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23.令嬢にあるまじき行為?

 サラサは当然のごとく、ジュリアンを抱き抱える。すると真っ青になりながらセバードが、「わたくしが・・・」とジュリアンに手を伸ばすが、「や~!」と一刀両断で余計にサラサにしがみつく。


 そうよね。さっきまであんなに一緒にいたのに、いきなり離れるなんてつらいものね。


 やはりサラサは愛おしい甥を泣かせてまで、執事に預けることはできなかった。たとえ、令嬢にあるまじき姿になろうとも。幸い怪我してない腕で抱きあげているので、傷にも負担がすくない。

 これで殿下が呆れてくれるならもうけものであるとまで考えている。

 そう思って横にいる男性二人に目をやるが、呆れたり驚いたりするどころか、本当に楽しそうな表情でこちらを見ていた。


 何を楽しんでいるのかしら?この人たち。


 そう思いながらサラサは視線を下に下ろす。

 そこには予想通り、フローレがこぼれそうなほど大きな瞳を開きながら驚いていた。


「殿下のお言葉に甘えさせていただきます。無作法になりますが、このままで案内することをお許しください」


 サラサの言葉にソージュケルは了承の意をこめて頷く。

 それから、サラサがジュリアンを抱えながら本来、殿下一行をお迎えする予定だった2階の応接間へと案内をする。






 応接間に到着する。

 中央に長いテーブルがあり、周りに20以上の椅子が並んでいる。大抵来客がある場合はここで接客やお食事をすることになっていた。

 執事やメイドがソージュケルとフローレ、ヤトレイを席に案内してからお茶や軽食の準備をしている。

 さすがに手慣れているだけあって、その動きに無駄は無い。

 サラサは彼らが座るのを待ってから、自分に当てられた席の横にジュリアンを座らせる。それからその隣で立っているナンシーに目で合図を送る。

 ナンシーは片づけをしていたときにジュリアンがいないのに気が付き、慌てて屋敷中を探し回っていた。そしてサラサがジュリアンを抱っこして殿下一行を案内しているのを見つける。ナンシーは慌ててジュリアンを迎えに行こうとしたが、殿下たちの手前、案内をしているサラサの前に出てジュリアンを連れていくのは無作法になると分かっていたので、応接間でサラサの指示を待つことにしたのだ。

