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15.うさんくさい視線

 久々の更新になってすみません。

 

 小さな嵐が去った後サラサは一人、その小部屋で呆然としていたが、扉の向こうで自分を呼ぶ声が聞こえたのでそっと廊下に出る。そこには案内人の男性が慌てふためいた表情でサラサの名を呼んでいた。サラサの姿をみた瞬間はひどく顔をしかめて問いただそうとしたが、サラサが軽く微笑みながら頭を下げると我を忘れたかのように立ち尽くし微動だにしない。


 ごまかすために微笑んだのだけど、この方には効果がありすぎたようだわ。


 仕方がないのでサラサはこの状態を打破すべく、手に持っていた扇をわずかに開いてまた閉じた。


 パチン


 その小さな音を聞いて案内人の男性は我にかえり、慌てて従来の仕事に戻った。

こうしてわずかに遅れて本来の目的地である部屋に到着をした。





 サラサは遅れてしまったことを詫びる。すると殿下は猫かぶりの笑顔で不問にしてくれた。そしてすぐに練習が始まる。

 しかしサラサは殿下の肩に手を乗せ踊りながら、前回にない視線を二つ感じて居心地の悪い思いをしていた。

 怯えを帯びたものと、好奇心を隠しもしない不躾なそれ。前者はさきほど逃げるように立ち去ったはずの幼い王女である。部屋の扉近くに配置されている甲冑の置物の影に隠れながら、真っ青な顔でこちらを見ていた。


 そんなに怖いのかしら。やっぱり自分にはジュリアンしかいないんだわ。それにしても怖がりながらも来るなんてよほどこの殿下が大切なのね。


 王女にとっては兄にちょっかいをかけてくる、憎い敵としか認識されない我が身に虚しく感じてしまう。


 まあこれもあと二回程の辛抱だわ。


 サラサはそう自分自身を慰めながらもう一つの視線の先を見る。

 そこには初めて見る青年が立っていた。

 左目には片眼鏡であるモノクルをして右手で杖をついている。だが、年齢は兄やディランよりいくつか年上程度だろう。赤銅色の髪をひとくくりにして右の肩から前に垂らしている。モノクルをかけたグレーの瞳はどこか危険な香りをしている。

 どちらかといえば地味といえる顔立ちだが、どこか異性を惹きつけられる魔力のような不思議な魅力を感じさせるものであった。

 しかし兄やディランを見慣れているサラサにとっては、どこか胡散臭く感じるに過ぎない。


 だれ?練習がはじまってすぐにこの部屋に無断で入ってきたけれど・・・。ソージュケル殿下もまったく気にしてないから関係者かしら?


 この疑問については一曲踊り終えてから教えてもらえることになった。


「初めまして。私はヤトレイ・ウイークワセと申します。僭越ながら殿下の教育係をさせていただいています」


 その後に聞き飽きた容姿に対する称賛の言葉を聞き流しながら、サラサは愛想笑いで対応した。

 正体を知ることはできたのだが曲がりなりにも王室の教育係が、こんな好奇心一杯の視線を女性に送るってどういうことなのか。

 秋波やいやらしい目つきでないので嫌悪感を感じることはないのだけど、それでも不快である。それを分かっているであろう殿下もまったく咎めようとしない。

 サラサに向ける笑顔をみた瞬間、最近よく鳴る警報が頭の中で鳴り響く。


 この笑顔・・・。ディランにそっくりだわ。それにどこか殿下にも似ている。


 顔だちはディランをいくらか地味にした感じで、その微笑み方は数回見てしまった猫かぶりをはずした殿下に似ていた。殿下より数段たちが悪そうに感じるのはなぜだろう。


 もしかしなくても殿下がこんな性格になったのはこの人の教育のせい?

