貴族なんか怖くない
俺達はクエスト完了報告をするために冒険者ギルドに向かい朝に依頼を受けた窓口で素材引き渡しをしようとしたのだが何度呼んでも受付の女性は無視をしている。
「すみませんE級クエストの月魔草の納品に来ました」
「……」
俺はクエストの内容を受付の女性に言ったのだがそれでも相手をしてくれない。俺のことを無視するように受付の人は事務処理をするばかりである。
「あのう」
その様子を見ていたクロイツが受付の台を叩き恫喝する。
「早く受付をしなさい」
一瞬受付の女性はビクッと体を震わしクロイツに一瞥をくれると、クロイツには王家より勇者パーティーに戻るよう勅命が来ていると言う。
受付の女性はクロイツには問題なく受け答えをする。そしてパーティーにもどれと言う勅命。
つまりはクロイツの件も含めての嫌がらせと言うことか。
「勅命? 国際機関である冒険者ギルドが、国に屈すると言うのですか?」
「これは勇者法案の国際条約に基づく召喚です」
「ミスティアは試しの剣を抜いていないでしょうに」
「昨日の国際会議で臨時勇者可決法案が施行され、賛成多数でミスティア様を勇者としてすべての国をあげて協力する事になりました」
「ミスティアは勇者の実力などないでしょうに」
「クロイツ様 、それは不敬罪になりますよ。勇者法案により勇者様にはすべての国において、準国王の地位が与えられる事は知っておられるでしょ?」
「処罰する? やれるものならやってみたら?」
クロイツは受付の女性に食ってかかるが受付の女性は言わされているだけだ上の命令には逆らえるわけがない。
俺はクロイツを受付から離れさせ、もう一度受付の女性に話しかけた。
「クロイツの件はわかりました。だけど俺達のクエストの納品を受け付けてくれないのはどうして何ですか?」
「……」
受付の女性はそれに対して答えてくれなかったが、一枚の紙を差し出してきた。
そこには公爵家の圧力により受付できない、王都を出た方がいいと書いてあった。
「わかりました」
クロイツは不満そうだが、この都市に住む者としては国に逆らえないだろうし、あの紙が精一杯の誠意だったのだろう。
俺は軽く頭を下げ、まだ、不満げにしているクロイツを引っ張り冒険者ギルドをでた。
宿に戻ると二人の姉妹には特に態度が変わると言うことはなかった。
公爵家から何かされててないか不安だったが、まだなにもされていないようだ。
だが、この程度で終わるわけはないだろうな。この姉妹に迷惑をかけるわけにはいかない、明日にでも宿を出よう。
俺達は部屋に戻ると今後の方針を話し合った。
「皆の意見を聞きたいと思う」
「私達を公爵家に引き渡してください。そうすればガリウス様に対する嫌がらせは終わると思います」とアリエルが言う。
カイエルもそれに同意する。
「私はガリウスの妻なのであなたから離れません」
妻じゃないけどクロイツは俺から離れないと言う。
「二人のその意見は却下な」
俺はアリエルとカイエルの意見を却下した。
「しかし」
カイエルが俺の意見に否を唱える。しかしもクソもない、駄目なものは駄目なのだ。
二人は俺の大切な人だ、自分の身可愛さに売るなんてできる訳がない。
「俺は二人を誰かに渡す気なんて無いよ、しかも二人を傷つけることが分かってる奴に渡すなんて絶対に無い!」
そう言われたアリエルとカイエルは嬉しそうな顔をするが俺の身を案じて、すまなそうな顔をする。
「後、クロイツにも一緒に来て欲しい。あ、でも勘違いしないでくださいね好きとかそういうのじゃないんですからね」
とは言ったものの、俺はクロイツを好きになっていると思う。ミスティアと同じ位には。
どちらか一人を選べと言われたらその一人を選ぶ事ができない位には好きになっている。
それとミスティアには真名命名の件もある。放っておく事など出来ない。
「ミスティアの事だけど、誰か良い案ある?」
「可能性の話しをしますので、怒らないで聞いていただけますか?」
アリエルが俺の顔色を伺いながら聞く。
「大丈夫だよ、どんな意見でも怒らずきくよ」
そう言うとアリエルは三つの案を示した。
◎ミスティアの仲間になり、魔王を倒しそうになったら足を引っ張る。
◎俺が第三の勢力となり 弱い勢力に助力する。
◎ミスティアの事を見捨てる。
「今の段階で考えられるのはこの三つになります」
俺は悩むだけで解決方法など思い浮かばなかったのに、あの絶望的状況から三つも打開策を考えてくれたのか。
素直にアリエルにお礼を言うとアリエルは怒らないのですかと言う。
多分第三の案のミスティアを見捨てると言う案の事を言っているのだろうが、怒る理由など何もない。お願いしたのは俺だし、俺の事だけを考えれば多分一番最善策でもあるのだろう。
俺はすまないそうにしているアリエルの頭を撫でた。
カイエルが睨むかなと思ったがどこか浮かない表情だ。
「他に案のある人はいる?」
案は多いほど良い。だが皆は首を振る。
今のところ選択肢は3つか。
ただアリエルは情報があれば選択肢は増えると言う。
今はまだ三つなのだと言う。
しかし、この選択肢の中で絶対に無いのは見捨てると言う選択肢だ。
物心つく前から一緒にいるのだ。見捨てられるわけがない。そもそも、俺のせいでいつ死ぬとも知れぬ体になったと言うのに、ミスティアを助けられるなら俺の命を交換してもいい。
そして二つ目の第三の勢力は完全に人類を裏切る行為だし、俺の我儘で三人を犯罪行為に付き合わせる訳にいかない。
となると必然的に一つしかないな。
