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勇者のスペア ー魔剣使いの人生譚ー  作者: 黒崎こっこ
エルフィア孤児院 卒業期編
40/41

第三十七話 エルフィア第二孤児院

メリークリスマスにて投稿。


後書きの方で、ちょっとご報告があります。

最後まで目を通して頂けると幸いです。





 ___果てしない無力感。

 横たわる私の目の前で、小柄な少女が吹き飛ばされる。

 あの日、絶対に守り抜くと誓ったのに。

 家族が魔物の爪に切り裂かれる光景を、黙って見ていることしかできない。

 私の手は、足は、体は、地面に縫い付けられたかのように動かない。


「……う」


 立ち上がろうと藻掻けば藻掻くほど、自分の弱さを、小ささを思い知る。


 いや。

 最初から知っていたはずなのだ。

 この首輪を付けられた、その日に。


 強くなることだ、と白い獣憑きの少女は私に言った。

 次々と襲い来る理不尽を跳ね返したいのなら。

 家族が目の前で殺されるのを止めたいのなら。

 自分のわがままを押し通したいのなら。

 世界のあらゆることにおいて、自分の意思を押し通すには強さが必要だと、そう言いながら、狼少女は私に剣の稽古をつけてくれた。

 一本も取れなかった。


 強さが必要だということは、前から知っている。

 故に、私は三歳年上の獣憑きの言葉に共感し、彼女の圧倒的な強さを模倣しようとした。強くなるための方法を知ろうとした。


 実際にそれについて聞いてみると。

 彼女は決まって『あの男』の話を始めるのだった。

 剣も魔法も使いこなす、勇猛果敢な少年の話。

 奴隷になりかけた狼少女を救い出した英雄。


 奇しくもその少年は、彼女と一緒にここにやってきて、今も滞在中である。

 しかしどうにも胡散臭く思えてならない。

 その少年には狼、少女のような強者がまとう自信のようなものがない。一見したところ体格も華奢で、若干半目気味だからか目に光が見えず、常にやる気がないように見える。

 その第一印象に違わず、彼は狼少女と違って私たちに何を施そうともしなかった。

 精々が美味しい食事にありつけるようになったぐらいだ。

 後は部屋に篭って怪しげな実験をしていただけである。


 しかしある日、その少年は、狼少女の話に割り込んでこんな事を言った。


『強くなっただけで、責任を果たせるとは限らない』


 その時は意味が分からなかった。

 狼少女も分かっていなかった。

 だから、私は無視した___今の今になるまで省みることすらしなかった。


「……」


 狼少女、少年と続けて、母親代わりの先生の顔が脳裏に思い浮かんだ。

 自分たちをあの地獄から救い出してくれたシェイラさんには感謝している。

 私たちに食べ物と、衣服と、住む場所まで与えてくれた。

 帰ってきて、私たちがいなくなっていたら、どう思うだろうか。

 悲しんでくれるのだろうか。

 受けた恩を返せないのが何よりつらい。


「……れ、か」


 ズン、と黒く太い脚が近づいてくる。

 何の魔物なのか、分からない。

 ともかく、私たちの命を刈り取る怪物だ。


 歯の根がかちかち音を立てている。

 体の中は沸騰しているかのように熱いのに、内側は氷を詰めたように冷たい。

 あんなに遠かったのに、もう、こんなに近くにいる。


「誰、か」


 長々とした独白に隠れた本音を、私は知っている。

 怖い。

 死にたくない。

 自分が間違っていた。


 己の非力さなど、知っていたはずなのに。

 なぜ私は、みんなの命を預かろうと思ったのか。