 

「サラサ嬢には我が従弟殿がたいへんご迷惑をかけております」


 そう言われて一瞬だれのことか分からなかったが、さきほど聞いたウイークワセという名前がウイデリー公爵家の分家であることを思い出す。やはり目の前の青年と幼馴染みは、気のせいではなく血のつながりがあるようだ。


「いえ。わたくしのほうこそ兄のガイヤ共々、ディラン様には本当によくしていただいております」

「あいつが貴女に熱を上げていることは有名ですし、一度こうしてお話してみたいと思っていたのですよ」


 ディランのことをあいつと言う。つまりそれほど仲の良い間柄なのだろう。サラサは今までほとんど社交界には参加しても、積極的に誰かと関わろうとしなかった。そのために、ディランにとって兄のガイヤ以外に親しい人物がいることを今さらながら知る。あれほどの長い付き合いがあるのに、今まで知らなかった自分の世間知らずさを感じずにはいられなかった。

 本当のところ、ガイヤとディランによって彼の接触を阻止されていた為、知り会う機会がなかっただけだがそのことをサラサが知る由もない。二人によって一癖も二癖もあるような人物を数名ピックアップしたブラックリストが作成されている。それらの人物が参加するような小さな催しには彼女を参加させずに、先日のような大規模なものか、彼らがいないモノだけに参加させるようにしていた。出不精なサラサにしたら好都合だったために兄が参加を強制するものが、かなり厳選されたものであることを悟ることはなかった。とは言え、サラサがもしそれを悟ったとしても咎める所か、逆に全て不参加にしてと懇願するだけだが。

 ディランが所構わずに口説くようなことを言うので、たしかにあれでは有名になってしまうだろう。いくら止めてほしいと告げたところで逆にもっと熱い言葉をぶつけてこられるので、最近はほぼ諦めていた。


 キラといいディランといい、なんで私に興味を持つ人はこうも人の願いを無視して自分の好きなようにするのかしら。あ、キラは人でなく神だったわ。あれが神だなんて一種の詐欺ですわ。


 サラサはかなり不遜な事を頭の中で考えてしまった。

 だが、その瞬間に目の前の男性から小さな笑い声が聞こえた為に、考え事はここで一端終了となる。笑われる要素がわからなくて、思わず目の前の青年を見つめた。


「失礼。殿下がサラサ嬢に興味を覚える理由がよくわかったもので。本当に実際に間近でお会いしないとわからないものですね」

「ヤトレイ。彼女は私が招待したのだから余計なちょっかいかけることは禁止だよ」


 殿下はヤトレイと言われた怪しい容貌の青年にそう言う。


 何か興味持たれるようなことしてしまったかしら?


 サラサは心の中で頭をひねる。最近は人前で感情を顔に出すようなへまはしない技術を見に付けたはずだ。この視線から言って容姿に惑わされているわけではないのは確実だ。

 それにちょっかいって・・・。

 殿下にそれを言わすぐらいやはり目の前の青年はやばい方なのか。

 サラサの中で警戒心が強くなる。


「そんなことを言ったってこれほど素晴らしい令嬢に会って興味を持たないってほうが無理ですよ、殿下」


 ヤトレイはサラサのほうを見ながらひどく楽しげな表情を浮かべている。しかし、言葉とはうらはらにその視線に、下心のようなものはまったく感じさせない。ただ純粋に面白いモノを見つけた時の子供のような好奇心だけだ。

 沈黙を守っているサラサをよそに二人は言いあいを続けていた。


「それでも、私が禁止と言ったら禁止なんだよ」

「ディランの恋敵になりたいと思っていたんだけど、殿下に禁止されてしまったら諦めるしかないかな。ですがサラサ嬢さえ私に興味持って下さるのであればいつでも歓迎いたしますよ」

「ありがとうございます。ですが、私がヤトレイ様と親しくさせていただきますと、何かとご迷惑をおかけすることになると思いますので遠慮させていただきます」


 サラサはやんわりと断りをいれる。ほっとくといつまでも不毛な会話が続きそうだからだ。


 いったいこの人は何のためにここにいらっしゃったのかしら?もしかしたら殿下に私が言い寄っているという噂を聞きつけて、その真相を探りにきたってのが一番ありそうだけど。

 

「断られてしまいましたか。手厳しいですね。ですが、簡単に折れない花こそ男にとって魅力的であることをお忘れなく」


 ああ・・・ディランと同じ血筋を感じるわ。従弟ってことはけっこう血のつながりが濃いし。


 サラサはもう口を割るのもわずらわしくて、小さく笑みを浮かべながら沈黙を保つことにした。

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