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13.神が力を授けるとき、人相手だと加護者で石だと恵輝石になります。

「サ~ラ、こっち~」


 服を着終わったジュリアンは大きく手を動かし、きゃっきゃと喜びながらサラサから離れていった。

 最近彼がはまっている追いかけっこをしようとしているのだ。

 サラサは追いかけようとスカートを少し持ち上げようとするが、その手を隣の幼なじみにつかまれて阻止された。


「ナンシー。サラサは僕と話があるから、ジュリアンを頼む」


 ディランはそばに控えていたすこし恰幅のいい女性に声をかける。ジュリアンの乳母であるナンシーは判りましたと、軽く頭を下げてから走っていったジュリアンの下に行く。

 泣きそうな顔をこちらに向けながらもジュリアンはナンシーに抱っこされている。

 ジュリアンとの時間を邪魔されたサラサは、感情を隠すこともなく眉をしかめて幼なじみをにらみつけた。

 元々きつい顔立ちをしているだけにその表情はひどく威圧的である。切れ長の赤い瞳が鋭く光っている。初めて彼女の顔を見る者がいれば萎縮して、その場で立ちすくむか、逃げ出そうとしてしまってもおかしくないほど凄みがあった。

 幸いなことにここにはディランをはじめ、周りの仕える者たちもサラサとは長年の付き合いのためサラサの気質をよく知っている。だからその表情がただの不機嫌を丸出しにしているだけであることを理解していた。 

 真正面からそんな顔で見られているディランは、萎縮するどころかもっと楽しそうな表情になって彼女を見下ろしていた。


「そんな怖い顔するものじゃあないよ。せっかく来たのだから僕との時間を作って欲しいって言うのは僕の我がままかい?」


 私としたらそんな時間いらないからディランの我がままです。

 サラサにしてみればそうはっきりと告げたいが、告げたところで逃がしてくれるような性格をしていないことを十二分に判っているので、軽くため息をつくだけに留まった。

 サラサが黙っている間にディランは手を軽く振る。周りにいた者たちはよく心得ているもので、こちらの会話が聞えないほどの距離をとる。さすがにそのあたりは教育が行き届いているのだ。

 二人だけの会話ができるようになってからディランの顔から楽しそうな表情が形を潜めて、珍しく真剣な顔つきになった。


「サラサ。王子は君が思っている以上に鋭く叡智豊かななお方だ。本当にこのままで大丈夫かい?」


 やはり猫かぶり同士何かわかるものがあるのだろうか。

 サラサ自身が王子と関わったのはこの前の舞踏練習をいれてもわずか3回だ。どれも表面上は無邪気で利発的な少年を装っている。

 サラサは彼の腹黒いところを実際に見たからそれが仮面であるとわかっているが、ディランは見ることもなくなにかを感じ取っているのだろう。


「大丈夫もなにも王家の申し出を臣下の家の者が断れるわけないわ」

「そういうことを言っているのではないと判っているだろ?」


 判っている。ディランが何を心配しているのか。

 サラサがまったく使用してないとは言え、今の世界で片手ほどしかいないとされる『加護者』だからだ。

 それを知っているのは兄のガイヤとディランと父親であるアルンバルト前公爵のみ。

 他の者に知られるわけにはいかないのだ。

 知られればどうなるか世間をよく知らないサラサでもわかる。

 神の加護を受けると一国を覆すほどの力を得る場合もあるのだ。実際そういった逸話も多い。だから加護者がその国にいるということだけでも周りの国の者にすれば脅威になりうるのだ。

 今のところ隣国との関係はすこぶる良好で平穏な日々をすごしている。だから戦場にかり出されることはないだろう。

 しかし、隣国などを牽制する目的で大々的にその存在をお披露目される羽目になる。

 そして一生その身を国に縛られることになるのだ。サラサにとってそんな生活は到底耐えられない。


「・・・少なくても今は悟られているわけではないわ。週に1回を1ヶ月続ければいいってことは、あと3回ほど付き合うだけだから大丈夫よ」


 それに・・・とサラサは話を続けながら首の後ろに手を回した。


「このお守りがあるからいざと言うときも大丈夫よ」


 そういって首から差し出したのは小指ほどの大きさの青の珠がついたペンダントである。

 首に掛けられた細い鎖は長いためにその珠は普段服の下に隠れるようになっている。そしてだしてきた珠は透明度もなく濁っていてお世辞にも綺麗な輝きをしていない。


「恵輝石のくずを持っているのもわかっているよ」


 ディランはサラサの手に収められたそのペンダントの石を見ながらそうつぶやいた。



 恵輝石

 別名を『神の石』とも言われている。

 その石の形態は様々である。一般に流通しているような宝石であったりただの石ころである場合もある。

 違うのはその石に神の力が籠められているという点だ。

 どのように出現するのかいまだ解明されていない。今までただの宝石であったものが突如変貌を遂げる場合もある。

 レーヤゼンに住まれる神々が各々の力をこめて人間界に施しを与えているのだろうと言われている。

 その石を使えばだれでも神の力を使うことが出来るのだ。ただし一度だけ。

 それだけに力を宿っている状態の恵輝石は、一つで一般家族4人が半年は優雅に過ごせてしまうほどの価格で取引がなされるのだ。

 しかし使用してしまったあとはもともと高価な宝石であったとしても、ただの石ころ同然の価値しかない。

 神の力を授かっているときは特徴のある輝きをみせるが、使用してしまうとどんな石であってもひどく濁ってしまうからである。


  

「これがあればもし思わず力を使ってしまっても大丈夫でしょ?」


 恵輝石により力が出現したと誤魔化しがきくからだ。

 だれも石ころ同然の物を飾りとしてつけているとは思わないだろう。

 サラサにとってこの石ころでしかないペンダントは万が一のときのためのお守りになっていた。家ですら風呂に入る時以外服の下に身につけるのが習慣になっている。


「判っていると思うけどごまかせるのも1回だからね」


 念押しとばかりにディランはサラサに忠告をする。

 ディランにとっては不本意だろうが、サラサにとってこの心配性な幼なじみはもう一人の兄のような存在である。わずらわしい部分もあるが心から自分の心配をしてくれているのは充分判っているので、素直に頷きながら礼を言うことにした。


「ありがとう。もちろん気を引き締めながら殿下には接するようにするわ」


 サラサに最低限の忠告ができたディランは、とりあえず満足したようだ。ガイヤに用があるらしく「じゃあ行くね」と軽く手を振りながらサラサたちから離れていった。

 ディランが背をこちらに向けたのですぐに可愛い甥っ子の姿を見る。

 ナンシーに抱かれながらこちらをじっと見つめている。

 軽く泣きそうな表情を浮かべている。


「ジュリアン~。追いかけっこしましょ~」


 サラサは気を取り直してジュリアンの下へ戻ることにした。

 それによっていっぺんに機嫌をもどしたジュリアンと二人で長い時間追いかけっこを楽しんだ。

 まったくもって高位の令嬢らしくないふるまいであったが、サラサをよく知り尽くしている仕える者たちは咎めるどころか微笑ましいといった表情で二人を見守っていた。


 少し説明調ですね。

 早く話をすすめたいです。

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