ウルガスの英雄譚 『アキト』
すみません箸休めです
人が怖い。
小学生でイジメられ、中学生でイジメられ、高校生でイジメられ、大学生でイジメられ、社会人になってもイジメられた。
人の本質は悪だ、自分より弱いものを作り格付けする。自分より下を作り安心したいのだ。
『私はお前より上だ。』
『私はお前よりはましだ。』
『私はお前より幸せだ。』
人は人を不幸にする。
そして俺は家に引きこもった。
俺は家で仕事をするためパソコンを購入した。
しかし、その考えは甘かった。パソコンを使って家で仕事をするそんな事ができるのは技術力とコネがある人間だけだ。技術もコネもないので仕事に生かせるわけがなく。パソコンはネットサーフィンをして現実逃避するだけのものに成り下がった。
なにもやる気が起きない。
「世界滅ばねぇかな……」
いつの頃からか、その言葉を自然と口に出すようになっていた。そこに思想はなく、正義もなくただ滅べばいいのにと。
ネットサーフィンをしていると、バナー広告に『人間に絶望した』とか『人類は皆殺しだ!』というような広告を見かけるようになった。
それはオンラインゲームの広告で、その名も『MMORPGウルガスオンライン』と言った。
種族は5種族に分かれており超大陸を六分し空白地帯の中央で戦争をして勝った種族が4年の間、神からの祝福を受け資材やお金、ドロップアイテムなどが倍増する。
まあ、ゲーム時間の4年間は実際の1か月なのだけどね。
しかし、良い年した大人が親の金で生活して、ネットゲームで三昧とか良い身分だよな。
正直死にたくなる……。
「おっと5キャラ目カンスト」
これで亜人種は五体すべて進化し終わった。6キャラ目はなんにするかな。俺は何気なしに勢力図を見た。
全体的な種族バランスは悪魔族(水)30:獣族(風)30:爬虫族(闇)20:天使族(火)10:巨人族(光)9:人間族(土)1の割合である。
人間には何も特殊能力が与えられていなく、選んだ時点で負け組確定なのである。当然やるやつはマゾか廃人だけになる。
「よし、爬虫族のレジェンドである俺様がテコ入れしてやっか?」
俺は24時間ログインしてる、このゲームの表も裏も知り尽くしている。
俺に聞けばわからないことはない『生けるウィキペディア』とか言われてたりする。
そして何を隠そうこのゲームで、ただ一人の龍人種でもあるのだ。
龍人はリザードマンから初めて種族進化を何度もして最終的に世界最強種、精霊龍デルスマグルスをソロで倒してその心臓を手に入れることで進化することができるという解放条件が極悪な種族なのである。
しかし、その強さは龍そのもの、いや龍を超え神の領域にいたり、世界最強種でもあるのだ。
新キャラ作成っと、名前は勇者っぽくアから始まる名前にしてっと。顔とか髪型とか選ぶのめんどいな……。
とりあえずデフォルトで少年タイプの設定でいいかな。
「……デフォルトでイケメンかよ、人類死ね。……まあいい確定と」
その瞬間、窓の外が光りに包まれ俺は意識を失った。
うっ……。頭がくらくらする。
目を覚ました俺を、覗き込むように金髪碧眼の幼女が俺の前にふんぞり返り立っていた。
『ワレワレ ハ ウチュウジン ダ オマエ マルカジリ』
「はぁ?むしろお前を食べてやろうか? 性的な意味で!」
この男、幼女には強気である。
『……』
『ア↑ナ↑タ↑ハ↑→カミヲ↑シンジマスカ↑↑』
「あ、自分無宗教なんで、そういうのは間に合ってます」
『……』
『まあ、良いですわ本題に入りましょう』
ヤレヤレと首を振る少女は、まるで自分のギャグが通じないのは俺のせいだと言わんばかりの蔑んだ視線を投げかける。
かわいい女の子にそんな目で見られるとぞくぞくするな。新しい性癖に目覚めそうだぜ。
しかし、この状況はなんなんだ本当に神か宇宙人か。
『あなたはさきほど死にました、覚えてますか?』
「そんな! 俺は部屋でゲームしてただけだぞ」
心臓麻痺か? 韓国でネットゲームのやりすぎで死んだ奴がいたとか聞いたことはあるが。それともあの閃光は核爆発の光だったとかないよな?
