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少女との出会い3

 政府機関は上段街にある。一行は滝の広場から階段を上り、大きな木造の建物へと入った。


 一国の中枢を担う場所というだけあって、警備の兵がやたら目につく。それでも警備が厳重かと問われたら、容易にうなずくことは出来ない。警備の兵は立っているだけに等しい。有事の際には動くのだろうが、有事を未然に防ごうという気概は感じ取れない。

 このような場所とは無縁である冒険者二人が簡単に入れたのも、その気概の低さゆえかもしれない。あるいは、ジュードの姿があったからか。


 いずれにせよ、すんなりと建物内に入れた二人は、ジュードによってエリオットが待ち受ける部屋へと案内された。

 ノックもせずに扉を開けると、エリオットが驚いたように目を見開いた。しかし、無遠慮に部屋へ入ってきた二人の姿を見ると、すぐさま口元を緩める。


「リサさん、ウィルさん。ご無沙汰しております。ジュードもご苦労様です」


 エリオットが座っていた椅子から立ち上がり会釈する。だが、挨拶をされた二人は彼に目をやらなかった。この場におよそ似つかわしくない存在を見つけたのだ。


 それは少女だった。栗色の髪をした十代半ばと思しき少女。三十をすぎたばかりのエリオットの娘にしては大きい。

 少女は物怖じせずにリサとウィルを見返したが、その表情はどこか暗い。


「挨拶はいい。どういうつもりだ?」


 腕を組み、低い声音で問う。これは想像していたよりも厄介なことに巻き込まれたと直感した。


「まぁ、子供の前ですから落ちついてください」

「さっさと用件を言え」


 用件を促されたエリオットは短く息をついた。これ以上無駄な話を続けては、さすがに怒りを鎮められないと察したようだ。


「判りました。今回お二方をお呼びしたのは、他ではありません。依頼があるからです」

「依頼?」


 エリオットが神妙な面持ちを取り繕い顎を引く。


「ええ。この子の面倒を、しばらくの間お願したいのですよ」


 リサとウィルは思わず項垂れた。依頼だというから気を引き締めたが、身体から力が抜けてしまう。


「子守りは冒険者の仕事じゃない」

「その通りだ。おまえが面倒見ればいいだろ?」

「最後まで話を聞いてください」


 二人は言いたりない文句を呑み込む。


「この子は、エルナ・サージェントという孤児です。少し前までこの街の養護施設にいましたが、火事によって施設は全焼してしまいました」


 養護施設にいた者の中には、命を落とした者が多数いたようだ。命を落としてしまったのは子供だけではない。逃げ遅れた子供を助けようとした大人たちも死んでしまった。大きな施設ではなかったが、助かったのは数える程度だったようだ。


「孤児ねぇ……」

「他の助かった子供たちは引き取られたのですが、この子は冒険者になりたいと言っていまして、それでお願い出来ないかと」


 この年齢では冒険者として認めることは出来ない。だから、見習い冒険者としてリサとウィルに預けようと考えたらしい。


「どうして私たちなんだ?」


 このエルナという少女の事情は理解した。しかしながら、リサとウィル以外にも冒険者は山のようにいる。二人を選んだ理由はまだ話されていない。


「無茶なお願いをしていることは承知しております。ですが、あなた方は私が最も信頼する冒険者です。この子の悪いようにはしないでしょうし、あなた方以外にこんな無茶な頼みを聞いてくださる方はいませんよ」


 彼は続ける。


「それに、エルナさんがあなた方を選んだんです。どうやら、お二人に憧れているみたいで」

「憧れてるねぇ……。俺たちもずいぶんと有名になったもんだ」


 冒険者となって一年と半年が経つ。新米を脱したといえ、まだまだ歴戦の冒険者ではない。それでも、二人の名は至る所で囁かれる。実力もさることながら、それよりも遥かに大きな要因がある。


「アーク出身の冒険者、か……」


 アーク出身の冒険者はリサとウィルだけだ。毛色の違う輩は、好奇の目にさらされる。


「確かに、アーク出身ということが噂を拡散させる要因にもなっているでしょう。それが、レヴェリス様を退けたほどの実力者ならばなおさらです。少なくとも、エルナさんはお二人のご活躍を耳にして選んだようですが」


