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5.恋愛?それより甥っ子ですわ。

「サラサ。お待たせ・・・あれ?どうしたの?」


 しばらくしてディランが戻ってきたのだが、サラサは背を向けたまま呆然としていた。彼女の中でさきほどの出来事は最大級の危険信号が鳴り響いているのだ。だいたいそういう予感は当たってしまう。厄介事に首を突っ込んでしまったようだ。

 とりあえずこの場はなんでもないと理由を話さずに、怪訝そうにこちらを見るディランの視線も無視する。

 エスコートしてもらいながらディランの馬車に乗り込んだ。


「さて。なにがあったのか話ししてもらおうかな?まさか僕に何もなかったなんて通用するとは思ってないよね?」


 なぜかディランはサラサに関わる全てのことを知りたがり、兄以上に小さいころからなんでも話させられた。だから、ごまかせるとは思わない。ただ、きちんと落ち着いてから話したかったのだ。


「ねえ、ディラン。ソージュケル王子ってどんな方?」


 さきほど会った王子の名前を出して聞いてみる。私が知っていることはしょせんうわさ程度しかない。なかなか王族とお会いすることなどないからだ。サラサ自身興味がないからということもある。


「さきに僕の質問に答えてほしいんだけど・・・。それともその質問は関係しているのかい?」


 ディランはサラサがまったく関係のない質問をいきなり口に出してきたことに驚き咎めるようなことを口にし始めるが、サラサの真剣な表情を見て質問をする理由を推測した。

 サラサは無言でうなずく。


「・・・すごーく嫌な予感してるんだけど。とりあえず説明するよ」


 本当に嫌そうな表情を浮かべて説明してくれる。こんな表情を彼がみせるのは親族か親友のガイヤかサラサぐらいである。

 ソージュケル王子。正式名はソージュケル・レデ・オリエンデーン。ちなみにオリエンデーンはこの国の名前になっている。

 20歳のナーデル王太子に次ぐ王位継承者の第2王子で14歳。その若さでありながら文武ともにかなり優秀であると評判の王子だ。

 洗練された風貌の上に、性格はとにかく温厚でだれに対しても分け隔てなく接し、関わる者すべてから尊敬を集めるようなカリスマ性を持ちあわせている。

 ・・・・。あの王子のどこが?貴公子の仮面に隠しれない、にじみ出そうな性格の悪さを誰も見破れないのか。


「で。彼の王子の名前がここで出るのはなんで?もしかして会っちゃったとか?」


 再びサラサは無言でうなずいた。


「あそこで待っていたら庭園のほうから音がして、なにかしらと覗き込んだら王子がいたの」


 事実だけさらりと言うことにする。それ以上言うと目の前の幼なじみがもっと機嫌悪くなるのが眼に見えているからだ。しかし、長年の付き合いのある彼は見逃してくれなかった。


「ほんとにそれだけ?違うでしょ?」


 仕方ないので一つ大きなため息を着きながら正直に話しする。それでも最後に言われた言葉は言わないでおく。

 最後まで聞き終わると、ディランはこの世の絶望を味わうように、ずいぶん大げさに頭を抱える。


「あーあ。僕がせっかく虫が付かないように誰もいないところに連れていったのに、なんで自分から厄介な虫に近寄るかな~」


 お、王子まで虫扱いですか?

 どう考えても不敬罪が免れない台詞に彼の並々ならぬ怒りを感じる。


「別に名乗られてないし、名乗ってもいないから大丈夫よ」


 予想以上の彼の反応にサラサは、全然思ってもいないことを口にする。でも事実は事実だ。大丈夫でないだろうとどこかで確信あるのだが。


「あのね、サラサ。君の容貌で君がだれか分からない奴なんかいないし、会ったことがなくても周りに聞けば一発で素性なんかわかるんだよ?自覚ある?」


 たしかに変に目立ってしまう容貌のせいで知らない人まで自分のことを知っていることは常だし、さきほどの舞踏会などでも嫌でも様々な視線を感じていた。

 だから社交界とか舞踏会とかいやなのよね。


「虫も何も、まだ十四よ?それに王子様なんだから道ですれ違っただけの女なんかすぐに忘れるわよ」


 なんとか幼なじみの不機嫌を治したくて、ことなかれ主義のサラサは続けてなんてこともないのよって感じで努めて軽そうに言う。しかしそれに返ってきたのは大きなため息だった。


「君はそのきつい孤高そうな美貌と性格の違いに気がついている?表面上の付き合いなら見逃してくれるだろうけど、人が良すぎるところまで見せてしまって興味持たないような男はいないよ」


 それはディランだけでみんながみんな自分に興味持つわけないだろう。サラサはそう言おうとするが、その言葉は彼が不機嫌全開で続ける話に飲み込まれる。


「十四がなんだって?僕は十の時から君に求婚しているはずだよ」


 三歳の幼子にね。サラサは心の中でそうつぶやく。ディランは兄ガイヤと同じ歳である。初めて会った時から彼はサラサにたいしてこんな口説き文句を言っている。まだ恋だの愛だの全くわかっていない幼児にだ。サラサにしてみれば冗談にしか聞こえないのは当たり前と言えるだろう。だが彼はいたって本気だ。それを当の彼女はまったく分かっていないが。


「ねえ。やっぱり婚約だけしない?君がその気になるまでは手を出さないと誓うし、話を進めたりしないから。婚約者がいるってなれば今日みたいな場所に出席しなくても咎められないし、余計な男も寄ってこないし令嬢たちに絡まれることも減るよ?」


 ディランは真剣な顔で何度目になるか分からない提案をしてくる。


「それは逆でしょ。ディランと婚約したら宮廷中の令嬢たちを悲しませることになるわ」


 一見魅力的な提案に聞こえてしまうが、目の前の幼なじみが令嬢にとって結婚相手候補として上位ランキングに入っていることを知っているので、素直にうなずけない。

 逆に令嬢たちに絡まれなくても睨まれることになるだろう。

 それに、兄であるガイヤがそれを了承するとは思えない。一見冷淡そうに見えて中身はかなりのシスコンなのだ。

 病弱な父に代わって爵位を継いだ兄はたとえ幼なじみで親友であるディランでも、サラサの気持ちが固まらないことには婚約させることすらさせるわけがない。

 サラサとしても恋愛よりも今は愛くるしいジュリアンとの日々で満足しているので、もうしばらくはこのままでいたいのだ。しない訳にはいかないのは分かっているが、正直結婚の必要すら感じていない。

 それに名前だけの婚約者でいいと言われても周りはそうは見ないだろうし、いつ結婚するのか急かされるのが眼に見えている。今あの愛くるしい甥っ子と離れて結婚するなんて到底考えられない。


「わかっていますよ、お姫様。そういうことでなく、ジュリアンと離れたくないってのでしょ?」


 さすがによく分かっている。サラサにしたらほとんどの愛情は甥っ子に向かっているのだ。甥っ子の名前を出されて彼の姿が頭に浮かんでいる。


 ああ。もう寝ているよね?


 あの天使としか思えない寝顔。ぷくっと膨れたかわいい口からこぼれる寝息。クリンっとしたまつ毛は閉じられているとより一層長くみえる。

 サラサは宝物の甥っ子の寝ている姿を思い出して口元に微笑みを浮かべる。その笑みは見慣れているディランにとっても心をかき乱すほど美しいものだ。


「恋敵が2歳とはね・・・。まあこれで諦めれるもんなら14年間も片思いしてないって・・・」 


 ディランは小さくそうつぶやくが、幸いなのか不幸なのか妄想にひたっている愛しい彼女の耳にはまったく入っていなかった。

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