ミスティアのクーデターまでの六日間 その十五 ~猫人ジュエリ~
前話三行ほど加筆してあります
ミスティアが一緒に飛び降りたことになっていますのでご確認いただけると幸いです。
私の放った死の氷柱は周辺のゾンビを凍らせた。籠手を着けたサグルは少し手持ちぶたさで氷柱になったゾンビを眺める。
「これもしかして凍らせればよかっただけじゃない?」
「確かに、凍らせれば動けなくなるしスペクターにもならないし、これが正解だろうね」
「はぁ、ミスティアあなたって人は」
アルファが呆れたように私を責める。
「だってサグルだけにすべてを背負わせるなんて、できるわけないじゃない」
仲間なんだから一人だけに戦わせるなんてあり得ない。信用するとかしないとかじゃない、一人で死地に向かわせることなんて私にはできない。ただそれだけだ。
「それでどうします? どちらにせよ、しばらくすれば氷は溶けまた動き出しますよ」
「凍ってるうちに前に進めばいいんじゃない?」
「それだと、この国は終わりますよ?」
「そうだな、結局俺が感染瘴気を吸い取るしかないわけか」
アルファはそうですと頷くが私は納得がいかない。なにかもっと出来るはずだ。
「ミスティア、そんな顔するなよ。凍らしてくれただけで十分だよ。噛まれて感染の危険がなくなったからね」
サグルは凍ったゾンビに手をあてると、感染瘴気を吸いとった。その瞬間サグルのからだから湯気のようなものが立ち上る。
「サグル!」
「だ、大丈夫だミスティア身体に負担はあるが問題なく中和できる」
「本当に?」
「ああ、俺を信じろよ」
「分かった信じる、でも嘘だったらお仕置きするからね」
私がそう言うとサグルは口角をあげニヤリと笑う。
「ニャニャニャ、にゃにしてるにゃお前ら」
数匹ほど感染瘴気を吸いとったサグルの上方にコウモリのような翼を持つ猫耳の少女が現れた。
「お前がこのゾンビ達の親元か?」
「そうにゃ、ジュエリは大天使吸血猫人・ジュエリちゃんだにゃ」
「邪魔風来斬!」
黒い旋風がその少女をを襲う。しかし黒い旋風は少女に容易く弾かれる。
「……ジュエリ? ジュエリじゃないかなんでここに」
「お久しぶりにゃミリアスしゃまとサラスティ、でも少し静かにしてほしいにゃ、今説明してるとこにゃ」
そう言うとメイド服の両裾を持ち上げて私達に向かい挨拶をする。
彼女はこの世界の神シンヤの眷族の吸血猫人で勇者を監視する者だと言う。そして任務は獣化した勇者の回収をしているのだと言う。
「その神の眷族がなんでこんなことをするのよ!」
「それは簡単にゃ、そこの獣人の力を削ぐためにゃ、ジュエリちゃんは面倒なのが嫌いにゃ、できるだけ簡単に任務を遂行したいにゃ。だからゾンビちゃん達にみんなを襲わせたにゃ」
「この王都の人たちを俺を捕まえるためにゾンビにしたと言うのか?」
「違うにゃ、王都だけじゃないにゃ、この国全ての民にゃ。今ゾンビ軍団はこの王都を目指して進軍中にゃ」
その言葉にウィルソン達は愕然とする。守るべき者、愛するものを一瞬で失ってしまったのだ。その心情は察するに余りあるものだろう。
「私達を捕まえるために国民全部をゾンビ化したと言うのの? なんでそんな酷いことを」
「だから違うにゃ、ジュエリが回収するのはその男だけにゃ。それに人間の方がひどいにゃ小さいジュエリのママやパパを殺してジュエリを犯したにゃ。だからジュエリは人間を殺してもいいにゃ、許されてるにゃ」
「ジュエリ!」
ミリアスが猫人の少女に叫びかける、
「ミリアスしゃまはジュエリのペットとして飼ってあげるにゃ、安心していいにゃ。だけどそれ以外は皆殺しにゃ! ”瘴気発火”」
ジュエリがそう言うと凍っているゾンビ達は燃え上がり一瞬で灰になった。そこから黒い霧が立ち上るととスペクターが現れた。
スペクターはレジスタンスを襲い、次々とその霧状の身体に吸い込まれていく。
「みんな逃げて!」
「もう、いいのですミスティア様、すでに守るべき国民はいない。だからもういいのです」
ウィルソン達は諦めたように肩を落とし目から光をなくす。私は中級魔法剣の風刃剣・疾風をスペクターに放ったがスペクターには私の魔法は効かなかった。
「人間は馬鹿にゃ、スペクターには一切の攻撃は効かないにゃ」
私の魔法剣が効かないのを見たサグルはすぐに飛び出しスペクターに組つくと瘴気をその身に吸い込んだ。
「それにゃんにゃ? ジュエリの感染瘴気を吸い込むとか意味分からないにゃ」
ジュエリは首をかしげてサグルの様子を見る、何体も何体も吸収するサグルの身体からは湯気のような白い煙が湧いて出る。
「サグルさんもういいんですよ、すべては終わったのです」
「諦めるな! まだ革命は終わってないだろ」
「終わりですよ、助ける民もなく革命を完遂させたところでこの国は終わりです」
「グッ」
「みなさん、私達の為にありがとうございました」
そう言うとウィルソンは自らスペクターに突っ込みその身体を消失させた。
「なんでよ! 何でなのよ!」
いや、分かってる守るべき者がなくなったときの絶望感は人を自殺させるには十分な理由だ。
「馬鹿な人間が一人死んだだけにゃ、何を悲しむにゃ?」
