが邪骨精霊龍の力。これじゃあ私達じゃ勝てないわね、そもそも全力で戦えばこの世界の耐久力を越えてしまうわね』
『耐久力ですか?』
『そうよ、この世界はある一定以上の負荷がかかると崩壊してしまうの』
『どの程度の力なのですか?』
『精霊龍が力を解放するだけで世界は滅ぶ。それと同じ以上の力がこの体にはあるわ。だから全力で戦うのは控えなさい』
『はっ! 肝に命じておきます』
男は真奈美に逆らえない。そういう風に作られているからだ。逆らえば意識を乗っ取られ、いいように操られてしまう。だから男は逆らわない。
◆◇◆◇◆
サグルを返した邪骨精霊龍の精神の中で親子は仲むつまじく雑談をしていた。
「パパ、そう言えば二人目のパパのこと言わなくてよかったの?」
「え? パパ言ってなかった?」
「二度目とは言ってたけど、作られた二人目のことは言ってなかったよ」
「あちゃー。まあ、会うこと無いでしょ夢想界にいるだろうし」
二人目のパパ、二度目のアキトは一度目のアキトをコピーしてウルガスが作った存在である。しかし魂を同じとしていたアキトは二度目のアキトと思考を同調していた。
二度目のアキト、それはアキトでありアキトではない存在なのだ。
「でも、今はその二人目の思考が読めないんでしょ?」
「二人目は転生を繰り返してるからね。もうここまで転生すると他人だね、魂のリンクも外れてるしね」
「一番最後の二人目はヴィクトルと言う名でアイシャと一緒にいたのは分かっているんだけど壊れたラジオのようでほとんど見えなかったしね。まあ闇の精霊龍に呪われてるのが原因かもしれないけど」
「パパと違って二人目は波瀾万丈ね」
「ちょカグヤちゃん? パパも色々大変だったんだよ?」
二人目のアキトの行動は彼が行っているが意識は共有していたため自分が二度目をやったのと同じことなのだと一度目のアキトは言う。だから自分も波瀾万丈だったと。
「だってパパはウハウハハーレムじゃない」
「待って欲しい、精霊龍は二人目にすべてとられてアイシャもいないのにハーレムとはこれいかに?」
「私とママがいるじゃない、二人の絶世の美女を侍らせておいてハーレムじゃないと?」
「いや、カグヤちゃん、確かにママもカグヤちゃんも世界一美しいよ。でも娘に手を出した風なこと言うのやめてね。手を出してないし手を出すつもり無いからね?」
「パパならいつでもOKだよぉ~」
そう言うとカグヤはしなを作りアキトを挑発する。
「はいはい、ビッチ発言はやめようね」
「チッ」
「はい、舌打ちしない」
「はいはい」
「返事は一度」
「は~い」
「ところで……ママ機嫌なおってる? できればそろそろ封印解いて欲しいんですが」
「パパね、ママが気がついてないはず無いでしょ。パパ、この1万年の間情緒不安定だよね。それはなんで?」
「……」
「アイシャさんを救いたいからでしょ。封印を解いたらウルガスに行くかもしれない、そしたら確実にパパは我を忘れてウルガス殺しちゃうでしょ? ママはね、ウルガスのこと大事に思ってるんだよ」
「自分を殺そうとしてる姉を?」
「そうだよ、ママとウルガスは双子の姉妹だもの。それに、パパはウルガスに嫌がらせでママを落としたのもママは知ってるんだよ」
「それは、……ちがくはないけど、今は愛してる宇宙で一番」
「わかってるよ、でもねママはパパとウルガスが戦うのを見たくないんだよ」
「でも、ウルガスはウルトスを憎んでいる。俺は命に変えてもウルトスを守るよ。今、アイツはウルトスが死んだと思っている、だから攻撃をしてこないんだ。生きてるのがバレたらまた攻撃してくるだろう」
「本当にそんなに凶悪なの?」
「ああ、二度目の俺はウルトスを殺すための悪僧念を集めないから殺された。それはすごい形相でな。ウルガスの怒りで地震の無いはずの星が揺れたほどだ」
「ふ~ん、そんなにすごいんだ」
「あ、カグヤちゃん戦いたいと思ったでしょ。だめだよパパは許しませんよ」
「え~良いじゃない」
「ダメです。パパもママも優しいのに、なんでこんな戦闘狂に育っちゃったのかな」
「1000年毎に地球に転生してるせいかもね」
「……ごめんなパパの血のせいで、そんな呪いみたいな」
「ああ、ごめんパパを責めてる訳じゃないよ? それに結構人間界も面白いよ。パパと離れるのは寂しいけど人間の寿命なんて、まばたきするほどの時間だし。それに半分だけだしね」
「そう言えばそろそろ転生時期ね」
「今度の転生はどの時代に行くつもりだい?」
「世界の終末かな。どんな風に世界が滅んだか見ておきたいの」
「カグヤちゃんは物好きだね。わざわざ滅ぶ時代に行くなんて」
