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2.口説くのが趣味な幼なじみ

 やっぱり1人で外に出るものではないわね。

 先ほどのトラブルを思い出してサラサはふぅ~と、ため息を扇で隠しながらつく。 

 舞踏会に戻った途端に人が群がってくる。


 なぜ、こんなところで愛想笑いをしなくてはいけないのかしら。


 大好きな子供たちはこんな夜の会に参加してないし、可愛い女の子たちは遠巻きになんとも言えない目つきで見ているだけだし、寄ってくるのは自分の外見にしか興味のない男ばかり。


 これだから舞踏会なんか参加したくなかったのよ。


 そんなことを考えていると熱心にこちらに話しかけていた男性がいったん話をやめて、サラサの片手に触れてくる。


「サラサ嬢。どうか私と一曲踊ってください」


 またですか。うんざりしながら考えてきた言い訳を言う。本日25回目だ。


「まことに申し訳ございません。先日足を痛めてしまいまして・・・。立っている程度なら大丈夫なのですがさすがにダンスいたしますと、貴方様にご迷惑をおかけしてしまうことになりますので」


 残念であると思っている演技をしながら、その男性を見上げる。

 この顔が一番、効果覿面こうかてきめんなのだ。

 案の定、誘った貴族は憂いを浮かんだ表情でこちらを見る令嬢に、年甲斐もなく紅く頬を染めている。


 あー。もういやだ。でもこの場から出たらさっきの二の舞か、だれかが追っかけてきてうっとうしいことになるし・・・。


 今までの経験上、1人で外に出たりすると必ずといっていいほど何かしらのトラブルが発生するのだ。


 お兄様かディランがいないかしら?


 兄と幼なじみを探す。すぐに長身の兄は見つけることが出来た。自分と同じ黒髪をオールバックに整えている。碧色の切れ長の瞳が楽しそうに輝いて、数人の少し年配の男性たちと談話していた。


 仕事の話なら邪魔するわけにはいかないわね。


 もう少し周りを見渡して幼なじみの青年を見つける。彼も長身なので見つけるのはたやすい。長身であるが細身でどちらかといえば、武官と言うより文官のような身体つきだ。それに加えて肩にかかるほど長いストレートの銀色の髪であり、顔立ちも兄には負けるがかなり整っているので吟遊詩人のようである。だがその外見に反してこの国で有数の剣の使い手として、それなりに名が通っているのだ。その彼はだれかと談話するわけでもなく、深い青色の瞳を細めながらこちらを楽しそうに見物していた。


 見ているなら助けなさいよ!


 サラサはそんな幼なじみに思わず殺気を覚える。昔から彼は悪趣味でサラサが困っている姿が好きなのか、こうしてよく見ているのだ。


「わたくし、ディラン様にお話がございますのでここで失礼いたします。では、ごきげんよう」


 わざと幼なじみの名前を出して取り巻きから逃れる。彼がそれでこの人たちに睨まれるなら、すこしは気が晴れるってものだ。

 踊っている人たちの邪魔にならないよう注意しながら、幼なじみに近づく。なるほど、ここに彼が1人でいるわけだ。おどる人がすぐ近くにいるために、中々ここには人が集まれないようになっている。こんな穴場を見つけるとは相変わらず抜け目がない。


「こら!見ているなら助けなさいよ」


 彼にしか聞こえない声でそう言いながら彼の隣になんとか入り込み、同じように壁に背を向ける。

 二人で並んでいる状態だ。


「ああ、サラサ。ようやく僕のところに来てくれたんだね。たしかに君に群がる男どもをただ見ているのは僕にはとても苦痛だけど、こうして僕を必要としていると、君にわかってもらうためにも必要だったんだよ」


 彼は楽しそうにサラサを口説くようなことを口にする。だがそれにはサラサは一向に表情を変えることなく言い返した。


「そんなうそはどうでもいいわよ。どうせ面白がってただけでしょ?」


 小さいころから同じようなことを言われているだけに、それがただの戯言にしか聞こえない。サラサはある意味、ディラン特有のコミュニケーションの方法なのかと諦めていた。

 だから彼が本当に本気で言っているんだけど・・・と言う言葉を右から左に聞き流す。


「それよりもそろそろ私をここから家に連れて帰ってよ」


 サラサはさっさと用件を言うことにした。ここから家に1人では帰れず連れて帰ってもらえるとしたら、兄かこの幼なじみだけだ。でも兄は話し込んでいるので遅くなりそうだ。


「連れて帰ってか。サラサにしては中々色っぽいことを言ってくれるね。僕の家にぜひとも招待したいものだよ。でもそんなことするとガイヤに絞め殺されるだろうし、家に送るにしても無断にするとあとでうるさいからなぁ~」

「お兄様が良いって言ってくれたら連れて帰ってくれるのね。じゃあ伝えてくるわ」


 この退屈な舞踏会を退出できてジュリアンのところに帰れるならと、一刻も早く許可を求めることにした。兄の方向を見ると少し取り囲んでいた人が減っていた。


 よし、チャンスだ。


「一緒に行くよ。そうしないと再び囲まれてしまうだろうしね」


 そう言われて軽く手を繋いでエスコートしてくれる。まるで踊りながらの様に人をかわしながら、目的の兄の近くまで来ることに成功した。

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