 それはある意味で、家族の信頼を根っこから裏切る行為であるというのに。

 責任。

 責任だ。

 あの少年が言った言葉が脳裏を渦巻く。


 一カ月前の自分と比べたら、私は確かに強くはなっただろう。

 狼少女の教え方が良いからだ。

 数人の泥棒を退治できるくらいにはなった。


 でもそれだけだ。

 野盗の使う搦め手に対応できず、このざまである。

 あの少年は、まさにこの事を言っていたのだと、心の中で痛感する。

 強くなったからなんだ。

 何が変わったというのか。


 が、何を思ったところで今更遅い。

 もはや私にできることは神に願うことだけだ。


「誰か、助けてよ……誰かぁあああッ!!!」


 返答はない。

 ただ、雷が落ちたような音がして、全てが終わった。




 ……ように思えた。

 ドクドクという心臓の音が鼓膜の裏を叩いている。

 数秒して目を開けてみる。

 魔物の頭蓋が地面を転がり、血走った目が私を見つめていた。


「へっくし」


 小さなくしゃみが一つ、頭の上に降ってきた。

 顔を上げると___黒髪の少年が一人。


「んん。誰か噂でもしてんのかね……っと」


 鼻を啜りながら、冷めた目でこちらを見下ろしていた。




 ***




 ___『首輪』の解析を手伝って欲しい。

 シェイラから俺宛の手紙が届いたのは、一ヶ月ほど前のことである。


 戦争を勝利に導き、英雄として帰ってきたシェイラ。

 普段は母性溢れる母親……として見てもらいたいのか、色々と挑戦しては空回りしているが。

 一度その魔力と知識を解放すれば、一国の軍隊を相手取れる。

 そんな大それたことが、彼女は可能なのだ。


 その大魔法使い殿は現在、戦争から帰る途中で奴隷を扱う組織をぶっ潰し、そこにいた子供たちを全員引き取ったことで面倒を見るのに大忙しである。

 さすが、英雄はスケールが違う。

 が、少しくらい先を考えて行動してほしいものだ。

 助け出した子供たちの数は全部で十人弱。オルレアンの孤児院に受け入れるには少々多すぎる。

 というかそもそも、その組織ってのがオルレアンから遥か離れた国境付近の山中にあった。そこから成長途中の子供たちを連れて来なければならないというのは非合理的である。


 というわけで、シェイラはその組織が使っていた設備を孤児院に改造するという暴挙に出た。

 子供たちのトラウマも残っている場所だろうに、どうなんだと思うが、当の聖母は「トラウマを克服せずに何が自由か」などとほざいて開き直っている様子である。

 物は言い様だ。

 もちろんとばっちりを食うのは俺たち第一孤児院組。

 まったく、人の気も知らないで自由なもんである。


 とまあ、色々と思うところはあるが。

 今は本題を優先しよう。


 シェイラが第二孤児院に移動してから二年が経ち、第一孤児院に届いた一通の手紙。

 そこに書いてあったのは『首輪』についてだった。


 首輪というのは、読んで字の如く、奴隷の首に嵌められる隷従の証である。

 鎖の繋がれた楔を引き抜くと、内部の魔力回路が起動し、爆発して奴隷の首を吹き飛ばす。

 単純な構造故に頑丈で、無理に破壊しようとすると誘爆する。

 一度嵌めたら生涯外れることはなく、量産も楽。

 構造を理解すれば、魔法陣でも再現できた。


 その筋の人にとって非常に使い勝手がよろしいのかもしれないが、嵌められた側は人生終わったようなものだ。

 上手く逃げ出しても一生奴隷のレッテルは外れない。

 堪ったものではない。

 随分前になるが、俺もセレナも一度奴隷商人に捕まった。

 首輪を嵌められる前に脱出を試みて正解だったというわけだ。

 

