ミスティアのクーデターまでの六日間 その四
アルファに言われたとおり201号室にいくと、そこにはクジャラや他のレジスタンスのメンバーがいた。
「クジャラさん、先程はわがまま言ってごめんなさい」
私はそう言うと頭を下げ謝罪をした。クジャラは気にすることではないですと笑って許してくれた。
「それで、レジスタンスの動員人数の方はどうなのですか?」
「芳しくありません、ほぼ全ての国民が敵に回っています」そして現在レジスタンスはゴミトルスに嵌められた者達だけしかいないと言う、その数はせいぜい2000人にも満たないと申し訳なさそうに言う。
「二千人対二十万人じゃ戦力差は決定的ね」
「でも、こちらにはミスティア様やそちらのサグル君もいますし」
確かに今のサグルは強い精霊狼並みの強さと言っても良い、しかしサグルには魔法が効いてしまう。ウルフドライブ状態なら魔法は効かないけどサグルはウルフドライブが使えない。
「ところで、その魔銃はどこで手にいれたんですか?」
どう見ても大和神国製の魔銃を指差し訪ねると、クジャラは見たこともない行商人がもって来たと言う。
魔銃の数は100丁で旧タイプのカートリッジが交換できないものだった。
これは銃とカートリッジが組で作られており他のカートリッジでは作動しない作りになっている。
つまり私のようにカートリッジを取り替えて残弾数を回復することができないのだ。
アルファにその行商人を知っているか聞いたが分からないと言う。もしかしたらカスミが秘密裏に送ってくれたのかもしれない、新型は渡せないから旧型を寄越してきた可能性もある。
「それで、その魔銃には残弾数が度のくらいあるんですか?」
「残弾?」
私の問いにクジャラ達は首をかしげる。私は魔銃を受け取りカートリッジを抜くと赤い突起を押した。
赤く文字で”46”と出た。それをクジャラに見せ、これがこの魔銃の残りの魔法残弾だと教えると無限に使えないのですかと驚かれた。
どうやら行商人はこの銃の使い方を教えなかったようで、私は正確な使い方をみんなに伝授した。
その中には狙いを定めるものや、一度に3発の魔法を放つものまであり、それらの使い方も聞いてなかったと言う。
つまりその行商人が使い方を知らなかったと言うこと? おかしい、カスミならそんなバカなことはしない。でもこれは完全に大和神国製だ。私が使い方を知っているのが何よりの証拠だし、見たことも触ったこともある。
アルファに聞いたが、カスミにはあまり繋がりがなく分からないと言われた。
まあ、分からないものは仕方ない、特に異常はないようだし問題なく戦力として使える。
「ゴミトルス軍の魔法兵は度のくらいいるの?」
「そうですね、ざっと1万はいますね」
「全員攻撃系回路の持ち主?」
「ええ、そうです。当然ダブルもいます」
ダブルとは魔法回路を二つ持つような特異な人間のことだ。
「じゃあこちらの魔銃は魔法兵と当たるまで、温存した方がいいわね」
「とは言え何か裏をかかないとじり貧ですね」
「アルファ何か考えがある?」
「正直に言えば大和神国の技術力がこの国にも流れてきて通信革命が起こっていますので、私達の所在はあちらに完全に把握されています」
アルファは私たちが動けばすぐにゴミトルスに連絡が行き、民衆に情報がもたらされまた先程のような暴動が起こると言う。
それを踏まえた上でと大きい地図をひろげた。それはこの国の地図で事細かに人口や関所の数などの情報が書かれていた。
「王都には一ヶ所手薄なところがあります、わかりますか?」
アルファにそういわれてみるが私にはこういうのは分からない。サグルはなるほどと良いある一点を指差す。
「正解です、しかしこちらを行くには川を登り険しい山脈を抜ける必要があります」
つまりその山脈事態が鉄壁の守りになっているために配置されている人員が少ないのだと言う。
標高4230m万年雪に包まれ、ドラゴンの巣もある踏破不可能なグランドル連峰。
「私たちがクーデターを成功するにはここからいくしかない?」
「ええ、これが一番望みが高いです、ただし全ての人がたどり着ける確率は極めて低いでしょうが」
「クジャラさん、私達はこの道を行こうと思いますがあなた達はどうしますか?」
「すでに勝ち目は限りなく0に近いですが、一緒に戦ってくれるのですか?」
クジャラはこの勝ち目のない戦いから私たちが逃げないか心配していたのだろう。恐る恐る私に共闘の確認をしてくる。
「あなたが気に病むことはないですよ、私は王都にあるテレポーターを使いたいのとゴミトルスとの因縁に決着をつけたいだけですから」
私がそう言うとクジャラはそうですかとホッと胸を撫で下ろす。
「それで、用意周到なアルファさんならルートの選択もできているんでしょうね?」
私が冗談混じりでそう言うと、当然のごとくもう一枚の地図を出した。見た目は同じだけど、こちらの地図にはルートが書いてあった。
さすがに乾いた笑いしかでない。すでに最善のルートをアルファは選択していたのだ。ここまで優秀な人は冒険者でも中々お目にかかれない。
