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19.報告しなくてはいけませんよね・・・

 今回の東北地震にて被災された方に、心よりの応援と無事をお祈りしております。

 そしていつも見てくださるどなたもが、大きな被害を被られて無い事を切に願っております。



「なるほど、そうですか・・・」

「で?つづきは?」

 

 サラサは目の前の強敵二人の険悪な表情を見ながら、これからしばらくはこの部屋から出してもらえないだろうと嫌な推測をした。

 兄のガイヤは少しきつい印象を残す碧眼をより鋭くさせている。その隣では銀色の長い髪をぐちゃぐちゃにして頭を抱えながら幼馴染みのディランが苦虫をかみつぶしたような表情でこちらを窺っている。


 やっぱりこうなるのね。ああ~いやだわ。


 怪我をした為に、練習は中断し家に帰ったサラサはその事情を知らせるために、兄の書斎を訪れた。

 たいてい、兄はそちらで書類とにらめっこしているからだ。だが、今日に限って兄以上に過保護な幼馴染みまで一緒にそこにいた。

 二人はサラサの姿を見た途端、何かが起こったことを察してサラサに事情を聞いてきた。

 サラサとしても隠し通せるわけもないので、正直にさきほど起こった出来事を簡潔に説明した。

 最初は穏やかに聞いていたのだけど、ヤトレイの名前を出したとたんあからさまに二人の表情は険しくなる。


 ああ。まだ、力を使ってしまったことも怪我したことも言ってないのに・・・。


 険悪な雰囲気の中、話を続ける。

 できるだけ簡潔に伝えることにした。さすがに自分を怖がって逃げようとして、王女が転んだとまでは言いたくない。

 力のことを伝えると、より一層彼らの眉が上がる。


「で、でも。おかげで殿下との練習もこれで最後になりましたわ。ただ、一度だけ殿下がこちらに訪問されることになりましたけど・・・」


 できるなら怪我のことは隠し通したい。彼らが過剰に心配するのが目に見えているからだ。しかし、付き合いの長い兄と幼馴染みが騙されてくれるはずがなかった。


「それだけではないでしょう、サラサ。私たちに隠し通せると思っているのですか?」

「なぜ殿下がわざわざ公爵家に来るんだい?その理由は王女を助けただけではないね?」


 す、するどい!


「力を使ったときに失敗して、すこし私の腕にものがあたってしまったもので」


 仕方なくサラサがそう言った途端に、二人ともが慌てて顔色をかえる。


「大丈夫!?」

「それを早く言いなさい!サラサ、腕を見せなさい」


 ガイヤがサラサの傷を見ようと近づいてきたので、サラサは見られまいと慌てて後ろに下がる。


「た、大したことないですわ」

「大したことなければ、舞踏練習が中止にはならないでしょう」

「わ、私が怪我を口実に辞退したからで、本当に大丈夫ですわ」


 けっして浅くない傷を見られたくなくて必死で抵抗するが、何枚も上手の兄とディランに見破られて、結局傷を見せる羽目になった。巻いてた布を解いたとたんに、二人ともが息を鋭く飲み込む。


「これのどこが大したことないって?」

「・・・動かすことに支障はありませんから・・」

「おそらくこんなに深ければ、傷跡が残ってしまうでしょう」

「別にドレスや手袋で隠そうと思えば隠せるから問題はないですわ」


 サラサは本当になんてことないと、意識して明るく言いきる。しかし、目の前の過保護軍団はそのサラサの言葉をまともに聞けるような状態でなかった。ディランは恨めしそうにサラサの傷あとを見ながらぶつぶつと呟いている。その姿は何かが乗り移ったかのように生気を感じない。


