笑顔の破壊力 lv.53
『大神官の分は用意してませんよ』
『ルル様は冷たいなー。でもそれで良いの? 美味しいお菓子を持ってきてるんだけど』
ゼンが指をパチンと鳴らすと、美味しそうなケーキやマカロン等のお菓子が現れた。
それを見てルルはよだれを垂らす。
『仕方ないですね、特別にルルがお茶をいれてあげます』
ルルがゼンにお茶を出した。
食べ物が絡むと、ルルはチョロい。
「もう四人ここにいるんだし、みんなはこれ外しててよ。私が一人でアークを待つから」
私は自分の耳を指さす。
『そうですね、私達がつけていても意味がなさそうです』
オルレアがイヤリングを外した。
ルルはイヤリングを外して、キッチンの棚に入れる。
『確かに、レイルちゃんだけが繋いでいた方が面白そうだ』
そう言いながら、ゼンもイヤリングを外した。
私達が、優雅な朝のティータイムを楽しんでいると、イヤリングからアークの声が聞こえた。
『みんなごめん! ちょっと離れた場所に置いてて、気付くのが遅くなった!』
焦った様子でバタバタと音が聞こえる。
「大丈夫だよアーク、私しかいないから落ち着いて」
私はできるだけ優しく言った。
『え? レイル? レイルだけって……俺に? 今話してるの俺だけ?』
アークは相当戸惑っているようだ。
「アークだけだよ、だからそんなに焦らなくても大丈夫だって。もし来れそうなら、今から私の家に来てほしい」
ガッシャーーーーン!
大きな音が聞こえた。アークがこけたのか、何かにぶつかったのかわからないが、朝から大変そうだ。
「アーク? すごい音がしたけど大丈夫?」
『ああ、大丈夫だ。ごめんな心配かけて。ちょっと色々思考が追いつかなくて。家って……俺が行って良いのか?』
なぜか声に真剣さがある。
「当たり前でしょ。アークが来てくれないと始められないし」
私は、無駄なやり取りに少し苛立っていた。
そんな私を見て、ゼンがニヤニヤしている。物凄く楽しそうだ。
『始められないって……何をだよ。俺達べつに恋人な訳でもないだろ……』
小さな声でボソボソ何かを言っている。
「何? 全然聞こえない」
私が苛立っているのがわかったのか、ゼンがジェスチャーでイヤリングを貸してと私に伝えてきた。
私はこれではキリがないと思い、ゼンにイヤリングを渡した。
ゼンはイヤリングをつけると、
「やあアーク、君はレイルちゃんに何を言っていたのかな?」
と楽しそうに笑いながら話しだした。
「ははははははっははは! 君は何を考えてるんだい? ははは! 作戦会議だよ! はははは! もう皆レイルちゃんの家に集まってる。ははっははは! わかったよ。ははは! ぼくとアークの秘密だね。もうその話は良いから早くおいでよ。待ってるから」
そう言ってゼンはイヤリングを外し、私に返してくれた。
ゼンとアークはだいぶ仲良くなったようだ。
「あー本当に面白いね、アークは純粋でからかい甲斐があるよ」
「何かくだらない勘違いをして、ご主人様を困らせていたのでしょうし、ここは大神官に少し感謝をしておきます」
ルルがお茶を飲みながら、ゼンにお礼を言う。
「アークさん……恥ずかしいでしょうね……」
オルレアが呟いた。
この状況を理解できていないのは、私だけのようだ。
しばらくすると、アークが家に来た。
「遅くなってごめん! これからは肌身離さず持っておくから許してくれ!」
走ってきたのか、肩で息をしている。
「早かったね、とりあえず座って」
私が言うと、アークは気まずそうに頷いて、今日はソファに座っているゼンの隣に座り、小さな声でゼンと話している。
男同士、聞かれたく無い話でもあるのだろう。
「じゃあ作戦会議を始めるね。何を話し合えば良いのか全然わからないんだけど、今の状況で、何か気になることはある?」
私は皆に問いかけた。
