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幼馴染が女勇者なので、ひのきの棒と石で世界最強を目指すことにした。  作者: のきび
第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
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ミスティアとクーデター計画 その一

 国を救って欲しい、男の切羽詰まった気迫に私はたじろぐ。

 彼は元宰相の一人で名をクジャラと言い、ザコトルスに()められて伯爵の爵位を取り上げられ、平民に身をおとしたと言う。

「国を救って欲しいと言われても、私は大和神国の勇者候補です。その私が内政に干渉しては戦争が起きてしまいますよ」

 そういわれた男は、それを承知でお願いをしていると言う。戦争をしたいなら自分達でやれば良い。私を巻き込むなと言うと民を救うには国を一度徹底的に破壊するしかないのですと叫んだ。

 この国はすでに王に威厳も権力もなく、ただの御輿で実権はザコトルスが握っており、どうあがいても国は良くならないと言う。ならばいっそ、すべてを破壊して一からやり直した方が早いのだと言うのだ。


「だけどそのせいで民が死んだらどうするの?」


「民も限界なのです。どちらにせよ、もう死を待つしか無いのです」

 周りにいる人たちを見ると痩せ細っていて骸骨のようだ。立っているのも辛いのだろうフラフラしている。

 馬車を取り囲んでた人達も、よくよく考えれば似たような風体だった。


 まるで私が取り押さえて、死刑になってしまった人達が私を恨んで化けて出てきたようだ。

 クジャラは私の前で土下座をして「どうかどうか」と懇願する。


 私は政治のこてとは分からない。けど、この国の民が飢えて苦しんでいるのは分かる。


「ミスティアは彼らを助けたいんだろう?」

 迷う私を察してサグルが私の考えを代弁する。


「でも、あなたが」


「やらないで後悔するより、やって後悔しろ」

 このまま彼らを見捨てて行ったら、私は絶対後悔するとサグルは言う、やらないことは取り返しがつかないけど、やったことは取り返しがつくこともある。だからやって後悔しようと言う。


 この人たちを見捨てたら、私はきっと後悔する。


「そうね、確かにそうだわ。私はきっと後悔する。分かったわクジャラさんあなた達を救います」


「おお!ありがとうございます」

 

 クロイツがいたらまた呆れられちゃうかもしれない。けど、私は困っている人を見捨てたくない。


「それで、私は何をすれば良いの?」


「大和神国の軍でこの国を滅ぼして欲しいのです」


「それは……、却下ね」

 それはなぜですかと言う男の問いに、それだけはできないと言った。理由は言えないけど大和神国には軍隊がないからね。

 仮に連絡がついたとして真奈美が動いてくれたとしたら滅ぶと言う範囲が国だけから、草木に至るまで滅んでしま

う。


 だから却下なのだ。


「ザコトルスを殺すだけじゃダメなの?」

 私のその問いにクジャラはそれではダメだと言う、王から貴族に至るまで腐っておりザコトルスを殺しても第二、第三のザコトルスが生まれるだけだと言う。


「ミスティア様、ちょっとよろしいですか?」

 男が私を呼び寄せ先程の答えを聞いてくる、今それを聞くと言うことは答えによってはなにか作戦があると言うことだろう。

「答えはノーよ、この国の国民も守ってサグルと未来を紡ぐ」


「分かりました。では、ひとつお教えしましょう。あなたのその手錠の鍵はザコトルスが持っています」

 男が言うにはこの手錠は(つい)になる鍵を飲み込みことで相手を支配できると言う。ただし呪術による鍵なのですでにザコトルスと一体化しており胃を開けても取り出せないと言う。

「じゃあどうすれば良いの?」


「殺して心臓を抜き出すのです、殺して抜き出した心臓に鍵が形成されます」

 ザコトルスを殺して鍵を取り、この国を抜け出しても、一国の宰相が他国のものによって殺されればこの国だって黙ってはいないだろう、真奈美の怖さを知らないならなおさらだ。当然、この件は真奈美の耳にも入るだろう。そうすればこの国は敵対者として真奈美によって滅ぼされる。だから選べと言うことだったのか。


「でもそれだと真奈美が結局介入してくるんじゃない?」

 だが男はそこでこのクーデターを利用しようと言う。私が勇者としてこの国の腐敗を許せなくて国民達の味方に回りザコトルスを殺せば良いのですと言う。その際、男は真奈美にはザコトルスの敵対行動は報告しないという。