『はい、嘘です。覚えてるとか言われたらどうしようかと思いましたよ』
そう言うとキャハはと口元を抑えて笑う。めちゃかわいい。とは言え殴りたい、その笑顔。
「それで要件は何でしょうか? 帰ってゲームをしたいんですが」
『せっかちですね。せっかちな童貞は女に嫌われますよ』
「はぁ? 童貞じゃねーし! やりまくりだし!」
まあ、10年以上使ってないから、ある意味セカンド童貞か。いやここはあえて名誉童貞ということにしよう。
『まあ、あなたの女性関係とか興味ないので、話を戻しますね』
この糞幼女、マジで殴ってやろうか? 大人の怖さ味あわせてやっても良いんだぞ?
まあ口だけですけどね。
『ニートゲーマーのあなたに朗報です』
そう言うと幼女は円錐状の機械の前に手を差し出した。
ブォンという音とともに立体映像が飛び出す。一つは地球、もう一つはなんだ? 月にしてはデカすぎる、まるでもう一つの地球だ。というかこの地形はウルガスじゃないのか?
『もうおわかりと思いますが一つは地球です、真名をウルトスといいます。もう一つはいわゆる反地球その名をウルガスと言います』
幼女は星々を指しながら、眉間にしわを寄せとわなわなと肩を震わせると一気にまくし立てた。
『2つの星はもともと双子星でした。しかし月が外宇宙より飛来して私達に迫りました、このままでは衝突して死んでしまうので、自身を操作できる私が避けて事なきを得たのです。しかし、月はそのままウルトスの衛生として今いる場所に居座りました。そして月の神は男神でウルトスはその魅力の虜になってしまいました。』
「いやいや、そんな星は観測されてませんよ、反地球は存在しないって証明されてますがな」
このくらいの知識、世紀末を生き延びたおっさんなら誰でも知ってる話だぜ。
『それはですね、あなた達人間ががビビりなので観測できないように太陽神アシュテイクムがウルガスを隠匿したのです。神々はあなた達の至福で満たされた魂を望んでます、恐怖で味付けされた魂は不味いのです』
魂を味付け? 魂が不味い?。
「神って魂食べるのか?」
『ええ、そうですよ死んだ人間の魂は神に食されます』
「俺たちって食料なの? 家畜なの!?」
『勘違いしないで欲しいのですが、神が食べるのは魂だけで霊体は食べませんのであなた達の存在はなくなりません。まあ、そのせいで記憶なくして一からやり直すことになるんですけどね』
そう言うと幼女はクスクスと笑いだした。
「魂ってなんだよ」
『あなたの思いや、心ですね。あなたにわかりやすく言うと現世で生きた経験値です』
そりゃお釈迦様も食事される側なら、解脱の一つもしたくなるってもんだわ。
仏陀マジリスペクト。
『まあそれは置いておいて、あなたにはこれからウルガスに行って人間族の希望になってもらいます』
「ええと、期待してもらって悪いのですが、俺にはなんの力になれないと思いますよニートだし」
『そうですね、あなた自体には何の期待もしてないです、ニートですし』
人にニートとか言われると腹立つな……。
まあ,事実だし気にしてないけど、あれ、目から汗が……。
泣かない、僕、男の子だもん! 殺我アキトは45歳泣いてられません!!
『あなたがやっていたゲーム、あれがウルガスそのものなのです。もし行ってくれるなら、ゲーム時代に稼いだお金や装備、スキルなどもおつけしますよ?』
おいおいまじかよ、あのゲームの世界がリアルで存在するわけ!?
しかも、カンストスキルまでつけてくれるのかオトクすぎるだろ! 俺の時代来ちゃった? 無双しちゃう? 母ちゃん、俺ここでなら頑張れる気がするよ。
『どうです、この話だけでも行きたくなったでしょう? まあ、拒否権はありませんけど』
俺の心を見透かすように幼女神はニヤリと笑う。
拒否権がないというのはムカつくが。でも、本当にウルガスがあるなら行ってみたい。
元の世界じゃ詰んでるしな。新しい世界でウルガスドリーム掴んでやるのも悪くないか。
でも、待てよ。あの世界人間種迫害されてるよな……。
「あの世界って人間族は迫害されてるよね?」
『現実のウルガスは6種族すべてが争い合ってますよ、人間族だけじゃなく他種族は全員敵です、』
うはぁ四面楚歌かよ、敵の敵も敵、他種族は全部殺戮対象か?
