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短くお手軽がもっ等にするはずだったのに……どうしてこうなった
さて、領主様の家でお相手という名の道化とか芸人とか噺家とかワクワ●さんとかあの依頼を受け始めてから数日。
あれから珍しい話をしたりおもちゃを作ってあげたのが気に入られたのか、あの日以降も依頼を受ける羽目になり前よりも安定金を稼げるようになってきた。
具体的に言えば、今までは金を仕入れた先から宿の店主に宿泊代を取られて貯金や手持ちの金なんてみじんもなかったが、現在は財布という文明の利器が必要になるくらいには金が溜まってきたのだ。
もちろんこれ自体は何も問題がない上にとっても望ましい事ではあるのだが……
「ひゃっは~~!!!ガキぃ!!最近てめぇ景気がいいみてぇだなぁ!!」
「ちょっとお兄さんたちにその幸運を分けてくれねぇかぁ?
それとも乱暴されるのが好みか選びやがれ!!」
どうやら、この町は相当治安が悪いというのは嘘ではないようだ。
そしてなぜかヘアースタイルまでモヒカンスタイル、とても決まっていると言えよう。
どこから輸入されたし、その文化。
「今俺様達の髪型を見てバカにしたなぁ!」
「この髪型はゆう、ゆう……なんかすげぇ伝説の山賊王様と同じ髪型だコラァ!!
もう、許さねぇからなぁ!」
多分、『由緒正しい』って言いたかったんだろうなぁ。
そんな風にどこか他人事のように自分の身に起こる不幸眺めていたわけだが、どうやら何かいらない誤解を生んだらしい。
周りにいるならず者たちは皆なぜか勝手に殺気立っており、今にもこちらに殴り掛からんとしていた。
そして、その中の一人がこちらに拳をふるおうとした瞬間……
「おっと、悪いがそこまでだ。
うちの大事なお客様おやらせるわけにはいかないのでな」
「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そう、そこにいたのは一人のすらりとした高身長の女性。
皮と金属でできた鎧を身にまとい、その手は持つ無骨な両刃の剣をもっている。
よくイメージする純潔女騎士というには、やや鎧や剣が飾りがなく傷が多いため、清楚さや潔癖さが足りないかもしれない。
が、それ以上に使い込まれているのが一目でわかり、歴戦の強者の雰囲気が、こちらの肌を無意識にピリピリ刺激するほどに感じられた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!犬!犬だ!
領主のガキの犬が来たぞぉぉぉぉ!!!」
「ななな、なんでてめぇがここに!!
今は家でこもっている時間じゃ!!」
「ふん、別にこの町の警備も私の仕事のうちだからおかしくはないだろう。
……それにどうやら最近、この町から追放されたはずのならず者たちがこの辺でたむろしていると聞いたからなぁ」
彼女の名前は【ラスカ】。
件の領主様の家に住む、護衛の女性の騎士とか戦士とかそういうのである。
一応普段はユリオの護衛としてあの屋敷に住み込んでいるわけだが、こうして街中を歩いて治安維持に努めていることもある。
「おい、客人……いや、アキラといったな?」
「え、あ、はい」
「今から、ここでは少し血なまぐさいことが起こる。
……巻き込まれたくなければ、わかってるな?」
もちろん、剣を抜いたラスカさんと各々武器を持ったモヒカンを見たところで、急いで回れ右してさっさと領主の家へ向かった。
勿論周りの無関係の住人たちもわれ関せず……というよりもみんな離れてはいるが誰もそこまで焦っている様子は見られない。
おそらく、こういうことは日常茶飯事で慣れてしまっているのだろう。
……こういうのを見るとやっぱりここは異世界で治安はよろしくないっていうのがわかるなぁ。
「……ということがあったんですよ」
「ああ、すいませんうちの者がアキラさんの前ではしたない真似を。
後でよく言わせておきます」
「あ、いえ、そうじゃなくてですね。
助けてもらったお礼を言えなくて、そのことを伝えてほしいなぁとか思ったり……」
さて、所変わって現在いる場所は領主様の家。
ユリオ少年に会う前のお湯の入った桶と布を借りて、身の清めをしている最中である。
なお、今自分が話している相手はこの家にいるもう一人の住人である【モーリン】という老年の男性である。
こちらはラスカさんとは対照的にピッシリとした黒スーツに懐中時計に片眼鏡とまさにおしゃれ、見るからにできる執事といった感じだ。
まぁ、それでも年季が入っているのかややくびれているところも見られはするが、それでもこちらはラスカの無骨さとは対照的、優雅や洒落という言葉が似合っているといえるであろう。
ん?元男とはいえ、女の身で男の前で裸になって身を清めて恥ずかしくないのかって?
