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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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ミスティアのクーデターまでの六日間 その十 ~神風の籠手~

 そこは見渡す限り一面蜘蛛の糸でおおわれた白の世界だった。

「あの繭状の物の中にドラゴンが閉じ込められています」アルファが指差す方にはいくつもの繭が重なっておりうっすらとドラゴンの影が見てとれる。

その中にひときわ大きい繭があり土蜘蛛(アラクノイド)達が中の者と懸命に戦っていた。


「なるほど、あっちに手一杯でこちらに回す兵がなかったのか」サグルが周囲の安全を確認し戻ってきた。


「どうやら今」土蜘蛛(アラクノイド)と戦っているのが根源の超龍(ドレッドノート)・ウイニードですね」

 その超龍は土蜘蛛(アラクノイド)の糸に絡め捕られまいと必死に応戦している。


 「死の氷柱(ブライクル)

 私は先手必勝で魔法を土蜘蛛(アラクノイド)に撃ち込んだ、それは氷の氷柱(つらら)が渦を巻き一体一体にまるで巻き付くように覆うと鋭利な氷柱(つらら)土蜘蛛(アラクノイド)の体に刺さった。氷柱(つらら)が突き刺さった土蜘蛛(アラクノイド)はまるで氷の彫刻のようになって動かなくなった。

「すごいわね、これ」

「ミスティア、撃ちたかっただけだろ?」

 無駄玉を撃つなよとアルファの視線が痛い。


「ほら、やれるときに殺れって言うじゃない?」

 その言葉にはぁ~と深いタメ息をつき自分のスクロールを私の剣に差し込む。


「これは、あなたのピンチの時に使ってください。いいですね」

 あなたと私を呼ぶアルファは真剣そのものだった。私は浮かれていた気を引き締め、ごめんと言うと根源の超龍(ドレッドノート)・ウイニードの側による。


「ウイニード、あなたを助けに来たわ。私の言葉がわかる?」


『ふん、人間風情が我を助けるだと? 冗談も大概にしろ』


「そうなの? じゃあ私たちはいくね」

 私はそう言うときびすを返し一歩二歩と超龍から遠ざかる。交渉事は相手に折れさせるのが肝心、少しでも折れれば相手に付け込まれるし、逆ならつけ込むチャンス。


『ま、まて愚かな人間よ、お前達が我を助けることを許そう』

「いいえ、許してもらわなくていいわ、私たち先を急ぐので」

 

『え~い! 分かったわい、我を助けてくれ身動きがとれんのだ』

「最初からそう言えばいいのに。あと、助けた後に襲うのは無しよ?」


『馬鹿め、我はそんな恩知らずではないわ。いいから早くこの糸を切れ、愚かな小娘よ』

「ミスティア」


『ん?』


「愚かな小娘じゃないわ、ミスティアよ!」

『ふん、ならばミスティアよ早くするがいい。まだ奴等は全滅したわけではないぞ』

 土蜘蛛(アラクノイド)がまだいるの? 確かにあのくらいの敵にドラゴン達がいいようにやられるわけがない。なら本隊はもっと強いと考えるべきね。おおかた今の連中は蟻で例えると働きアリと言うところかしら。


 私は改二強化型で糸を切り裂いた。鉄より固いと言ってもRBCレインボーコーティングされたこの剣の前にはただの糸と同じだ。

 私が糸を切るのを見てサグルとアルファも手伝いだした。よく見るとアルファはRBCレインボーコーティングされた短剣を持っていた。なにげにアルファは色々出し惜しみしてるわよね。


 10分ほどで糸を切り終わるとウイニードはその巨体を(あらわ)にした。

『ふん、礼は言おうミスティアよ』

 そう言うと翼を一振りした。その翼からは無数の緑の風の刃が生まれ、囚われている竜達を解放した。


『ギャアァァァ!!』

 解放された竜達が興奮してレジスタンス達を襲う。

「やめさせて!」

『我は襲わないと言ったが他の者は知らんぞ?』

「最低なハ虫類ね。そんな理屈通るわけないでしょ竜の王なら約束を守りなさい!」

『言うではないかミスティアよ気に入ったわい。皆の者よ、その者達を攻撃するな客人だ』


『ギャ!』

 ウイニードがそう言うと、すべての竜が一声あげ道を開けるように後ろに下がった。


「ありがとう、助かったわ」

『ふん、まあいいわい』


「でも、なんであなた達が土蜘蛛(アラクノイド)なんかにやられてたの?」


『先程の奴等は我らを倒した者達とは違う。我らを倒したのは新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)だ』

 ウイニードの説明ではその身は通常の土蜘蛛(アラクノイド)よりも人間に近く。魔法や神の祝福(プライム)も使ったと言う。


「どう言うこと?」


土蜘蛛(アラクノイド)は破壊の神に滅ぼされた古代人の生き残りなのだ』

 ウイニードの説明ではこの世界は滅びと再生を繰り返しその度に人類は新たに創造されたのだと言う。

 そして、土蜘蛛(アラクノイド)は前回の滅びの人類だと言う。

「でも、それがなぜ今襲ってきたの?」

『単純な話よ、お前達新たな人類がやつらに力を与えた』


「え?」

『つまり、お前達新たな人類を捕まえて交尾し自己進化した。それが新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)の正体だ』

 ウイニードが言うには未踏破区域を探査する冒険者を捕まえては交尾を繰り返してきたのだと言う。元々未踏破区域は聖域として立ち入り禁止だったはずなのだがゴミトルスが禁を侵し侵入したのだと言う。


 そして新たな人類として復活した新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)は人類と同じくスキルやレベルを享受していると言う。


