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12.甥が懐かない幼なじみ

 前半は神話の設定を入れています。とうとう名前だけですが『女神の憂鬱』の登場人物が入っています。



 神と人。


 光の神であるレイヤと闇の神であるゼノンが、何も無い空間に自然に生まれたことから世界創造が始まる。


 その後、大地、水、風、火、太陽、月など様々な神が現れ、神の国ができる。その下界に大地が創造される。


 神々が思い思いにそのキャンバスのような大地に触れ、海や湖、山などができる。


 そのころには樹木や花の神も現れ、その神々も下界に降りては思い思いに木や花の種をばら蒔き、森や樹海ができる。


 レイヤとゼノンが力を合わせてその自然を守る生命体を作り出し、下界に住まわせる。


 その後、知恵の神が現れその生命体のひとつに知恵を授け、人間が誕生する。


 その後に戦、酒、眠り、商売、癒し、守護などの神も現れる。


 それにより、人間たちはさまざまな信仰を持ち、自分たちの文化から国家まで創っていく。


 神を感じ取れる人間が存在するようになり、その人を神官として神殿がそれぞれの国に建築されることとなった。


 新しい神が生まれ人間界に降り立つと、その者が神を感じ取り信仰が生まれる。


 さらには神自身が、その時代に必要な者を見出しその物に自分の力の欠片を授ける場合がある。


 それを加護と呼んでいる。さらには加護を与えられた者を加護者と呼ばれていた。


 歴史上様々な偉人たちがその力を授かって偉業を成し遂げている。有名な人物をあげれば、戦神オリセントの御子ターチェン帝、光神レイヤの申し子ダラー、癒しの女神フウカの恩恵を得たゼーン王などがいる。


その時代によって人数はかなり変動するが、全世界に数人から十数人ほどしかいないだろう。生存中で広く知られている者となると、5本の指にも満たない。





 公爵領であるラーゼの森は今、生い茂る新緑に包まれていた。暖かくなってきたので植物も全身に太陽を浴びて成長や芽生えをしているのだ。

 サラサはジュリアンと数人の従者やメイドを引き連れて、その森の中にある小さな湖まで足を運んでいた。

 今日はあの忌々しい王宮での舞踏練習の日ではない。よってサラサは思う存分ジュリアンとの時間を堪能できるのだ。

 サラサは大きな日傘を差しながら、湖のほとりに敷かれた布の上に座って湖のほうをみつめていた。

 いや、正確にはもみじのような手で何度も水面を叩き、水しぶきを上げている小さな男の子を、蕩けそうなほど優しい笑みを浮かべながら眺めていた。社交界などでしか接したことのない者が見れば、いままで見た彼女の笑みがいかに作り物の仮面であったか、思い知るに充分なほど極々自然な笑みである。


「ジュリアン。水ばしゃばしゃは楽しい?」


 サラサはこちらを窺いながら水しぶきを楽しんでいる甥に声をかけた。それに対して、男の子は満面の笑みを浮かべて何度も頷く。

 連れてきて正解だったわね。今日は本当にいい天気だし。

 甥にもっと関わりたくてサラサは立ち上がり湖の淵に布を敷き直してから座る。そして、片手を湖にゆっくりとつける。

 水温は日光を浴びているおかげでほどよい温かさになっていた。

 少しだけ掬ってそばのジュリアンの身体にかける。

 すると、ジュリアンはきゃっきゃと声を出しながら笑い喜んでいた。


「サ~ラ~」


 愛くるしい金色の天使であるジュリアンは、満面の笑みを浮かべ全身びしょぬれになりながらサラサのほうに近寄ってきた。

 かわいいわ!でも、このまま抱きつかれたら私まで濡れてしまうわ。さすがに私の分まで着替え持ってきてないし・・・。

 仕方がないので、ジュリアンの手が届かないところまで少しだけ後ろに下がることにした。


「だっこ~」


 しかし、ジュリアンは湖のふちからサラサに向かって両手を広げてだっこをせがむ。

 甥馬鹿であるサラサにはそのしぐさは会心の一撃で、冷静な思考回路を失わせるほどのものだった。

 ほとんど無意識にびしょぬれのジュリアンに手を伸ばしかける。だが、それは第三者の手で阻まれた。

 抱こうとしていたジュリアンを横からさっと移動させられたのだ。隣を見ると、いつのまにいたのか、幼なじみのディランがジュリアンに布をかぶせてごしごしと髪を拭いていた。

 拭かれているジュリアンは可愛らしい眉間にいっぱい皺をよせて嫌がっている。


「サラサ。ジュリアンを甘やかすのも大概にしないと駄目だよ」


 手を動かしながらディランは楽しそうな表情でこちらを見てくる。

  

「ディ~やあ!サ~ラ!」


 ディランの腕の中で暴れているジュリアンも必死で、サラサのほうに腕を伸ばしながら助けを求めている。少し前からジュリアンはディランのことが気に入らないようで、顔を合わせるたびに嫌を意味する「やぁ~」やさよならを意味する「ばいばい」を繰り返し彼に向かってしている。