「あんたは最低だ!」
私はジャンプをしてジュエリに切りかかる。しかし私の剣撃はジュエリの手の一振りで防がれた。そのまま私は風刃剣・疾風を放ったが、それをジュエリは口から出す息で防いだ。
私はそのまま息で吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「弱いにゃ、そんにゃんでジュエリを倒せるわけにゃいにゃ」
ジュエリが腕を振るうと爪から赤い半月の斬撃が放たれる。私は落下したショックから動けない。そんな私を庇うようにサグルが前に立ち斬撃を受ける。サグルは身体から血を吹き出し膝をついた。
「成し遂げる爪!」
サグルの爪が黒く伸びジュエリを襲う、しかしジュエリは余裕で交わすが”パチン”と言う音と共に後方が爆発する。その爆発のせいで、余裕で交わせるはずの爪をジュエリは受け、頬に傷をつけた。
「……にゃにするにゃ、ジュエリの身体を傷つけても良いにょわシンヤ様だけにゃ」
そう言うとジュエリはわなわなと肩を震わせる。
「ふざけるなよ、人の命をもて遊んだお前が傷一つで文句を言うのか?」
「いいにゃ、ジュエリは怒ったにゃ。ここで連れ帰ろうと思ったにゃけど、徹底的に苦しめてやるにゃ」
「ふん、もう十分苦しんでるぞ」
「もっとにゃ!もっと苦しめてジュエリの靴を舐めさせてやるにゃ! 集まれスペクター!」
ジュエリの呼び掛けでスペクター達は一つに集まりだした。それは一つの化け物と姿を変えた。
「でかいな5mほどか?」
「余裕じゃにゃいか狼人、一体吸収するのでヒイヒイ言っていたおみゃえに亡霊王を吸収できるきゃな?」
「ふん、むしろ一体になってくれたお陰で吸収しやすくなったわ、ありがとうよ」
そう言うとサグルは亡霊王に突進し掴もうとするが黒い煙状になるとサグルの後ろに回り背中を蹴飛ばす、その衝撃でサグルは家の壁をぶち破り吹き飛ばされる。
「にゃははは、だらしないにゃ狼人そのくらいの動きに着いてこれにゃいのかにゃ」
「アルファ、サポートお願い」
私は亡霊王に突っ込み剣で切りつけた。しかしその剣は亡霊王の体を素通りして地面を貫き地面を叩いた。
「おみゃ馬鹿にゃスペクターの集合体である亡霊王ににゃんで物理攻撃が効くと思ったのかにゃ」
亡霊王が腕を振り上げ私を襲う。
”パチン”
その瞬間私の身体が光り亡霊王の腕を弾いた。
「にゃ!?」
私はその一瞬を見逃さず体勢を崩した亡霊王右腕を剣で切り裂いた、その腕には深い切り傷がつき血の代わりに黒い霧が吹き出して宙に消える。
「良かったですよ、ミスティアに真奈美さまに対する信仰心が芽生えていて」
「え?」
私が真奈美に信仰心そんなのあるわけないじゃない。何を馬鹿なことを言っているのと小一時間問い詰めたいところだけど。今はこいつを倒さないと。
「どう言うことにゃ! 退魔術がなんで効くにゃシンヤ様はアンデットにゃのに」
「あなたの神はそうでしょうね。ですが私達の神は真奈美様です。私達はシンヤなどと言う紛い物の神に祈りを捧げたことはありませんよ」
「紛い物にゃと……。今、紛いもにょと言ったかにゃ!!」
「ええ、そうでしょシンヤがどういう存在か私達は知っているのですよ」
「にゃーーー!!」
アルファが吹き飛びジュエリにメチャメチャに攻撃される。腕が吹き飛び足が吹き飛び身体がボロボロになり地面に伏せる。
私は倒れたアルファを守るため、彼の前に立ちジュエリに剣を向ける。
「フゥゥゥゥ!!」
ジュエリは牙を見せ私を威嚇する。
「いいにゃ、おみゃえらこの国のザコトルスの命が目的にゃろ。にゃら王城でお前らを待つにゃ。せいぜいアンデット軍団を倒して来るがいいにゃ」
「逃げる気!?」
「とことんムカつくやつらにゃ。おみゃえらは苦しませないと気がすまにゃいな”地獄門”来るにゃ!」
足をドスッと一踏みすると王城の方で巨大な城門が唸りをあげて現れた。それは大和神国の城門に匹敵する大きさだった。
「もう泣いて謝っても許さないにゃ”開け地獄の門、集え不死の者共よ”にゃ」
”ウオォォォォ” ”アアアアァァァ” ”グギャアアア”
大きな門が開きだすと町中に叫び声が響き渡った。
「何をしたの!?」
「この国にいる全てのゾンビを緊急召集したにゃ、それに加えて黄泉の国からアンデット軍団も召喚したにゃ。つまり、お前達は終わりにゃ」
「それはどうかな」
そう言ったのは吹き飛ばされていたサグルだった。いつの間にかサグルは亡霊王に掴みかかり吸収を始めていた。
『ウガガガッ』
サグルは呻き声をあげる亡霊王から感染瘴気を抜き出すがそれにともないサグルの身体が青い火をあげて燃え出す。
「サグル!」
「うぉぉぉおぉ!!」
亡霊王を吸い込んだサグルは膝をつきジュエリを睨み付ける。
「まあ、良いにゃジュエリを倒したかったら全てのアンデットを倒すにゃ、ジュエリは楽しく見学してやるにゃ。ミリアスしゃま、どうか王城までたどり着いてほしいにゃそしたらジュエリのペットにしてあげるにゃ。にゃにゃにゃ」
そう言うと笑いながらジュエリは王城へと飛び去った。
あと2話と言ったな。あれは嘘だ。
ごめんなさい。