第4話 ー誤解ー
また一つ授業が終る。今のが四時間目だから、もう昼休みだ。
「キリーツ。キヨツケー。レー」
どっと賑やかになる。弁当を食べるために隣の席に移動したり、机を動かしたりする奴も居る。俺
もいつもは康介と食べるために席を移動するのだが、あの日以来気まずくて康介とあまりしゃべって
いない。もう4日目くらいだろうか。
あの日の翌日、康介が話しかけてくれたが、俺は素っ気ない態度を取ってしまった。康介は俺のこ
とをそっとしておこうと思ってくれたらしい。今の俺にとって、その判断は助かった。俺のせいでぎ
くしゃくしてるのにまた康介に気を使わせてしまっている。
本格敵にややこしくなってしまった。
相変わらず朋美とはしゃべれないし、康介にも気を使わせてしまう。
本当に俺って情けない。今、教室の中には朋美も康介もいない。別にいてもどうにか出来る自信は
ないが。
昼休みは全部で45分ある。今は弁当を食べる気にはなれなかったので、校舎の中を適当に散歩し
てみることにする。
一年のときはよくこうやって昼休みに散歩した。中学の頃から俺はひとりを好むタイプなの、康介
以外とは弁当を食べたりしなかったからだ。友達がいないわけではなかったが、一緒にいる価値があ
ると思える奴がいなかった。だから、康介が部活の集まりとかでいない時は一人でぶらぶらやってた
のだ。
まず教室を出て左に行くと国語科の職員室があって、その奥には何かの倉庫があるだけで何も面白
くない。だからとりあえず右に曲がる、右にはD組とE組の教室があって、その向こうに渡り廊下と
階段がある。階段を下りてまっすぐいくと昇降口に続く廊下で、そこに売店が出ているので、そこに
行ってみるのも良い。
階段を下りずに渡り廊下の方に行くという選択肢もあった。渡り廊下は二本あって、そのうちの一
本が俺のお気に入りだった。その渡り廊下は、旧校舎と新校舎を結ぶ渡り廊下だが、旧校舎は耐震強
度が足りないために近年しようできない。なのでその渡り廊下に人が来ることはほとんどなく、しか
も途中で直角に曲がっているので、奥に行けば一人になれる良い場所だった。
「久々に行ってみようか……」
なんだかあの場所を思い出すと、突然一人になりたくなった。
2年になってからはあまりいかなくなっていたから久しぶりだ。
行って特に何かをするわけではないが、あそこに行けば落ち着けるような気がした。行き先を決定
し、すでにボーっとし始めた頭で考えてみる。
何で俺、朋美のことこんなに好きでいられるんだろう……小学校5年生くらいから高校2年生まで
ずっと片思いだ……
自分で言っても馬鹿らしいと思ってしまう。
そんなことを考えていると渡り廊下の奥はもうすぐそこだった。
「久々に一人になりますか……」
しかし、渡り廊下は俺を一人にはしてくれなかった。
そこには、康介がいた。
「しゅ、旬太!」
とびっきり驚いた顔をしている。
それもそのはずだ。
「旬ちゃん……」
俺の事を『旬ちゃん』なんて呼ぶのは一人しかいない。
他でもない。朋美がいたのだ。
朋美が少し焦ったように、そして何か言いたそうに、口をモゴモゴしているが声は出てこない。
康介が焦ってフォローに入ってくる。
「旬太! これは、違うんだ! お前が思ってるような事では絶対ない!」
俺はもうそんな事はどうでも良かった。
どうでも良くなった。
俺は何も言わなかった。
黙って、その場から走り去る。
後ろから康介の呼び声がするが、その声を振り払うように走り続けた。
あの日から。渡り廊下ではちあわせたあの日から。
俺は康介を無視した。そんなのは理不尽だって事くらい分かってた。康介だって好きな人はできる
し、告白だってする。
そんなことは分かってるのに。べつに康介が許せないとかそういうのじゃないのに。なぜか俺は康
介を無視してしまった。
「なんで俺はこんなに馬鹿なんだ……もう何にもわかんねぇよ……」
俺のせいだ。全部俺がややこしくしてる。
俺は一人で登校しながらそんな事をつぶやいた。
「今日もまた、退屈な一日が始まります……」
最近は退屈を通り越して憂鬱だった。
もう学校に行っても康介とはつるめない。康介と関われない学校生活は本当に面白くないものだっ
た。改めて康介が俺にとって大切な人間だと認識する。
でも、前みたいに接する事が出来ない。
なんでこんな風になってしまったんだ。
俺が考えるのはそんな事ばかりだった。
そして学校に到着する。