「ミスティアの仲間になるのが一番良いかな。クロイツもその方が王様からの勅命を無視したことになら無いと思う」
まあ、クロイツの荷物持ちと言う事で側に居させてもらおうか。
「ガリウスがそれで良いのでしたら、それに従います」
クロイツは勇者パーティーに戻るのが嫌なのか少し不服そうだ。
「じゃあ今後の方針はミスティアの仲間なる事を前提に行動する。それとアリエルとカイエルの事はミスティアの準国王権限で、何とかしてもらおうと思う」
だがクロイツは貴族はそんな生易しくないと言う。
元勇者パーティーのクロイツは貴族に会うことも多いから、貴族の汚いところを色々知っていてそういう事を言うのだろう。
「クロイツはどうした方が良いと思う?」
「第三の勢力を立ち上げることですね」
それは無理だ、俺一人なら良いがアリエルやカイエル、クロイツを犯罪行為に巻き込みたくはない。
俺が悩んでいるとクロイツはガリウスの力ならできますよと言う。
そう言う問題じゃないんだよ。
それにクロイツは俺に何を期待してるんだろう。
俺はただの村人だ、村人に出来ることなんかたかが知れている。
俺が勇者だったら、良かったのにな。
「クロイツ、俺には第三の勢力になるなんて無理だから、勇者の仲間になる案を押したい」
「分かりました。ガリウスがそう言うなら私もそれに従います」
渋々ながらもクロイツは納得をしてくれた。
「よし、方針は決まったし夕飯にしょう。お腹ペコペコだよ」
夕食の為に外に行くのは危険なのでクロイツに夕飯を買ってきてもらった。クロイツが買ってきたものは肉の串焼き、鶏肉の手羽先、焼かれたステーキ肉、肉に肉に肉である。さすが朝から肉を食べるクロイツさんですね。だけどその食事はアリエルとカイエルには好評だった。とは言えさすがに多いのでアリエルだけは串焼きだけだった。
俺はと言うとステーキ一枚だけいただいた。一枚と言っても600gはある肉だ、それを食べた、正直きつい。
食事を終えると俺達はそれぞれの寝室に向かった。
ベットの上で横になりながら考える。はたしてあの選択で良かったのだろうか、なにか間違えてはいないか?
そんな自問自答を繰り返しているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
″トントン″
俺は軽いノックの音で目を覚ました。窓から入る朝日の光が早く起きろと急かしているようだ。
鍵を開けるとクロイツがドアの前に立っていた。
「ガリウス おはようございます」
朝、起こしにくるのはアリエルとカイエルの役目なのだが、なぜクロイツが起こしに来たのだろうか。
二人が寝坊なんて珍しい。
クロイツもいつも居るはずの二人が俺の部屋にいないのに気がついた。
俺達は二人を起こすべく、部屋に向かった。
部屋のドアをノックをするが返事がない。
「二人とも入るよ」
嫌な予感がした。俺は急いでドアを開けた 。
ドアには鍵がかかってはいなく、部屋の中に二人の姿はなかった。
部屋の中を見回すと机の上に手紙が1通あった。
それは俺宛の手紙だった。
※※※※※※※※※※
ガリウス様へ
突然いなくなる私達をお許しください。
勇者パーティーの一員になるガリウス様の負担になるわけにはいきませんので私達は公爵家にいくことにしました。
私は今ガリウス様との出会いを思い出しています。
奴隷商人の牢獄ではじめて会ったときのこと。
私が兄を助けて欲しいと懇願したら本当に助けてくださったこと、あまつさえ私まで助けてくれましたね。
そしてあろうことか私の顔や兄の腕までも治していただいたとき、私はガリウス様の中に神様を見ました。
いいえ、私にとってガリウス様は神以上の存在です。
ガリウス様と居られた時間は生まれて初めての幸福な一時でした。
奴隷と主人の関係でしたが私はあなたを愛していました。
強くて優しい、でも時々おっちょこちょいなあなたが好きでした。
ちゃんと思いを伝えればクロイツ様やミスティア様と渡り合えたでしょうか?
今さら何を言うのかと、お思いかもしれませんが。少しでもあなたの心に残りたいと思う私のわがままをお許しください。
ガリウス様なら、どんなことでも成し遂げることができると思います。いいえ、できます。
そのとき、側にいられないことを残念に思いますが……。
どうか私達のことは忘れてください。私達が自分から戻れば姉上達も前回のようなひどい真似はしないと思います。
どうか、ガリウス様は自分の幸せだけを考えてください。
ガリウス様が幸せになりますよう祈っております。
アリエルより
※※※※※※※※※※
その手紙には俺への思いと、迷惑をかけられないので公爵家に戻ると綴られていた、文字が涙でにじんでいる部分もある。
なんで、こんな。
いや、俺が、俺のせいだ。また俺は大事な人を失うのか。
「取り返す」
「相手は公爵家ですよ?」
公爵だろうが関係ない、大事な仲間を奪わせはしない。
「それでも俺は二人を助ける」
「分かりました、私もご一緒します」
クロイツが一緒に行くと言う。しかし、これは俺の我儘だ彼女を巻き込むわけにはいかない。
「駄目だ、クロイツにまで迷惑をかけられない」
「そんな悲しいこと言わないでください。私はあなたの側にいると言ったはずですよ」
その言葉を聞き俺は反省をする。また間違えるところだった。もう誰一人として俺の側を離れさせない。
「分かった。一緒に二人を迎えにいこう」
「はい、あの馬鹿二人にはお仕置きしませんとね」
「ありがとう、クロイツ」