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間話・1-2

さて、草木も眠る丑三つ時。


エデラントは開拓村である関係上,一つ町から踏み出すとそこには広大な手つかずの大自然と無数の沼地が広がっている。

もちろん,村と村を行き来する街道やすでに滅ぼされた後の廃村に未知のダンジョンや元魔王軍の基地などの例外は存在するがこの辺はそんな感じの人間にとって手厳しい環境であるのは間違いない。

だから,普通の人々にとって夜に町の外に出るのは自殺行為にも等しい。

森には餓えた肉食獣が,沼地には恐ろしい幽鬼達が,なによりどちらしろ夜の視界が効かない中でゴブリンなどの魔物の集団に襲われたらひとたまりもないことは非を見るよりも明らかだからだ。


さて、そんなエデラントの外にある森、通称【帰らずの森】(こんな名前の森なんぞはい捨てるほどあるが)なんて呼ばれる場所でクスズは一人松明片手に立っていた。

勿論、彼は冒険者でありただの農夫などに比べれば腕に覚えはあるしサバイバル能力だって自信がある。

しかしながら、そんな彼でも一晩過ごすというだけで本当に帰ってこれるか怪しいのがこの【帰らずの森】の怖さというやつである。



「そろそろか……」



彼が木々の間から見える空を観察し、星と月の位置から大体の時間を推測した。

その時、彼の背後でがさがさと草木の揺れる音がし、やぶの中から小柄な人柄が出てくる

それは人のそれよりは小さいが、異形の風貌にごてごてした鎧、人骨でできた趣味の悪いこん棒と松明を持っている。



『「ききききき……!!

 どうやらバカな猿もどきがいたようだな!!

 今日は生きのいい生肉が食えそうだな」』



そう、そいつはゴブリン。

しかし、そのゴブリンはかつてアキラを襲った様なただのゴブリンとは違い、知性があり鎧や武器を持つ知性は持っている。

なによりそいつはわざわざ人の言葉を使い、クスズに向かってそう話しかけてきたのだ。

もちろん、ゴブリンは1匹では強いとはされない魔物ではあるがそれでも大の大人以上の力と凶暴性位は持ち合わせている。

特に夜の森でゴブリンに囲まれたら並みな冒険者ではあっという間に食われてしまうほどには危険である。



「……それはやめておけ。

 くさった猿肉なんぞ、生で食ったら腹を壊すぞ

 食べるなら、ガキか女がおすすめだ」



が、クスズはそのゴブリンの登場に微塵も慌てた様子もなく、やや大きめな声でそう答えた。

それはただでさえ侮辱と残虐性を秘めたゴブリンのセリフをさらに陰湿さを追加したかのようなセリフ。

もし仮にここにまともな冒険者がいればクスズのことを責め立てたであろうかもしれない。



「『……っち、なんだ、協力者か。

 もし違っていたら、思いっきりなぶってから殺してやったものの』」



しかし、だからこそ、この言葉が合言葉となった。

その人語を話すゴブリンは自身の手に持つこん棒をゆっくりと下げ、クスズも特に武器を構えずくるりとゴブリンの方を向いた。

そう、これは人族を裏切る印であり誓いの言葉。

今からここで繰り広げられるそれは明らかに人々にとって歓迎すべきことではないのは明白であった。

合言葉が必要な理由はこいつらゴブリンは人間の顔の区別がつかないかららしい、実にゴブリンらしくバカみたいな理由だとクスズは内心バカにしている。

まぁ、クスズ自身も一々接触するゴブリンの顔の違いなんぞ区別できていないため、ある種の同族嫌悪なのかもしれないが。



「はいはい悪かったな、ホブゴブリンの旦那。

 こちとら自分はあんまりここに長居したくないんでさっそく要件いいですかい?」


「『だ・か・ら!俺様はホブゴブリンなんてダサい名前ではない!!

