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「……え?そのスープは……!?」
さて、スープを持ちながらユリオ様の部屋に入ってすぐのこと。
どうやら、ユリオ様はこのスープがただのスープでないことに気が付いたらしい。
「えっと、その……そのスープ……もらってもいい?」
『あああぁぁぁぁぁ!!!!!!不安げな顔で尋ねてくるユリオ様もかわいいなぁぁぁぁ!!!
けど、前よりもちょっと顔色が悪い気が……まぁ、私がなくなって超超超超心労をかけてしまったから仕方ありませんが……。
っは!!このこむすめぇぇぇぇぇぇ!!!まさかあなた最近体調が悪いからってユリオ様にその風邪を移したんですかぁぁぁ!!!!
なら許さねぇぇぇぇぇ!!!早くシネェェェ!!!!
あああぁぁぁぁ!!!けど今こいつが死んだらユリオ様に迷惑がかかるし、ユリオ様に料理を届けられなくなるぅぅぅぅ!!!!
くそがぁぁぁぁぁぁ!!!この純情淑女潔癖完璧ご主人様好き好きメイドである私はどうすればぁぁぁぁ!!!
っは!そうだ!ユリオ様に料理を献上した後にこの小娘を殺せば1石2鳥じゃね?私は天才じゃね?
やった、私天才すぎ!!!やっぱりメイドって格が違うわ(確信)
……というわけで早くユリオ様にスープを献上するのです、今すぐ、はやく!!』
「……いや、いわれなくても渡すけどさぁ」
こいつが狂ったことをいうのはいつものことなので、それを無視しつつ手に持ったスープをユリオ様に献上した。
渡した瞬間、できるだけ動揺を隠そうとしてはいるみたいだが、それでもまるで砂漠で水を求めた亡者のごとく、そのスープを食べ始めた。
一度口に含んでからその勢いは止まらず。
そうして途中からは、涙腺を緩ませながら、嗚咽の声をあげながらそのスープを口の中に流し込んでいるのが目に見えて分かった。
「……う…ううぅぅ……!!」
そうして、半泣き状態でスープを皿の底まで飲み切ったユリオ様。
その様子をただただ無言の聖母のような笑顔で見守る亡霊のショート。
さっきまでわめいていたのにどちらもこうも無言だとむしろ怖い、恐怖すら感じます。
「もしかして君は……ショートの知り合い?」
『きぃぃぃぃ!!!誰がこんな小娘と!!
いや、別にこの娘自体はがさつで性格はまぁ悪くない、けどユリオ様にこんな近いというだけでNG!!
くっそ!!せめてもう少しユリオ様より年が離れていれば許してやってもよかったものの!!
というかもう生きているというだけで憎い!!』
なんかこいつ、契約しても絶対にまともに呼び出せない気がするんですけどそこのところは大丈夫なんですかねぇ?ステータスさんよぉ?
「……いや、ちがうな、これは……まさか、そこに、そこにいるのか?ショート?」
『……!!』
主従の絆というやつか、本能的勘か、もしくは別の要因か。
どうやらユリオ様は今ここにショートの亡霊がいるという事実に気が付いたようだ。
ユリオ様が見えないはずのショートの方向をまっすぐ見ながら、その視線を受けてショートが喜びのあまり悶えていた。
なまじ幽霊だからか空中に浮着ながら悶えているためその動きは本当にキモイ、昔こんなのB級ホラー映画で見たぞ。
見られてなくてよかったなこのだメイド、もし見えていたら塩をまかれていたぞ絶対。
「ようやくわかったよ……ショート。
ショートはアキラに憑いているんだね?」
『はい!!』
「そうして、こんな風に死んでいながらもわざわざ僕のために料理を作ってくれたんだね。」
『もちろんです!ユリオ様のためなら死んでからでも!!
たとえ火の中水の中ベットの中でもお助けをご奉仕をうへへへへ……!!』
まるで観て聴いてきたかのようにポンポンとこちらの状況を言い当てるユリオ様。
これはまさか本当に以心伝心ラブラブ主従というショートの言い分は正しかったのだろうか?
うむうむ、このままなんかご都合主義的にすべてうまくいけば、メイドはご主人様元気づけという目的が達成できるし、ユリオ様も元気が戻る、自分はこのメイド霊と契約できると三方丸く収まれば完璧……。
「そうしてその意図は………僕がもうすぐ死んだほうがいい、そうだよね?」
『もちろんです!ユリオ様の笑顔を見たく……ゑ?』
「え?」
思わず、ショートと自分の声が被る。
なぜ、そうなる。
ショートも予想外何か固まっているが、ユリオ様はこちらの様子が見えていないおかげか丸でそのことが確定事項のように話しをつづけた。
「うん、僕も気づいていたよ。
僕はこの町を治めるには……住むだけでもみんなの重荷になるって。
生きているだけで、父さまの駒として僕がここに住んでいるという名目が立っているからこそ、ラスカにも、モーリンにも、いや、この町全員も、僕のせいでこんな最低な場所で過ごす羽目になっている。
……そうして、僕が醜くここで長生きしたせいでショートが先に死んでしまった。
なのに僕はその事実を無視して!今もこうして生き延びている!!
