優しい人に限って、怖いよね。
ある休みの日の昼。
いつも早起きな俺、サクは、今日に限って今起きた。別に特別なことは無いが、いつも隣にいる父の温もりが無いと寂しい、というか寒い。
ちなみに、今俺は7歳だ。
マオに会えるまで、あと2年だ。
またあの喜びを味わえると思うと、はやく会いたくてうずうずしてしまう。
ふいに、部屋の扉がガチャっと開いた。
前の記憶上、背後の音が怖くて仕方ないが、まぁ、すぐに父の優しい声が聞こえたので安心する。
あと、町では俺は、妙に大人びたイケメン小学2年生扱いだ。
仕方ないじゃないか、記憶はそのままなんだから。
「ん………あ、父さんおはよ……」
「サク、疲れてたのかな?おはよう。もうお昼だよ、お昼ご飯あるから、食べよう?」
「うん。」
父さんは、ニコっと微笑んで先にリビングへと行った。
俺もすぐに着替えて、リビングに行く。
母も、優しい笑顔で「おはよう」と言った。
「母さん。オレ、今日学校の友達と遊んでもいい?」
「あら、珍しいわね!もちろん、いいわよ。どこで遊ぶの?」
「うんと、ちょっと学校の裏の森まで」
「あら、まぁ、あまり危なくないようにするのよ?」
「うん。」
前暮らしていた地球と、育つ感覚的には同じだ。
家もそこそこ綺麗な洋風の家で、学校は小~大学まであって、少し違うと言えば、魔法があることと、自然と共にいるということだ。
前は、自然破壊が問題だったけど。
ご飯も食べ終わって、さて準備をしよう……としたところで、誰かが家の扉を開ける音がした。
やはり前の記憶のせいで怖い。
けど、聞こえた声は友達だった。
「た、たいへんだよぉっ!!サクくんのお母さんとお父さんっ!助けて!」
「え?」
「どうしたんだい?」
「い、いいから来てぇ!」
友達の女の子は慌てふためいた。
父も母も、町ではランクの高い魔法使いなので、よくトラブルの救済を頼まれる。トラブル自体少ないが。
急いで外に出ると、なんと魔物のゴブリンが数匹、町の住人を睨みつけていた。
一匹は女性をなめ回すように見て、一匹は男性を威嚇し、一匹は住人を見下している。
計3匹のゴブリンは、さも「オレら最強だから従えや」とでもいうかのようだった。
父はどんな顔してるかな、焦ってるかな、イケメン崩れてるかなと思いふとみると、案外にもケロッとしていた。
「ごぶりーん!相手はこっちだー!」
「アタシとこのひょろっちぃ男なめんじゃないわよ!?」
「シュイナ…今ひょろっち……ひょろっちぃって………」
「ええい気にしないの!ストレス発散しまくってやるわよ!!」
と、母がなんだかイキイキしだしたので住民は皆安心して笑っていた。
それを侮辱されたと思ったのか、ゴブリンは怒った。
「ぐきぃい」
「ぐぎいい」
「ぐぎゃあ」
三匹が襲いかかる。
が、父はスッとかわして背後から火の球をぶつける。ありゃぁあっちーぞ。
「ぎゃああああ!」
熱さに悶え苦しむ一方で、一匹が氷で刺された。
案外、自分が刺された経験がある俺は、怖がると思っていた。が、寧ろ「うわ、綺麗に入ったなー」と観戦している。これも不思議なもんだ。
「とうさーん!オレも手伝う?」
「いやぁ、もう母さんだけでいいんじゃないかなとか。」
「ですよねー……」
「ゴブリンどもぉおおおかかってこいやあああああ!!!」
「日頃のストレスってアレかな、研究室のゴイストさんからのセクハラかな…」
「たぶんそれを笑って見過ごす父さんへだと思う。」
「…………。」
「うおおおぉおおおゴイストさんのくそがあああああああ!!!キモいわああああああああ!!!」
「あーぁ…。シュイナ元気だなぁ…。」
すると数分して、すっきりしたのかつやつやオーラで戻ってきた母の笑顔は、いつもよりも輝いていた。
「サクくんのおとーさん、おかーさん、ありがとうございました!」
「いえいえ、教えてくれてありがとうね、アサメちゃん。」
「えへへ♪」
父にそういわれて喜ぶアサメちゃん。んー、7歳だったら丁度いいかとも思ったが…。妹と同い年でも少し可愛さに欠けるな…。
まぁ、そんなこんなで一見落着したこの騒動は、別に騒がれるでもなく(母さんのあばれっぷりは言われたが)すぐに普通の日常に戻った。
俺は、アサメちゃんと一緒に、学校の裏の森へ行った。
父も母も、実際俺が魔法をかなり使えるのを知っているから、何か起きても自分でなんとかすると思っている。
まぁ、するけど。
隣でるんるんと鼻唄を歌いながら歩くアサメちゃん。
俺の見立てでは、あと10年もすれば美少女の部類だと思う。性格はほわほわしている。さっき家に飛び込んで来たときは、別人かとおもった。
俺がそんなことを考えていると、ついアサメちゃんをガン見してたのか
「どーしたの?」
と可愛い声で聞かれる。ぁあ可愛い…マオの方が可愛いけどな!
少し歩くと、目的の泉が見えた。
泉に何の用かと言うと、ここの水は栄養豊富らしく、風邪を引いたらこの水を飲めって、よく言われる。
実際、2日飲めば治るからすごい。
アサメちゃんのお父さんが、どうやら重病らしくて薬でも間に合わないらしい。心配だから、気休めだけでもこの水を沢山持っていこうということになった。溢れ出る水は、キラキラと日光を跳ね返し、美しかった。
「アサメちゃん、大丈夫?持てるかな?」
「大丈夫だよ!パパのためなら、いっぱい持っていけるよっ!」
「…そっか。」
そんな親孝行なアサメちゃんに、内心暖かくなった。
汲んだ水を持ち帰り、アサメちゃんの家を訪ねる。すると、ベッドで横たわる男性がいた。ちなみにまだ27歳らしい。
「アサメ………?どこへ行っていたん………あれ、フォンさんの家の…」
「こんにちは、サク・フォンと言います」
俺は丁寧にお辞儀して、挨拶をした。
アサメちゃんのお父さんは、ニコッと微笑む。
「あの、体調が優れないと聞いたので、気休めですが、コレ………!」
「…!ありがとう、サクくん…。心配かけて…しまったようだね…」
「い、いえ!……あの、それと」
「どうしたんだい……?」
俺は、ひとつ試したいことがあって、それをこの人で悪いがやらせて貰おうと思った。それは
「アサメちゃんのお父さんの病気、もしかしたら良くなるかも知れないんです…!」
とある治癒魔法だった。