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3.幼なじみvs兄

「お話中失礼いたします」


 サラサより先に隣のディランが、年配の男性と会話をしている兄に声をかける。


「おお!ディラン・ウイデリーではないか。このような処に君が参加するとは本当に珍しい!」


 兄よりも年配ですこし小太りの男性のほうがディランに声をかけてきた。話を中断されて気を悪くするどころか大歓迎してくれているようだ。いい人でよかった。


「お久しぶりです。フイッチャー伯爵殿。不精の私が参加するのはひとえに愛しい方をこうしてエスコートするためでございます」


 ディランはそう言いながらサラサの姿が見えるように、年配の男性の前の場所からすこし横にずれる。そこにいたサラサの姿をみて、フイッチャー伯爵と呼ばれた男性は大げさなほどため息交じりの歓声を小さくあげた。


「これはこれは!わが国が誇る宝石の一つのレッドスターではないか。ガイヤ殿のそばにいて正解だったな」


 そう言いながらサラサの手を取り軽く口付けをしてくる。紳士がこのような場で女性に対して行う礼儀の一つだ。


「フイッチャー伯爵様。サラサ・レダ・アルンバルトでございます。話の途中で割り込むような無粋な真似をしてしまい申し訳ございません」


 サラサは扇を口元に当てながら軽く頭を下げた。


「いやいや。逆にその勇気に心から感謝を述べたいぐらいだよ。こうして貴女と言葉を交わす一時を得ることができたのだからね」


 本当にうれしそうに伯爵はサラサの姿を見ている。めったにこうした集まりに顔を出さないがその美貌で知らない者がいないほど有名な公爵令嬢が、自分に話しかけていることがうれしいのだろう。

 だが、サラサの危機管理は今までの経験で格段にアップしているために、このままこの伯爵と話しつづけることは周りの者にいらない噂の種を提供することに気が付いていた。

 ただでさえ、この幼馴染みがだれの前でも冗談で口説きまくるので、純情で有能な青年を弄ぶ悪女のようにまわりの令嬢に陰口を言われているのに・・・。サラサにしたらディランのどこが純情なのだと大声で叫びたい。弄んでいるのは幼馴染みのほうだと断言できる。


「お兄様。申し訳ございませんが、このあたりで退出させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 サラサは伯爵の言葉を小さな笑みでかわしながら、今まで沈黙を保っていた黒髪の長身の男性にそもそもの本題を言う。


「悪いがもう少し私はこの場に居なければいけません。だからできれば、待って頂きたいのですが・・・」


 それはサラサも十分分かっていた。でも、もうこれ以上ここにいて上辺だけ見るような男性に囲まれたくもないし、そのせいで令嬢たちに陰口を叩かれたくもない。さきほどみたいなトラブルもごめんだ。だから兄の親友でもある幼馴染みにお願いしたのだ。サラサがそのことを言おうする前に、その本人が助太刀をしてくれる。


「ああ、ガイヤ。僕が送って行くよ」


 ディランが立候補すると言う意思をこめるように右手をあげる。それに対して、兄のガイヤはなぜかわずかに眉間にしわを寄せてから大きく一つため息を吐いた。


「仕方ないですね。じゃあお願いします。すみませんが我が屋敷まで真っ直ぐに送ってやっていただけますか?」


 ガイヤがディランの顔を見ながらなぜか真っ直ぐの言葉を強調するように言う。ディランはディランで、


「お任せください、兄上」


 と、わざとらしくサラサの右手を取り軽く唇をよせながら言った。

 それに対してガイヤは眉間のしわをもっと寄せながら、サラサの身を軽く引き寄せて彼女にだけ聞こえる声で小さくつぶやく。


「サラサ。何があっても絶対に寄り道してはなりませんよ。帰ったらディランにお茶を振る舞う必要もありません。いいですね?」

「もちろんですわ、お兄様。ジュリアンが待っていますもの」


 いとしいジュリアンの寝顔にそっとキスするために帰るのに、寄り道やディランとお茶などするはずもない。当然とばかりにサラサは兄に大きく頷く。 

 その答えに満足したようでガイヤの眉間のしわがなくなり、ディランとふたりでこの退屈な舞踏会を退出することに承諾してくれた。

 やった。これで、ジュリアンのところに帰れる。

 思わず心からの微笑みを浮かべてしまうと、一瞬サラサのまわりにいる兄と幼馴染み以外の人々の動きが止まった。


 ああ、またやってしまった。


 内心ではあせりつつ、ゆっくりと扇で口元を隠す。

 サラサが全開で微笑みをすると、いつもこうなるのだ。

 そんなに私の微笑みはおそろしいものなのかしら・・・とついサラサは思ってしまう。


「では、ごきげんよう」


 サラサは兄と未だに固まっているフイッチャー伯爵に、お決まりの去る時の挨拶をしながらその場から立ち去ることにした。当然のようにディランはサラサの手を取り、エスコートしてくれる。

 こうして王宮の舞踏会フロアから二人で抜け出ることにした。

 しばらくしてからガイヤに、フイッチャー伯爵が顔を紅潮させながらこうつぶやく。


「まさか、噂に名高い『レッドスターの微笑み』をこの眼にすることができるとは思いもしなかったですよ。いやぁ~噂にたがわずなかなかの威力ですね。あのような魅力あふれる妹君をお持ちで、うらやましい限りです」

「いえいえ。ただの世間知らずで、気苦労が絶えないですよ」


 伯爵の言葉にかなり本心からガイヤは否定したが、謙遜にしか受け取ってもらえずにいた。


 

 今回は三人称でがんばっています。しかしついくせで一人称になって書きなおしてしまっています。

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