第13話 またね、それまで
この物語は、
誰かの願いが、静かに守られていた話です。
カリン、この手紙を、あなたが読んでいるということは、すべての真実を知ったあとなのでしょう。
あの日、私はあなたに、すべてを話すべきかどうか、何度も悩みました。
けれど、やっぱり私は、伝えないという選択をしました。
伝えなければ、あなたが私を誤解し、憎むかもしれないことも、分かっていました。
それでも──あなたを守れるのなら、嫌われることなんて、構わなかったの。
お母さんというのは、そういう存在だから。
ルベール・ヴィッチさんと出会ったのは、ずいぶん昔のことです。
あの子は、少し変わった人でした。
悲しみの前でも、泣かず、怒りの前でも、揺れなかった。
けれど──
約束の話をするときだけは、誰よりも真剣な目をしていたの。
私は、その紫の瞳を、信じました。
カリン。
人はいつか、疲れて、揺れて、選択を後悔するものです。
でも、あの子は違った。
決めた約束を守るために、自分自身を惜しまない存在でした。
だから、私はお願いしたの。
──どうか、いつかこの手紙を、私の娘に届けてほしい、と。
彼女は、静かに頷いて、鞄の中へ、この手紙をしまってくれました。
カリン。
あなたが共に過ごしてきたあの子は、人ではありません。
でもね、お母さんは確信していました。
人ではないからこそ──最後まで、約束を守るのだと。
誰かは老い、誰かは恐れ、誰かは約束を忘れる。
けれど、あの子は違う。
これまで、何も言えなかったこと、本当にごめんなさい。
そして──
今も、これからも、あなたを愛しています。
私の大切な娘へ。
またね。
それまで、元気でね。
─────
「……お元気で。ルカリン様。魔女は、また別の場所へ向かうことにします」
ルカリンが手紙を読み終えるころ、ヘラは鞄を引き、ここへ来たときと同じように、帽子を深く被っていた。
「もう行っちゃうの?もう少し……一緒にいてもいいのに。ヘラがよければ、だけど」
ヘラは、それはできないと言うように、静かに首を振った。
「それはダメです。魔女は、常に世界を渡り歩く存在ですから」
ルカリンは腕で目元を拭い、笑顔で手を振った。
神は、今も信じていない。
けれど──
魔女なら、信じられる。
奇跡を見せてくれた存在。
《願いの魔女・ルベール・ヴィッチ》ならば。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




