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1<孤児アリス >

※ニアホモ狙い/(可愛い)生き物タグ狙い/短く完結(希望)/異世界転生ものです。

不愉快な描写があるやもしれません。ご留意のほどを。

また、今回はアーディ王国紹介(不審)関連になります。


また、前回の最後とこのページは同じ内容です。

記憶ございましたら、ここのページを飛ばして次へ向かってください。

 熱い手を持つ男だった。

金髪碧眼の騎士。彼は、なんでもないという風に僕を担ぎ上げ、周囲を見渡した。

辺りは戦場そのものだ。どこもかしこも、火煙があがっている――――


 「リディ」


 そこに、帽子を深く被った少年が危なげなく近寄ってきた。

家が壊れ、瓦礫の山だというのに、ひょいひょいと身軽に無難な様子である。眉を顰めるような埃臭い空気のさ中、出現した子供はあまりにも異質だ。それでいてこの戦場には似つかわしくない、穢れなき清らかな声を持っていた。


 「放棄だ」


リディと呼ばれた男は戸惑ったものらしい、肩口に乗せた僕の背を強く押し込んだ。


 「しかし……、」


 腕に力を込めたんだろう、俵のように担がれている僕にはたまったもんじゃなく呻くことしかできない。何をすると睨みつけたいが、もはやそんな元気はなかった。手足はだらんと垂れ下がって力を込めて立つ力すらなく、体中が軋んで悲鳴を上げていたから。


 「命令だ」


 少年は、強い口調であった。異論は許さない、といった強い声。

 僕は、目の前の惨劇しか見えないからいったいどんなことが起きているのか分からないが、足手まといにしかならなさそうな僕を、少年が捨てるよう命令しているのだと気付いたのは、しばらくしてからだ。

 屈強そうな騎士は、ふむ、と一言飲みこみ。

 僕を抱えているにも関わらず、容易に腰を落とした。

僕は、地面が急に近くなって、髪の毛がすれすれになってしまっているのを目の当たりにしながら、頭に血が昇るのをなんとはなしに嫌だったのでしかめっ面をずっとしていたと思う。

 といっても、そんな苦痛の声を出すほどの体力さえ残ってはいなかったけれど。

ぼんやりとした意識のさ中、彼らの会話をただ耳に入れるだけだ。


 「……我が君」


 騎士は、ふぅ、と嘆息めいた声を吐きながら、


 「失礼します」


 何やら自由になるほうの腕を伸ばす仕草をしてみせた、と思ったら。

もう一人の少年、言うなれば、命令した相手を、もう片方の手で担ぎ上げたではないか。


 「え、」


 偉そうな命令口調の少年は、動揺していた。

騎士が立ち上がると共に声も上擦り、頭上から非難し始めた。


 「リディ! 何を、」

 「駄目ですよ、私は教えたはず。

  あなたは、あなたの国を守らねばならない」

 「だが! こいつがいたら、リディがっ」

 「私は大丈夫です。

  これぐらい、平気です。

  行軍訓練で無駄に背負わされたものより軽い」


 ぐ、と声が喉に詰まる彼。

 僕は、同じように背負われている少年の帽子が、外れてしまっているのに気付いた。

 はっとした。

 まばらに乱れる赤く細やかな赤毛に彩られた、美しい顔が露わになっている。驚くほど綺麗な少年だった。その青い目。煌めく意志を持つその造詣は、あまりにも世俗からかけ離れたもので。

 教会に飾られていた古めかしい絵……、美しき聖女様とよく似た……綺麗過ぎて、拝みたくなる、天使様を目の当たりにした気持ちになった。夢でも、見ているんだろうか。一瞬にして彼は、僕の心を奪い去った、が。その天使様は凶暴だった。言うことを聞かない男に対し白い頬を怒りのあまり赤くし、リディ、と呼ぶ大人に向けて、その小さな拳を振り下ろしていた。背中に。ごつ、ごつ、と。背骨目掛けて殴りつけてくるのだから、なんともドン引きした気持ちで見ていた。

 立派な体躯の大人に刃向うなんて。村の生意気な子供でさえ、しないことだ。


 「馬鹿! リディの馬鹿! 俺は、リディのために!」

 「大丈夫です」

 「大丈夫じゃないから! 俺たちは隠れていたのに!」

 「あなたも隠れ場所から出てくるから、危険が増したんですよ」

 「リディがいなくなるからだろ!」


 確かに。

どこに隠れていたか分からないけれど、僕が暴力を振るわれ、殺されそうになっていたのを助けてくれたのが彼、金髪碧眼の騎士だった。騎士は、山賊みたいに酷い恰好の野郎たちを三人まとめてぶちのめしてくれた。

