お初にお目にかかります。
短編「Bad tast」の少し前の話です。
…ん?
少し綴りが間違っているかも…。
「…ということなんだけど、」
理解出来るかい?と、“彼”は言った。
なにしろ寮に戻る途中にいきなり連れてこられた俺は、この状況の意味が分からない。
「…新しいタイプの拉致か?何やら地面が光ったようだったが…。」
「あぁ、そうだったね。まずはこの世界のことを説明しないといけないわけだ。」
ぼそりと呟き続けられた内容は、とうてい信じがたい物だった。
「魔物、魔法、貴族…いったいどんなおとぎ話だそれは。」
「まぁ君たちの世界は近代的だものね。ディファーリアはかなり熱心だし。」
「…そこが一番の疑問なんだが、…えぇと、」
ん?と言いたげな顔で首を傾げる男に、さすがの俺も言いよどむ。
それでも静かに口を開いた。
「神さま、…だと?」
「うん、そうだよ。僕はそこまで力の強い方じゃあ無いんだけれどね。」「…これは現実か?」
あっさり肯定されては逆に理解しがたい。しかめっ面をすると、彼はますます楽しそうに笑みを浮かべた。…まずそこからして疑問なんだ。彼が目の前にいるということその物が。
「―…じゃあ、その自称神様が、」
何のために俺なんかを?
呟いた言葉に、彼は愉快そうに今度ははっきり声に出して笑う。なんかとはまたご謙遜だ、と言って。
「東藍民主主義共和国陸軍第四部隊曹長、通称“狂犬”くん…だったかな?君の武勇伝は全て、僕の頭に入っている。」
「……。」
揶揄するように自分の頭を指さしてから、相変わらず楽しそうに彼は続ける。
「“なんか”というには…余りに華々しくて血生臭い経歴だね?」
からかう視線にため息をついてから、俺も口を開いた。
「全部知られているというのはいい気はしないが…まぁこの際仕様がない。で、あなたは俺にいったい何を求める?」
神だという存在に色々(何故言葉が通じるのかだとかここに連れてきた方法だとか)突っ込むのも野暮だと率直にそれだけを尋ねる。返ってきたのは頼みたいことがあってね、という簡潔な一言だった。
「―…神様が、か?」
「だからこそさ。僕では干渉できない、いや…しちゃいけないことでね。“神々”の最大のタブー。だけど、君を介してならギリギリokかと、ね。」
「―――なるほど、」
だからこその自分か。ひそりと呟けばどうやら正解だったらしい。その通り、と頷かれた。
「…誰を?」
「いやぁ、明確にこの人を、という訳じゃない
。」
ふわり、と彼が浮かべたのは優しげとは言い難い笑み。察しが良くて助かると目を細められ、神様ってこんなものなのかと俺は苦笑した。
「ストーリー通りに、“お話”が進むよう、僕が指定した人を……消してほしいんだ。」
明言。
危険かつ迂闊なことだ。これが俺の世界なら録音されて言質とられて脅されるだろう。それにしても随分月並みな言葉だとぼんやり考えていると、彼は更に続ける。
「異世界より来たる勇者の話を…知っているかい?」
―…きっと俺にこの絶対神からのお願い、否メイレイを拒否する手だてなど無い。出来ても多分犬死にで。
――ならばせめて。
「…聞いたことがないな。」
遠まわしの肯定に、悪趣味な神はその笑みを深めた。
実は薨のトリップには、神様たちの色んな思惑が絡んでいました。
そこまで書ききれてませんが。