 シェイラはそれを解析してほしいと頼んできた。

 二年以上も経った今さらになって、ということは、シェイラも個人で解析していたのだろう。

 奴隷の子供たちを解放するべく。

 しかし、失敗した。

 解析はできたが、解鍵ができない。

 第一孤児院の子供たちには既に迷惑をかけまくっている。

 さらに負担をかけるようなことはしたくないけれど、どうしても解放してあげたいので、協力お願いします。


 ……というような、申し訳なさ全開の内容が書かれていた。

 まったく。

 人の気も知らないで、我が儘なもんである。

 それを聞いて、行かないわけにもいくまいに。


 第二孤児院はクラヴィウス共和国の東国境付近にある。

 手紙もそこから出されている。距離的にはほとんど国の端から端への移動に等しく、日付によると第一孤児院に届くまで半年程かかっている。

 つまり、俺たちが普通に第二孤児院へ出発すれば、これもまた半年の歳月が必要になる。子供の「半年」を奪うことがどれだけ重いことか、シェイラも承知の上だろう。

 こちらとしても、他人のためにそんな時間を割く余裕はない。


 なので___その半年を、一週間に短縮することにした。


 端的に言うと、空を飛んだ。

 魔法陣でぶっ飛んだ速度を出せる俺と、底なしの魔力で延々と飛び続けられるセレナの二人で、クラヴィウスを横断。

 キーンとひとっ飛びし、んちゃ!と突撃隣の晩ごはん。

 出迎えたのは幼女の跳び蹴りだった。


 ともあれ、結論から言って、急いで来て良かったと思う。

 シェイラは見るからに憔悴し切っていた。

 何か、どうしても早く解鍵しなきゃいけない理由でもあるのかと聞いてみると、あの子たちに約束したから、といういつも通りの答えが返ってきた。

 子供に対して常に全力な彼女らしい言い分だ。

 そして、俺たちがそれに協力しない理由もない。


 そういうわけで第二孤児院に滞在し始めて、はや一ヶ月近くが経とうとしている。

 シェイラから「魔力承」という、古代族に伝わる奥義っぽいのを教えてもらい、周囲の魔力の流れを認識できるようになるまで一週間。

 それから首輪の解鍵を試み始めて二週間である。

 今日まで解鍵は成功していなかった。

 正直言って、俺の目算が甘かったと言わざるを得ない。

 アンジェの誕生日までに帰るつもりが、余裕で時間オーバーだ。申し訳ないので今度、クロウと二人でどこか中長期のクエストにほっぽり出してやろうと思う。




 そんなこんなで今日ここに至るわけだが。

 冒頭でいきなり少女一名が死に掛ける事態となったのは色々と深い訳がある。


 ここはクラヴィウス共和国東端の『メルヴィユの森』だ。

 そこそこ高ランクの魔物が出没する緑丘であり、麓には上級の開拓者が滞在する街がある。

 中堅どころの冒険者が集まる街なのだ。

 クラヴィウスに国籍を置く一般市民で定住している者はいない。建物も大半が宿屋で、流浪の戦士がよく出入りする。

 討伐依頼の出る魔物は基本的に魔獣級以上。獣級・百獣級など生き残ることすら許されない環境だ。故にそれを相手取る開拓者もこれまた腕利き揃い。落ちぶれた盗賊などが張り合えるわけもなく、治安は極めて良好である。


 第二孤児院は、メルヴィユの街の外れの森の中にある。

 奇しくも第一孤児院と同じような地理条件だ。オルレアンの街の外れにある森の中。

 ……もしかしたら、第一の方も元は別の施設だったりするのかもしれないが。

 今日も今日とて首輪を弄り回す一日になるところ、シェイラは街の領主に呼び出されたらしく、朝から出掛けたまま帰ってきていない。

 今日の買い出し担当は俺だったが、試したいことがあったのでセレナにお願いした。

 やや曇り気味な空の下、孤児院の戦力は俺一人。

 思い返せば、俺だけで留守番するのは、これが初めてだった。


 真っ昼間に野盗が襲撃してきた。


 治安が良くてもこの手の輩はどこにでもいるらしい。

 無論迎撃したが、この盗賊が大量の魔物を引き連れてきたものだから厄介極まりない。

 リアルMPK。

 ふざけろと。

 魔物を片っ端から焼き払い、何とか全員捕縛したところで、尚もふてぶてしい彼らの表情に違和感を感じて孤児院の中に戻ってみると、既にもぬけの殻だった。

 どうやら捕縛した連中は陽動だったらしい。もう一つのグループが子供たちを掻っ攫っていったのだ。


 さすがにムカついた。

 とりあえず陽動グループには丁重に失神して頂き、急いで誘拐グループを追撃。

 トカゲに乗って移送車を走らせる誘拐犯を見つけ出し、子供たちを救出。

 それでも抵抗する残党と戦っていると、戦闘音が呼び水となってまたしても魔物が集結。危うく少女一名が死にかけた。

 ……といったところである。


(どいつもこいつも、調子に、乗りやがって……)