「前に、レイルちゃんが魔人とは何かを聞いてきた事があったよね? あの時は、ゴウカの魔物のあまりの変貌ぶりに話が逸れてしまったから、今日はまず、『魔人』の事を話そうか」
ゼンが答えた。
そういえば、そんな事があったような気がする。すっかり忘れていた。
ゼンが私達にわかるように、説明を始めた。
魔人の見た目は、人間と似ているらしい。
見分け方は、尖った歯と耳の後ろに生えている小さなツノと黒い爪のみ。
ツノに関しては髪や帽子で隠れてしまう。
ゼン自身も、魔人と直接対峙した事はないようだ。
ゼンによると、国が厳重に保管している、オルカラ帝国時代の歴史書に、昔起こった『魔族』との戦争の記録が記されていて、大神官であるゼンは自由に読める権限を持っており、知っていたとの事だ。
ちなみに『魔族』とは、魔物や魔人など、『魔の者』をさす。
その戦争では、魔法で十分対抗でき、追い払う事に成功したという。
そう『追い払った』のだ。
完全に倒すに至らず、その後、魔族の方も魔法に耐性をつけたのだろう。というのが、ゼンの見解だ。
そこから、長い時をかけてゆっくりと進化していき、今ゴウカの魔物は魔法も物理も効かない、完全なるチートな存在になったようだ。
「もし、レイちゃんが来てくれなかったらと思うと、ゾッとしますね……」
オルレアが私を見る。
「そうだね、レイルちゃんがこの世界に来ることを選んでなかったら、ぼく達はただ、オルカラ王国が魔族に支配される様子を見ているだけしか出来なかっただろうね」
ゼンがそれに同意した。
魔族に支配された世界……聞いた事がある。
「ねえルル。私がこの世界に来る前、ある本を見ていたら、第五の世界が魔族に支配された世界だったんだけど、それって、『私がいなかった未来の第六の世界』だったりしない?」
私はずっと引っ掛かっていた、最悪な世界を思い出していた。
確か、第五の世界の特典は望んだチート能力。
特別仕様の眼鏡の、『十六年間で読んだ本全てを眼鏡を通して読む事ができる』機能に、例の本『異世界に行く方法』は含まれておらず、記憶頼りだが、第五の世界はおかしかった。
ルルを見ると、明らかに動揺している。
顔もおかしい。
「そそそそそそれは、父に聞いていただけたらと、ルルは思います! ご主人様、話がまた逸れていますよ!」
確定だ。第五の世界を選んでいたらここにいる皆が、魔族の奴隷になった姿を見ていただろう。
数ヶ月後に、神であるルルの父と思話で話せるはずだ。
その時に詰めさせてもらおう。
「そうだね、神様とじっくり話さないといけないみたい」
私はにっこり笑った。
「魔族に支配されるって……魔人は意思の疎通が出来るのか? ゴウカの魔物だって口はあるけど、喋れないよな」
アークが首を傾げる。
これにゼンが何かを思い出すように、少し上の方を見る。
「本来、魔物は話せないのは知ってるよね? 歴史書によると魔人は話せるらしいよ。どの程度話せるのかには個体差があるみたいだけどね」
ゼンはアークを見た。
「話せるって……誰も言葉を教えてないですよね? 魔人がどこかで勉強でもしたんですか?」
アークの表情は真剣そのものだ。
魔人が勉強なんてするわけないだろう。と言いたかったが、確かに、言葉の習得方法が気になる。
「それに関しては、生き物の能力を奪う個体がいるようなんだ。どこまでを奪えるのかはわからないけどね。恐らく、倒した相手の魔力からの情報だろうとぼくはみている」
ゼンは深刻そうな表情をしている。
これを聞いて、ルルが口を開いた。
「相手の魔力から能力を奪う、という事は、砂になってしまったゴウカの人々の魔力が溢れる今のゴウカでは、奪い放題、という事ですね」
ルルの顔には怒りが滲んでいる。
ゴウカには沢山の人々が暮らしていた。
突然、平和だったゴウカを住人もろとも砂に変え、それだけでは飽き足らず、能力まで奪っているとは。
【ゴウカの魔物】も【魔人】も私が一体残らず倒さなければならない。
殲滅だ。




