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11.過去の頂き物(下)

 髪の毛を優しくなでられる感触で少しずつ目が醒めてくる。

 サラサはしばらくの間その気持ち良さを味わう為に目を閉じたままにしていた。


 お兄様の手もだけど、暖かいお風が気持ちいいわ。しばらくこのままで寝ていたい。


 そこでふとサラサは違和感を覚える。


 なんでお風を感じるのかしら?ベッドで寝ているはずなのに。


 サラサはその疑問を解決するためにゆっくりとまぶたをあげる。視界に飛び込んできたのは全く予想だにしなかった人物だった。


「え?」


 確かに記憶通り自分のベッドで寝ている。だが、てっきりお兄様だと思っていた暖かく優しい手は、全く別の者だった。


「起きたんだね。サラサちゃん」


 そう言いながら優しく微笑みを見せる青年。こちらが眼を覚ましたことに気が付いていながら、代わらずにサラサの頭を撫でている。

 彼の顔をみた瞬間、寝る前のことを思い出す。寝たふりしようとしたのに、本当に寝ちゃっていたようだ。さきほど感じた風はなぜか彼の身体から感じているものだ。


 風を身体から発する人ってどんな人?そもそも空を飛んでいたし人間じゃあないのかな?でも幽霊じゃあないと言っていたし。


「俺がだれか気になる?うれしいな。こんなかわいい子に気にしてもらえるなんて」


 サラサはその問いに、子供特有のなんでも思ったことを口に出来る素直さで答える。


「うん、気になる!兄さんだあれ?」

「兄さんの名前キラっていうんだよ。特別にサラサちゃんだけに教えちゃう」


 優しそうな表情を浮かべて、そう軽く言ってくる青年にサラサは素直に感謝を述べる。よく考えると名前を教えてもらっただけで、感謝しなければいけない理由など何一つなかったのだが、幼いサラサにはそこまで考えることは難しい。


「ワ~イ。キラっていうのね。ありがとう!風の神様と同じ名前でかっこいいね」

「お!よく知っているね。俺がその神だって言ったらどうする?」


 本当に楽しそうにこちらを覗き込みながらとんでもない事を聞いてきた。


「え?キラは神様なの?すごいね。神様って色々しないといけないことあるから大変そう」


 サラサは思ったことをそのまま口にしただけなのだが、それに対して栗色の髪の青年はひどく楽しそうにサラサの頭を、いまだに撫でながらもっと聞いてくる。


「はは。神の心配をするなんてサラサは面白い子だね。サラサは何かしてほしいことないの?」

「ん~。私はできることは自分でするもん。人にしてもらってもうれしくないよ~」


 神様がサラサに何をしてくれると言うのか。サラサにしたら見当もつかない。だから、普段父や兄にしつけられている、自分のできる範囲でできることは自分でするという考えをそのまま口にした。

 すると目の前の自称風の神様は、面白いものをみつけた子供のような目つきでサラサを見つめる。


「分かってて言っているんじゃあないと思うが、面白い。実に面白い。気に入った」


 そこまで楽しそうに言うが、突如、目の前の青年の顔つきから雰囲気までがらりと変わる。今までは気のいい青年だったが、威厳あふれる厳かな表情に変わったのだ。だが、サラサは彼を平然と見上げ続けていた。


「サラサ。次の選択から選べ。俺と共にくるか、風の力を持つか。俺はお前に加護をあたえることにする」


 そういうと、サラサの前に大きな手をかざす。

 サラサはそこまではなされるがままにしていたが、その手がサラサの額に触れるか触れまいかのところで軽く頭を振って拒否を示した。

 目の前の青年のもつ雰囲気が変わろうと、幼女であるサラサにはまったく関係ない。


「キラと一緒に行って何するの?サラサ何もできないよ。それにディランがサラサと一緒になると言ってたから、キラと一緒に行ったらディランとはどうなるの?」


 サラサにしたら思い付くままに尋ねただけだ。しかし、キラにしたらことごとく普通と違う彼女の反応を心底から楽しんでいた。


「その年でもう将来を誓い合った相手がいるのか。もちろん、俺とくるならディラン君との約束はなしになるよ」

「将来?誓う?違うよ。ディランがサラサに考えといてねって言っただけで、まだサラサそういうことわからないもん。だから、まだ返事してないよ」


 サラサがそういうとキラはますます楽しそに顔に笑みを浮かべる。


「無邪気な小悪魔って感じだな。将来が怖いような楽しみなような・・・。やっぱり見守らせてもらおう。で?どっちがいい?」


 どちらがいいと言われてもサラサ自身よく分かってない。ただ、一緒に行くことはまったく選択の余地もないので、それは否定させてもらうことにした。


「キラと一緒に行くことは無理だわ。だってお父様もお兄様もいるもん。いきなりサラサがいなくなったら悲しむんだから」

「よし、分かった。じゃあ風の力を持つか?」


 キラはもうひとつの選択肢を聞いてくる。

 風の力?それはどんなものなんだろうか?

 サラサは疑問に思ったことをそのまま口にする。


「風に乗って空を飛ぶことができるようになるの?」

「簡単にできるな。それどころか竜巻をおこすこともできる」


「竜巻なんかいらないよ~。でもなんで、サラサがそういう力を持つの?別にいらないよ。だってみんなもできないんでしょ?兄様が人にないものを持つと言うことは、それだけサラサがしなければいけないことが増えることだと言ってたもん。だからサラサはこーしゃくれいじょーとして、勉強しなくてはいけないって」

「いい教えだね。でも、俺はサラサに与えるって決めたんだ。別に持ってくれているだけでいい。使う必要もしなくてはいけないこともない。これなら大丈夫だろ?」


 目の前の青年はベッドで寝ているサラサの髪の毛を愛しげに撫で、優しい口調で同意を求めてきた。

 確かに、持っておくだけでいいなら問題はない。それに少しだけ空を飛んでみたいという気持ちもある。


「本当に持つだけでいいの?サラサ何もしないよ?」


 とりあえず念押しでサラサはキラに問いかける。それに対して風の神と名乗る青年は、まるで物を売る商人のようにサラサが同意することを求めてきた。


「俺はサラサを見守り続けたいからするだけだよ。何もしなくても俺の姿が見えるってことは、いつかは誰かが俺と同じようなことを言ってくると思うよ。だから何もしなくてもいいと言っている俺の加護を受けていたほうがお得だよ」


 正直キラが言っている言葉の半分も意味がわからない。だがその熱心な様子からわずか5歳のサラサには断ることができなかった。

 こうして悪い悪徳商法にかかるように、サラサはキラの望みどおりに風の加護を受けることになった。 このときより風の神が頻繁に彼女のところに姿を現すようになる。

 サラサが物の道理が判る歳になり、とんでもないものを授かってしまったことを把握してからは姿をみるたびに加護を解いて欲しいと訴える。

 しかし、風の神は他人事だとばかりに面白そうな表情でサラサにこう言ってくる。


「俺の恋人になるのと、そのまま加護を受けるのとどっちがいい?俺としては恋人を選んで欲しいところを我慢しているんだよ?」


 結局のところ、その回答になんとも返事することもできずに、あれから今に至るまでサラサは普通の人が持っていない力を無意味に持つ羽目になっていた。

 身内と幼馴染のディラン以外、彼女が風の加護を受けていることを知る者はいない。

 国を治めるものや少しでも野心のある者にとって何よりも魅力的な能力であるが、極々平穏に過ごせることを望むサラサにとってまったくもって無用の長物でしかない。それをよく知っている彼らが他言することもなかったため、秘密は外部に漏れることなく守られていた。

    



 

 

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