10.過去の頂き物(上)
長くなりそうなので上下に分けました。だから短いです。すみません^^;
サラサは最愛のジュリアンの寝顔を眺めながら小さくため息をついた。今のサラサの頭の中は甥っ子を目の前にしながらも珍しく他のことで一杯だった。
サラサは先日の舞踏の練習を思い出す。一回目は結局練習だけで、二人っきりになることもなく、唯一話をしたのはゆっくりな曲の踊りの時のみで済んだ。周りがあえて二人っきりにさせないようしているのだろう。普通だと、令嬢であるサラサに変な噂がたたないためだが、この場合は間違いなく王子に悪名高いサラサが誘惑したり媚びを売ったりさせないためだ。サラサとしても天敵と認知した王子と、二人っきりなど勘弁願いたいところなので助かるが。
本当のところ、なぜ王子がサラサに興味を示すのか全く持ってわからない。
だが、彼女は一つだけ探られたくない秘密があった。だからこそ王子や権力などと関わりたくないのだ。もし王子にそれを見破られると、今までの平穏な生活を一転させてしまうことをサラサは充分すぎるほど理解していた。
だから要らないと言ったのに・・・キラの馬鹿!
何百回目かわからないサラサにとってなじみの台詞を頭に浮かべる。同時に浮かんでくるのは、栗色の逆立った髪と大きな碧の眼をした美しい青年だ。年は二十歳前後だろう。サラサが四歳の時に初めて会ってから何度も出現したが、その姿はまったく変わっていない。
サラサはジュリアンを起さないように、金色の癖毛を何度も撫でながら昔のことを思い出していた。
大きな屋敷の一つの部屋の窓際から黒髪の幼女・・・サラサは、見慣れた景色を眺めていた。別に見たいモノがあったわけではない。昼寝をたっぷりしてしまい寝れないので夜空の星を眺めていただけだ。
まだ生を受けてから4、5年しか経っていないサラサだが、猫のような形の紅い瞳を持ち、今でも充分見目良い容姿をしている。彼女を見るほとんどの者が将来、絶世の美女が誕生するだろうと期待している。
だが、当の本人はそれほど自分の容姿に興味はなく、それなりに位のある両親を持ちながらも淑女教育よりも自然や生き物・・・特に馬に興味を持っているような破天荒な性格で周りに仕える者や教師を存分に困らせていた。
今日もこんな夜更けに星を眺めている。本当なら庭に散歩に出かけたいぐらいだけど、さすがに咎められることを知っているので窓からの景色で我慢していたのだ。
あれ?
サラサは見慣れた景色の中で今までみたことない物体に頭を傾げた。
小さな姿だけど、間違いなくそれは青年の姿。だが彼がいる場所が有り得ないところだった。庭園にある噴水より身体半分上空に突っ立っているのだ。足元には何もない。
・・・人ってお空を飛んだりできないよね?
「幽霊さん?それとも精霊さん?」
気がついたらサラサは質問を口にしていた。自分の部屋の窓から見ている状態なので、周りには返事してくれる者などいない。
しかし突然、頭の中に男性の声が聞こえてきた。
「はずれ~!」
びっくりして、サラサは周りを見渡す。だが、誰もいない。と、思っていると急に真正面に今までみたこともないほど、美しい青年が楽しそうにサラサを見下ろしていた。
「きゃ~!!」
思わず大きな叫び声を上げてしまう。
「サラサ様!どうしましたか!!」
サラサの叫び声を聞いて、メイドが数人彼女の寝室に入ってきた。その後すぐに十歳ぐらいの少年が慌てて入ってくる。
「サラサ!どうしたんです?」
サラサは少年が姿を現した瞬間に思わず駆け寄って彼のパジャマを掴む。
「お兄ちゃま~。へんな人がそこにいるの~。怖いよ~」
ちょっとでもいきなり現れた青年の視界から逃れるためにも、兄である少年の後ろに隠れる。だが、兄のガイヤは不思議そうな顔をこちらに向けてきた。
「サラサ。だれもいないですよ?へんな夢でも見たのですか?」
「え?いないの?・・・いるじゃあない!そこに!」
いないと聞いていたはずの場所を見てみるが、やはり栗色の逆立った髪と琥珀色の瞳をした青年が楽しそうにこちらに手を振っている。だから幼女は指差していると主張したが、兄の表情はますます眉をひそめて心配そうにこちらを見ているだけだ。周りのメイドたちを見ても、すべての者がそういう表情をこちらに向けている。
「お嬢さん、残念ながら俺をみれるのはお嬢さんしかいないからどれだけ言ってもだめだよ~」
青年がのんきそうな口調でそう言ってくる。
え?だれにも見えないの?聞えないの?
「サラサ。大丈夫ですか?幽霊の夢でもみたのですか?」
兄がサラサの顔を両手で包み込みながら覗き込んでくる。
「別に俺は幽霊でも悪い者でもないよ」
青年が兄の言葉に反応してそんなことを言ってくる。サラサはさきほどは驚きはしたけれど、不思議とその彼の言葉を嘘、偽りとは感じなかった。
だから、気を取り直して兄である少年に安心させるような笑顔を見せる。
「ごめんなさい、お兄ちゃま。サラサ夢を見ていたみたい。みんなも騒いじゃってごめんなさい」
そう言って軽く頭を下げる。そうすると兄である少年はあからさまにほっと息をはき、妹である幼女をベッドに横たわるよう促す。本当はその青年と話をしたいけれど、心配している兄に出て行ってほしいなどとは言えない。仕方ないのでサラサは寝台の中に入り、兄が安心するようにしばらく寝たふりを続けることにした。
だが、幼女なだけに狸寝入りが本寝入りにすぐになってしまい、気が付いたら兄が彼女の部屋からいなくなったのもまったく気が付かなかった。
そんな彼女の寝顔を面白い玩具を見つけたかのように青年が見つめていたのだが、それを知る者はだれもいなかった。
久々更新です。
いきなりですが、サラサの過去話が入っています。
誤字、表現間違えの指摘受けて訂正しています。