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20.歩み寄る嵐

ちょっと短めです。

 ああ、癒される・・・。


 サラサはジュリアンを抱きしめて頭を撫でながら、この世の幸せを噛み締めていた。自分より温かい体温、柔らかい感触。腕の中に納まった小さな身体。

 されるジュリアンも気持ちよさそうにサラサに身体を預けている。

 そんな二人の至福の時間も、ジュリアンの乳母のナンシーの声で壊されてしまう。


「ジュリアン様、そろそろ私のところに来てください。サラサ様はこれから忙しいのですよ」

「やぁ~。サーラといっしょ~」


 ナンシーはジュリアンに手を伸ばすが、ジュリアンは余計に必死にサラサにしがみつく。


 ああ。可愛すぎるわ・・・。


 サラサは最愛の甥に求められる幸せを噛み締めて、ジュリアンの小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

 振られたナンシーはあからさまにため息を吐いて、サラサに苦言を呈する。


「サラサお嬢様もいい加減にしてください。今日はソージュケル王子がわざわざ来られる日ですよ。それに腕の傷にも触ります」

「腕は大丈夫だわ。おねがい、ナンシー。これから私にとっては嫌な時間を過ごさなければいけないの。まだ時間あるんだし、こうしてジュリアンの愛を感じさせてよ」


 サラサはこれからの苦痛な時間を思い出して思いっきり嫌な顔をする。

 なんせ殿下だけならいざ知らず、殿下の教育係であるヤトレイも来るのだ。

 ディランですら嫌だと思っているような一癖も二癖もあるような御仁。


会いたくないですわ・・・。でもお兄様もご一緒してくださるから、ただ愛想笑いしていたらいいかしら?


 サラサは午後からの戦いに向けて、色々と頭の中でシュミレーションを繰り返す。すると、関心が自分から他に移ったことを鋭く感じ取ったジュリアンが、サラサのほうを振り向いて、


「サーラ~、おうた~」


 と、大きな声で訴えてきた。サラサは一瞬にて満面の笑みを惜しげもなく浮かべて、ジュリアンがお気に入りの歌を手振りをつけながら口ずさんだ。

 もうすでにサラサの脳から、殿下やヤトレイのことは見事に消え去っている。


「うちのお嬢様って、ジュリアン様がいる時といない時の表情がちがうわ。あの蕩けそうなほど幸せな笑顔。どこが稀代の悪女なのかしら・・・」


 ナンシーはそんな見慣れた仕えるべき二人の光景を見ながら、思わずつぶやいてしまう。

 しかし、そのつぶやきは歌に夢中になっている二人の耳に入ることはなかった。

 そんな三人の元に、いきなり部屋に通じる通路から誰かがこちらに走ってくる足音が聞えてくる。


「あら?どうしたのかしら?」


 サラサも歌をやめて扉のほうを見る。

 やがてノックもなしに部屋の扉が空き、よく知ったメイドの一人が息を絶え絶えに近寄ってきた。


「お嬢様!大変です。もうソージュケル王子が来られました」

「な、なんですって!まだお約束の午後にはかなりお時間がありますのに・・・」


 サラサはジュリアンを抱きしめてながらも、不測の事態に思わず立ち上がる。

 約束では午後から来られると手紙が兄のガイヤの元にきていた。だから兄は午前中に仕事を回して、午後は屋敷で過ごすように調節してくれている手はずだ。

 だが、今はまだ朝と昼の間ぐらいの時間である。だからガイヤは不在である。さらに前公爵である父は静養のために数日前より別荘地に移っていた。

 こうなると、かれらをお持て成しするのはサラサ一人でしなければいけないのだ。


 なんで、こんなに早く来るのよ~。


 内心でおもいっきり殿下たちに対して悪態を吐きながらも、出来る限り迅速に殿下をお迎えできるようにメイドたちに指示を与える。


 さあ。私もお出迎えに行かなくては・・・。


「ごめんね、ジュリアン。サラサは今からお客様の相手をしなくてはいけないの。だからいい子でナンシーと待っていてね」

「はぁ~い」


 素直に返事してくれたので、ナンシーにジュリアンを預けることができた。

 その成長振りに、思わず緊急の事態を忘れてジュリアンの可愛らしい顔に見蕩れてしまう。


「・・・サラサ様」

「!!ごめんなさい。すぐにお出迎えに向かうわ。あとはよろしくね」


 サラサはナンシーの呼びかけに我に返る。


 急がなくては!何時までもお待たせする訳にはいかないのだから。 


「ナンシー。悪いけど、ここの玩具も片付けていてね」 


 普通はナンシーに頼むことではないけど、メイドたちが準備に追われているのでそこまで手がまわらないだろう。だからそうお願いした。

 ナンシーのほうもまったく異論もなく、笑顔で了承して片づけを始めてくれた。

 サラサはここは済んだとばかりに、その部屋から出る。

 おそらく執事のセバードが時間稼ぎをしてくれているだろう。とりあえず玄関そばの応接間に案内しているはずだ。

 サラサは令嬢として許される最大の速さで、そちらのほうへ歩き出した。

 その道中で、さきほどのシュミレーションを必死に修正する。


 お兄様がいないのはきついわ。こんな時間だから昼食の準備も必要になるだろうし。コック長にも通達しとかないと。とりあえず一番大きな応接室にご案内して・・・・。本当にめんどくさいわね。大丈夫であることをさりげなくアピールして、出来るだけ早く帰っていただきたいわ。でも、そんなにうまくいかないわね。


 あうでもない、こうでもないと段取りがサラサの頭の中に駆け巡る。

 だからサラサは、ジュリアンがナンシーの手を離れてこっそりと自分の後を追っていることに、まったく気が付かなかった。

 またまたジュリアンラブを書いてしまったwしつこくなってすみません。

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