教室に入るとすぐ朋美が目に入った。渡り廊下であった日から毎朝、朋美は何か言いたそうに俺の
方を見てきたが、お互い声をかける事はしなかった。
そして、康介はというと毎朝遅刻ぎりぎりに来た。前からそうだったが。
朝のチャイムが鳴ると、豊崎先生が教室に入ってきて、ホームルームを始める。またいつもの繰り
返しだ。
ごちゃごちゃ考えてると、時間というものはあっという間に過ぎていく。
今日もまた一日が終る。
そのまま、何日か過ぎていった。
康介とも誰ともしゃべらず。
そして、ある日の放課後。
康介に突然呼ばれた。
「おまえ、ちょっとついて来い」
かなりの剣幕だった。
しびれを切らしたらしい。俺はとくに何も考える事もなく、ついて行った。
行き先は、あの日の渡り廊下だった。
「おまえ、いい加減にしろよ」
康介の第一声はそれだった。俺はもう何とでもなれという様な感じで受け答えした。
「何をだよ? 俺がお前を避けてる事か?」
それを言った瞬間、康介の表情がさらに厳しいくなった……様に見えたが、はっきりとは見えなか
った。
康介に殴られたのだ。左頬を。思い切り。
「ツッ……!」
俺はその場に倒れ込んだ。
「いつまでそうやって逃げてんだって言ってんだよ!」
「何の事だ!? おまえ、意味わかんねえよ!」
「朋美ちゃんの事だよ! 朋美ちゃんのこと、いろいろ聴いたんだよ!」
「なんだ? 朋美が好きで、朋美を嗅ぎ回ってたってか? 馬鹿か!」
「朋美ちゃんとおまえの関係だよ!」
「……!」
朋美と俺の関係……
幼なじみってこと知ったのか?
なんで? 本人から聞いたのか?
「おまえと朋美ちゃん、幼なじみだそうじゃんか」
「なんでそのこと……」
「朋美ちゃんと同じ小学校出身の奴にきいたんだよ! 俺だっておまえの様子が明らかに変だって気
づいたよ。だから……もしかしてと思って……まさか本当にそうだとは夢にも思ってなかったけど
よ。もしおまえがあそこまで変になっちまう理由があるとしたら、朋美ちゃんがおまえの片思いの
相手かもって思ったんだよ。それで、聞いて回ったんだよ。」
「なんでそこまで……なんでそこまでわかったんだよ? なんでそんな、そんな途方もない推測たっ
たんだよ!?」
「おまえの変わり方が異常だったからだよ!」
「……」
「おまえ……こんなこというの気持ち悪いけどよ……俺の事、心から友達だと思ってくれてただろ?
周りの奴らみたいな中途半端な友達関係じゃなっかっただろ? だから……そんな俺にさえあんな
態度とるようになっちまうってことは……俺よりもっと大事な物がどうにかなっちまいそうだった
ってことだろ?」
「……」
なにも言えなかった。
こいつは……康介は……
「おまえにとって、一番大事なもん。そこまで考え至ったら後は簡単だったよ。最初は信じられなか
ったけど。確かめてはっきりした。」
「康介……俺……」
「別に俺に黙ってた事どうこう言おうってんじゃない! 俺が……おまえに……朋美ちゃんが好きだ
って言ったとき……なんで黙ってたんだよ?俺に打ち明けてくれなかったんだよ?」
「だって……そんなこと言ったら……」
「フェアじゃないからってか? 打ち明けたら俺が朋美ちゃんのこと遠慮すると思ったからか? そ
りゃあそうだろ。友達が小学校の頃から恋してる相手と、その友達を差し置いて恋人になろうなん
て気が引けるよ。」
「じゃあ……じゃあ、どうしろってんだよ!?」
「なんも気にしないで、打ち明けてほしかった。」
親友ってそんなもんだろ? 康介はそれだけきっぱり言って、急に表情が柔らかくなった。
「康介……」
康介の方が、完全に俺の上を行っていた。俺はどうしたらいいかわからなくなって、途方にくれて
ることを、こいつはわかってくれていた。
「やっぱ俺……康介がいないとダメだわ……」
そういった俺をみて、康介はふふんっと鼻で笑った。
「俺だって、旬太がいないとダメだよ」
「へへっ……気持ちわりっ……ホモかよ……」
不覚にも、泣いてしまった。康介は……こいつは……
「さあて、これで仲直りだな! 旬太よ!」
「……?」
「告りに行くぞっ!」
「はっ?」
俺は状況がつかめなくなった。康介とこうして仲直り出来て、正直嬉しかった。しかし次の瞬間に
は……
「はああああああああ!?」
俺は床に倒れた状態のまま、康介に両腕をつかまれ引きずられていった。
今は正直に嬉しい。康介がやっぱり本物の親友だって確認んできた。
しかし……このあと……どうなんだろう……?