 ウィルがこれ見よがしに溜息をつく。


「そりゃ、アーク出身ってことに憧れる奴はいねぇだろ」


 同感だ。思い出さずにはいられない。外界ではアークの常識は通用しない。アーク出身の彼女たちの言葉を嘲笑する者は数多くいた。


「私は一度行ってみたいと思うのですが」

「行ったところで面白いことはないぞ」


 リサの言葉にエリオットが苦笑を漏らした。そして、逸れてしまった話を元に戻そうと一度咳払いをして見せた。


「それで、どうでしょうか? 引き受けていただけますか?」


 少女の希望を叶えようと依頼してきたのは、この男なりの気遣いかもしれない。面倒事に巻き込まれるのはごめんだが、どうしてか断る気にはなれなかった。

 ウィルを一瞥すると、彼は仕方ないだろうと肩をすくめて見せた。どうやら、意見が一致したようだ。


「判った。引き受けるよ」


 エリオットは承諾の言葉に胸を撫で下ろした。普段面倒事を押し付ける時は満足そうに笑って見せるのだが、今回は拒否されても仕方ないと思っていたのだろう。


「ありがとうございます、リサさん」

「俺にも言えよ」

「ええ。ウィルさんも、ありがとうございます」


 彼は低頭して礼を述べた後に、机の引き出しから紙を取り出してリサへと手渡した。


「今回は特例なので、注意事項です。それと、私からの助言もよろしければ参考にしてください」


 手渡された書類に目を通す。一枚目には回りくどいことが書かれているだけだったが、問題は二枚目だった。題目は、助言と注意事項なるものである。

 最後の一文まで読み、リサは紙をくしゃくしゃに丸めた。無性に腹が立ったので、丸めた紙を暖炉に放り投げるが、それでは足りない。短い呪文を唱え、暖炉に放り投げた紙を燃やしてやった。


「ああ! せっかく書いたのに、酷いじゃありませんか……」


 舌打ちひとつ。この男が気遣うわけがなかった。すべては面倒事を自分の手から離してしまいたかっただけだ。


「こんな注意書いるか。大体、持っていて本人に読まれでもしたらどうするんだ?」


 今やただの灰になってしまった書類を指差して言う。書かれていた内容が気になったのか、初めて少女が口を開いた。


「エリオットさん、そんなに失礼なことを書いたんですか……?」

「失礼も失礼だ。少しだけ教えてやる」


 リサは先程読んだ書類の内容を口にした。

 書かれていた内容はこうだ。健啖家、痩せの大食い、四六時中腹をすかせている、生意気、可愛げがない等々。他にも色々と書かれていたが、この少女にすべてを話すのは酷というものだろう。


「ひっどーい! エリオットさん、わたしのことそんな風に思ってたんですね。幻滅しました」


 少女が大声で嘆く。今まで大人しくしていたのは、猫を被っていたからのようだ。それとも、空元気なのだろうか。


「いえ、これはあくまで一般的な見解ですから、私がというわけでは……」

「つまり、他の奴らも同じこと思ってるってのがエリオットの見解だ」

「それは酷いな」

「待ってください……!」


 ウィルの減らず口にエリオットは動揺する。この男がこんなにも動揺するとは、何とも意外だった。


「なおさら酷いじゃありませんか、エリオットさん……」

「ああ。最低だ」

「リサさんまで、やめてくださいよ」


 項垂れる大の男と少女に、リサとウィルは口元を緩めた。エルナには悪いが、これでエリオットも少しは頭を冷やすだろう。


「まぁ、少しは参考にさせてもらうさ」

「しなくていいですよ。そんな注意書なんて、燃やされて当然です」


 少女が口を尖らせて言う。なるほど。確かに、可愛げはないかもしれない。


「話がまとまりましたね」


 静観に徹していたジュードが、項垂れている上司に言った。すると、エリオットは気を取り直すように深呼吸した。


「そうですね。少しばかり不服ですが、この件はよろしくお願いいたします」


 彼はそう言うと椅子に掛けていた外套を手にする。そして、リサとウィルに向かって低頭した。


「申し訳ございませんが、私はこれからヴァイデへ向かわねばなりません」

「ヴァイデへ?」


 ヴァイデは南方大陸西部に位置する国だ。雄大な草原を有する国家で、農業の都として知られている。


「ええ。ヴァイデの元首が結婚されるんです。前回も盛大にやったというのに、性懲りもなくもう一度です。そのせいで休日返上ですよ」


 エリオットが珍しく小言を口にする。休日が潰れてしまったことが不満のようだ。


「……再婚、ですか?」

「そうです。エルナさんもリサさんも、変な男に引っ掛からないように気をつけてくださいね」


 リサは無意識のうちにウィルを一瞥していた。否、彼女だけではない。ジュードもウィルを横目で見ている。


「待てよ。何で俺を見るんだ?」


 無遠慮に視線を注がれた男が、不服だとばかりに眉根を寄せる。だが、答える気にはなれず、リサはエリオットへと視線を戻した。


「おまえも大変だな」

「仕事ですからね。ですが、念のために申しておきますと、ジュードとソフィアさんの結婚式ならば大歓迎ですよ」


 満面の笑みを浮かべるエリオットに、リサとジュードは溜息を漏らした。まるで早く式を挙げろと言われているようだ。


「おまえの方こそ、そろそろじゃないか?」


 エリオットに婚約者がいるかは判らない。しかしながら、すでに適齢期であることは事実だ。他人の結婚を待ち望むよりも、自身の身の振り方を考えるべきだろう。


「手厳しいお言葉ですが、リサさんはどうなんですか?」

「いるわけないだろ。こんな女らしさの欠片もない奴」


 腹立たしいことに、答えたのは質問された本人ではなくウィルだった。失礼にもほどがあるが、事実なので反論はしない。


「言ってろ」


 二人のやり取りに、他の者たちは苦笑を隠せなかった。二人が共にいる限り、互いにそのような関係に発展する相手が現れることはないだろう。無論、二人がその存在を求めているかどうかは別の話だが。


「この話はここまでにして、行きましょう。エントランスまでお送りしますよ」


 これがエルナ・サージェントとの出会いであり、二人と行動を共にする理由だ。

 そして、エリオットと別れたその日の夜。リサたちは注意事項に書かれたことを、思い知ることになった。


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