ははっ、そんなの身を綺麗にできる幸せとかモーリンさんの孫を見るような優しい視線の前ではミリも感じませんよ。
「まったく、あのおてんばというか暴れん坊の娘は。
いつも言って聞かせているのに、本当に反省しなく……」
が、どうやらあの事をモーリン老に言ったのは余り正解ではなかったようだ。
そこから始まるのはモーリンのラスカへの愚痴。
まぁ、確かにラスカさんのあの抜いた剣のように張り詰めた空気というか雰囲気は近づきがたいものはある。
が、それでもさっきは危ないところを助けてもらったわけだし、そもそも村の治安を守るためにああやって悪人退治をしている時点で悪い人ではないのは確信している。
もちろん、モーリンさん自体もこうして来るたびにこっちを気遣ってくれたり、色々アドバイスをくれたり、村のため商隊を呼び込んだり色んな建設計画を立ててる時点で悪い人でないことも重々承知している。
「おい、モーリン、帰ったぞ!
それと屑共の血で私の剣と鎧が汚れた。
綺麗にするための布の切れ端やらをさっさと用意してくれ」
「こらっ!!ラスカ!!
今はまだアキラさんの身の清め中です!
それなのに血塗れのまま、ここまで来るあほがいますか!!
ああっ!!それに血が床に滴ってるじゃありませんか!その血から呪いが広がり、ユリオ様に万が一があったらどうするんですか!!」
「ふん、相変わらずジジィは頭が固いな。
そんな、今更クズの血の1滴や2滴で呪いが広まるならとっくにこの町は全員ゾンビにでもなってるだろうな。
それにあのようなならず者はさっさと処理し、このように威圧しておく方がまだユリオ様のため。
ジジィがこの町で生ぬるい対策ばかりしているから、ユリオ様が心労で倒れるのだ」
「……!!ラスカ!!
よりによって、よりによって、たびたび問題を起こしてユリオ様に迷惑をかけているあなたが言いますか!!」
「っは、あれは必要な犠牲というものだ。
わかったらジジィはおとなしくユリオ様の身の回りの世話だけをしていればいい!!」
しかし、どうやら、この2人はあまり仲良くないらしい。
自分がいるにもかかわらず、片方は血塗れの格好のままで、もう片方もそれに少しもひるむことはない、怒りが感じられる表情で口論を始めた。
犬猿の仲とか水と油とかそういうのなのだろう。
いろいろ気まずい空気の中、自分はそそくさと着替え、こそこそとばれないよう逃げるようにユリオの部屋へ向かったのであった。
「……あの2人がごめんね。
2人とも僕が小さい頃から世話をしてくれて、気遣ってくれる優しい人達なんだけど……」
「あ、いえ、その様なことは重々承知していますから。
どうかお気になさらず」
「む~、相変わらずアキラは固いなぁ。
もっとため口で話してくれてもいいのに!」
どうやら先ほどの2人の口論はこの部屋にも聞こえていたらしい。
ユリオの部屋に入って早々、ユリオにそう謝られた。
う~む、自分はこの子を励ますために来たのにその依頼人の心労を増やしては冒険者(?)失敗だ。
だから、せめて励ましというかごまかし言葉をかけた。
「別にユリオ様の責任じゃありませんよ!
ああいうのは本人たちの問題というか、流石に自分の世話をしてくれた人たちにそういうことを直接言うのは大変ですよねぇ。
もっと偉い人や、あ!ユリオ様のお父様やこの家に住む他の人に相談されては?
流石にユリオ様ではきついでしょうから、そうなさればもしかしたら丸く収まるかも……」
「ふふふ、アキラは優しいねぇ。
けどこの家には僕以外だとあの2人しか住んでいないんだ。
それにこの家で一番偉いのは僕なんだよ?知ってた?」
「oh……」
どうやら、逆効果だったらしい。
確かにこの屋敷であの2人とユリオ様以外姿を見たことないなぁと思ったがまさか本当にこの3人以外この家に所属してる人がいないとは。
こっちとしては親がお出かけ中だとかそういうのだと思っていたのだがどうやら違うようだ。
「えっとそれだと……」
「うん、領主として必要な書類仕事とか家事の類は全部モーリンが。
町の警備とか買い出しの類はラスカがやってくれているんだ。
僕は病弱だから、ただこの部屋にこもっているだけ。
それなのにこれ以上2人に注文や警告なんてしたらひどいだろう?
それに、最近体調が悪くなってさ……これ以上の重荷をあの2人の背負わせるのは無理だなぁって思っちゃって」
「あ、え、その……」
「ふふふ、【ショート】っていう家事担当のメイドさんがいるときはあの二人の仕事や仲ももう少しよかったんだけどね。
だめだなぁ、僕は。
今ここを治めるのは僕なのにいつも周りに迷惑しかかけていなくて。
父さんが僕をここに捨てたのも、【ショート】が早死にしちゃったのも。
きっと僕が原因なんだろうなぁ、ショートなんて元々病弱なのに僕と仲が良かったせいで無理やりここに連れてこられてしまったみたいだし。
それなのにさらにあの2人まで巻き込んでしまって、僕は、僕は……!!」
やばい、なぜかユリオ様がどんどんネガティブ思考になっていらっしゃる。
しかし、さっき墓穴を掘ってしまったこともあってどうやって慰めの言葉を掛けたらいいかわからない。
どうしようかとただただあわあわとしている時……それは突然、耳に入ってきた。
『ユリオ様は悪くありません!!!!』
その声はものすごく大きい、甲高い声であった。
思わずそのキーンとする声質と大きさに耳を塞いでしまう。
「え、えっとどうしたの?」
が、なぜかユリオ様はそんな自分を不思議そうな顔で見つめるのみ。
まるでその声が聞こえていないかのように。
そして、振り返ると見える半透明な人影の姿。
つい先ほどまでいなかったそれは、まるで津波のように叫び始めた。
『そもそも、私が早死にしてしまったのはただ私の病弱さが原因でユリオ様はまったく、微塵も、塵ほども悪くはありません!!