 ドッと疲れた。

 現在、俺の目の前では、首を無くしたアシュラ・グリズリーの周りにたくさんの幼女が群がっている。

 六本の腕を持つこの熊は、目玉から爪先まで余さず素材として高値で売れるコスパの高い魔物だ。ランクにして魔獣級の一つ上の聖獣級だが、多重魔法の雷撃でワンパンだ。

 俺は魔物を討伐した。

 仕事をしてない他のメンバーは雑用係である。

 決して、俺が未だに血が苦手で魔物の部位剝ぎ取りができない訳ではない。

 断じてない。

 幼女だろうが何だろうが働かざる者食うべからず。

 すでに一仕事終えた俺は寝っ転がって低みの見物だ。


 そんな俺に文句があるのか、少女が一人トテトテやってきた。


「あの……」

「ん、どしたい」

「大丈夫ですか? お腹……」

「問題ない、絶好調さ」


 俺はラマーズ法で呼吸しながら答える。

 いや何、特に腹などが痛むわけではない。

 昼飯直後に喧嘩を吹っ掛けられたため腹痛不回避で絶賛悶絶中とかそんな情けない状態に陥っているわけでは断じてない。

 じゃあ剥ぎ取りを手伝えって?

 何度も言わせるな、俺は血が苦手……じゃなくて、既に一仕事終えた後なのだ。

 むしろ労いの言葉の一つも欲しいくらいだな。


「ちょっと胃がスクランブルエッグになってるだけさ」

「すくら……そ、そうですか」

「そう、それだけなのさ」


 腹を抑えて地面に突っ伏する俺に何を思ったのか、少女はその場で右往左往し、結局トテトテ去っていった。

 そうだ、俺のことは放っておけ。

 俺の屍を超えて強くなるんだ。


(ぐぅ。し、しばらく収まりそうにないな……仕方ない)


 冗談はさておき、そろそろ移動を始めた方がいい頃合いだ。

 ちんたらしてるとまた魔物が集まってくる。

 無論もう一度焼き払うのは訳はない。

 訳はないが、できれば、ちょっとタンマしてくれるとありがたいかなって。

 たぶん今胃カメラ検査したら地獄絵図が見れると思う。

 

