ミスティアのクーデターまでの六日間 その八 ~魔法スクロール爆誕~
土竜を倒した私達は、この場所でキャンプをすることになった。1000人分の食事をこの土竜で賄うためだ。
「しかし残念ですね」
アルファが土竜の死体を見てそう言う。
「なにが残念なの?」
私がそう聞くと飛竜なら防寒用の皮が足りないのを補えたのですがと言う。
「飛竜は上空高く飛びますから寒さに強いんですよ」
「もうバカねアルファは上空は太陽に近いんだから暑いに決まってるでしょ」
私がそう言うとアルファは困った顔をして空を見上げる。
「ミスティア、上空は寒いんだよ」
そう言ったのはサグルだ、サグルまで私に冗談を言うようになったのかとホッコリしていると。
「ミスティア様あそこを見ていただけますか?」とアルファがグランドル連峰の一角を指さす。
「雪が被っている山ね」
「そうです、雪が被ってます、地表は雪などありません。つまり上空は寒いのです」
「あ……。でも、もしかしたらあそこにフロストドラゴンが……」
「いません」
「もしかして異世界常識ですか?」
異世界常識を振り回すのはやめてほしい、私達はこの世界で生きているのだから!だから!
「いいえ一般教養です」
いるのだから~……。
「だって、私学校行ってないし。いいえ、知ろうともしなかった私が悪いんだよね」
「それなら俺たちが色々教えるから気にしなくて良いよ。知らないことは全部教えるから」
サグルはそう言うが知らないことが何なのかわからないのが問題なのだ。とは言えわからないことを教えてくれる人がいるというのは安心できる。
「うん、そうね。よろしくお願いします先生!」
私はそう言うと二人に敬礼をした。
「ミスティアさっきからしてるそのポーズなんだい」
ミリアスが私がするポーズの意味がわからないと首をかしげる。
「アルファならわかるわよね?」
「……申し訳ありません、知りません」
「ほう、知りませんか。ならばミスティア先生が教えてあげましょう」
教えることが少ない私の異世界常識を教えてあげましょう。そして私は日本人の挨拶講座を始めた。
まずは基本技ピース。片手で人差し指と中指以外を畳み相手に向けてピースと言う。これは楽しさ、喜びを伴う親愛の情や可愛さを表す意味を持つ。
そして両手でピースを作り目を上にあげる。これは相手を喜ばすポーズで主に子供が喜ぶわ、一部大人も喜ぶけどこれをすると相手の顔がだらしなくなるのであまり大人にはやらない方がいいわね。
そして敬礼、これは正式には腰を少し斜めに折り、顔を相手よりも下にして、了解でござると言うのが正式なやり方で相手が”あざとかわいい”と言えば認めてもらえた証拠だと言う。
「誰に教わったのこんなこと」
「皆にHENTAIさんと言われてる日本人に教わったのよ」」
「その、変なことされてないよね?」
「その変なことの意味はわからないけど”HENTAI紳士はリアルには興味ないでござる”とか言ってたわ」
「そう……神国に帰ったら一度その人に会わせてね」
サグルは神妙な面持ちで私に会わせてほしいという。
「いいわよ、技術者の人だからもしかしてサグルはあったことあるかもよ」
「もしかして田中さんですか?」
「そうそう、田中さん」
よし帰ったら殴ろう、サグルはそう言うと拳を握った。まあ、あの人いい人なんだけど私をビッチ、ビッチ呼ぶのよね。意味を聞いたらムカついたので殴ったけど。”だから三次元は惨事なんだ!”とか言ってたけど本当意味不明で面白い人だったわ。
土竜の解体が終わり。さあ、食べようとなったときに周りに木がないことに気がついた。
アルファにそれを言うともうすでに用意してあると言う。どこを見渡しても薪どころか小枝すらない。
周りを見渡す私の服をアルファは引っ張るとひとつの石を指差す。そこには魔方陣が書かれており手をかざそうとするとアルファに叩かれた。
「ちょ、なにするにょ」
あまりに唐突に叩かれたので、ビックリして語尾を噛んでしまった、情けない。
「いや、やけどしますよ?」
そう言うとアルファは骨付きの肉をその石にかざすとジュージューと肉の焼ける音がして、美味しそうな香りが私の鼻孔をくすぐる。
『きゅ~』
唐突に私のお腹がなる。恥ずかしさで死にそうになる。
「ふふふ、どうぞ」
私はアルファが差し出す肉を照れ隠しで盗むように奪い取ると反対方向を向き肉に噛みついた。
噛みついた肉からはあふれでるほどの肉汁が滴り落ちて私の足元にポタポタとこぼれ落ちた。味は肉自体に甘味と塩分が両方かね備わっており、まるで食べられるのが義務と言わんばかりの肉本来の旨味を出していた。
食べてから気がついたのだが、私がこれほどお腹が減っているのだサグルはもっと減っているだろう。
サグルを見ると皆が焼いているそばで順番待ちをしていた。
私って本当、最低だ。
「サグルこっちおいで」
私が呼ぶとサグルは破願して私に駆け寄る。尻尾が出ていれば犬のように左右に振られていることだろう。
「どうしたの?」
「はい、これ食べなさい」
私は自分が口をつけたものをサグルに差し出した。
「え、いいよ。ミスティアが食べなよ」
『ぎゅぅぅぅう』
サグルのお腹が嘘がつけないようで早く食べさせろとせがむように鳴いた。
「私が口をつけたものは食べられないと?」
「いや、そうじゃないけど」
「はい口を開ける!」
そう叫びとサグルはビックリして口を大きく開けた、私はそこに肉をむりやり押し込みにこやかに笑った。
