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真名命名(ネーミング)

 世界は神の優しさに(マナ)で満ちている。

 人はそれをレベルや魔法と言う形で享受していた。

 

 俺の名前はガリウス。

 年齢は18歳、13歳の成人の儀を迎えても村に残った居残り組である。

 普通は成人の儀を迎えると、男は村を出て都会を目指すらしい。

 当時、成人の儀を行ったのは俺と幼馴染のミスティアの二人だ。


 そのミスティアはもう村にはいない、都会に出ていってしまった。

 ミスティアが村を出たのは成人の儀を終えたからではない。原因は俺の能力のせいだ。

 俺には人とは違う能力がある。

 それは、あらゆる物に、真名(まな)を授ける力、その名も真名命名(ネーミング)の力だ。


 名前は俺が考えた。


 この真名命名(ネーミング)で名前をつけられると、付けた名前に(そく)した力を引き出すことが出来る、名前によってはとてつもない力を発揮することが出来るのである。

 最初の頃は目の前で爆発したりして何度も死ぬ思いをしたこともある。


 上手くいくようになったのは幼馴染みのミスティアのお陰だろう。


 成人の儀の3年前、ミスティアにこの能力の話をしたら、それなら私に勇者っぽいのを付けて欲しいと言われ、"救国の女勇者(ヴァルキリア)"と付けたら『私が世界を救う』とか言って、村を出ていってしまった。

 

 大好きなミスティアが村からいなくなり、当時はショックで夜も眠れなかった。

 でも、そのお陰で名前の付け方が分かったのは皮肉な話だ。


 また人につけて、俺の前から誰かがいなくなるなんて事はもうこりごりなので、最近は専ら(もっぱ)ひのきの棒と石に名前をつけている。この辺りは針葉樹林地帯で(ひのき)が多く、また石も無限にあるので、俺の真名命名(ネーミング)のテストにちょうど良い。


 今のところ、一番強い能力の名前は木の棒には「一撃に全てを懸ける剣(エナジーブレイク)」、石には「必中の一投(ストライクショット)」だ。

 

 この二つはすごく便利で大木を簡単に切り裂いたり、獲物に石を投げるだけで確実に仕留める事ができたりするのだ。


 お陰で、村では狩り名人と言われ狩りやハグレ魔物討伐に重宝されている。


 ただ最近、真名命名(ネーミング)した物が消滅するようになった。

 まるで燃え尽きるとでも言うのだろうか、灰のような粉になる。

 いや、灰と言うにはあまりにも希薄な存在、そんなものになるのだ。


 昔、勇者に憧れて勇者の剣(ブレイブソード)を作ったことがある。

 しかし、持った瞬間ポキリと逝った。


 俺の腕がね……。


 今は日がな一日、狩り以外はひのきの棒や石に付ける真名を改造することに費やしている。


 だれに説明するでもなく、独り言のように頭の中で説明する俺。

 やばいな……。

 友達いなすぎておかしくなったんだろうか。



「ミスティアは今頃どうしているんだろう」


 勇者になった幼馴染みを思い出しながら、俺は狩りにいそしむ。

 石に真名をつけ、軽く投げるだけで勝手に頭部を破壊してくれる。


「楽な仕事だ」


 俺は自重(じちょう)気味に呟いた。


 俺もこの村を出ればミスティアに会えるだろうか。

 男って、一度好きになった女はなかなか忘れられない悲しい生き物なのよね。


 でも、新しい男とかいたらどうしよう。

 いや、そもそも俺たち付き合ってなかったから、男ができたからと言って非難をするのはおかしいか。


「キャー」


 不安に身を焦がしていると、街道の方から悲鳴が聞こえた。

 声のする方を見ると、少女がゴブリンに追われている。


 俺はポケットから、真名の付いた小石を二つ投げる。

 小石はゴブリンの頭部を破壊すると、効力を失い灰になる。


「大丈夫ですか?」

 かなり良い衣服を着た少女だ、貴族か商人の娘って所か。


「むこうで両親が……。 おねがい、です、たすけて」

 少女は息も絶え絶えに助力を懇願する。

 そりゃそうか、ゴブリンにも勝てない女の子がこんな所を一人歩きしてるわけがない。

 

 俺は少女をお姫様だっこすると、少女が言う方へ走った。

 襲撃場所に到着すると、すでに戦っている者もおらず、ただゴブリンがうまそうに食事をしていた。

 ポケットから石を五つ取り出す、それを無造作に投げると、それぞれゴブリンの頭を破壊した。

 俺は女性をそこに下ろし、馬車の側に駆け寄った。ゴブリンに喰われていた男女共に、まだ息がある。

 ゴブリンは人間を食べるとき、苦しめながら食べる習性がある。半殺しにした獲物を端から食べていく。内臓がメインデッシュで脳みそがデザートなのだ。


 「ゴブリンの習性が幸いしたな」

 俺は鞄から石を取り出し真名命名(ネーミング)をする。

 真名命名(ネーミング) 全ての力で復元する(エリキシー)