 俺様を呼ぶときは【統領(ロード)】と呼べ!!でなければ貴様から血祭りにあげていいんだぞ!!』」



ホブゴブリン。

俗にいう普通のゴブリンよりも知性や筋力など、何かしらにわずかに優れたゴブリンを指す言葉である。

しかしながら、それはあくまで人々が特別なゴブリンをただのゴブリンから区別するために生み出した言葉である。

それゆえ、ホブゴブリンの多く(人の言葉が理解できるほど優れたゴブリンに限るが)はそう呼ばれることを良しとはしない傾向があった。

しかしまぁ、クスズにとってはこの眼の前にいるホブゴブリンは、知性以外に普通のゴブリンより優れた点を知らないため、とても【統領(ロード)】と呼ぶだなんてまさにゴブリン的な自意識過剰だと確信はしている。



「……へいへい、了解でさぁ【統領(ロード)】さまさま、それじゃぁさっそく報告いきますぜ」


「『ふん、わかればいいんだ!わかれば!』」



そうしてクスズの口から紡がれる、無数の情報。

今の開拓街の情勢、出来事、最近領主の坊ちゃんが元気になったこと、今作り変えている塀、新しくきた冒険者、消えた冒険者や浮浪者、そうして、一番向こうが知りたがっている領主の犬ことラスカの現在の生活サイクル……など、だ。

クスズとしてはどれも町をうろつけばだれでもわかる程度の情報であり、それほど大事な情報は話してはいないつもりであった。

が、それでもこのホブゴブリンにとっては大事な情報らしい。

現に自分がこいつに情報を渡すごとに、こいつは町で受ける依頼よりはかなりましな報酬をくれる。

むしろ、自分のように魔物に内通せず満足に生活の糧を得れる冒険者など、それこそ運のいい人に一握りであろう。

だから今自分が魔物に向かって街の情報を話すことは自分の生活を確保するために仕方ないことだ。

……とクスズは自分の心に言い訳をしながら開拓村のスパイを続けていた。

ホブゴブリンから渡された硬貨についている血痕を無視して。



「『ふん……なるほどなるほど。

 忌々しいことに以前より発展してきているようだな』」


「っま、それはあの領主の坊ちゃんが元気になったおかげでしょう。

 むしろ病気になる前よりもいろいろ金を出してくれてたり、あの部下のジジィの方も手を貸してくれるようになっったらしいっすよ。

 おかげで以前より農夫や職人共は喜んでますがね。

 行商や鉄拾いの依頼も増えて、鍛冶屋や呉服屋もようやくマシに開店し始めたってところさぁ」


「『道理でいつもよりうちの部下が減り、ピカピカな剣を持つ猿共が増えたわけだ!!

 おまけに猿共へのスパイもなぜか連絡をよこさないやつが増えてきた!

 ギュルルルル……忌々しい枯れ枝と豆粒め!

 あのメスゴリラだけでなく、あいつらまででしゃばるとは!

 あのつら群れ仲間の女中を殺したのにまだ我らに歯向かうつもりとは、これはもう一度わからせる必要があるようだな!』」


(……って、げ!あの領主の坊ちゃんの衰弱事件にかかわってたのはこいつらかよ。

 まさか、俺の渡した情報が原因とかじゃねぇよな?

 ……い、いやいや!セーフ、セーフなはずだ!俺がこいつらと関わったのは坊ちゃんが引きこもってからもっと後からだし、自分は大したことは話してねぇ!!

 流石に、これが原因になってあの領主の番犬メスゴリラに狙われるのはシャレにならねぇぞ!)



自分の渡した情報にうねりを上げるホブゴブリンをよそに、クスズは内心とんでもなく焦り始めていた。

まさか自分が絡んでいるこのホブゴブリンが予想以上にヤバい奴だったという事実にだ。

もちろん、このホブゴブリンからは無数の金はもらってはいるが、それでも命よリ多いかと言われればそんなことはない。

これは下手に関係性がばれる前にこいつとの関係を切った方がいいか?

そんな考えがクスズの脳裏に浮かび始めた。



「『ギュルルルル……

 しかし、わからん!どうして突然お前らの街は活気づいたのか?

 聞けば、孤児院のガキから領主のガキまでいっぺんに元気になり始めているではないか!

 おい、貴様、何か心当たりはないのか?』」


「……いやぁ、これっぽっちも。

 いっぱしの冒険者のあっしじゃそんなことまで知るわけはないでしょうよ。

 どうせただの偶然でしょう?」


「『ふん、それもそうか。

 どうせ猿は猿らしく、金の生る木でも発見したとかそのあたりだろうよ!

