ミスティアのクーデターまでの六日間 その五
前話のサグルの愛の力とミスティアの手をにぎるのはなんか違う気がしたので修正しました。
私達は馬車と馬とに別れ、町を出て王都方面へ出発した。やはりと言うか当然と言おうか。私達の後を付いてくる一団がおり、アルファがそいつらを始末した。
その際、虚偽の報告をさせたのは言うまでもない。
そして、私達は一路グランドル連峰をめざし、馬や馬車が壊れるのを気にせずに爆走している。
轍が作られた道と違い石や起伏が車輪を痛める。せめて片道までは、もって欲しい。
「そういえば宿屋から飛び出たときミスティアはすごいジャンプ力をみせたんだけど、あれどう言うことだ? レベル補正がないのにあの跳躍力は異常だよな?」
ミリアスがありえないジャンプ力を見せた私を訝しむ。
「あれは、この靴のお陰よ」
そう言って私はミリアスの方に靴を脱いで投げて見せる。
「ミスティアの足のサイズにしては靴自体が大きいな」
「それはパワーシューズと言って脚力を何倍にも高めるらしいのよ、大和神国製の魔道具ね」
靴とニーソックスまでが一体化しており、脱いでしまうと足が微妙に手持ち無沙汰になり両方の足の指先を付けたり離したりして遊んでいた。
まあ、足なのに手持ち無沙汰ってのも変だわね。
「しかしミスティアの生足はエロいな」
ミリアスはそう言うと、サラスティとサグルに殴られる。いつも一言多いのがミリアスの悪いところだ。
「ミリアスはそんなに色白の人が良いんですか?」
少し南方の血が入っているのかサラスティの肌は小麦色だ。私は小麦色の方が健康的で言いと思うんだけどな。
「ねえ、ミスティア。なんか靴の下に色々ギミックあるみたいなんだけどこれなに?」
私の靴を手に取り眺めていたサグルが謝るミリアスを放っておいて、靴の裏に色々仕込まれた物の役割を聞いてくる。
「その丸いのは中から車輪が出てきて転がるように歩けるものらしいわ、それとスパイクも飛び出すから気を付けてね」
スパイク?と疑問を口にするサグルは靴からスパイクを出して見せると、これで蹴られたらと思うとゾッとするねと言う。
いや、それ凍った道を歩くときのものですからと言うと妙に納得してたが。言われてみると攻撃にも使えるわけかと私も納得した。
しかし、これだけ揺れているにも関わらず、私達は普通に喋れている、こんなに揺れている状態で者べれな舌を噛んでも不思議ではないのだけど、アルファのかけた補助魔法: 衝撃吸収の魔法効果なのだが、アルファは聞いたことがないような魔法を平然と使う、まるで真奈美だ。それに、補助魔法のひとつである罠魔法をまるで攻撃魔法のように使うことからも戦闘技術は私達の誰よりも上のように思える。
「ねえアルファ、あなた元グランヘイム国民?」
私は御者をしているアルファにそう聞いたが彼はハハハと笑うだけでそれには答えてくれなかった。
「じゃあ、今のうちにおさらいをしましょうか?」
そう言うと今後の計画の復習を話し合った、まず夜どうし走り。朝になるまでに魔窟の前の対岸にまでたどり着く。あまりそばまで行くと魔窟の監視砦の兵に見つかってしまうので砦が見える前に馬車を乗り捨て川をわたり対岸に向かう。
魔窟には入る必要がないので、極力戦闘は回避する。
そこから夜までにドラゴンの巣手前まで行き休憩をする。朝日が昇ったらすぐに出発して二日をかけ未踏区域まで到達する。
そしてそこから一日かけ王都に進軍する。
「これで良いのねアルファ」
私は中の光が漏れないように暗幕で覆われた馬車の中から魔道具の音声伝達器を個人設定にしたものでアルファに問いかけた。
「あくまでも、順調に行けばですね」
アルファは悲観的だが私は絶対にやってやると言う決心をした。
「サグルには苦痛を強いると思うけど、絶対に最後まで諦めたらだめよ」
「まかせてよ、邪骨になんか負けないから」
そう言う、サグルの首もとのマフラーの下にチョーカーがついてるのが見えた。
「サグルそのチョーカーはなに?」
私がそう言うとサグルはマフラーを引き上げなんでもないと言う。
私は無理矢理マフラーを下げて無理矢理見るとそれは遠隔式の自爆装置だった。
「どうしたのこれ? 誰につけられたの!?」
「違うんだ、これは俺がお願いしてつけてもらったんだ」
なんでと言う私の問いにサグルは保険だよと言う。暴走したら、自分の意思が負けたら、誰かが俺を殺さなきゃいけない。でも今の自分を殺せるものはいない、だから保険が必要なんだと彼は言う。
「そんな、でも、。……だれがそれを爆破させるスイッチを持っているの?」
だけどそれにサグルは答えない。でも考えられるのは一人しかいない。
「アルファ、あなたが持っているんでしょ?」
「ええ、私が持っていますよ」
アルファは平然と、当たり前のことであるかのように言い放った。
「それを私に渡しなさい」
「ダメですね、あなたはサグルさんを殺せない。私は皆に危険が及ぶようなら躊躇せずに押せます。だから私が持っていた方がいいんです」
「良いから渡しなさい!」
私は語気を強めてアルファに言うが、彼は断固として私に渡すのを拒否する。