 確かにそれなら真奈美も私の考えで動いたということでこの国を滅ぼすことはしないだろう。国民を救いサグルを救うこともできる。なら選択の余地はない。


「わかったわ、それで行きましょう」

 私はその意見を取り入れクジャラに大和神国の軍は動かせないがクーデターの手伝いをすることを約束した。


 クジャラの情報では他の領地からも王都に向かい兵が集結していると言う。この国の周辺領地の全兵力は約2万程、王都軍と合流したら5万はいることになる。


 クジャラの話ではもし決起するなら平民は20万人は集められると言うが、訓練された兵士と平民じゃ勝敗は明らかだ。なら、私たちが先陣を切って突撃して敵を引き付け後方から敵軍を倒してもらう形をとるしかない。


 ここからは三日で王都につくけど、他の領地のレジスタンスも動員するので王都にいくのは二日程待って欲しいと言われた。五日、すでに二日たっているから、サグルの猶予も五日しかない。ギリギリじゃないの。

 私はできるだけ早くレジスタンスを動員して欲しいとお願いをし、二日たったらレジスタンスが集まろうと集まらなかろうと王都へ向かうことを了承してもらった。


 取り合えず馬車に戻りこの町の宿屋に案内されることになったのだが、この町の人たちは皆痩せ細っていて今にも死にそうだ。どこかに食料があれば良いのだけど。

 クジャラにこの辺で狩猟ができないか聞くと作物を荒らすイノンガと言う動物がいるのだが戦闘力が高いうえに動きが早いので捕まえることができないと言う。


 宿に荷物をおいた私は、町の人たちのお腹を少しでも膨らまそうと狩りにいくことに決めた。

「サグル、そのイノンガと言うのを狩りに行こうと思うんだけど手伝ってくれる?」


「ミスティアは町の人たちに振る舞う気なんだろ?」

 サグルは私の意図を組んで、自分が狩りにいってくるからと言うと山に向かって走り出した。私もいく気だったのに完全いおいてけぼりだ。

 クロイツに暇なとき投げ槍遊びに付き合って狩猟はできると思ったんだけど。まあ、私を思っての行動だろうし怒れないか。

 サグルが狩りにいってしまって暇なので、自分の今の能力を把握するために槍を投げてみた。


 一投目は的にすら届かなかった。村娘の力じゃ50mも届かないのか。


 二投目は一投目の飛距離を(かんが)みて10mから投げた。槍は見事にど真ん中に当たった、三投目、四投目も真ん中を射ぬいた。


 どうやらこの手錠は精霊力とレベルだけをなくす呪術のようでスキルは問題なく発動するようだ。剣技の方も問題ないのだけど、いかせん重い。偽勇者の剣(イクスソード)改Ⅱ(かいに)は30kgはある。今の私じゃ10秒も切っ先を敵に向けられない。


 私はミリアスと剣を交換してもらった、ミリアスの剣は軽く5kg程しかなかった。これなら問題なく振り回せる。残念ながら神の祝福(プライム)虚剣斬撃(ブレイブバースト)はレベル依存なので使えなかった。


 クロイツを師匠として覚えた剣技も問題なく使える。アキトゥー流剣術を覚える為の肩慣らし的な剣術で二一形(にいがた)という二十一の形からなる剣術を教えてもらった。肩慣らしとは言えがアキトゥーと同じく実践的なもので極めればアキトゥー流に匹敵するという。


 二一形(にいがた)で得意な技は一形の刺突から入って十形の上段からの袈裟斬りを放ち、十八形の居合い八方切りで決めるコンボだ。精霊の力を得てから使っていなかったけど、まだ体が覚えているはずだ。

 十八形で一度鞘に納めるのは魔力を剣に通すためだ。とは言え鞘に戻すから隙ができるのだけど、クロイツの指導で限りなく素早い動作で隙をなくしている。


 クロイツはこの二十一の形を自由自在に組み合わせ使いこなす、それを見た私は天才だからできるんだよと、言ったらすごく怒られたっけ。

 自分にはアキトゥーの深淵を見ることができなかったから、死に物狂いで二一形を極めてアキトゥーに消化したのだという。普段怒らないクロイツがあれほど怒ったのは始めてで少し戸惑ったけど、言っちゃいけないことを言ったのだと気がついて、素直に謝ったら笑って許してくれた。