 この真名は部位欠損はもとより、失った血や衣服すら回復する。

 去年ドラゴンとやりあったときに作り出した真名だ。


 あれから、よくあいつ(ドラゴン)の相手をする。新しい真名を考え出しては、月一回バトルするのだ。

 本気の殺し合いは最初の一回だけで、最近は試合をするうような感じだ。


 その石を倒れてる二人に持たせると、傷はみるみる癒えていく。それにともない石は灰になり消滅する。

 二人は朦朧とした状態から回復すると、何が起きたかわからないようだった。

 そこへ先ほどの少女が二人に抱きつくと、皆で抱き合って泣き出した。


 少女は一人で逃げ出してごめんなさいと謝り、両親は私達が逃げろと言ったのだ気にするなと娘の頭をなでる。

 俺にも親がいればあんな感じだろうか? 正直うらやましいとは思う。


 他に外敵がいないか周囲を警戒すると近くに護衛の男が倒れていた。背中に弓で撃たれた跡がある。この男護衛対象を見捨てて逃げたのか。逃げずに戦ってゴブリンに食べられていれば助かったものを。

 とは言え、ゴブリンは狡猾だ武器を持っている人間を殺さずに食べるようなことはしない。どのみち死ぬ運命だったか。

 俺の全ての力で復元する(エリキシー)は死んだものは治せない 。正確には直るのだが魂は戻らないのだ。


 馬車を見ると、車輪に棒が射し込まれ破損している。

 俺は小石を拾い上げると真名をつけ、それを馬車に使った。


 この全ての力で復元する(エリキシー)は、無機物でも壊れて1時間以内なら直すことができる。

 馬も足をやられており動けなくなっていたので全ての力で復元する(エリキシー)回復させた。


「おお! 素晴らしい。魔法使いのかたですか?」


「ええ、そのようなものです」

 能力の説明は面倒なので、適当にはぐらかす。


「お礼も言わずにに申し訳ありません、この度は助けていただいて本当にありがとうございます」


 俺のぶっきらぼうな受け答えを、礼もできない不作法に怒ってるとでも思ったのだろうか、あやまりながら礼を言う男を見て少しは愛想よくしないとなと反省をする。


 俺はあやまる男に自分は他人とのコミュニケーションが下手で勘違いさせたことを謝罪した。

 それを聞いた男はホッとして胸をなでおろし自己紹介をしてきた。


 男の名前はウィルソン、妻はネバダ、娘はマイラという。商人の会合のために城塞都市クレセアに、旅行もかねての旅路だったらしい。


「私の名前はガリウスと言います。しかし、護衛一人とは……」

 ここは最低でも二人以上の護衛が必要な地域だ、一人旅ならわからないでもないが、家族連れを護衛するには最低でも3人は必要だ。


「いつも使ってる護衛なのですが、今日は一人で受けたい、自分なら一人でも大丈夫と申しまして」

 自分の命を預けるのに顔見知りだからという理由でその話を鵜呑みにするとか。この男バカがつくお人好しだ。


「助けていただいて恐縮なのですが、城塞都市クレセアまで護衛をしていただけないでしょうか」

 だが、俺はお人好しが嫌いじゃない。このまま見捨てるのも後味が悪いので次の町まで護衛を引き受けることにした。

 もちろん助けたてくれた謝礼も、払うということだ。


 お金目当てというわけでもないが、村を出れば幼馴染みのミスティアに会えるんじゃないかという期待もあった。


 なんにせよ護衛を引き受けたのだ必ずこの三人を送り届けよう。護衛は俺一人しかいないので、真名命名で魔物探知機を作る。


闇を知り魔を知るもの(ホーミング)

 これを4つ作り馬車の四方に配置した。これは魔物がいれば光って魔物に向かって飛んでいく攻撃力はないが魔物探知に最適だ。

 それと石をバックに入れられるだけ入れ馬車にもいくつか積んだ、弾切れは避けたいからね。


 死んだ冒険者の装備は回収して装備しておく、丸腰では盗賊に狙われやすいからな。

 まあ、護衛が一人の時点で標的になるのだが。

 無いよりましだろう。


 ここから城塞都市クレセアまで、まだ半日以上かかる。これは今日は泊まりになるな。

 できればミスティアに会いたい、そう願いながら俺は城塞都市クレセアへと向かう。

 


 馬車は街道を進む。ガタゴトっと体を揺らしながら俺は考える。



 ……家の鍵ちゃんと閉めたっけ?


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インフィニティ・プリズン~双星の牢獄~ シリーズ
『おさじょ』に出てくるアディリアスとウルティアの二人の神たちの物語 『聖剣のネクロマンサー』
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