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マシだった気がする  作者: kinpo


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第10話


健康ランド。

入口は静かすぎた。

24時間営業。

深夜。

靴箱の鍵が、やけに多く余っている。


つまり、何人かはまだ中にいる。

だが姿は見えない。

これは密室に近い。


なるほど。

今日は閉じた空間から始まる。


受付でタオルを受け取る。

大小セット。

前回は大を使わなかった。


今日は最初から大を使う。

判断としては正しい。

おそらく。


ロッカー番号は端。

なぜかいつも端だ。

移動距離が増える。


脱衣所で服を畳む。

丁寧にやる。

誰も見ていない。


下着を裏返したまま気づかない。

まあいい。

どうせまた着る。


鍵の収まりが悪い。

金属部分が外に出たまま。

結果、歩くたびに腰骨に当たる。


なるほど。

今日は耐久戦か。


脱衣所は静かだった。

静かすぎる。

誰もいないのに、誰かの気配だけが残っている。

鏡の前で立ち止まる。

体重計は見ない。

前回は見て、余計な判断をした。


風呂。

打たせ湯は強すぎる。

でも弱い方は、ぬるい。

中間がない。

俺は強い方を選ぶ。

背中が赤くなる。

前回は弱い方で、寒かった。


寝湯。

目を閉じる。

天井の染みが増えている。

前からあったのか、今日増えたのか分からない。

分からないが、数は合っていない気がする。

数え直すのをやめる。

どうせ合わない。


サウナ。

砂時計が逆さまだった。

誰かが直し忘れたのか。

それとも、最初からそうなのか。

俺は座る位置を変える。

理由はない。

理由を作ると、外す。


水風呂。

冷たい。

想定より冷たい。

前回より冷たい。

前回は、長く入れた。

今回は、無理だ。

すぐ出る。

出た瞬間、ふらつく。


食堂に入った。

そこで、彼女がいた。


テーブルの端。

深夜メニューは少ない。

カレー。

前回、胃が重くなった。


今日はうどん。

コシがない。

味も薄い。


七味を振る。

入れすぎる。


彼女は唐揚げ定食。

夜中にそれか、と思う。

思うだけ。


彼女は箸を止めて、俺を見る。


「早いですね」


なるほど。

彼女は、ここから来た。


「今日は、空いてますね」


俺は言う。

分かっていて言う。

外は混んでいる。

さっき見た。

でも、ここは空いている。

理由は考えない。


彼女は、デザートを追加した。

前回は、しなかった。

理由を聞かない。

聞くと、合わなくなる。


「このプリン、固いですね」


「そうですね」


俺はうなずく。

固い方が、まだマシだ。

前回は、ゆるすぎた。


ゲームコーナーの音が遠くで鳴る。

彼女は行かない。

俺も行かない。

同じ判断だ。

でも、理由は違う。


別れ際。

俺は言う。


「今日は、風呂、良かったですね」


的外れだ。

分かっている。

彼女は風呂に入っていない。


「……そうですね」


彼女は少し考えてから、そう言った。


出口の自動ドアが開く。

夜の空気が入ってくる。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》


――次は、ロッカー番号を変えよう。

駐車場の白線が、一本ずれて見えた。

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