弟5話 ー告白ー
「ちょっと待てよ! 待てって!」
俺をつかむ康介の右腕を無理矢理振りほどく。
「いきなり告白するとか、無理に決まってんじゃんか!」
「何をいまさら! いままで散々思い悩んできたではないか! 今こそ、ケジメをつける時だ!」
康介はまた腕を引っ張っていく。強制的過ぎだ……
「なんで今なんだよ? 別に今じゃなくたって……」
突然、康介が振り向いたのでしゃべるのをやめてしまった。
「な、なんだよ……」
「おまえ、今じゃなくて良いって言ったな」
「あ、ああ」
「じゃあ、いつやるんだよ?」
「え……?」
「じゃあ、いつ告白するんだって聞いてんの!」
康介の口調は強かった。ちょっと言い返せない……
「わからないんだろ? いつ告ればいいか。なら今だよ!今!」
完全に反抗できなくなった。
告白しなければならない……
今から……
頭の中が真っ白になった。
「な、なな、なんて、い、言えば、いいか、なあ?」
「そんなの自分で考えろ!」
言いながらも康介はぐいぐい俺を引っ張っていく。
俺はもう何の抵抗もできず、素直に従うしかなかった。
「着いたぞ」
到着にそう時間はかからなかった。
行き先は教室だった。
「なんで教室なんかに?」
「中にに朋美ちゃん待たせてる。早く行って来い!」
康介が無造作におれの背中を叩いた。何度も何度も。
康介は表情を見られまいと下を向いているが、俺はその表情を見てしまった。
泣きそうな顔だった……
「康介……おまえ……」
「ほら! 早く行けよ! 一発かまして来い!」
康介は、取りはからってくれたのだ。俺に告白させるために、この状況を造ってくれたのだ。
康介も朋美が好きなのに……その想いを飲み込んで……
俺は申し訳なくなった。でも、ここまでしてくれた康介に申し訳なさそうな態度を取る事は、もっ
と申し訳ない。
康介……おまえは……
「康介、おまえが俺の親友で本当に良かった」
「……くっ。早く行けよ……」
康介本当にありがとう。
俺は教室の前に立つ。
これから、朋美に告白するのだ。
だが、俺は緊張していなかった。逆に晴れやかな気分だった。
これで、今までの想いを伝える事が出来る。六年間溜め込んできた想いを、伝える事が出来る。
教室の扉を開ける。
「旬ちゃん……」
朋美は俺の席のそばに立っていた。
今日ものびた長い髪を、両肩のあたりで二つの束にしていた。
いつも同じ格好なのに、いつもより奇麗に見えた。
「朋美……」
俺は朋美に歩み寄る。
朋美が俺の顔を見上げてくる。とろんとした、瞳を覗き込むと吸い込まれてしまいそうだった。
そんな朋美の目を見ていると、朋美への想いがあふれてくる。
ずっと、好きだった。
ほんの幼い頃から一緒だった。小学校に入っても一緒に遊んだ。高学年に上がっても朋美が気にな
って仕方なかった。中学で別れてしまう事を知り、本当に悲しかった。中学に入っても朋美を想い続
けた。
そして、高校で再会して本当に嬉しかった。
俺の中には朋美しかいない。ずっと前から。
そう……ずっと……ずっと……俺は、
「ずっと俺は、朋美の事が好きだった」
はっきり言えた。もじもじしないで、自分の中に溢れる想いを素直に表現出来た。
朋美にはちゃんと伝わっただろう。
俺はこの短い使い古されたフレーズに、俺の全てをのせたのだ。
朋美は未だに何も言わない。黙って下を向いている。
俺はその表情を伺う事は出来ない。
教室の窓からはちょうど夕日が見えた。夏が終わり、日が短くなり始めたこの時期の太陽は、ちょ
うど地平線に差し掛かっている。
その夕日が、朋美の瞳から落ちた雫を、宝石のように輝かせた……
俺が朋美と付き合う事になった日から数日後。
康介が面白い計画を提案してきた。
『LTUS計画』
いかにも中2臭いネーミングだが、内容は面白い物だった。
『星空の下で語り合おう』
それだけがテーマだ。
Let's Talk Under the Stars 計画ということだ。
康介らしいネーミングだが、内容はなかなか粋だ。
俺たちの地元の駅から電車で30分くらいの駅のそばに海がある。そこの砂浜で星を見ようと言うわ
けだ。なんだか発案者が明らかに邪魔なシュチュエーションだが……
しかし、三人とも賛成だったのですぐに準備が始められ、発案から一週間で実行された。
9月下旬の海ははっきり言って寒かったが、俺たちは気にせず遊び回った。
到着したのが夕方だったので既に日は沈み始め、あたりは暗くなってきた。
「あっ! 星出てきたよ!」
「本当だ!」
「うお〜!本格的に計画実行だ!」
そんな些細なことで盛り上がる程、俺たちのテンションは最高潮だった。
そして、刻一刻と時間は過ぎた。
気がついたら辺り一面、星の海だった。
「すごいね……奇麗……」
「ここで流れ星でも流れたら百点なのにな」
「そんな都合良く行くかよ」
康介がもっとロマンチックな状況を求めているのは、ちょっと笑えた。
俺たちは康介が持ってきたブルーシートの上に寝転がってかなり長い時間しゃべっていた。お互いを馬
鹿にしたり。康介の恥ずかしい話をして朋美が笑い転げたり。本当に楽しい時間だった。
星空はあまりに奇麗だった。黒いカーテンに宝石を散りばめたような空を見ていた。
「朋美ちゃん寝ちゃったね……」
「さっきからはしゃいでたからな」
そこからは俺と康介でしゃべった。
「康介。今回のことは本当ありがとな」
「何言ってんだよ、改まって。こんな計画何回でもたててやるよ」
「いや、計画じゃなくて……ほら……」
「告白の事か? いいんだよ別に」
「だっておまえも朋美の事……」
「俺が決めた事だ。おまえは気にする事ない。おまえに朋美ちゃんは似合わないと思ったら、俺が全力アプ
ローチしてたぜ」
「でもおまえ、あの時泣いてたよな?」
「う、うるせえなあ! ちょっとばかし朋美ちゃんから暴露されてたんだよ……」
「じゃあ、やっぱ朋美も俺の事……」
「小4の時からだってよ。おまえより長い」
「そうかあ。それは考えなかった……」
そのとき俺はなんど康介に礼を言ったか覚えていない。
それでも俺の感謝の気持ちは伝えきれなかったかもしれない。
「康介」
「ん?」
「やっぱおまえは、俺の親友だ。ずっと一緒にいよう」
「人にキューピットやらせといて、それで〆かよ。まったく……当たり前だろ? ずっと一緒だ」
そのあと台詞がホモ臭いとふたりでゲラゲラ笑った。
ずっと長い事笑ってて疲れてしまった。そして横になる。
いろんな色の星々が輝いていて本当に美しい星空だった。
またこんな風に見れたらな……
俺は心からそう思った。
最後までよんでいただき、ありがとうございました。
初めて書いた小説なので自信がありません。
アドバイスなど頂けると、とても嬉しいです。