そう!!死ぬのが怖いから!!それだけの理由で僕はみんなを見殺しにしているんだ!!!!」
『ゆ、ユリオ……さま……!!』
ユリオさまが当然そう叫び始め、ショートがその顔をゆがませる。
あいにく、まだ来てから半年もたっていないこちらとしては彼らの言う事情なんて半分もわからない。
が、相当この家がめんどくさいことと事態が自分にとってまずい方向に進んでいることは理解できた。
「……でも、ようやく僕は決心できたよ。
うん、死んでもショートがそこにいるんだね?
今死んだら、僕はショートに謝れるし……さらにはいっしょに行けるかもなんだね?
あ、でもショートは僕と一緒にいたくはないかもなぁ、ははは、僕のせいで早死にしちゃったんだから」
そういいながら、ふらふらとユリオ様は光が灯ってない目で窓のほうへと歩き始めた。
なんか知らんが、さすがにそれはまずい!!
今死なれたら、絶対俺が加害者と疑われる!!
「ちょ、お待ちください!お待ちください!!
別にあのメイド霊はそんな意味であなたにあの料理を作ったわけじゃありません!!
だから、まって、まって!マジ待って!!今死んだら、100%自分が疑われるから!!
打ち首とか死刑とかになっちゃうから!マジで待って!!」
「えぇぇい!離せ!!
僕はもう死ぬんだぁぁぁ!!
ショートの後を追うんだぁぁぁ!!!」
『……』
当然、ユリオ様を組みついて行動を妨害する。
幸いユリオ様は貧弱ボーイでありこちらの小さな体でもある程度は動きを阻害させることができたが、こちらは養女であり残念ながら向こうのほうが(肉体年齢は)年上の男子。
体格差はいかんともしがたく、ずるずると窓のほうへと近づいていく。
まずい、このままだと……!!
『アキラ!!すいませんが、体借ります!!
死んだらごめん!!!』
「え!!!」
その言葉とともにショートが自分に体に触れる。
実体がないはずなのにまるで頭の先から注射で液状のドライアイスを入れられたかのように激痛と悪寒が全身へと走り……
≪抵抗失敗・あなたは【状態・邪霊憑依】になった!
現在あなたは、意図せぬ悪霊によってその体を乗っ取られました!
この悪霊はあなたにとってよろしくないもの様です。
早く何とかいなければ遠くないうちにあなたは死を迎えるでしょう
HP7/8 MP2/3≫
うわぁぁぁなんかやばい警告文が出てきたぁぁ!!
なんてこちらが焦る暇も与えず……
「『ユリオ様のばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』」
――――ばちぃぃぃん!!!!
なんと体と口が勝手に動き出し、自分のもののはずの手が自分の意思を無視してユリオ様のほほに向かって思いっきりはたきつけた。
ちょ!ま、不敬罪とか大丈夫なのかこれぇぇぇぇぇ!!!!
「え、え?ア、アキラいったい何を?
い、いや、この感じは……!!」
「『自分はユリオ様に死んでほしいからそんなことをしたのではありません!!
ただ、ユリオ様の笑顔が見たくて!!
元気なお姿が、私の手で、見せてほしかったから!!
いまだに現生に意地汚く残ってでもこのようなことをしたのです!!
そんなことをなさってほしいなんて毛ほども思ってません!!』」
≪HP6/8 MP1/3≫
あああぁぁぁぁ!!なんか体に走る悪寒が尋常じゃないし、HPもMPもめっちゃ減ってきてるぅぅ!!
体が勝手に動くのはこの際許す!
けどこの悪寒はマジでどうにかしてくれ!!
「でも……でも、僕のせいでショートは……」
「『何を勘違いされたか知りませんが、私が死んだのは普通に天命でした。
以前から言ってたでしょう、生まれ持ち病気を持っていると。
むしろ、ここにきてから私の体調はだいぶましになったんですよ?
ユリオ様と一緒だったおかげで、ユリオ様と一緒だったおかげで!!』」
≪HP5/8 MP0/3≫
うぎゃぁぁぁぁぁ!!!MPがなくなってから、頭痛までしてきたぁぁぁぁ!!
いたっ、いたっ!!マジで吐く!!頭が割れるぅぅ!!
「か、顔色が悪いけど……」
「『む?やはり、これはだいぶ生きてる人間にとってよろしくないようですね。
ならしかたありません、言いたいことはたくさんありますが手短に済ませます。
……ユリオ様、どうか、どうかこの不詳ショート、死後初めての一生のお願いです。
どうか、どうかユリオ様は長生きして、幸せに一生をおえてくださいませ。
それだけが私の伝えたかった事です』」
「そ、そんな……む、むりだよ!
