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22.忠告が無駄になってしまいました・・・。

 サラサは意を決して扉を開けた。

 見慣れた応接室入るとソージュケル殿下とヤトレイが、ソファに座って話をしている。


 この人たちのせいで貴重なジュリアンとの時間を・・・。


 などと思っているのをまったく見せずに、笑みを浮かべながらサラサは、殿下の座っている方向に頭を下げて挨拶を口にする。


「大変お待たせして申し訳ございません。このようなところまでご足労をおかけして、恐縮でございます」

「こちらこそ本当にすまない。午後からの予定になっていたが、急に用事が入ってね。こんなに早くなってしまって問題ないだろうか?」


 ソージュケル殿下は本当にすまなそうな表情をしてサラサの方を見ている。

 だが、サラサにはその表情がただの仮面でしかないことを本能的に悟っていた。


 わざとのような気がする・・・。そもそも兄さまが拝謁する日に、わざわざ合わせて来たのではと勘ぐってしまうのはダメかしら?


 そんなことを思っているので、嫌味も兼ねてサラサはこう言う。


「我が当主である兄はすれ違いで王宮に登城しております。午後からでしたら戻ってきますが、今はわたくししかいませんので、何かとご不自由させることになると思いますが・・・」 

「私たちに無作法であったのだから、サラサ嬢が気にすることではないですよ」


 ヤトレイが答えるのに、サラサは心の中で大いに賛同しているのを悟らせないよう、必死に仮面をかぶる。


「ありがとうございます。急でございましたので大したモノではないですが、軽食のようなモノを用意させていただきます。ともかく、2階にあります部屋へ案内させてください」

「それはありがたい。少し早目の昼食をここでとらせてもらえると助かるよ」


 そう返事しているソージュケル殿下を見ると、その横でこちらを見上げている小さな令嬢と目が合う。

 先日初めて会ったフローレ王女である。


 聞いてはいたけど、本当に来て下さったのだわ。殿下と教育係はいらないけど、フローレ様は純粋にうれしい。だってあのように怖がっていたのに、勇気をしぼって会いに来てくれたってことでしょ?この徹底的に子供には嫌われてしまう自分のために・・・。

 お礼を言おうとした瞬間にフローレはぎゅっと一回目をつぶってから、大きな声を出す。


「こ、この前は・・・助けてくれて、たすかりましたわ!」


 な、なに!この可愛らしさ!ジュリアンと張るぐらい可愛いわ。


 頬っぺたを赤く染めてお礼を言う王女を見て、一瞬抱きしめたくなるが、皮一枚で煩悩より理性が勝ったためになんとか思うだけに止まる。


「フローレ王女まで来て下さるなんて、本当にうれしいです。貴重なお時間を割いてまで、来て下さったのですね」


 サラサは先ほどと違って本音でそう言ってしまう。それに付随して口元が下がってくるのを、止めることができない。

 満面の笑みを浮かべてしまったサラサを、フローレはこぼれおちそうになるほど大きな瞳を見開いて凝視していた。


 あ、しまったわ。ひかれてしまったかしら・・・?


「あなた・・どうしてそんな顔をわたくしに向けるの?」


 フローレは呟きとも思えそうなほど小さな声でそう言う。口にするつもりはなかったのだろう。言ったあとで口を可愛らしい両手で抑えている。  


「申し訳ございません。フローレ王女さまがあまりにも愛らしいお方なので、思わず微笑んでしまったのです」


 子供だと馬鹿にしているともとれる言葉だったが、それ以外に言えることもないのでサラサは正直に答える。その答えも王女にとっては予想外だったようで、しばらくの間口元に手を当てながら何かを考え込んでいた。やがておそるおそるという感じでフローレがサラサに聞いてくる。


「ねえ。あなた、あんな言いがかりをつけたわたくしが嫌いでないの?」

「あり得ませんわ」


 サラサは混じりっけない100パーセントの本音で即答する。


「逆にフローレ様にとって、目に余る者となってしまっていたことのほうが申し訳ないです。でも、それも先日までですので、ご安心ください」

「え?なぜ?」


 フローレは思わず聞き返してしまう。


「もう舞踏の練習相手は辞退させていただくことになりましたから」


 サラサは自信満々にそう言いきる。

 そうだ。これで厄介なお役目とは縁が切れることになる。この目の前の殿下とも教育係のヤトレイとも、大きな社交界でお見かけする程度になるだろう。

 フローレ王女とはもっともっと親しくなりたかったけれど、近寄るだけで逃げられるほど怖がられているので無理だろう。


 ああ、おかえりなさい。ジュリアンとの愛の日々。


 だが、聞いてないとばかりに激昂しながらフローレは隣の兄に問い詰める。


「もしかしてわたくしが言ったからですか?それなら取りやめます。だから・・・だから・・・」

「ちがうよ、フローレ。それはまったく関係ない。サラサの腕の怪我を考慮しての話なんだから」

「・・・・やはり、わたくしのせいなのね」


 サラサはひどく気にされているフローレに掛ける言葉が見つからない。心底からこうなってうれしいと思っていても、さすがにそれは言えないからだ。本人が目の前にいるのだからなおさらだ。だから月並みのことしか言えずにいた。


