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間話・1-1



冒険者にとって開拓村エデラントは一言で言うと不味い職場であった。



確かにいつでも周りに魔物がいるという点と人手が足りていないという点では依頼が尽きることはないだろう。

だが、この周囲は王都に比べて魔物が強いのに村の規模が小さいせいで報酬が少ない。

情報が少ないので危険率が高し、武器屋もましなのがないから武器修理や買い替えなどのサポートもない。

要するにまともな金銭感覚をもつ冒険者は、わざわざこんな僻地で仕事をしようだなんて思わない場所なのだ。


さて、こんな街で現在冒険者をしている【クスズ】という男がいる。

彼は見てくれもぎらついた歯に死んだような目と言われるくらいには良くないし、やけにひょろい見た目でひとたび鎧を脱いでしまえばその辺の浮浪者とかわらない。

その彼をギリギリ冒険者としての見てくれを保っている鎧だって、ボロ布に木と留め具と皮で何とかしただけというお粗末なもの。

もしこんなのが帝都で大通りを歩いていたらそれだけで笑われそうで,こんな頼りない恰好からこそこんな町でしか冒険者ができないと一目で理解されるだろう。

だが,こんな男でもこの開拓村では貴重な人手でいわゆる魔物を倒すことができる頼れる冒険者。

報酬さえもらえればゴブリン退治はもちろん、夜の見回りや畑の警備だって引き受けられ頼まれる、その程度には頼れる最低限の腕はある冒険者というやつだ。

で、そんなこの村で貴重な戦闘員である彼は現在……



「死ねっ!!死ねっ!!この穀つぶし!屑!!」


「この【クスズ】じゃなくて【クズズ】だ!2倍のクズ!!究極のクズめ!!」


「ちょ!!お前らやめねぇか!!

 ちょっと、ちょっと小銭をむしり取っただけじゃねぇか!!

 騙されたのはお前らにバカさ加減が悪いのであって俺は微塵も悪くはねぇ!

 それと残念だったな!もう巻き上げた金は全部使いきってるから今更殴っても無意味……て、ぎゃああああ!!!!」



賭けでいかさまのがばれてカモにしていた村人や他同業者に囲まれてぼこぼこにされていた。



「ま~たイカサマがばれたのか。

 相変わらずお前は懲りないやつだな。

 うちで博打をするなとは言わんが、せめてもっとうまくやれ」


「い、いや、こ、今回はうまくいったんだ!

 イカサマがばれる前にたんまり稼がせてもらったし、その前に飯と酒と大人の店で大体の金は使いきれた!

 た、確かに最後はあのカモ集団にリンチにされちまったが……あくまで被害は小銭とぼこぼこにされただけだからな!

 商売道具は守り切ったぜ」


「……おい、まだ持っているナイフが小さいのは許そう。

 けど、自然にサイコロと杯まで商売道具に含めるのはやめろ」



クスズは宿屋の食堂で倒れていた所を店主にそう言われながらたたき起こされ、そんな会話を繰り広げていた。

そうして、現在の時間はもう夕暮れ。

食堂の奥からほのかに漂うスープの香りがいい感じにクスズの腹を刺激した。

ちょうどいいし今晩はここで飯を食おうかと思ったが、先ほどイカサマがばれたせいで財布がすっからかんなことにクスズは思い出した。

それなら仕方ないと、クスズはこっそりと宿屋のキッチンへと忍び込もうとするが、それを店主に止められた。



「おい、何を考えているが今日キッチンに行ってもアキラはいないぞ?

 アイツは今、とある依頼で隣町まで言ってるからな」


「……げ!!

 そ、それじゃぁ俺の晩飯の宛は!!」


「おまえなぁ、まだアキラにご飯をたかってるのかよ。

 小賢いとはいえアキラはまだガキな上に女だぞ?

 お前にプライドってものはねぇのか?」


「っは!!プライドで腹が膨れるか!!

 こちとら天下の冒険者様だぜ!!ド下座やゴマすりだけで飯が食えるんなら赤子相手にだってしてやらぁ!!

 それに俺は一度アイツの命を救ってるんだから、これ位正当な報酬だろ」


「威張って言うことじゃないだろう……

 お前がやったことはただ倒れていたアイツを拾ってここまで送り届けただけだろ。

 別に切った張ったしたわけでも正式依頼ってわけでもねぇ。

 なのにあれ以降、何回飯をあのガキから分けてもらってるんだ、もはや闇金や当たり屋じゃねぇか。

 それに博打できるほどの頭がないくせに,楽に稼ぎたいからとあのガキの知恵を借りていると来れば情けなさに拍車がかかって涙が出てくらぁ」


「うっせうっせ!

 あのガキは自称大人の男なんだろ?

 あいつは俺に知恵を貸す!俺は見た目と強さで賭けを成立させる!!

 それにときどきは大勝ちした時は借りをあいつに返してるんだ,こういうのはいわゆる公平な取引ってやつだ!!