「どちらにせよ地球は平和なときなんて無いわよ、いつもどこかで争いあってるし。人々はお互いを蹴落とそうと必死だし。パパが人間を嫌いなの少しはわかったわ」
人が嫌い、アキトはそうやってウルガスに呼ばれそして邪骨精霊龍になった。その力で世界を救うこともできた。しかしアキトはウルトスだけを助け人間は助けなかった。
人の本質は悪だ。自分の嫌いなものを排除し、自分と同調しないものすら悪とする。口では人の為、あなたの為と言いながら実は自分の為なのだ。人はエゴの塊だ。
だが自分もその人のなれの果てなのだから所詮はエゴでできているとアキトは自虐を込めて笑う。
「そう言えばなんでサグルを婿にするとか言い出したんだい」
「パパの魂が入ってるからよ? 私パパ大好きだもん」
「ふむ、サグル死んだら吸収しよう。カグヤちゃんは誰にも渡しませんよ」
「パパ……そんなんだから私万年処女のいかず後家神って言われてるんだよ」
「誰だそんなこと言うのはパパが殺してあげます!」
「まあ、パパは神とは言え惑星神ではないから神の決めたルールに縛られないけど、だめよ一応皆ママの親戚なんだから」
「でも、サグルはダメです! パパの配下予定なんだから」
「じゃあ二人目のパパ探しだしてお婿にする?」
「いや、それは……」
「だってもう他人でしょ? なら問題ないじゃない」
「でも見つけられないし」
「私知ってるよ、パパはグリモアをあの世界に送ったでしょ二人目のパパ発見器として」
「ぐっ、なんでも知ってるカグヤちゃん。恐ろしい子」
アキトは二人目のアキトが死ぬとき二人目のアキトにグリモアを仕込んだ。グリモアは持ち主の魂に紐付けされておりアキトから離れることがないからだ。
「それは二人目と合体すればパパのパワーがさらに上がるからだよ。なにより二人目は記憶が曖昧なせいで悩んでると思うんだだから俺に吸収された方がいい」
「だから、その二人目を私のお婿でいいでしょ記憶なんて無くてもいいのよ。その方が幸せなことだってあるわ」
「う~ん。でもカグヤちゃんが求めてるのは邪骨の魂でしょ? 二人目は邪骨じゃないから引かれないんじゃないか?」
カグヤは邪骨の力を求める。それは邪骨精霊龍の血のせいなのか、ただの戦闘狂なのかアキトは判断できなかったが、娘に邪骨の力を与えるのだけは拒否していた。なぜならば邪骨精霊龍は邪骨龍王である地球破壊兵器がその力の根元であり、取り込んだものの精神を支配するからだ。アキトはその支配に勝ち邪骨を手に入れた。しかしカグヤは精神的に幼くとても邪骨の支配に耐えられるとは思っていないからなのだ。
「それならウルガスに行ってもう一体の邪骨龍王をよみがえらせて二人目と融合させればいいんじゃない?」
「う~ん。やめた方がいいと思うよパパが邪骨龍王の精神に勝ったのは愛する人が地球生まれでその地球を壊すと生まれなくなるから。だから勝てただけだから」
「愛する人か……妬けちゃうな。そのアイシャの生まれ変わり魂まで残さず殺しちゃおうかしら」
「カグヤ、冗談でもそんなことを言うな」
静かな怒りがその場を支配する。カグヤは知っているウルトスと私を好きと言ってはいるけど結局はそのアイシャと言う女を忘れられないのだと。そして改めて思いしる邪骨精霊龍の力の巨大さを。たぶんこの宇宙で邪骨精霊龍に勝てる神はいない太陽神でさえ尻尾を巻いて逃げるだろう。だからこそカグヤは欲しいと願うその力を邪骨精霊龍を手に入れるためにと。
「じょ、冗談だよパパ。やだなそんな顔して」
そう言うとカグヤはアキトの膝の上にのり彼を椅子代わりにする。
「はぁ、冗談でも――」
「頭撫でて!」
カグヤはアキトの言葉を掻き消すように言葉を被せる。自分達以外に好きな人がいることを聞きたくないと言う嫉妬からなのだが。精神的に幼いカグヤにはその感情が理解できなかった。
「カグヤは子供だな」
そういうアキトは甘えてくるカグヤの頭をいとおしく撫でる。カグヤやウルトスのことを思えばアイシャのことを忘れなければと思ってはいても傷ついた心を癒してくれ好きだと始めていってくれた彼女を中々忘れられるものではないのだとアキトは二人の家族に謝る。
次回ネタバレ設定資料集の予定です(ただし何話先になるか分かりません)。
その後クロイツ回が少し長めで、ミスティア回、ガリウス回1部終了になります(予定)
アキトに関してはそのうち上げますが「この世界では転生できなくなったので、異世界で転生することにしました 。」に昔投稿した分を「二度目のアキト」「一度目のアキト」として追加しておきました。興味のある方はどうぞ、ただし酷く駄文+エロいです。