「気になさらないでください。わたくしはフローレ様の可愛らしいお顔に、傷一つ付けたくなかったのですわ。お守りできてわたくしはたいへん満足しております」

 

 サラサは熱弁してしまいそうになるのを出来る限り抑えて、ゆっくりとした口調でそう言う。それに対して、フローレは一気に顔を真っ赤に染めて小さくつぶやく。


「あ、ありがとう」


 や、やっぱりいいわ。この王女様。照れているところがまた可愛い。

 サラサはフローレの純粋な性質に癒されるのを感じる。

 少しの間、サラサとフローレはお互いを見ていた。

 そんな二人を大人しく見守っていた殿下とヤトレイはお互いに目を配らせていたのだが、それをサラサは感じることはできなかった。





 

「では、上にご案内いたします」


 サラサはそう言ってゆっくりと扉をあげる。

 だが、次の瞬間、目の前にいる予想外の人物に思わず声をあげてしまった。


「ジュリアン!」


 開けた扉の向こうでジュリアンが、両手を頬に当てて顔を傾けて突っ立っている。

 思わず名前を呼んでしまったために、ジュリアンはうれしそうにサラサの方に駆け寄ってきた。


「サ~ラ」


 な、なんで。なんでここにいるの?


 予定外の事態にサラサは一瞬頭が真っ白になるのを感じた。もうすでにジュリアンの姿を殿下やヤトレイ、フローレに見せてしまっている。今さら隠すわけにもいかない。

 先日、兄とディランに強く忠告を受けていたのを思い出す。


『いいですか。ぜったいに殿下が来られているときに、ジュリアンをそばにおかないようにしなさい。いいですね』

『わかっていると思うけど、殿下が来るときはジュリアンをナンシーに預けておくんだよ』


 同じような内容を別々の時に言っていた。


 いくら可愛くてもさすがにジュリアンを連れたりしないわよ。

と、二人ともに反論していたのに・・・・。


 頭の中で、どう対処するべきかめまぐるしく対策を練る。

 しかし、その回答を得る前にヤトレイから声がかかってしまった。


「可愛らしい子ですね。もしかしてガイヤ殿のお子ですか?」


 そう言われ、サラサは観念して紹介した。


「申し訳ございません。兄の子でジュリアンと申します。どうやら乳母の手を離れてこちらまで来てしまったようです。すぐに連れていかせますわ」 


 サラサは近くで控えていた執事のセバードの方に目を配る。初老のセバードは見るからに青ざめながらジュリアンに手を伸ばしてきた。だが、ジュリアンはサラサのドレスにひっついて離れようとしない。


「やだ!サ~ラにする~」


 ああ。こんなときに我がままイヤイヤがでた。仕方ないのでいつものように視線を合わせてゆっくりと言い聞かせる。


「ジュリアン。サラサはいま大切なお客様をお迎えしているのです。だからセバードにナンシーのところに連れて行ってもらいなさい。いいですね」

「サ~ラ。一緒、いる~。いっしょ~」


 だめだ。今日は可哀そうだけど、泣かせてでお連れて行ってもらうしかない。説得するだけの時間がないんだもの。嫌だけど仕方ないわ。

 サラサがそう決意したのだが、殿下の一言でジュリアンも一緒に行くことが決定した。


「別に一緒でも構わない。こちらもフローレがいるしな。フローレ、小さな子を見る機会も少ないだろう。一緒に遊んであげなさい」


 そう言われてフローレの方を見ると、不思議そうにジュリアンの様子を眺めている。本当に小さな子が珍しいご様子だ。


 この二人が遊ぶの?さぞ愛くるしい光景になるにちがいないわ!


 サラサは一瞬時と場合を忘れて、そんなことを考えてしまう。

 だから、辞退するタイミングをはずしてしまった。

 結局ジュリアンも連れて5人で、2階の応接間に移動することとなった。

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