「僕のサラサの身体に傷が・・・傷が・・・・」


 いや、誰のモノでもありませんから。

 兄のガイヤもガイヤでめったに見たことないような悲しそうな表情を浮かべてこちらを見ている。


「サラサ。どうか私を許して下さい。こんなことになるなら、たとえ王家に逆らってでもソージュケル王子との舞踏練習を辞退するべきでした」


 そう言うと座っているサラサに向かって頭を下げてくる。サラサはその言葉にびっくりして慌てて椅子から跳び上がる。


「や、やめてください。こんなことになったのは私のせいですわ。お兄様になにも責任ございません」


 たとえ第一貴族である公爵のガイヤであっても一臣下でしかない。そんな彼が王家の要望を断れば色々と不都合が生まれることになるであろう。サラサはそれがわからないほど世間知らずでもない。だからこそ嫌々ながらも役目をお受けしたのだ。


「ともかく。もう私が殿下と接するのはあと、見舞いに来られる一回限りですわ。殿下お披露目の舞踏会もこれで不参加にできますし。これであとはジュリアンと一緒に過ごせるのだから私は満足ですわ」

「そうなってくれることを祈りますが・・・。殿下やヤトレイ殿がどう動くかですね」


 ガイヤにヤトレイのことを言われて、腹黒い笑顔が浮かんでくる。決して近寄りたくないと身の危険を感じてしまうのはなぜだろう。

 ヤトレイの名前を聞いて、目の前の亡霊と化した幼馴染みが生霊になる。ディランがかなり凄みのある顔をサラサに向けてそれでも言葉は優しく聞いてくる。


「ヤトレイの奴も来るのか・・・。ねえ、サラサ。その時僕も一緒にいてもいい?」

「え?いいけど、なぜ?」

「あいつが嫌いだから。あいつとサラサが僕の知らないところで話しているって思うと、僕は嫉妬で妬き焦がれちゃうよ」 


 どこまでヤトレイのこと嫌いなんだ。本人が言っているようにディランは、ヤトレイに対して嫌悪感をあらわにしている。ディランがこんなに人を嫌っている姿は初めて見た。

 過去になにかあったのかしら。

 好奇心は沸いてくるが、さすがにそれは聞けない。


「ディランの嫉妬はともかく。ヤトレイ殿がくるならたしかに油断できませんね。かなり鋭い方ですから、サラサだけで応対すれば力のことを知られてしまう危険があります」

「あいつは昔っから人の弱みに付けこむのが得意だからね」


 ディランは本当に嫌そうに吐き捨てる。


「でも、何も関係がないディランがその場にいるのっておかしくないのかしら?」

「婚約者として紹介してくれたらいいよ?」


 ディランがいとも簡単にそう言うがすぐにガイヤが否定する。サラサが突っ込む暇もないほど速攻の切り返しだ。 


「却下」

「・・・冷たいなあ。長年の幼馴染みにもう少し優しくてもいいと思うけど・・・」

「3歳児に求婚するような幼馴染みを我が屋敷に立ち入り禁止にしないだけ、十分優しいと思いませんか?」


 たしかに・・・。

 サラサは兄の言葉に思わず頷きそうになる。聞けば、兄はサラサにその話を聞いて、本気でディランを立ち入り禁止にしようか悩んだそうだ。結局は本気で彼女に求婚するのは成人してからで、彼女の意に反する事はしないと約束をさせるに止まったらしい。

 サラサにしても恋愛と言う気持ちではないが、ディランに対しては兄と同じぐらい大切な幼馴染みとしての親愛があるので、その判断には大いに感謝をしている。


「大丈夫ですわ。数刻お会いするだけですし・・・」

「私もできる限りいるようにしますから」


 サラサに加えてガイヤもそう言うと、仕方ないとばかりにディランも素直に諦めてくれた。もともと、強硬に同席を求めるつもりもなかったようだ。ガイヤが同席すると言うのを分かっていたからだろう。それでも天敵とも思っているヤトレイの名前を聞くとどうしても嫌な予感が走ったため、無理なことを口走ってしまったのだ。

 そして、その予感が決して外れたモノでないと後日、彼は思い知る羽目になる。




 


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