 相変わらず、弱いくせに運だけはいい種族だ!』」



クスズはうそをついた。

そう、最近あの町が活気づいている事に心当たりはあった。

最近、町中で料理やら賭け事、童話などの様々な娯楽の流行りが訪れ、それを領主が積極的に支援しているからだ。

そして、それらの火付け元があいつだということもわかっている。

……しかし、クスズはなぜかこれをホブゴブリン相手に話す気にはなれなかった。



「『……だが、その悪運もそこまでのようだな。

 こうなったら、直々に俺様たちが手を下してやる必要があるようだな!!

 明日の夜に俺の軍隊の恐ろしさを知らしめてやるのだ!!』」


「……は?

 というと?」


「『ふん、丁度浮足立っている今がチャンスのようだし、丁度試したい新戦力もいる。

 いくらあのメスゴリラが強いと言えど、寝込みに街を襲われればあの町も無事ではいられまい!!

 幸い、貴様からの情報のおかげで町の警備の抜け穴はしっかり理解できた、こざかしく変更される前にさっさと攻め落とさなければな』」


「ちょ、ちょっと、まっまてぇ!」



そういって、ホブゴブリンは話はそれまでだと帰ろうとし、今の事を聞いたクスズとしては驚きのあまりホブゴブリンを止めようとした。

が、相手のホブゴブリンはクスズをの静止を取り合わずこう言った。



「『ふん!残念だが、すでにこれは俺様が決めたことだ!

 お前も巻き込まれたくなければさっさと尻尾を巻いて、さっさとあの町を抜け出すのだな!!

 ……もしかして、裏切り者のお前があの町を襲うなとでも嘆願するのか?

 それは無意味だといっておこう、これ以上あの猿もどき共がのさばっているのは耐えられん!!

 ああ、それともなんだ?力ずくで止めるとでもいうのか?俺様たちに対して!』」



パチン。

そうやってやけにその醜い容姿に似合わない様になった指鳴らしをそのホブゴブリンがすると、周りの樹々や藪ががさがさと揺れる。

するとそこから現れるの間無数のゴブリン。

その数優に10を超え、どう見てもひとりの人間相手には大げさな戦力である。

どれも目が血走り、口から多量の涎をたらし、今にも襲い掛からんばかりにギンギンとクスズをにらみつけていた。

たかがゴブリン、されどゴブリン。

こいつらは子供ほどの身長しかないくせに、人の大人のそれよりも強い力を持ち犬以上に鋭い牙を持つ。

そんなのに集団で一斉に組みつかれ襲われたら、普通の人間ならどうなってしまうか、言わずともわかるだろう。



「『もちろん、ここにいるのは俺様にとって戦力のほんの一部だ!

 そして、もしお前が俺様に逆らえば俺の戦力すべてをもってお前を殺すことを宣言する!

 それでも、貴様は俺様を裏切るというのか?

 ……そもそも考えてもみろ、お前、それほどあの町が好きなのか?

 貴様にとって真の価値のあるものはなんだ?

 そもそもなぜ貴様は俺たちに組み入ろうと考えた?言ってみろ』」



そうホブゴブリンはクスズに人骨と石で固められた棍棒をこちらに向けながらいう。

そうしてクスズは思い出す。

自分が、帝都での多額の借金のせいで本当に病む負えずこの村に逃げるようにやってきた時のこと。

そうして、この村に来て見た、自分のようにたくさんに死んだ目をした連中たちを。

自分と同様に死んでないだけで惰性で生きている人々を。

はたして、この町に本当に価値はあるのか?

なんでこいつらは生きているのか?

なんでこいつらのために自分は苦労せねばならんのだ?

