1-8 本書の目的
1-8 本書の目的
ここまで私は、歴史学が抱えている問題について説明してきた。現代の歴史学は過去の研究に大きな価値を置きながらも、その知識を未来へ接続する役割を十分に果たしていない。小学校の国語教育で教えられる「温故知新」という言葉は、本来、古い知識を学ぶことで新しい理解を得るという意味を持っている。しかし実際の歴史学は「古きを知る」ことに重点が置かれ、「新しきを知る」という側面が弱くなっている。
もちろん、歴史研究そのものの価値が失われたわけではない。過去の出来事を正確に理解することは、人間社会を理解するために欠かすことのできない作業である。資料を調べ、事実関係を整理し、時代の流れを明らかにすることは、歴史学の基本的な役割であり続ける。しかし、それだけでは歴史学の可能性を十分に活かしているとは言えない。
歴史は単なる過去の記録ではない。そこには人間社会がどのように動いてきたのかという膨大な経験が蓄積されている。国家の形成と崩壊、経済の発展と停滞、技術革新がもたらす社会変化、そして危機がどのように政治的に利用されるのか。こうした現象は歴史の中で何度も現れている。そして、それらの出来事の背後には一定の構造が存在している。
もし歴史の中に存在する構造を理解することができれば、その知識は過去の理解だけにとどまらない。現在の社会を分析するための視点となり、未来を考えるための材料にもなる。歴史は本来、そのような可能性を持っている学問なのである。
本書の目的は、この可能性を取り戻すことである。
私は歴史学そのものを否定しようとしているわけではない。むしろ、歴史学が本来持っている役割をもう一度明確にしたいと考えている。歴史学は過去を研究する学問であると同時に、人間社会の動きを理解する学問でもある。その理解は、現在の社会を考えるための基礎となり、未来を考えるための出発点となる。
この意味で、本書は歴史学を未来へ接続し直す試みである。
過去の出来事を単なる知識として蓄積するのではなく、そこから社会構造を読み取り、その構造が現在どのような形で存在しているのかを考える。そして、その構造の延長線の上に未来を位置づける。この視点を持つことで、歴史は単なる記録ではなく、人間社会を理解するための道具になる。
本書では、この視点を持つ研究者を「新しい歴史家」と呼ぶ。
新しい歴史家とは、過去の研究を軽視する存在ではない。むしろ、過去の研究を基礎としながら、その知識を現在と未来へと接続する役割を担う存在である。歴史の中に存在する構造を読み取り、その構造が現在の社会にどのように現れているのかを考える。そして、その延長線の上で未来を考える視点を提示する。
それが、新しい歴史家の役割である。
本書は、そのための視点を提示することを目的としている。