 そっとディランから布ほどジュリアンを受け取り、濡れた頭を拭く。いっぺんにジュリアンの表情が笑顔になり、楽しそうに拭かれる感触を楽しんでいた。

 そうしているうちにメイドが着替えの服を持って着てくれたので、着替えさせてもらうことにした。


「今日はどうしたのかしら?ディラン」

「そりゃあ、愛おしいサラサに、今日こそはいい返事を貰おうとここまで来たに決まっているだろ?」

「・・・なんの?」

「求婚の返事に決まっているだろ?」


 相変わらずしょっぱなからぶっとんだことを言ってくるものだ。そもそも冗談ぽく会う度に求婚してくるが、そのつどその気がないことをきちんと告げているはずだ。しかしそれを忘れたかのように再びこのように聞いてくる。

 しかたがないので、2年前からすっぱくなるほど言い続けている断り文句をつげることにした。


「何度も言うけど今は誰とも結婚するつもりはないわ。私はジュリアンが大切なんだから離れるなんて考えられないもの」

「適齢期になるまではまだ早いからという理由で断ってたのに、適齢期になったとたんジュリアンを出して断るなんて、あまりにも冷たくない?僕はこんなにサラサ一筋なのに・・・」


 ディランはわざとらしく傷ついたような表情をサラサに向けながらそう言ってくる。その姿は彼の通り名の『憂い』を帯びた美青年そのものだ。その姿に絆されてしまう女性も数多く存在するだろう。

 だが、長年の付き合いのあるサラサにはなんの効果もない。いつものごとく、彼の口説き文句は聞き流すことにした。何の用なのか聞くと彼は小さくため息をついた後、すこし真剣な表情になってサラサを見てくる。


「サラサ。ガイヤに聞いたけどソージュケル王子と逢引をしているんだって?」


 サラサは一瞬、理解不可能な言葉を言われて頭が停止してしまう。

 逢引?

 逢引などではなくただの舞踏のレッスンだ。それもサラサにとっては拷問の時間のようなものだ。


「・・・本当に兄様に聞いたの?逢引でなくただの踊りの練習に付き合っているだけだわ」

「踊り!?じゃあ王子はうらやましいことに、サラサの身体に長い時間密着しているんだ!付き合いの長い僕でもそんなに踊ってもらったことないのに・・・」


 ディランはますます顔色を悪く憂いを帯びた表情をしながら、サラサに詰め寄ってくる。サラサにとっては逢引という言葉を訂正したかったのだが、それ以上にディランは踊りという言葉に反応を示していた。

 

「あ~本当にくやしいな。王子でなければどんな手を使っても駆除するのに・・・」


 ディランは剣士とは思えないほど虫も殺せないような風貌をしていながら、中々黒い発言をするものである。


「ありえないとは思うけど、サラサは王子に惹かれたりしてないよね?」

   

 そう言われてサラサは力強く無言で頷くことにした。ほとんど脅される形でそのレッスンに付き合わされているのに、どこに惹かれる要素があるのか。腹黒は兄様とこのディランで充分である。それにあの歳であれほど腹黒なのだ。末恐ろしく感じてしまう。関わりたくないと全身で拒否反応が起こっても仕方ないだろう。


「よかった。否定されたら強引にでもサラサを婚約者にしてしまおうと思ってたよ。でも気を許さないようにね。僕はこうして君の気持ちが変わるのを気長に待っているけど、それは今まで誰も僕以上に君に近づく男がいないからだからね」

 

 もし横から掻っ攫おうという気配を感じたら容赦はしない。

 サラサの顔を極上の獲物をみる野生の獣のようなディランの鋭い目つきは、サラサにそんな意思を告げていた。

 あまり見たことのない幼なじみの表情にサラサの背中にぞくりと寒気が走る。鷹に狙われたウサギの気分になる。

 サラサは硬直しながらも、どのように対処したらいいか必死に考えていたが、そこに最愛の天使による助け舟が到着した。


「ディー!サーラ、ダメ!ジュのん!」


 ズボンだけ履いて上半身裸であるジュリアンが、サラサの広がるスカートにすがり付いてきたのだ。顔はディランのほうをむきながらダメ!ダメ!と連発で叫んでいる。

 すぐ後ろではメイドが、ジュリアンにきちんと服を着せようと追いかけてきている。

 さすが、私の愛くるしい騎士だわ。私を守ろうとしている姿が本当に可愛らしいわ。

 サラサは満面の笑みを浮かべながら、メイドが持っている上着を受け取りしゃがみながらジュリアンに服を着せた。ジュリアンも今まで暴れたのが嘘のように、大人しくサラサに着替えさせてもらっていた。


「サ~ラ。ありん。ちゅき!」


 着替えさせ終わると、ジュリアンはしゃがんでいるサラサの頬に顔を近づけてくる。

 ありがとうのキスをしてくれる体勢だ。サラサは届くように顔を傾けて、小さな唇の感触を受け取る。

 サラサもお返しとばかりにぎゅっと小さな身体を抱きしめて、その頬に唇を寄せた。

 ぷるんとした頬の感触が本当に気持ちがいい。

  

「やっぱ気長に待つだけでは駄目かなあ。ますますジュリアンに溺れちゃってるみたいだし。このままだと僕もサラサも適齢期を過ぎてしまう気がする」


 サラサとジュリアンが周りの目をまったく気にせずに二人の世界を作り上げているのを横目に、ディランは大きくため息をつく。そんな彼の独り言は幸いなことなのか、誰の耳にも入ることはなかった。


 おそくなりましたが、明けましておめでとうございます。

 すこし行間などを訂正しました。

 見やすくなればいいのですけど・・・。


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