こんな村があるから無理にでも人が集められるのだ、むしろこんな街が無ければどんなによかったことか……。



「『……ふん、どうやら思い出したようだな。

 わかっただろう、貴様がどれほど愚かなことを考えていたのか』」



そのホブゴブリンの言葉に、クスズはうつむきながらこう答える。



「ああ……思い出した。

 本当にあの町はクソったれで、俺自身も実にくそったれだった。

 そうさ、あんな町はなくなった方がよかったんだ……。







 だから、てめぇらはさっさと死ね」


「『……っな!貴様……ぎがぁぁぁぁぁ!!!!』」



その言葉とともにクスズの手元から飛針が放たれ、それがホブゴブリンの眼球に直撃した。



「……っち、脳天を狙ったつもりだが外れたか。

 やっぱり、松明片手だと駄目だな。

 全く、このタイミングで裏切らなきゃならねぇって俺もつくづくついてねぇなぁ。

 なんで寄りにもよって、今の時期に街を攻めちまうんだよお前。

 もう少し前なら、全然気分良くあの町を裏切れたのによぉ」



ゴブリン以外見てるやつがいるわけがないと知りながらも、どこか言い訳じみたことをクスズはつぶやいた。

それと同時に自分をバカなことをしたと思いつつクスズは今の街の状態を思い返す。

あいつが教会で孤児や浮浪者相手に歌や童話を話してから、孤児や浮浪者が新しい芸を身に着け始めた。

あいつが領主のお世話をしたおかげで、領主とその部下たちは元気を取り戻した。

あいつが新しい料理のレシピを宿屋で披露したおかげで、色んな飯屋がその味をまねし始めた。

あいつが色んな奴に賭け事を教えたおかげで、小銭稼ぎのために依頼を受ける冒険者が増えた。

そうして何よりも、今は自分はあいつのせいであの町でしたい事や試したいことがたくさんできてしまったのだ。



「……はぁ!まったく、厄介な拾いもんをしちまったぜ!

 今ここで裏切ったら、せっかくましになった開拓村が襲われてまた暗い雰囲気に戻って、元の木阿弥になるじゃねぇか!

 あ~あ、やっぱり人助けなんてするもんじゃねぇなぁ。

 折角あのままの村が壊滅すれば、気兼ねなく火事場泥棒で一山当てられたかもしれねぇのになぁ!」



そういいながら、クスズは笑顔で追加の飛針を2本3本とホブゴブリンに向かって投げた。

が、残念ながら転がりながら逃げるそれにこれ以上の致命傷を与えることはできなかった。

そうして、目をつぶされた方のホブゴブリンは焦りながらこう叫んだ。



「『ぎぃぃぃぃ!!!!!なにをごちゃごちゃと、この穢れた血め!!!

 どうやら貴様らは裏切らないと生きていけない真正の屑共のようだな!!

 ならばもういい!!貴様の×いぞ×をぐちゃぐ▼ゃに▲て』れおあpbyrうぃういwsづsy!!!!」



もはや、言葉すらしゃべらずわめき始めた眼の前にホブゴブリン。

するとクスズの周りを取り囲んでいたゴブリンたちが一斉にクスズに向かって襲い掛かってきた!



「……っは!ちょれぇんだよ!!」



そういいながらクスズはほぼ一斉ながら、僅かにずれたタイミングになっているそのゴブリンたちを冷静に順々に処理していった。

一番近くに来ているのを足で思いっきり蹴り飛ばし、ほどほどに遠いゴブリンに飛針で牽制し動きを止める。

そうして、勇敢にもこちらにナイフをもってとびかかってきたゴブリンにまっすぐナイフを脳天に突き刺してやり、そのままぐぎりとひねり脳をかき乱して止めを刺した。



「なんだなんだぁ?

 アンタが強い強い言っていたみたいだがこんなもんか。

 これならただのゴブリン……いや、それ以下だ!!

 これなら何匹来たってこわかねぇぜ、逃げるなら今のうちだぞ?」



そう言いながら、クスズはゴブリンの血が付いたナイフを周りに見せつける

どうやら、自分と相手の実力差を悟ったのだろう、自分を襲おうとしていたゴブリンたちは一様にしり込みをして、クスズに襲いつくのを止めた。

ホブゴブリンが何かわめいているが、ゴブリンの群れの中にはクスズへの恐怖のあまり敗走し始めたのも出ていた。



「『ちぃぃぃぃ!!役に立たない部下共め!!

 くっそ、本来なら貴様ごときには使いたくなかったが……

 出て来い新入り!獲物だぞ!!』」



するとホブゴブリンの後ろからずいと現れる、大きい影。

自分よりも高い身長にごつごつした体格、長くのびる尻尾。

手に持つ巨大な剣はこちらでは持つことすら困難なことは一目瞭然。

地面に置いたたいまつから照らされた光に映った相手のその皮膚はまるで固くでこぼこに隆起していた。



「……っ、なぁ!!

 あ、あれは【リザードマン】……い、いや、只のリザードマンじゃねぇ!

 その見てくれ、もしや【石皮(ストーンスキン)】かよ!!」


「『ギュララララ!!

