1.わたくしはメディーサではございません
つい、ラブコメ色が強い話を書きたくて『女神の憂鬱』が終わってないのに書き始めてしまいました。
こちらはそれほど頻繁に更新できませんが、よかったらおつきあいください。
裏設定ですが『女神の憂鬱』の世界の未来の人間界ってことにしています。だから名前ぐらいは出てくるかもしれません。
ああ、愛しのジュリアン。
もう寝ているでしょうね。わたくしの天使は。
金色のくるっと巻かれた短い髪。どんどん大きくなる紅葉のような手。思わずかぶりつきたくなるような小さな足。零れ落ちそうになるほど大きな碧の眼。
あのすべすべでぷっくらとした頬におやすみのキスを今日もしてあげたいけど、こんなところに連れてこられたので今日は無理かも。
でも、帰ったら可愛い寝顔にそっとキスするんだから。たとえ日にちが変わっていてもね。
おっと考えているだけでよだれが出てきそうだ。
サラサは扇で口元を隠す。
そうすると目の前でピーチクパーチク音をだしていた孔雀がボリュームを上げてきた。
「ちょっと!だまってないでなんとかおっしゃったらいかが!?」
孔雀もとい、派手なドレスを着た令嬢は顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
パチン。
サラサは広げていた扇をわざと音を立たせながら閉じ、彼女に向き合うことにした。
「つまり、あなたはわたくしがローラさんの婚約者に色目を使ったから、婚約が破棄になってしまったとおっしゃりたいのですね?」
孔雀令嬢の言い分を要約して確認する。彼女のすぐ後ろではおとなしめの可愛らしさをウリにしているような少女が、ハンカチを握り締めて眼の上に持ってきている。
だが、まったく化粧も落ちずに眼もはれていない。だからハンカチも濡れてないようだ。
ローラさん。嘘泣きするならもう少し上手くやりなさいよ。
「そうよ!あなたのせいよ!」
そんなことも分からずなのか、分かっててなのか孔雀令嬢は化粧でするどくなった眼をもっと鋭くさせながらサラサを睨んでいる。
「婚約者の名前はダイアン様とおっしゃったかしら。わたくしそのような方覚えてもございません。だからそのようにおっしゃられても困りますわ」
サラサは閉じた扇を口元に当てながら、ここで彼女たちに微笑みを見せる。
それに今までずっとこちらを非難していた令嬢も嘘泣きをしていたローラとかいう少女も、石化したように固まる。
ルージュで縁取られた大きな口元を吊り上げて微笑んでいるのだが、鋭い切れ長の真紅の瞳では彼女たちを凝視していた。
この笑い方をすると、間違えない初対面の人は一瞬固まってくれるのだ。
そもそも幼い子たちはきちんと笑っても大泣きで逃げていくのだが・・・。
悲しい事実を思い出して心の中で落ち込んでしまう。
ひどいよね・・・。ただ仲良くしたいのに。
いいわ。わたしにはジュリアンがいるだから。
最愛の甥っ子の可愛い姿を思い出しながら自分で立ち直る。
サラサはそうしていまだに固まっている二人の少女にはもはや用はなく、ごきげんようとだけ言いながらその場を立ち去ることに成功した。
「「こ・・・こわかった・・・」」
立ち去った後、二人の少女がその場でへたり込んでいたのを数人が目撃していた。
ここは王宮の舞踏会である。何百と言う貴族たちがダンスや談笑を楽しんでいる。
その中で、一際目を引く者がいた。
1人の女性である。数人の男性が彼女を取り囲んでなにかと話しかけている。
それに対して彼女は扇を顔元で仰ぎながら何も言わずに聞いていた。
その場にいる者すべてが彼女のことを知っていた。
レッドスター。
彼女の社交界でのあだ名である。公爵令嬢であるのだが、その肩書き以上にその通称名がでてくる。
その姿はまさに大輪の赤薔薇のように気品あふれ、妖艶と言う言葉が一番当てはまるほど素晴らしい容姿をしている。
黒耀石のように光り輝く波打つ黒髪が彼女の豊満な胸元まで流れている。厚めのオフホワイトの生地のドレスが身体のラインに沿っているために、見事なくびれを作っていて彼女がどれだけ細いかを現していた。女性にしては長身であり腰からウエーブ状にひろがるレースのドレスの生地が、他の誰よりも長く感じられる。
鋭く切れ長の真紅の瞳に、真っ赤に塗られたすこし大き目の形良い口元はどこか挑戦的で、少しでも自信のある男性であれば彼女に声をかけずにいられなくさせている。
その彼女がどんな気持ちでそこに立っているのか知っている者はごくごくわずかである。
悪役顔のお嬢様が主人公って書いてみたくってはじめました。
昔の漫画の主人公の敵役をイメージしています。
中身は違うけどその外見のせいで散々周りは誤解しまくっています。
汀雲さんからサラサのすばらしいイラストを頂きました。この流し眼がなんとも言えません。イメージ通りです。本当にうれしくて見た瞬間わおっと叫んでしまいました。
この幸福を皆さんにも味わってほしいので挿絵として掲載させてもらうことにしました。