「剥ぎ取りはその辺で終わりだ。そろそろ帰るぞ」

「……辛そうね」

「何を馬鹿な」

「肩貸してあげようか?」

「このタフネスの化身に助けなど要らぬ」

「えい」

「フグァォッ!?」


 俺は再び地面に突っ伏する羽目になった。

 やって良いことと悪いことがあるとシェイラ母さんから教わらなかったかい君たち……。


 しかし、この絡み方は正直嬉しい。

 いやマゾちゃうぞ。

 そういう意味じゃなくてだな。

 この子たちは、ただの『元奴隷』ではないのだ。


「あんたたち___何馴れ合ってんのよッ!!」


 そのとき、背後から喝が飛んだ。

 俺に群がっていた子供たちが一斉に飛び退く。


「こいつは、私たちに首輪を付けた『男』なのよ! 信用しちゃあいけないの!!」


 眼光だけで人を殺せそうなほどの意思を秘めた少女。

 名前はクルミアという。第二孤児院でみんなを率いるリーダー的存在だ。

 短い滞在期間でも分かる我の強さ。

 体力や魔力などの能力も高い。

 そして、人一倍の責任感を持っている。


 奴隷出身にしてこの意思の強靭さは凄まじい。

 声量も半端なくて、どこぞの術導院のお嬢さまを思い出す。

 だが待て、その言い方だと俺が変態みたいに聞こえる。


「何度も言うけど、俺は首輪を付けた連中とは違う。お前たちの味方だ」

「信用できない」

「……盗賊や魔物を倒しても、まだ信頼には足らないか?」


 俺は、頭ひとつ分背が小さい子供たちを見回す。

 全員が可愛らしい顔立ちをした少女だ。

 男子は一人もいない。全員が女の子。


 要するにそういうことだ。

 そういう目的で集められた奴隷たちなのだ。

 しかもシェイラが言うに、彼女たちは男の欲望の捌け口としてだけではなく、戦士としても『使える』よう調整される予定だったのだとか。

 身体的には並の奴隷よりむしろ健康だが、その分過酷な労働を押し付けられる。

 家畜のような扱いを受ける寸前だったと言っていた。


 そういうわけで、彼女たちは男性という存在に怯えている。

 トラウマと言い換えてもいい。

 シェイラが俺を呼んだのはその点も考慮してのことだ。俺ならば少女たちに配慮しながら、トラウマの克服を手伝ってくれるだろうと。

 信頼には応えようと頑張った結果、ほとんどの少女に懐かれるようになった。

 ぶっちゃけ役得だ。

 尤も、セレナの凍てつく眼光の側では何ができるわけもなし。

 ていうか、何かする予定なんかないけども。

 それがかえって信頼を増す結果になった。


 その中で、一人だけ懐かず、反発心を燃やす少女がいる。

 それがクルミアだった。

 とはいえやはり、命まで救われた今、彼女も自分の主張に自信を持てずにいるようだ。

 若干ながら、眼光の奥に迷いが見える。

 まあ別に探られて痛い腹もないし、存分に疑ってくれて構わんのだが。


「分かってるわ。あなたには、助けられたし」

「ん、恩を売ってるつもりはないぞ? 別に___」

「それでも、気を許すわけにはいけない。許しちゃいけないの」

「……あ、そう……」


 助けられたし、というのはアレだ。

 主に食事面だろう。

 今までシェイラが料理する描写が皆無だったから、なんとなく察している人もいるかもしれないが、シェイラは料理が絶望的に下手だ。

 俺も料理は兄か姉に学んだし、時々孤児院を訪ねてくる保母さんに習う子もいた。

 が、シノンやノエルはシェイラに教わった。

 その結果が野菜炒めに塩を袋ごと投入する爆弾料理だ。


 他にも、シェイラは服のセンスがないし掃除も洗濯も不器用。

 教育は天才的でも、家事はからっきしなのだ。

 完璧な人間はいないという良い見本だな。

 第二孤児院では俺とセレナで補助をしたが、何のことはない、持ちつ持たれつが人間である。

 家族なのだから、頼られるくらいがちょうどいい。


 ちょっと話が逸れたか。

 クルミアは必死で言葉を選んでいる。


「私は、弱いわ。今も昔も、何もできない」

「そうか」

「みんなのことを助けるって、守るって、口先だけだった。あなたに助けてもらえなかったら……私もリリーも、死んでた」

「……かもな」

「だから、強くなるわ」


 なんか唐突に語り出したと思ったら。

 俺は少しだけげんなりする。

 こいつもかと。

 最近、俺の周りの女の子は強くなろうとしかしない。

 たぶんセレナの影響だ。

 彼女のトンデモ武勇伝を聞かされれば、強くなりたくもなろうというものだ。

 まあ強くなるかどうかなんてのは個人の自由だが、この世界でも男は戦う生き物である。立つ瀬が無くなりそうだ。


「せめて私が、みんなを守れるくらい強くなるまで。どんな男にも気を許すわけには、いかない!」


 ほらな。

 無意識だろうか、クルミアは首輪に触れながらそう宣言した。

 俺はため息を吐いて、空を見上げる。


 そう、別に構わないのだ。

 強くなろうと思わせるのはシェイラの十八番。

 それこそが彼女の教え子が優秀たる所以なのだ。


 このままの方がいいかなとも思う。

 余計な手を加えて、変にやる気を削いでしまうよりは、反発心を煽った方がいいのかもしれない。

 しかしなぁ。

 それだと俺はいつまで経っても帰れない。


「んー、まあ……いいか」


 なるようになるだろと適当に思考を切り上げ、右手をクルミアに向ける。

 身構える彼女に構わず、その首元、石の首輪に狙いを定める。

 一生外れず、壊したら爆発する、絶対服従の証。


 俺は目を閉じた。


 パキンと音がして、首輪にヒビが入る。

 ヒビは一瞬で全体に広がり、首輪は砂細工のようにあっさりと崩れ、風に巻かれて消えた。


「え?」


「……魔物が寄ってきたな。他の首輪は後で破壊してやる。孤児院に帰るぞ」


 俺は何事もなかったかのように歩き出す。


 ___彼女たちは。

 男に首輪を嵌められて、いいように使われてきた。

 ならば、首輪を外すのもまた『男』であれば、どうなるだろうか?

 まあどうでもいいけどね。

 とりあえずこれで帰れるな、と俺は肩の荷が下りた気分だった。





ご報告です。


卒業期編に入った《勇者のスペア》ですが、ある事情により物語のプロットを大きく変更することになりました。

ほぼ全話に渡って手直しをする必要があるため…分かりやすく、新しい《勇者のスペア》として投稿し直そうかと思っています。

全体的な物語の進行に影響はありませんが、伏線の部分で変更があったりします。


今まで評価してくださった読者の方や、ブックマークしてくださった方々には、多大なご迷惑をお掛けすることになるかと思います。

予定が決まり次第、活動報告などで改めてご報告します。


それでは、最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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