「これはサグルさんの望みでもあるんですよ、もしもの場合には殺してくれってね」
そういわれた私はサグルに反射的に掴みかかった。
「サグルなんでよ、ずっと私のそばにいるっていってくれたじゃない」
「違うんだよミスティア、これはあくまで保険だよ、保険は必要だよ。例え100%の自信があっても外的要因がない訳じゃないからね」
そう言ってサグルは例え話をする。
例えば商人は自分の荷物を冒険者に守らせる、S級冒険者に守らせたとしてもさらに自分の荷物に保険をかけるんだ。S級冒険者に守らせてる時点で確実に守れるだろ? それでも保険はかかさない。S級冒険者だって負けるときはあるからね。
そしてサグルはさらに話を続ける。真奈美に教えられた言葉で”石橋も叩いて渡れ”と言う言葉を教わったという。用心に用心を重ねて事を行えば、不測の事態に対処しやすくなると教わったのだという。
「だからって」
「ミスティアが民を傷つけたくないのと一緒で、俺だってミスティアや仲間を傷つけたくないんだ」
「……」
確かに、サグルが邪骨の兵と化したとき私はたぶんスイッチを押せないだろう。いや、押せない。そして狂獣人化したサグルは私たちを殺すだろう。殺すだろうか? 殺さないと思う。
でも、これは希望的観測で合理的な確証はない。だからこそサグルは保険をかけたのだ。
「分かったわ、サグルがそうしたいのならすれば良い。ただ私は信じてるから。サグルは狂わないって」
「ありがとうミスティア」
「まあ、俺らも信じてるけど、もし狂ったら俺が頭を叩いて正気に戻してやるよ」
ミリアスはサグルの肩に手をまわしグイッと引き寄せた。
「ハハハ、その時は頼むよ、できれば首を切られる前にね」
そう言うと、笑いながらサグルは首のチョーカーを指で弾いた。
「みなさんそろそろ休まれた方がいいですよ、明日から寝る暇もないのですから」
アルファがいつまでも和気あいあいとして寝ない私達に忠告をする。確かに明日から強行軍だ、いやすでに強行軍の真っ只中なのに気が緩んでいた私たちを叱咤しのだろう。私がやらなければいけないのにアルファが憎まれ役を買って出たのだ、私は申し訳ない気持ちになりアルファにごめんと謝りすぐに仮眠の用意をした。
「良いお休みを」
アルファがそう言うと暗幕で見えないのに手をあげたような気がした。見えないのに彼の挙動が分かった。もう彼も私達の仲間の一員なのだと嬉しくなった。
馬車内の明かりを消すと暗闇に包まれた。昼間のことで疲れていた私はすぐに深い眠りへと落ちた。
『私だってあなたに死んでほしくないんですよ、ミスティア』
夢の中で誰かが囁く。
その声で目が覚め、暗幕を開けて外を見るとちょうど日が昇るところだった。
「きれい……」朝日をじっくり見るなんていつぶりだろか。
こんな大変なときなのに仲間がいる安心感からか心には余裕ができたようだ。美しいものを美しいと言えるそんな日がまた来てくれたことに私の心は不謹慎だが弾まずにはいられなかった。
「おはようございますミスティア様、今日の朝日は一段と美しいですな。まるであなたの笑顔のようだ」
珍しくアルファがお世辞を言うのでビックリしていると、それが伝わったのかアルファは話を切り替えそろそろ着くのでみなさんを起こしてくださいと話を切り替えた。
私も少し照れてしまい皆を無理矢理たたき起こした。ミリアスが「サラスティもう少し」と寝ぼけて、私に抱きついてきたので脇腹にパンチを入れたのだが全く効き目はなかった。
それを見たサラスティが体重を乗せた肘をミリアスの頭に直撃させて、直撃させて、直撃させた。
「う~ん、もっとぉ」
効き目は薄いようだ。
少し顔が赤くなったサラスティは布に水を染み込ませミリアスの顔を覆って押し付けた。
「ふがぁ、ふがぁがぁがはっ!」
あまりの息苦しさに目を覚ましたミリアスは私を抱き締めてるのとサラスティの顔が真っ赤なのを察してすぐに正座の姿勢になった。
バキ、バキ、バキ。
サラスティの強烈な一撃が何度も入りっているのだがミリアスにはダメージがほとんどないようだ。
まあ守備職相手に村娘や回復職の一撃が効くわけないわよね。
手が痛くなったのか、これで許します。以後はちゃんと確認して抱きつくようにと言うとミリアスは土下座をして謝った。
仲が良いのか悪いのかよく分からないわね。
ミリアスが謝るのを確認するとサラスティは私に抱きついた。
「へ? なになに。私、何かした?」
「ミリアスの温もり返してもらいます」
いや意味わかりませんけど? たぶん私の方が体温高いから返せないわよ?
何を言おうが今のサラスティには馬耳東風で時間をカウントしていた。私がミリアスに抱き締められていた時間をちゃんとカウントしていたんですね。
……こわい。
私たちがジャレ合っていると、馬車は川の側で停車した。どうやら目的地についたようだ。
「ミスティア様、不味いことになりました」
アルファがドアを空け眉間にシワを寄せていた。
川を見ると向こう岸まで50m以上あり、とても歩いていけるような川の流れではなかった。
◎ミスティアとレジスタンス現在地