 我らが【黒月】より賜った新人だ!!

 こいつはすげぇぞ?腕力は岩すら砕き、その尾の一撃は熊すら倒し、速さとてまるで豹のようだ!!

 なにより、こいつの皮膚は石でできているのにお前はこいつを傷つけることができるかな?』」



黒月とは誰だとか、そんな熟練のリザードマンがなんで大人しくこいつにしたがっているのだとかいろいろ思うところはある。

が、クスズがわかることはどうやら自分は相当ヤバい相手に喧嘩を売ってしまったようだということだ。

まぁ、実は言うとクスズにとってこのゴブリンの群れでさえ、相手からの攻撃を一発もらっただけで終わりなのでできるだけ続けたくなかったのだ。

それゆえ、ここでの新手の登場の絶望感がどれほどかは言わずがなというやつだ。



「おいおい!そこのリザードマンの旦那ぁ!

 オイラなんかよりそこのゴブリンの方が百倍はうまいですぜ!!

 あ!そうだ、今離反してくれたら俺の全財産を全財産をプレゼントしますぜ!だから、だからぁ!!」


「『無駄だ!!

 こいつは【大統領(ビックロード)】様の力で、俺に指一本反抗することはできない!!

 すぐに裏切る貴様とは違うんだよぉ!!

 それじゃぁ』おれshわふうふsjふぃぅえう!!!」



なんとか離反してくれないかという事に最後の希望をかけて頼み込んでみたが、それも無駄だったようだ。

その異形となっているリザードマンはこちらのセリフがまるで聞こえていないかのように、こちらに向かって突っ込んできた。

それは巨大にして俊敏、謎のうめき声をあげながら涙を流しつつこちらに向かって一気に距離を詰めてくる。

急所の殆どをを石の皮膚に覆われ、余も世も自分のより立派な鎧を着ているそいつはこっちの隠し玉である飛針を飛ばしてもはじかれるだけだろう。



(これは、無理だな。

 どんな技を使っても、俺のナイフや武器じゃあの【石皮】を突破することはできねぇ。

 【奥の手】をつかっても無駄だろうし……何とか逃げ切れるか?)



そう考え、クスズがちらりと背後を確認するもそこにはすでに数体のゴブリンが先回りしていた。

どうやら自分は逃げる事すら許されていないようだ



(……っち、最後の最後で特大の博打に失敗しちまったぜ

 あ~あ、なら死ぬ前に黒パンと肉を食っておくんだった!!

 エールが飲めるまでとか、あほなこと考えなければ……)



そんな風にどこか目の前に迫りくるリザードマンの刃を他人事のようにクスズは見つめた。

クスズの最後の頭に浮かんぶ無数の走馬燈、恐ろしい借金取りに酒瓶で殴ってくるおやじ、鞭でたたく雇用主、どれもろくなもんでもない。

その中で唯一ましなのがあいつとサイコロといつもカモにしている面子というのがなんとも自分の人生の矮小を表しているみたいで胸糞悪くなる。

……が、それでも何もない以前よりはましか。

一切の抵抗をやめそのリザードマンの刃を受け入れ……




――――爆音が悲鳴が辺りを支配した




「……は?」


死んだと思ったのにいつまでもその時は訪れない。

それどころか、なぜかゴブリン共の悲鳴と無数の土と泥の飛来を皮膚に感じた。

これはもしやと思い、恐る恐る目を開けるとそこにはいるべきはずのあの恐ろしいリザードマンはおらず、代わりに巨大な丸太がその場所に突き刺さっていた。

そうしてよく見ると、その突き刺さった丸太の下には巨大な血痕と石の皮の破片、何よりあのリザードマンの大剣が落ちていた。



「『……って、て、て、撤退だぁぁぁl!!!!

 野郎ども!!さっさとずらかるぞ!!これ以上は、これ以上こんなところにいられるか!!