 そんなナンシーにサラサは目で、ジュリアンがここに同席することを伝えて、そばでフォローするように指示する。 

 ナンシーも十分理解できたために、ジュリアンが座っている席の後ろの壁に黙って立っていることにした。

 お茶や軽食の準備が終わったことを確認してから、サラサも席に座ることにした。

 その時に腕の傷について聞かれる。


「大丈夫ですわ。さきほどみたいにジュリアンを抱きあげることができるぐらいですから。ご心配おかけしました」


 本当はまだ傷は抜糸していないのだが、あえてそう言う。もう一度見舞いとかいう話になるのはごめんだし、なによりフローレに罪悪感を持ってほしくないからだ。

 案の定、フローレは安心したように分かるような安堵のため息をついた。


「サ~ラ?だいじょうぶ~?」


 隣から可愛らしい声が聞こえてくる。ジュリアンが傷の話をきいて、サラサに聞いてきたのだ。


「大丈夫よ。ジュリアン」


 とりあえず短く返事する。もっとジュリアンときちんと話をしたいけれど、殿下の手前そう言うわけにはいかない。かわりにしっかりと目を見て言うことにした。

 すると、ジュリアンはサラサが一番大好きな、癒したっぷりの無垢な微笑みを見せてくれる。

 そんな二人を見ながら、感心したようにソージュケルがサラサに声をかけてきた。


「本当にサラサになついているんだね、そうしていると本当の親子みたいだ」

「この子は生まれた時より母親を知らずに、わたくしが母親代わりになっておりますので・・・」


 本当の親子と言われてサラサはお世辞でも嬉しく感じる。ジュリアンの頭を撫でながらそう返事すると、それに答えるようにジュリアンは愛の言葉をサラサに言う。


「サ~ラ。しゅき~」


 や、やめて、ジュリアン。サラサは抱きしめたくても今は無理なんだから。


 そんなことを思っていると、前のほうから小さな呟きが聞こえてきた。


「本当でしたのね。お母様に言ってたの・・・」


 フローレの呟きをきいて心の中でため息をつく。


 あ~やはり口実だと思われていたわけだ。べつに良いですけど・・・。


「フローレ。少しジュリアンと遊んであげなさい」

「え!わ、わたくしどうしたらいいかわかりませんわ!」


 ソージュケルは妹のフローレにいきなりそう振るので、フローレは動揺を隠すこともせずにそううろたえている。

 ほとんど接したこともないほど、自分よりはるかに小さな子の相手をするのは確かに戸惑うだろう。

 サラサはフォローも兼ねてジュリアンに提案をすることにした。


「ジュリアン。王女さまにお歌を聴いてもらいましょう」

「あ~い。うま~」


 ジュリアンがうまと言うのは、だれもが一度は耳にするであろう馬の童謡である。最近のジュリアンのお気に入りだ。

 サラサはジュリアンと一緒に歌うことにする。

 見ればフローレも小さくだが口ずさんでくれているようだ。


「フローレさま。ご一緒に歌ってくださってありがとうございます。ジュリアンも喜んでいます。ジュリアン、お礼をいいなさい」

「あっがとーございま!」


 ジュリアンは満面の笑顔を浮かべて可愛らしい声でお礼を言う。

 それに対してフローレは聞いていないかと勘違いしてしまいそうな夢うつつな表情で、ジュリアンを見ている。


 も、もしかして小さな恋の始まり?

 フローレさまも、この天使なジュリアンに誘惑されてしまったのかしら。なんて罪作りなの、ジュリアンは!

 わかるわ、わかるわ。ジュリアンの笑顔をみればだれでもそうなるわね。



「わたくし、これほど幼い子を見たのは初めてですわ。本当に可愛らしいのね」


 ジュリアンから目を離さないで、フローレがそうつぶやく。

 8歳であるフローレより幼い王族はいないし、貴族たちも5歳以上にならないと王宮に連れていかないだろうから、見る機会がなかったのだろう。


 この愛くるしい時期を見れないなんて、本当に損しているわ。


 サラサは見当違いな同情をフローレにしてしまう。


「本当にガイヤ殿もずいぶん可愛らしい嫡男をお持ちですね」

「ありがとうございます」


 ヤトレイの褒め言葉におおいに、同意しながらサラサは礼を言う。


 トントン


 その時に扉の向こうからリズムよく扉をノックする音がする。


「失礼いたします」


 そうして声と共に扉が開いて、黒髪の青年が入ってくる。

 そこに姿を現したのは王宮に出かけたはずの兄ガイヤの姿であった。

 姿を現したガイヤは、サラサと同じ黒髪をオールバックにして黒の礼服を着ている。おそらく拝謁があったために、いつもより格式ばった服装なのだろう。

 ゆっくりと部屋の中に入ってくる。


 ああ・・・。お兄様、これはかなり怒っている・・・。


 表情は笑顔を殿下に向けているが、サラサはそのガイヤの笑顔とは裏腹に、瞳の輝きが怒りに満ち溢れているのを感じ取っていた。


 殿下たちが帰った後が怖いですわ。ジュリアンと一緒に部屋に下がらせてもらえないかしら・・・。


 サラサは兄が帰ってきてうれしい半面、不手際を咎められることになるだろうと確信を持っていた為に、逃げ出したい気持ちで一杯になった。

 だが、令嬢として感情を表に出すわけにもいかず表情をかえることなく、ただ兄が後ろを通り過ぎるのを見守ることとなった。

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