「アルファさんこの赤い点はなんだい?」
サグルが地図を見て緑で書かれたルートにある赤い点を訝しむ。
「ひとつ目の赤い点は大型の魔窟があります、二つ目はドラゴンの巣、三つ目は人類未踏区域です」
「前者の二つはわかるけど、人類未踏区域って?」
「文字通り誰も行ったことがない、正確には帰ってきたものがいないのですよ」
そしてアルファは言う、この地域に100レベル越えのS級冒険者のパーティーが挑みましたがそれすらも帰ってこなかったと。
「そんなの無理じゃない」
「あくまでも100レベルのS級冒険者が指標ですから、サグルさんや私、それに部位欠損まで治せるサラスティさんもいますし踏破可能だと判断します」
「でも、何があるのか分からないのよね?」
「世界を滅ぼす力よりは大したことはないと思いますよ?」
アルファは世界を滅ぼす力であるガリウスに会いに行くなら、それ以下の力など乗り越えなければ無理と言いたいのね。
「そうね、それは分かったわ、それとドラゴンだけど種類は何がいるの?」
「土竜、飛竜、雲竜、多頭竜、古代竜が確認されてます」
「古代竜!?」
「はい、古代竜です」
アルファは何を今さら驚いているんだとばかりにその名を繰り返す。古代竜、私が勇者時代に逃げ帰った伝説のドラゴン。精霊龍を除けば世界最強種。それがいるとなるとまともに進軍できるかどうか。
「なにも戦う必要はありませんよ、古代竜は人間などアリほども気にかけていませんから」
アルファは気楽にそう言うが、人間だって気まぐれでアリを殺すこともある。その気まぐれが私たちが通るときに起きないとも限らない。
とは言えやるしかない、民衆をできれば殺したくないから。
「そのルートでいきましょう。それで、そのルートで王都までは何日かかるの?」
「順調に行って四日、遅くて七日です」
「え?」
「ですから早くて四日かかります」
「ダメよ、すでに四日使ってるのよ、期限まで三日しかないのに……」
「では暴徒を殺しまくりながら、訓練された軍隊を相手に中央突破しかないですね」
ドラゴンを相手にするより軍を相手にした方が楽なのは確かだ。ただ民衆を殺さなければいけないのが私には重荷なだけで。
助けたい相手を殺さなければいけない、だけど今はサグルを助けなければいけない、優先順位は知らない誰かより大切な仲間だ。
「そうね、それしか」
「ダメだ!」
私の言葉にサグルが待ったをかける。理由を聞くとそんなことをしたら、罪悪感で私が壊れてしまうとサグルは言う。私に殺したくない相手を殺す苦痛を味あわせたくないと。
「だって一週間まで、あと三日しかないのよ? 私よりもあなたが壊れてしまうわ」
「俺は大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないでしょ!」
私は思わず怒鳴ってしまった。もう期限が迫っているのに大丈夫なんて、のんきなことを言うから。
でも、サグルは笑って言う。
「大丈夫だ。俺はずっとミスティアを守るって約束したろ?」
「だめよ……」
「信じてくれミスティア。俺は絶対におかしくならないから」
サグルは私とは違う。揺れ動くことがない。私は自分が信じられないから、サグルを信じることができないんじゃないか?
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、期限が過ぎたって自分を保って見せるさ」
私の両親は狂っていても私にまともな食事を用意してくれた。それは愛があったから? ならサグルも自分を保っていられるの?
信じるものは救われる、信じるものは馬鹿を見る。確率は二分の一なら信じて馬鹿を見よう。
信じる心もまた力になるから。
「分かったわ、あなたを信じる。だから絶対に邪骨精霊龍の兵にならないでね」
「まかせといてよ」
そう言って、ドンと胸を叩きサグルは咳き込む。
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ハハハ」
少し無理しているような気もするけど、今はサグルを信じるしかない。
「時間がないから、今夜にでも出発した方がいいかしら?」
「はい、夜道は危険が増しますが、私の補助魔法:夜間行動で昼と同じように歩けますので、すぐにでも出た方がいいですね」
アルファがそう言うとすぐさま皆は支度に取りかかった。私達はアイテムバックがあるのでそこに皆の荷物を入れなるべく軽装で移動することにした。
特に装備としては雪山を移動するための装備をメインとしてその他は切り捨てた。
食料は現地調達で、川を遡上するのは馬車と馬を使い捨てにする。
足りない防寒具も途中毛並みの濃い魔物をや動物を狩り、簡易防寒着を作ることにした。
てきぱきと村の外に馬車や馬を置くと私達は荷物をのせ王都に向かって出発した。
王都に向かったのは念の為の用心で私たちが行く方向を悟らせないためだ。
アルファが後方から付いてくる者がいないか確認できたら、一路グランドル連峰を目指す作戦だ。
なんとか、間に合ってほしい私はそう祈らずにはいられなかった。