『魔物がレベルを持ったと考えよ』

「人類じゃ勝てない……」


『そう言うことだ。我もただの土蜘蛛(アラクノイド)と思ったせいで遅れをとったわ』

「それで、そいつらはまた来るの?」


『ああ、もうそこにおるよ』

 そう言うとウイニードは山の上を指差す。そこには何百体の土蜘蛛(アラクノイド)の他に明らかにからだの小さい髪の毛が生えた一見人形の個体もいた。あれが新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)

 そいつらが私たちを見ると、他の土蜘蛛(アラクノイド)を避け下まで降りてきた。解放されたウイニードをも恐れない。つまり勝つ自信があると言うことだろう。私は剣を構え迎撃の体制を整えた。


「おいおい、こいついい女じゃね? 俺がもらうわ」

「じゃあ、私はこっちのいい男をもらうわね」

 いつのまにかサグルや私の横に奴等は立っていた。剣を薙ごうとしたとき私の両腕がポトリと落ちた。


「取り敢えずダルマにしとくか?」

 その言葉を言い終わる前に私は膝から下を切られ身動きができなくなった。


「馬鹿ね動いてなくちゃ面白くないじゃない」

 女形の新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)達は男達を羽交い締めにすると交尾を始めた。ドラゴン達が襲いかかるがその身の回りに障壁があるようで触ることすら叶わなかった。

 その障壁はウイニードの攻撃すらをも無効化した。


 私を切り裂いた男は私の服を剥ぎ取ろうとしたがRBCレインボーコーティングされた服は切り裂けないようで甲殻の体から飛び出た生殖器を私にあてがう。


「おっと汚い手でミスティアに触れないでもらえますか?」

 そのセリフと同時に指がなる。新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)達の体を火柱が焼く。その身にダメージは無いようだが生殖器がむき出しの体は炎を受け入れ中から燃えていく。


「そんな! 俺たちは最高の生命体だぞぉぉぉぉ!」

 その断末魔と共に新世代(アクト)土蜘蛛(アラクノイド)達は甲殻を残し灰となった。


「大丈夫ですかミスティア?」アルファが私を抱き起こしサラスティの元へ連れていく。どうやらサラスティはミリアスが守りきったようで傷ひとつ無い。


「ごめんミスティア、俺守れなくて」

 サグルが自分はなにもできなかったと卑下をする。

「動きが早すぎるわ、あんなの私たちじゃ」

「でも、アルファは」

 そう言うサグルをアルファは殴った。

「今はそんなことはどうでもいいのです、まだ戦いは終わっていない周囲を警戒しなさい」


「そうだな……すまない。 獣化(バルチネス)!」

 フラフラと立ち上がったサグルはまともに動けない苛立ちからか、その身を獣に変えた。サグルの体が紫色の獣に変わる。爪はいつもより長く鋭い、体からは黒い闘気が満ち溢れその体を覆っていた。


「サグル!。」

「だい、じょうぶ。ミスティアは、おれ、がまもる、から」

 力を出し惜しみしてたんじゃない。サグル自身が限界だったんだ。もう体のほとんどを邪骨精霊龍に侵されているんだ。

「サグル行っちゃだめ!」

 私のその言葉は届かずサグルは土蜘蛛(アラクノイド)の集団に飛び込んでいった。一人殺せば狂気に囚われる。そう言われたはずなのに町で人を殺したときすでに蝕みが始まっていたんだ。それを私に悟られまいと大丈夫なフリをして……。


 私がそばにいないと。


「サラスティ、早く私の体を治して!」

 そう叫ぶ私にサラスティが駆け寄り回復魔法をかける。ニョキニョキと生えてくる四肢がもどかしい。私がそばにいないとサグルは、サグルは。


「落ち着きなさいミスティア」

 アルファが私の顔を両手で押さえる。私の目をじっと見つめる、心が落ち着いていく。

 そうだ、私が焦っていても仕方がない。今は体を治すことに集中しなければ。

「ありがとうアルファ、でも今のはなに」


「私の目にはあなたを落ち着かせる効果があります。ニグルの能力なので使いたくなかったのですが」

 ニグルかあいつはこんな能力使ったことがなかった。私を追い詰めるだけ追い詰めてそれだけがあいつの楽しみだった。だからこれはニグルの能力じゃないアルファの力だ。


『ミスティアよお主、体に神気をわずかだが持っておるな?』

 回復中の私を眺めていたウイニードが私の額に指を当てそう言う。

「神気? そんなものはないと思うけど、今能力は封じられているけど精霊ではあるわよ?」

『ふむ、本当に小さな神気だが、お主の中にそれはある。ならば我が力使えるやも知れん。受けとる気はあるか?』

 力? 超龍の力? 欲しい、みんなを、みんなを守ることができるならどんな力でも文句は言わない。

「あるわ! あなたの力をくれると言うなら、ちょうだい!」


『良いだろう受けとるがよい我が力”神風の籠手(フウガン)”』

 力が流れ込む。私の中のなにかと繋がるのがわかる。


「回復力が上がっています」

 サラスティが叫ぶ。私の腕が足が一瞬で元の状態に戻った。そして私の右手には瑠璃色のガントレットが輝いていた。


『ふむ成功だ、これでお主は我の力を、いやお主は精霊だと言ったな。属性は風か。なるほど我も風、神の風を名乗る我が力とお主の力が相まって何倍にも膨れ上がっておるわ。まるで暴風雨(テンペスト)だ』


「わかるわ、私の中で荒れ狂う力が、これならサグルを助けられる」

 私が自分の力を確認し、飛び出そうとした瞬間ウイニードが珍しいと言う。私はそれが気になって何がとウイニードに聞いた。

『神気に名前がついておるのだ』


「……なんて名前なの?」


『救国の女勇者だ』


 それを聞いた私の目からは涙がこぼれ落ちた。

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