 この村の近辺に、野盗が住みつき現れたと噂されたのは最近のこと。

村長たちは、夜、よく顔を突き合わせてはあれこれと、相談し合っていた。

やれ、騎士様に助けてもらわねば、いや、無理だ、こんな国境沿いに近い村に、わざわざ派遣してくれる領主さまではない、みろ、誰もが逃げる準備をしたいと思ってる……、だが、せっかく作り上げた村だ、やっと安定した収穫が見込めるようになった土地を、捨てねばならんのか……命より大事なものはない。

 アーディ王国の、それも人がいない場所。

 僕の両親は、好んでその場に入植した。危険が付きまとう、開墾だ。

しかしそれでもと、僕の父と母は、キラキラとした目で木草に覆われた手つかずの土地を二束三文で借り受け、せっせ、せっせと耕し始めた。

 何故、そんなことを。都会に居れば良いのに。

 誰もがそう言うが、父母は、未知なる土地で作り上げる新たなる世界を、夢見ていた。

領主でさえ、見放した土地柄でもあった。安く手に入り、好きなようにして良いとのお達しは、高い衣食住で独楽鼠のように働かねばならない、精神が休まる日のない場所にいつまでも居なければならない人生に嫌気を催していたようだった両親にとって天からの恵みのように映ったようである。

 そして、そんな人たちが集まり。村になった。

まさしく、領主の思惑通りである。勝手に人が住みつき、土地を自腹で豊かにしてくれて、しっかと納めるべきものを少なくても良いから納めてくれる、楽な人材。

 文句も言わず、ただ、金だけ払ってくれるのだから、領主だって悪い気はしない、ただただ、自分の英邁な頭脳を社交界で自慢するのがせいぜいであった。

 そして、それは王族相手にもかましたらしい、ずいぶんと王陛下に褒められた、と旅の行商人が面白そうに語っていたところによれば、僕の父母は表彰されても良いのではないかと思わないでもなかったが、決して領主の館に呼ばれることはなく、日々、独楽鼠とはまた違った泥鼠となって立ち働くばかりであった。

 やっぱり、新たなる土地というものは、安定しなかった。

案の定というべきか、虫は湧くし、望みもしない野生動物があちこちで僕たちを襲った、せっかく植えた植物は水が降らなくて枯れてしまうし、散々で。

 それでも、僕ら、この村は。

懸命に、生きてきた。領主の騎士が警らにも来ない、なんとも自由にのびのびとした気風の村だった、それなのに。やっと、両親が笑顔を浮かべ、今年は僕に好きなものを買ってあげられると、喜んでいた矢先のことだった。

 僕は、僕、は。

妹と弟を失い、兄も死に。

両親は、遠い場所にいる。村の入り口が騒がしいと出て行ったっきり、帰ってこなかった。

 多分……、

 (死んだ、のかな)

 分からない。でも、そんな気はした。

体中が痛いし。僕は、うっすらと、過去に思いを馳せていた。


 「……もう出てきてしまったんですから。

  覚悟をお決めください、我が主よ」

 「だが」

 「私がお守りいたします。

  この剣にかけて」


 見目麗しい少年は、騎士からの強い意志の籠った願いに、なんとも神妙な声で。


 「……ずるい」


 騎士の背中に両手をついて上体を逸らし、天を睨みつけた。

僕は、見惚れた。

 担がれてるから、下から、目で追いかけるばかりだったけれど。

美貌の少年は、良く見れば、その赤毛の髪に綺麗な細工の宝石を巻きつけていた。まるで女が使う髪飾りだ、それもまた彼に似合っていて、女々しいとか言う言葉を使うより前に惚れ惚れとしてしまう。

 その横顔。

あまりにも鮮やかで。美しすぎた。もし彼が僕の村にいたのなら、僕の代わりに彼が痛めつけられていたであろう、とは思う。手首がじわりと痛む。

 (そうすれば、僕の負担が少しは減っただろうに)

彼は、一瞬だけ、その青い目を大きく見開かせ。


 赤毛の髪に絡ませていた宝石をも、眩く輝かせたものである。

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