大輔
それから大輔とメールのやり取りが始まった。
大輔はいつも優しい。
おしゃれなカフェや動物が好きっていうこともわかった。
音楽の趣味も似ていた。
GReeeeNも好きだという。他にも湘南乃風も好きらしい。
カラオケでは控え目であまり歌っていなかったが、カラオケも好きだという。
だ『まゆりちゃんはどんなのが好きなの?』
私『GReeeeNは好き。あとはL'Arc〜en〜Cielとか』
だ『ビジュアル系も好きなんだ?』
私『まあまあかな…。』
普通の会話なのにドキドキする。
それはユウタに対してのドキドキではなく、なにか外れたことを自分が言わないか、それがドキドキした。
ユウタとだったら気楽に『ホルモン好きー!』とか言えたのに…。
おしゃれなカフェの話とか、楽しいけれどなにかもの足りない。
いつでもユウタと比較してしまう。
半年も一緒にいたから、無理ないか…。
また恋愛に臆病になってる自分がいる。
だめだ、だめだ、と自分に言い聞かせる。
ユウタとまた会えないかなとか考えてる自分がいる。もう、終わったはずなのに。
あれから、非通知の電話も着信拒否している。
もう連絡は取れない。
何度も携帯に手をやっては、着信拒否を解除しようかと迷う。
そのたびにだめだめ、と自分に言い聞かせる。
だってあの人には彼女がいる。
不毛な恋なんてごめんだ。
そもそも、なんで好きになったんだろう…。
あの歌声が、仕草が、笑い声が好きだった。
土曜日の夜に大輔と会うことになった。
おいしいおしゃれなカフェへ連れていってくれるという。
土曜日はいつもユウタのための日だった。
だから、土曜日に予定を入れるのは嫌だった。
その土曜日に予定を入れる。それはユウタを忘れる第一歩だった。
待ち合わせより少し早く着いてしまった。
カフェに行く前にコーヒーなんて邪道か、とコーヒーショップに入るのをためらった。
すると、メールが。
だ『待ち合わせより少し早く着いちゃった。ゆっくり来てね』
大輔からのメールだった。
急いで待ち合わせ場所まで戻ると、大輔が驚いて言った。
だ『ごめんね、急がせたかな?』
私『ううん、私もさっき着いたから。』
二人は歩き始めた。
私『大輔さんはいつもカフェに行くんですか?』
だ『そうだなぁ、時間があるときにゆっくりと、本読みながらって感じかな。』
私『そうなんですね。私は最近カフェからは遠のいちゃって…。』
だ『仕事が忙しいとか?』
私『いえ、仕事はそんなには忙しくなかったんですけど、友達がカラオケ大好きで、いつもカラオケばっかりで…。』
だ『ふうん、でも、楽しめる仲間がいるっていいんじゃないかな?』
私『…。』
友達、と言ったときに、胸がズキンとした。
お店に到着した。少し薄暗い店内に、おしゃれな椅子やテーブルがあった。北欧系…といったところか。
昔ならこんな店でデートなんて、きゅんきゅんしていたのが、年齢なのかユウタのせいなのか、きゅんきゅんこない。
むしろ自分が浮いて感じた。
私『私、こんなところほんとに久しぶりで…。』
だ『そうなんだ。ここのオススメはオムライスだよ。食べてみる?』
私『はい!』
こんな店にユウタと来れたらいいのに…。ってユウタの柄じゃないか。
オムライスは本当に美味しかった。
コーヒーを飲んでいると、電話が鳴る。
なんとなく見たことのある番号だった。
私『ちょっとごめんね。』
というと、大輔はどうぞ、とジェスチャーした。
私『もしもし?どちら様で…。』
ユ『俺。』
一瞬で凍りつく私。
この番号…!マルオの番号じゃん!!
私はできるだけ冷静に、
私『なんのご用でしょう?』
と言った。
内心焦りまくりだ。
ユ『今なにしてんの?』
私『ちょっと友達とご飯に…。』
ユ『男か?』
私『え…。まぁ、そんなところ。』
ユ『お前はまた、そうやって浮気するんだな。』
私『浮気って、ユウタには関係ないじゃん!』
思わず大声になって、辺りをキョロキョロする。
よかった、さほど気にされてない…。
私『とにかく、もう連絡はしないで。(ブツッ)』
なんなのさ、なんなのさ!今頃電話してきて、何をいう気だったの?
私『ごめんね、気にしないで』
だ『別に構わないけど、大丈夫なの?もしかして彼氏がいた?』
私『ううん、勝手に向こうが文句言ってるだけ。気にしないで…』
と、また電話が鳴る。
私『いい加減にしてよ』
ユ『相手の男に電話代われよ』
私『なんでよ』
ユ『話がしてえんだよ』
私『そんな失礼なことできないよ、電話を代われなんて、あんたなに考えてるの?』
すると大輔さんが、
『電話代わって』
と合図してきた。
いやいや、代われませんとも。この男、代わったらなにいうかわかりません。
それでもごねて聞かないユウタ。仕方なく大輔に代わった。
だ『はじめまして。まゆりさんの友達の大輔といいます。』
あとは、大輔さんが、はい、はい、と相づちをうっているだけ。
やがて会話は終わり、電話を代わった。
ユ『じゃ、そういうことで。』
といきなり電話を切られた。
私『ほんとごめんなさい。やつはなんて?』
大輔さんは優しく微笑むと、
だ『『あいつ、俺のこと好きなんです、よろしく』だって。いい彼氏じゃないの。』
私『彼氏ってわけじゃ…。』
私は結局大輔に今までのことを一通り話した。
コーヒーは三杯目に突入した。
あのやろー、いつも私を困らせてばかりで、ふががががが…。と内心思っていた。
一通り話を聞くと、大輔は、
『同棲してるかどうかはわからないけど、彼はまゆりちゃんのこと、好きなんだと思うよ。一度素直に話をしてみたらどうかな?』
と言った。
私は帰りの車の中でも、ずっと謝り通しだった。