 っちぃぃ!!まったくせっかくアノオカタからいただいたものなのに』えwhヴえわうず!!!」



ホブゴブリンの号令で一斉に去っていく。

クスズは何が起きたのかいまだ理解できず、去っていくゴブリン相手にただただ見守る事しかできなかった。

……が、そんな彼でも自分の命の危機が去ったということだけは理解できた。



「……ぼい。

 大丈夫か?大変そうなぶんいきだったから、おぼわず手を出しちまったが、ぼんだいないよな?」



その言葉とともに、クスズの横辺りからリザードマンよりさらに強大な人影。

まるで丸太のような腕に、クマをも超える身長。

宿屋に食堂以外立ち入り禁止にされたほどのその巨体に独特などこかぼけたしゃべり方。

なにより自分とは対極な見た目でありながら、自分レベルにさえない見た目のそいつをクスズは知っていた。



「おお~~!!

 ガローム!ガロームじゃねぇか!!!!

 いや、助かった!!マジで助かった!!さすが開拓村一番の凄腕冒険者様様!!

 っよ!世界一!!さっすがガローム様、さらっとこともなさげに命の危機を救うとはさすがだぜ!!」


「ぐぼぼぼ!!

 あ、あ~~それぼどでもない!!

 ぼ、冒険者なら、ぼうぜんのことだからな!うん!!」



このガロームという男はいわゆる人間ではあるもののその異形な風貌とでかすぎる巨体から普通の街から追い出されたという経歴を持つ男である。

やや頭は悪いが、それでもその巨体とそこから出される怪力はこの町の冒険者随一。

さらに言えば結構なお人よしでもあるため、頻繁にどんな以来儲けているため、恐らく貢献度や実力の総合点ではこの町一の冒険者といっても差し支えないだろう。

おそらく、自分が助かったのはこのガロームがその巨体を生かして丸太を放り投げたのであろう。

あの得体のリザードマンがぷちっとつぶれるほどの丸太をぶん投げられるガロームの怪力は、話には聞いたことはあったが実際に目の前で見てみると自分が受けたわけでもないのに背筋が凍るほど。

性格の良しあしや貢献度の関わらず村では恐れられている人の方が多いというのも納得の強さである。

クスズはこいつが強いくせに安い値段で依頼を受けているから、こっちとしても依頼料のつり上げに困ってるんだと逆恨みをしたことが何度かあったほどだ。



(……っま!それでも今回はそのおかげで助かったんだから純粋に感謝してやるか!!)



そう考えながら、クスズはあっさり煽てに乗せられ照れて舞い上がっているガロームをしり目に起き上がったのであった。

さて、これから忙しくなる。

なにせクスズはあのホブゴブリンどもがおそらく近々この町に攻めてくることを知ってしまったからだ。

それでも襲撃が来ると知っていればやりようがある。

さて、どんな風にこの情報を領主や店主に伝えるべきか、そんなことを考えつつふとクスズはガロームに訪ねる。



「あ~、そういえばガローム。

 なんでお前はあそこにいたんだ?夜の警備の依頼中か?

 もしくは、森で狩りの途中だったのか?」


「ああ!店主と領主さまからの依頼だな!

 クスズが依頼をさぼってどっか行ったから、追いかけて見張ってぼう告して来いっていう依頼だぞ!」


「……ん?」



クスズはそのセリフに猛烈な嫌な予感を感じた。



「後、ラスカ様がクスズが悪い奴と手を組んでいるかもって言ってかから、ぼの結果をラスカ様にもぼう告しないとな!

 ぼんとうはこれは言っちゃいけなかったかもだけど、ぼれはそもそもクスズはそんなことしてないとおぼったし、いまだって襲われかけていたからな!

 あとはこれを領主様や店主とラスカ様にぼう告ずれば万全だ!よかったな!」


(ああああぁぁぁ!!!!やべぇぇぇぇ!!!

 内通していたの、ばれてたじゃねぇかぁぁぁぁl!!!)



ガロームのその明るい表情でいう報告とは裏腹に、クスズはむしろ顔を真っ青にしていた。

どうやら、自分は断頭台へあと一歩というところにいたようだ。

いや、正確に言えばまだ逃れ切れていない、このまま素直に町まで帰還すれば、ガロームは今しがたあったことを領主や店主、何よりもあの領主の犬であり狂犬のでありメスゴリラなラスカに報告するだろう。

とりあえず、状況整理のためにクスズは恐る恐る訪ねた。



「え、えっと……ど、どのあたりからガロームは俺のことを見張っていたのかな?」


「松明ぼちながら、あのゴブリンと何か話していたところからかな?

 会話はよく聞こえなかったけど、あの時はぼんとうに裏切ったかと思ってひやひやしたぞ!」


(ああぁぁぁぁ!!!一番まずいタイミングから見られてたぁぁぁぁ!!!)