 私は巻き藁を用意して、それに向かい剣技を放った。巻き藁は粉々になり足元に崩れ去った。


 よし、これなら足手まといにはならない。私は戦える。


 ふと見ると、馬車周辺が何やら騒がしい。人々の笑い声が聞こえる。そちらの方へ行ってみると、そこには大量のイノンガが置かれていた。


「ただいまミスティア! 大猟(たいりょう)だよ」


 1、2……もう解体しているのも含めると、全部で24頭のイノンガが横たわっていた。まだサグルが狩りに行ってから1時間位しか経っていないのに。


「すごいわね」

 私が素直にそう言うと、サグルは額をポリポリと人差し指で()く。


 一瞬心臓が強く鼓動する。しかしそれはすぐに収まり私は何かを振りきるように、サグルに剣の相手をお願いした。



「確かにこれなら問題なく戦えるけど相手は5万の軍隊だ、できるだけ守りに徹して欲しい」

 いくら剣技があるとはいえ多勢に無勢だ、守りに徹しろというのは正論だ。サグルだけに戦わせるのは不満だけど、下手に戦ってサグルの足を引っ張るのだけは避けたい。


 防御形なら八形の流しね、常に八の字を書くように動き敵を惑わす歩方を使い敵の攻撃をいなす。

 私はそれを使いサグルの攻撃を流すように受け、鞘でサグルを叩いた。これも問題無さそうね。しばらく手合わせをしてもらい感を取り戻すと私は剣を納め、宿へと戻った。


 宿でサグルがとってきたイノンガを香草焼きにして出してもらった、それはとても美味しかった。サグルは明日も狩りに言って数日分の町のストックにしてもらうと息巻いていた。

 夕食を終える頃には夜の闇が町を包み込んでいた。この町は水だけは豊富なようで、私は訓練の汗を流すために水浴びをした。

 サグルも入ってきて、一緒に水浴びをすることになった。どうやらミリアスの入れ知恵で浴場に放り込まれたようだ。

 あいつ、サラスティとイチャイチャしたくてサグルを追い出したな。私はごめんと謝るサグルの頬をなでる。


 サグルの顔は15才くらいの私が村を出たときのガリウスの顔にそっくりだ。今ガリウスはどんな顔をしていたっけ。よく思い出せない……。


「ねえ、ミスティア。結婚するならなにか送った方がいいと言われたんだけど欲しいものある?」


「そうね、精霊龍が住む山にあると言う精霊龍の気で変化した緑色の石で作った髪止めかな」


「え、精霊龍って、あの伝説の?」


「そうだよ、あの伝説の精霊龍は私たちの村の近くにすみかがあって。冒険者が精霊龍が不在の時にすみかで見つけたそうなよ。その石で作った髪止めが欲しいです」


「精霊龍か戦いになったら勝てるかな……」


「ふふふ、冗談よ冗談」

 元々ガリウスをからかうために言った冗談だったんだけど。ナンパされる度に相手をするのが面倒なので、それをとってきたら考えてあげるわと言ってたら、いつのまにグランヘイムで好きな人に緑色の髪止めを送るのが流行りになっていたっけ。


「頑張ってみるよ」


「ダメよ、冗談なんだから。あんなのと戦ったら命がいくつあっても足りないわよ」

 そうあのとき精霊龍(メルティナ)には私の攻撃が全く効いていなかった。多分、私の体が完全な状態だとしても傷ひとつつかないだろう。それほど私達と精霊龍の実力はかけ離れているのだ。


「でも、その精霊龍を配下にするなんてガリウスって人はすごいんだね」


「そうなの、ガリウスはね本当にすごいんだよ。この私の力だってガリウスがくれたものなんだから」

 だから、勇者マイラや色々な女性が惚れてしまうのもわかる。


「ミスティアは……いや、なんでもない」

 サグルの言いたいことは分かる、でも私はそれに答えなかった。

「先に上がるね」

 私はきっとずるい女だ。その先の言葉を聞きたくなくてサグルの前から逃げた。

「うん、俺はもう少し入ってるよ」

 そう言うとサグルは水風呂に頭から飛び込んだ。


 部屋に戻ると声がうるさかったので、ドアを蹴飛ばして馬車で寝ると伝えて部屋を後にした。


 



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