僕には無理だ!!」
≪HP4/8 MP0/3≫
辛いです。
体が動かないのに抵抗ができないから。
というか今抵抗したらいろいろ台無しな気がする。
「『だめです!これは私のユリオ様の専属メイドとしての意地です。
ユリオ様が幸せに一生過ごさせることが私の決意であり、私がユリオ様にあったときに最初に決心したことです。
……それに、これ以上私と一緒にいるとユリオ様の体調がますます悪くなってしまいますからね。
だから、私はもうこの辺でおさらばしなければなりません』」
「そ、そんな!!なんで!!」
「『残念ながら、今の私は悪霊。
お傍にいるだけでユリオ様の体調を悪くさせてしまいます。
それに、ユリオ様が私の後を追うとなれば……私はユリオ様に絶対に行かない、メイドの地獄に先に行ってしまいたいと思います』」
「め、メイドの地獄……!!」
≪HP3/8 MP0/3≫
おい、メイドの地獄ってなんだよ。
そこはメイドの冥土のほうが……いたっ!!いたたっ!!冗談!!冗談だから!!
痛みを激しくするのはやめて!!
「『しかしながら……最後の最後まで至らぬメイドですいません。
新でご主人様に迷惑をかけながら、その客人にまで迷惑をかける。
さらには今このように厚かましいお願いをご主人様相手にしているのです。
これは地獄行確定ですね』」
「そ、そんな……!!
ショートがそんな所に行くなんて、絶対に僕は許さないぞ!!」
「『ふふふ、ユリオ様は本当にお優しいですね。
……でも、こんな最低のメイドでも、もしユリオ様が立派で幸せな領主となれたなら私もメイドとしての功績でメイド天国に行けると思うんですよ。
だから、約束してください。
ユリオ様が幸せに、そして立派な領主様になってくれると。
そうして天国で再開してくれると。』」
「や、約束する!約束する!!だから……!!」
「『ああ、その言葉が聞けて、このショート。
感激の至りです、もう思い残すところはありません』」
≪HP2/8 MP0/3≫
……あれ?この流れもしかして……
いやいや、まさかそんな、ねぇ?
「『どこのものかも知らない、男のような小娘のアキラ。
あなたにはたくさん迷惑をかけました。
けど、おかげでこうしてユリオ様に遺言も言えました。
本当に本当に不本意ですが、どれもこれもあなたのおかげです。
ありがとうございました』」
≪HP1/8 MP0/3≫
よ、よし!!ちゃんと満足してくれたか、これで依頼達成だな!!
な、ならばよくわからないけど、契約してくれ!!
僕と契約して下僕系亡霊少女になってよ!
よっしゃぁぁぁぁ!!ようやくクエスト達成だぁぁぁぁ!!!
「『でも、ごめんなさい、私はもう成仏します。
だから、あなたと契約は結べないみたいですね♪
っけ、ユリオ様に近づけたんだからそれだけで報酬としては十分ですよね~www
ま、それだけではかわいそうなので特別に私の唯一渡せるそうなものをあなたにプレゼントしておきます。
それで時々ユリオ様に料理を作ってあげてくださいね~。
それじゃあ残念でした、また今度~~wwwwww
ケーッツケッケッケッケ!!!』」
≪サブクエスト・愉快な愉快な迷ド霊 失敗!! メインクエストが更新されました!≫
≪あなたは依頼に失敗したが、経験値50を習得した!≫
≪あなたのレベルが3に上がった!!≫
≪SKLL:【調理 Lv1】を手に入れた!≫
≪HP0/10 MP0/4≫
このくそメイド約束を破りやがったぁぁぁぁぁぁ!!!!!
もちろん、抗議の声を上げようとしたがちょうどその瞬間にHPMPともに0となる
そうして、とうとう悪寒や疲労に耐えかねて崩れ落ちる体に薄れる意識。
最後にこの目に映ったのはこちらに焦った顔で駆け寄るユリオ様と満面の邪悪な笑顔を向けながら消えていくメイドの霊の姿であった
現在のステータス
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NAME:アキラ
Lv:3
ROLE:ネクロマンサー
HP:0/10
MP:0/4
状態:瀕死
STR:2
TOU:2
MAG:6
MIN:3
AGI:6
SKLL:【死霊術 Lv1】
【流浪人の加護】
【調理 Lv1】
SIGN:≪スケルトン≫ MP-4
QUEST:≪メインクエスト:友だち100人できるかな?≫
≪サブクエスト・なし≫
ADVICE:こ、こういうこともあります!
ま、まぁ彼女も悪い人ではないので許してあげてください。うん。
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