というか、むしろユリオ様に使えることは思考で最高で脳みそがとろけそうでお陰で働く前は3日で死ぬといわれていた寿命が年以上に延びたぞ!やったね!!!!
あぁぁぁぁぁ!!ユリオ様の口も顔も声も匂いも究極で甘露過ぎで!!
特に私の作ったものを食べるユリオ様とか絶頂物だし、私の洗った布団で寝るユリオ様とかこれはもう私の物とユリオ様の体が一体化しているという意味では一種の性交渉の一種では?と思うと身も心もトロトロ!!
ユリオ様の着ていた下着を洗濯手洗いさせてもらえるとかもう毎回洗う前にそのパンツかぶってクンカクンカすると悟りを開けるような至高の香りだし、お風呂に一緒に入るとき最近だと意識し始めたのか恥ずかしがることが多くなったうえに、好奇心に負けてこっちの胸とか赤い顔しながらチラチラ見てたのとかもうグゲヘヘヘヘヘヘヘヘ!!!
もう食べていい?そのカワイイ●●●から初物●●●●ちゅっちゅしていい?
けど私はできるメイドだから我慢する!!そう!いつの日かユリオ様がもう少し大きくなって、その時に【ユリオ様の初めていただき計画★野獣と化したユリオ様~驚異の鬼畜ご主人様~】が始まり、向こうから襲ってもらえるその日まで我慢しなきゃぁぁぁ!!!
あああああぁぁぁぁ!!!!その日が楽しみだなぁぁぁ!!!
ひゃっほう!ショートちゃん!開拓村送りにされたおかげでユリオ様と合法的にいけない関係になっれるぞ♪
ココにはあの監視が厳しいメイド長はいないし、モーリン様もラスカ様もいろいろとニブチン、これはかったな(確信)
即ちこれは天の導き、神の采配!!世界がもっと私とユリオ様にイケない主従関係になれと言っているぅぅぅぅ!!!!!もっと輝けと、夜のご奉仕♥をせよと轟叫ぶぅぅ!!!
……けど、私もう死んでた!!!くそが!くそが!くっそがぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!
天よ!!なぜ貴様はここで我を見捨てたぁぁぁぁ!!!!
世界は私の味方ではなかったのかぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
いろいろと言いたいことはあるが、それは多分天罰だと思うな。
そんな風な視線をそのシースルーのメイドを着た何かにむける。
そうして相変わらず、ユリオ様はそんな自分を不思議そうな目で見つめてきた。
これはまさか……
『というか、そこの娘!!もしや、もしや私の声が聞こえているのですか?
ならば言っておくが、てめぇぇぇ!!!ただでさえ、私が、ユリオ様の一番メイドである私がなくなったせいで傷心中のユリオ様の心の傷を広げたなぁぁぁぁ!!
貴様ぁぁぁぁ!!!そうやって、ユリオ様の弱った心に付け込んでいけない関係になる気だな!!
私の大事な大事なユリオ様をぉぉぉぉぉぉ!!!!!
ゆ゛る゛さ゛ん゛!!!!!!!!!!!!』
そうして、目の前のそれは本当に血涙を流しながらそう言ってきた。
周りの空気が下がり、肌に寒さを感じた。
しかし、それでもユリオ様はまったく寒さを感じていないようだ。
『このユリオ様専属メイド【ショート】!!
死してなお、幽霊になってなお、ユリオ様のお傍に仕え、ユリオ様にすり寄る薄汚い雌猫には天罰を与えん!!!
あなたぁ、覚悟は……できてますよね?』
≪サブクエスト・愉快な愉快な迷ド霊を受注しました メインクエストを更新しました≫
≪彼女と友達になれるべく頑張ってください≫
わーい、クエストが更新されたぞ~~
クエスト相手は幽霊だぞ~~~
その異常なほど低くなった室温と明らかに鬼の形相になっているメイドの幽霊を見ながら、更新されたステータスと未だ何が起きているか理解してないユリオ様を確認するのであった。
現在のステータス
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NAME:アキラ
Lv:2
ROLE:ネクロマンサー
HP:8/8
MP:3/3
STR:1
TOU:1
MAG:4
MIN:2
AGI:3
SKLL:【死霊術 Lv1】
【流浪人の加護】
SIGN:≪スケルトン≫ MP-4
QUEST:≪メインクエスト:友だち100人できるかな?≫
≪サブクエスト・愉快な愉快な迷ド霊≫
ADVICE:難易度は低くはありませんが、頑張れ!!
君ならできるって信じてる!
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