からからと笑いながらそういうガロームとはよそに、クスズにとってそれは死刑宣告に等しかった。

このガロームはあまり頭が賢くない上にお人よしだからこれで大丈夫とかあほなことを考えているようだ。が、もしこれがそもまま報告されれば確実にクスズが内通者だったことは領主にも店主にもあの狂犬にも伝わるだろう。

そうして、魔物と内通していたことが彼らにばれればどうなるか?

明るい未来ではない事だけは確実であろう。



(やばい!そうなったら確実に俺が殺される!!

 ここはもう、一目散にこの町から逃げるか?

 ……い、いや、無理だ!!近場に逃げたぐらいだとあの狂犬は確実に自分を追いかけ、殺しに来る。

 そもそも遠くへの移動は町から出る馬車がなきゃ、立地的に絶対に無理だ。

 ガロームへの口封じは俺の実力的に勿論できない。

 ガロームに黙ってもらうように頼むか?……意味ないな、絶対にガロームはバカすぎて報告でボロをだす。

 今ここで俺に監視をしていたことを吐いちまうような奴だもんなぁ)



最近、自分同様に魔物への内通者をしていた同僚や浮浪者がなぜか不審な消失を遂げていた事実をクスズは知っていた。

あの時はどうせ何かの偶然や自分は大丈夫なんて思っていたが、よく考えれば自分もヤバいということは十分に考えられたはずだ。

そんなバカすぎる過去の自分を責めながら必死に頭を働かせるクスズ、それをガロームは不思議な様子で眺めていた。



「……ぼい、大丈夫か?

 腹すきすぎたか?」



そんなわけあるか!!

と声を大にして言いたかったクスズではあるがそれをぐっとこらえた。

何せ今からする事にはガロームの協力がなくてはならないからだ。

そうしてようやく腹をくくったクスズはガロームへと、自分の動揺が伝わらないように話かける。



「な、なぁ、ガローム。

 ちょっと今から、ゴブリン狩りしないか?」


「……?ゴブリンがり?」


「実は、俺がしていたことはあの様子のオカシイゴブリンの追跡だったんだ!

 それでばれちまったから、俺様の華麗な会話術乗りきろうとしてたんだ!!

 するとどうだ、あいつらは今からこの町に襲撃をかけるって言うじゃねぇか!!

 だから、今から一緒にあのゴブリンの後をつけてあいつらを一網打尽にするんだ!そうしよう!!」


「ぼお!さすがクスズ!

 ……けど、そんな大掛かりな借りだと2人だけじゃきつくないか?

 ぼれも、さっきの丸太投げで腕が痛いし、いったん街に帰って人を集めたぼうがいいんじゃないか?」


「ばか!そんなことしたら、俺のウソがばれ……ごほん!

 そんなことしたら、あいつらの足跡が消えて、追跡することすらできなくなっちまうだろ!

 そうなったらもう遅い、ゴブリン共は巣では襲撃の準備を万全に済ませて、あっという間に襲撃!

 すると町は火の海だ!それでもいいのか?」


「あ~う~でも、店主も領主様も明日の朝には絶対に帰ってぼう告しろって言ってたし……」



ええい!こんな時ばかりまともなこと言いやがって!!

クスズとしては、ここでなんとのってくれなければ、村に報告即拷問死刑が確定なのである。

何かいい方法はないかと必死に頭を張り巡らし、ふと一つクスズはガロームに対する噂を思い出し、そのために懐を探る。



「おい、ガローム。

 これやるから、今すぐに俺と一緒にゴブリン狩りに行こう、な?」


「……ん?ぼの食い物は一体?」


「ああ、これは燻製肉だ。

 けどただの燻製肉じゃねぇ。






 ………幼女の、あのアキラのお手製だ。」


「   ま゛  が   ぜ   ろ゛   !!!」



すると、ガロームはその燻製肉をクスズの手からひったくるように受け取り、さっそくそれを口に放り込む。

それをくちゃくちゃと下品に口にかみしめ、にへらっっと不気味な笑みを浮かべた。

……やはり、あの噂は本当だったようだ。

ガロームは小さな女の子が好きで、あまりに孤児院でもある教会に行き過ぎて出禁を食らったという噂を。

大人の店に行ったときに一番小さい子を頼もうとして毎回断られているという噂を。

何よりも最近は、アキラに執着してたびたび店主や領主からおしかりを受けているという噂を。

思わず溜息を吐きながら、クスズはこう話を続けた。



「それにな、今ここで見逃したらお前の大好きな孤児院が大変なことになるぞ?