 ならなにも恥じることはねぇじゃねぇかよ!!」



クスズの開き直りに思わず、店主の溜息が漏れる。

で、前述通りアキラがこの村の外で倒れていた時にそれをこの町まで連れてきたのはこのクスズだ。

クスズはあの時は本当に軽い気まぐれで、さらに言えば近くにあの領主の犬がいたこともあり素直に追いはぎすらせず、アキラを拾い上げ、そのままこの宿への押し付けをしけたのだ。

当初の目的はお助け賃としてアキラの持っていた剣をもらうことであり、それはかなわなかった。

が、それでもあの助けに対しての十分なリターンは得られたとクスズは考えている。

子供を拾って運ぶだけで少なくない回数の食事とかなりの数の知恵と金が手に入ったのだ、実際大儲けの部類の入るであろう。



「はぁ、お前は一度根性入れなおして、まともな方法で金を稼ぐようにしろ。

 この街にはもの探しやら魔物退治やら冒険者向けの仕事なら、這い捨てるほどあるだろ?

 全く悪くない腕をしているくせに、アキラが来てからますますさぼるようになりやがって……」


「なら、せめて俺が受けたいと思うまともな仕事を紹介しやがれ。

 どの仕事も小銭拾いレベルの報酬ばかり!

 冒険者っていうのは普通の奴らの倍以上の危険にさらされるっていうのに、この辺の奴はそのへんがわかってねぇ」


「っは、冒険者にまともな金を出せる奴がこんな街に来ると思うか?

 お前を含めてな」



その言葉にぐぅの音も出なくなるクスズ。

クスズ自身もわかっているのだ、そもそもこの町の人が金を持っていないことを。

もし自分が冒険者に依頼する立場でもこの町に住んでいるというだけでまぁ依頼料は低くして依頼するだろうと。

ましてや自分みたいなギャンブル狂いクズ冒険者ならなおさらだ。

せめて、どこぞの子供みたいに見てくれが良かったり、特殊な特技があったり、真面目に依頼をする冒険者なら使命依頼を受けたりもできるのだろうが。



「っま、それでもお前には実績があるからまだましな方だろ。

 というわけで、ここに魔物退治の依頼があるからさっさと行ってこい。

 賭け事なんぞやめて真面目に依頼をこなせば、いつかは悪名がなくなって割のいい仕事が来るかもな」


「やなこった!!

 な~んでこんな袋叩きの疲労困憊後に害獣退治なんぞしなきゃならねぇんだ!

 博打なら勝ったら大儲けで負けても一文無しになりボコられるだけだが、魔物退治なんぞ勝っても安金負けたらなぶり殺し。

 こうなったら、うまい依頼が来るまでここで時間をつぶしてやる!!

 そもそも今の俺は一文無しのせいでまともな飯すら食えんからな、すきっ腹で戦えるかよ!」


「……腹が溜まれば、まともに戦えるんだな?」



そういって、店主はポイとクスズにその包みを渡してきた。

クスズは自分の言葉なんぞ無視されると思ってたのに、予想外に渡されたその包みを恐る恐る開くと……



「おっほ!これはこれは……本当にいいのか?」


「あぁ、アキラの野郎が作った燻製肉と黒パンのあまりだ。

 領主の家で使った肉のあまりで作ったとか言ってたな。

 多少そのまま食べるには少々癖が、それがむしろ酒のつまみにはぴったりなのはいいところだな」



おもわず、クスズの喉がごくりとなる。

もちろん、ただで肉が食えるというのはそれだけでラッキーではあるが、それ以上に大きいのはこのパンの臭いはおそらくアキラが作った奴だろう。

この町には基本白パンと黒パンの2種類があり、白パンはおいしいがやや高く、黒パンは不味くて安いのが常識である。

だが、アキラの作ったパンは違う。

アキラの作ったパンは白パンはもちろんの事、従来ならすっぱくて固くぼそぼそガリガリしてても保存食だからやむなしとされていた黒パンですらかなりうまいのだ。

その黒パンのウマさたるや日ごろは店頭に並んでも貧乏人以外買わないはずの黒パンを普通の人が買うぐレベル。

口に広がる苦痛でない雑味に固くも凝縮された甘味が特徴であり、なによりも下手なパン職人だとパンの内部に石のように固くて苦い塊ができるのが黒パンの最大欠点であるが、アキラのパンにはまずそれが存在しない。

店主の言葉とビールを飲むゼスチャーを見ると何とも言えない喉の渇きがこちらを刺激してくる。

臭くもうまい肉をかみしめながら、固い黒パンを口に放り込む、それをエールで一気に流し込む姿を想像したら……!!



「な、なぁ!ちょ、ちょっと一杯、いや一口でいい!

 俺の仕事前の景気づけに、キンキンに冷えたエールをくれよな~いいだろ~?

 そうしたら、俺だって真面目に害獣退治でも……いや、めんどくさい夜の警備だってやれる気がするんだ!」


「っは、残念ながらそこまでしてえやるぎりはねぇな。

 その肉とパンだってアキラがお前がうちの姪に迷惑を掛けそうならこれをやって追い払えって伝言があったからだ。

 エールが飲みたいならとっとと依頼にでも行って金を払ってからにしろ」



クスズ思わず頭を下げんほどの勢いでエールを懇願したが、普通に無視されて依頼を一方的に押し付けられたうえで宿屋からたたき出された。

クスズは店主が見えなくなった瞬間、っちと舌打ちをして日が暮れかけの夜の森へとその姿をくらませたのであった。



……店主から言いつけられた依頼を無視して



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