「あむがとう」
まるで、手のかかる弟だ、小さい頃のガリウスみたいね。
「…………」
「どうしたんですかミスティア様?」
「いいえなんでもないのよ」
私はそう言うとサグルの持つ生肉を取り上げ魔法陣の上に置きジュージューと焼き出した。
「しかし、これすごいわねどういう仕組みなの」
私がアルファに魔方陣の仕組みを訪ねると、彼は隔離魔法を使って私たちの周辺に話し声が伝わらないようにした。
「これは私だけにしか渡されてないものなので極秘でお願いしたいのですが」
そう言うと一本の瓶を取り出して私達に振って見せる。
「粉? なんの粉なの」
「これは海馬を粉末状にして神経伝達物質であるドーパミンを染み込ませたものです。もちろん錬金術で作られており普通に同じことをしても同じものは作れません」
「それがこの魔方陣となんの繋がりがあるわけ?」
「これに自分の血を混ぜると、魔法回路と同じ役割をします。魔銃に使われて魔法回路はこれで作られています。ただし魔銃の方は成分が固まらないようなギミックがあるので――」
アルファは言うことはちんぷんかんぷんだ。ただ、これさえあればどんな魔法でも使うことができるのだと。ただ書くのに時間がかかるのですぐに使えないのが難点だと言うことは分かった。
「ん、じゃあ先に紙にでも書いておけば良いんじゃない?」
「いえ、それだとかさばりますので」
私が適当にそう言うと即座にアルファは否定をする。悔しいので、また適当に話を作る。
「ちがうちがう。どんな魔法でも使えるんでしょ? だから神域魔法だけ書いとくのよ。そうすればいつでも大魔法が使えるじゃない。それに紙なら丸めておけば良いんだしそんなにかさばらないでしょ?」
「確かに、かさばることばかり気にしていてそれに気がつきませんでした。あなたは天才ですか!」
そう言うとアルファは紙にスラスラと魔方陣を書き出した。
「これが、後に魔法大変革時代を迎えるとは、とうのミスティア達も知らなかったのである」
「なにそれ、サグル」
私はサグルの言い方が面白くてクスクスと笑ってしまった。
「いや、なんか今言わなきゃいけない気がして」
それにつられてサグルも笑うがアルファだけは一人真剣だった。
「いや、これは本当に改革が起きますよ。魔力さえあれば誰でも大魔法が使えるんですから」
そう言うと何個かの魔法を作り試し撃ちをしていた。試し撃ちをするたびに紙は燃え付き焼失する。
「なるほど常駐型では焼失してしまうのでだめなのか、ふむふむ」
「魔銃でも使えるんじゃないの?」
「いいえ、もし使えるなら最初からあなたの剣にも仕込まれているでしょ? 使えないのは大魔法では回路が焼ききれてしまうためですよ」
そして、この方法なら燃えても問題ないし、ストックを用意しておけばいくらでも使えると言う。
「私、天才?」
私が腰に手を当て胸を張ると「ズにのらないでください」「たまたまだね」などヤジが飛ぶ。
はぁ、ミリアスいじめよう……。
私のストレスをミリアスにあげようと彼を探したら。相変わらずイチャついているので、私のストレス値が上がっただけでした。
田中さん曰く、こう言うときは”リア充爆発しろ”だそうです。
私は焼けた骨つき肉をサグルの口に突っ込むと他の生肉を取りに向かった。肉はまだ大量にあり今夜だけでは食べきれないほどだ。
「なんか俺らちから強くなってないか?」「お前もか? 俺もなんかそう思ってたんだよ」「おいおいお前らもかよ」そう言うとレジスタンス達は土竜の切り離された頭蓋骨を持ち力比べを始めた。
私は生肉をもって二人の場所に戻ると、今あったことを話した。
「たぶんレベルが上がったのでしょう」
そう言うとアルファは石に魔方陣を書き呪文を唱えてレジスタンス達を見た。
「レベルわかるの?」
「はい、鑑定魔法を行使しました。これは……平均34と言うところですね。土竜三体分の経験値が割り振られたようです」
レベル34か、C級冒険者レベルか。
「アルファ、ゴミトルスの軍隊の平均レベルはいくつ?」
「そうですね平均は出しにくいのですが、レベル30~40が多いです」
「つまりレジスタンスは今、同等な力を手に入れたのかな?」
「いいえ、やはり軍隊は訓練されてますのでレベルで言えば50相当になりますね」
「そうなんだ」
「はい」
つまり、まだまだ勝てる見込みは低いわけだ。ただこちらは魔銃を装備しているのでレベル以上の働きができるとアルファは言う。
「ところで、この肉汁集めてる瓶はなに?」
「知らないのかミスティア? これは体に塗ると発汗をおさえ保湿する効果があるんだ」
アルファが私を挑発するように微笑む。
「発汗をおさえ保湿されるとどうなるの?」
「雪山で汗によるしもやけや凍傷を防ぐことができるのさ」
アルファはすでに雪山を踏破する対策の準備をしていて私たちと心構えが違うことに驚き平伏した。
もう、アルファがリーダーで良いんじゃないかな?と思うくらいだ。
「あと、今の呼び捨ては冗談かもしれないけど、敬称はいらないわよ?」
「いいえ、そう言うわけには」
そう言うとアルファはいやいやと手を振る。
「ミスティア様と言ったら返事しませんいいですね?」
「……分かりました、ミスティアさん」
「ぐっ、アルファはセンスあるわね」
私がそう言うとアルファはにこやかに笑うのだった。
長いのでサブタイつけたいと思った。