 あいつらは真っ先に女子供を狙うって言ってたからな。

 あ~あ、今ここで見逃さなかったらなぁ、町の幼女たちの安全が守れるのになぁ~」


「……!!な゛!!ぞ、ぞれを早く言え!!

 ならば、ならば、いまずぐにでもアイツらを滅殺しなければならない!!

 早くいこう!!一秒でも早く、あいつらを全滅させなければならないではないか!!」


「よしよし!OKだ、ガローム。

 そういうわけでいったん報告は置いておいて、ゴブリンの巣を撲滅しような?

 そうすれば、きっと教会の出禁も解けるはず……いや、一気に子供たちのヒーローになれるかもな~

 きっと、子供たちからキャーキャー言われるんだろうな~~」


「うへへへ……きゃーきゃー、接触……つるやわ……ぐぼぼぼぼぼぼ♪」



そんなガロームの汚い笑顔を見ながら、クスズは自分がガロームを取り込むことに成功したことを確信した。

さて、流石にいくら自分がほぼ裏切り者確定みたいな行動をとったとしても、それが村のためならばどうだろうか?

そう、クスズの作戦はこうだ、確かに自分は村にとって裏切り者のような行動をしていた、けどそれはあくまで村のためで、実際にその村の脅威である魔物の巣を壊滅させてきたから自分が裏切り者でないことは明白。

だから、今までの行動は凄く怪しかったが無実だからそこの所はよろしくな!という作戦である。



(それでもいくらゴブリンとはいえ、俺とこいつの2人だけであのホブゴブリンの巣を攻略できるかどうかとなったら、話は別だがな)



ガロームはあいつお手製の燻製肉に夢中で気付いていないようだが、実際のところただの冒険者2人だけで恐らく20以上の規模のゴブリンの群れを倒すというのはなかなかに厳しい事である。

特にクスズの場合、いったん街に帰って仕切り直しなんてことができないのだ。

難易度は跳ね上がってるといってもいいだろう。

その上クスズにはもう一つ懸念があった。



(そういえば、ガロームの不意打ちのおかげで何とかなったが……

 【石皮(ストーンスキン)】のリザードマンなんて、あいつらどっから連れてきたんだ?

 それになんであれほどの化け物があのホブゴブリン如きの言うことを聞いてたんだ?)



するとぽつぽつと思い出す、あのホブゴブリンのいくつかのセリフ。

【黒月】、賜る、【大統領(ビックロード)】。

どれもわからないことばかりであるが、ふとクスズの脳裏に一つのことが思い出される。



(そういえば、隣町の用心棒に腕の立つリザードマンの冒険者がいるらしいなぁ。

 さらにあの町には体が石みたいになっちまう【石化病】なんて変な病気やら呪いが流行っているらしいし。

 その上あそこには恐ろしい魔女が住んでいるとくりゃぁ……)



なんとなく、繋がっているような繋がっていないような。

ちらりとつぶれたひき肉みたいになっているリザードマンの亡骸を見るが、それはすでにこと切れていて何もこちらに情報は与えてくれない。

これ以上のことは考えてもやむなしと、クスズは気合を入れるためにも腹ごなしの黒パンを口に放り込んだ。

かくして彼は自分の命の安全のためにも、自らの奥の手を発動させてまで逃げたボブゴブリンの追跡を開始したのであった。



「あ、そういえば、アキラの今いってる依頼先も隣町だったな……」


「ぐぼ?どうした?」


「……嫌なんでもねぇ、どうせ関係ないだろうし。

 関係あったとしても、アイツならなんだかんだ言って上手くやるだろうしな」



死ぬならちゃんと俺に全部のイカサマと賭け事を教えてからにしやがれよな。

そんなことを考えながら明るくなってきた空と太陽に向かって、クスズは信じてもない神に自分ともう一人の安全と生還を祈願したのであった。


おかしい、息抜き作品だから短くパパッとが心情のはずなのに……

しかもこれ、ただの外伝的なもののはずなのに……

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