「あれ?おかしくないか…なんで人間族だけ肩入れするんだ?」
『あれ、気がついちゃいました? そこ聞いちゃいます? 聞いちゃいます?』
口に手を添え、悪巧みするような顔で近づいてくる幼女。
めんどくせえ……。
『それはですね人間族の魂が美味しいからなんですよ他の5種族の魂はまずくて
何度か地球産の魂食べたことあるんですがあれはやばいですよ、得に日本人の魂は極上でした』
まるで恋する乙女が片思いの男性を思うよな、うっとりとした表情で恐ろしいこと言う幼女。
「それで日本人である俺が選ばれたわけか」
『そうです、それに日本人は勤勉ですからね。特にあなたのようなバブル世代は優遇してやればすぐに話に乗ってくれますからね』
そう言うとおっと口が滑ったと言い口元を隠す。
バブル世代と言っても成人した頃にはすでに終わりかけていて利益を享受したこと無いんだよな。というか陰キャだったからジュリエット東京やゴールデン芝浦などは夢の中の世界だ。いや深夜番組で親に隠れて見た程度だ。
『煮え切らない童貞ですね、なら私が背中を押してあげましょう。あなたは勇者です5種族すべて進化しカンストしたものなどいないのです。その力で人間族を救ってください』
勇者か、勇者ってガラじゃないけど福利厚生充実してるし地球に居ても良いこと無いし、力も金もあるならモテモテになる可能性もある。こりゃあワンチャンあるで!
あと気にかかることと言ったら。
「ど、奴隷はいるんですか?」
『プッ、モテナイ童貞が奴隷でウハウハハーレムする気ですね、いますよ多種族奴隷や犯罪奴隷よりどりみどりです。良かったですね童貞捨てれますよ』
こいつの中で俺は童貞確定なんだな。
しかし奴隷制度のある世界、ヘタをすると俺が奴隷になるかもしれんから気をつけないとな。
フラグじゃないんだからね!
「あとこのスマホの連動機能使えるの?」
『それは使えませんね、私の干渉外のことなのですよ面白い要素を入れようとしたゲーム会社のオリジナルなんです ⦆]
ウルガスオンラインは倒した魔物の魂を吸収してをスマホ内のゲームで育てることができ召喚獣として再召喚できるシステムなのだ。それが使えないとなると面白さ半減だな。このゲームの目玉機能使えないとかクソゲー決定じゃないですか。
はぁ、大量の召喚獣たちが育成時間が無に消えた、ここが地獄ですか、そうですか……。
『しかし、そのスマホの機能は面白いですね』
「なにがですか?」
『これはある意味モンスターに対しての私達神的存在ですね』
ああそうか、モンスターの魂を吸収するから神と同じシステムなのか。
『ちょっといじれば使えるようになると思います』
そう言うと幼女は指をスマホに突っ込んだ、何でもありだな。
おいおいなんか光ってるけど壊さないだろうな。どうせウルガス行くつもりだから壊れたら壊れたでなんか特典つけてもらうけど。
『はい、出来ましたよ。これでウルガスでも使えるようになりました機能は少し変わりましたけど』
「え、かえちゃったんですか!」
『そのままだと使えないですし機能も拡張してアイテムBOXとかもつけておきましたから改悪ではないと思いますよ、あと召喚獣の卵一個プレゼントしておきましたから、がんばって育ててみてください詳しくはチュートリアルを見てね』
説明すんのめんどくさくてチュートリアル作りやがったな。
まあ、確かにゲーム時代でもなんでも聞いてくる奴ってうざかったもんな。
『では、ウルガスに言っていただけますね? 確定事項なので嫌と言っても送りますけど』
まあ、この幼女神の思惑通りなのは気に食わないけど、これだけお膳立てされてたら行くしか無いよな。
「わかった行きます、それしかなさそうだし正直面白そうでもあるしね」
『では、リアルウルガスオンラインの始まりです、あなたの未来に幸あらんことを』
俺の体が光の粒になり魔方陣に吸い込まれていく。
アキトが送られたのを確認した後、幼女神は呪詛の言葉を吐く。
『裁きの日は近いですよウルトス、裏切りには死を』
目には憎しみの光を宿し、その身を業火にに焼き尽くさんほどの怒りを纏っていた。
ウルガスの英雄譚 『アキト』の続きは別の小説として書きます。
その際最新話のあとがきで紹介します。