笑顔の破壊力 lv.35
アークから、【ゴウカの魔物】の『核』について、連絡が来た。
王宮の鑑定士なら忙しいだろうに、こんなに早く結果が聞けるとは驚きだ。
「それで、アークはなんて言ってるの?」
私が聞くと、オルレアはまた、固まった。
これはどうにか改善してほしい。
でないと、数ヶ月後に私が両親と思話で話す時もこうなってしまう。
オルレアがこちらを向いた。どうやら話し終わったらしい。
「アークさんが今からこちらに来るそうです」
アークが。何故?
「思話で報告を聞いた方が早かったんじゃ……」
私は呟いた。
その瞬間
「コラ。俺を除け者にするんじゃない」
アークがいた。先程までどこにいたのかは知らないが、オルレアが今から来ると言って本当にすぐだった。
「なんでこんなに早いの!」
私は驚いて聞いた。
「俺は勇者だからな。仲間の元へすぐに駆けつけるのは当たり前だろ」
アークは照れくさそうに頭をかいている。
「アークさんは、レイちゃん同様、王様からワープの魔道具を借りているんですよ」
オルレアが言った。
「オルレア! 言わないって約束しただろ!」
アークは、何の為かわからない約束をオルレアとしていたらしい。
走ってここまで来たと思われたかったのか。
何故だろう。
「そもそも、なぜアークさんは、走って来たていにしたかったのか私にはわからないですし、言っても言わなくても、誰も何も気にしませんよ」
この発言は大丈夫か。なかなか鋭利だ。
「ゴフッ」アークが倒れた。
言葉の棘がアークに刺さりすぎたようだ。
「勇者はまだ18歳ですもんね。仕方ないですよ。魔力量が増えたのも、聖剣に選ばれてからでしょうし、赤子も同然ですね」
ルルが馬鹿にしたように笑いながら言った。
まだ18歳か。私なんてまだ16歳だけど。
アークは確かに子どもっぽい所がある。男の子なら誰もが通る、ヒーローへの道を歩き続けているのだ。
「確かに、俺はまだ18歳だよ。大神官様にもオルレアにもルルにも経験じゃ敵わないけど、聖剣に選ばれたのは君たちでは無く、俺だ!」
物凄く得意気な表情でアークは言った。
「オルレアって16歳だよね? なんでアークがオルレアに経験じゃ敵わないの?」
私が聞くと、アークは青ざめ、オルレアは静かに微笑んでいる。
「それはオルレアが、ごじゅうろ……」
ゼンが何かを言いかけた時、
「大神官様! 女性の秘密を簡単に話すなんて最低です!」
オルレアが叫んだ。
「ぼくが……最低……?」
ゼンにも相当なダメージが入ったらしく、部屋が静まり返った。
オルレアには何か秘密があるらしいが、人が嫌がる事を言ったゼンが悪い。
さっきまでのまとまりの無さに比べると、静かな分、このほうがマシかもしれない。
「それで、アーク。『核』の鑑定結果はどうだったの?」
そもそもアークがここに来た目的は、鑑定結果を伝える為だったはずだ。
「いつも忙しくしている人が優先して鑑定してくれたから、だいぶ早く結果が出た。結論から言うと、『魔人化』で間違いないらしい」
アークは真剣な表情で言った。
どれだけ忙しくても、【ゴウカの魔物】という、国の脅威に関してなら優先するのは当たり前ではないのか。
『魔人化』が長い年月を経て行われている事を考えると、まだ『完全な魔人化』には猶予があるのかもしれないが。
「例の伯爵夫人だね。あの堅物夫人が即日で動くとは、今回の件はよっぽど注目度が高いのかな?」
ゼンが言った。
「ご挨拶が遅れました。大神官様、勇者アークです。レイルの元へ行ける魔道具をお借りしたら、ここに着いてしまい……。勝手にお邪魔して申し訳ございません」
アークは頭を下げ、
「母は今回の件を伝えるとすぐに動いてくれました。何故かはよくわからないですが、珍しい事もあるもんですね」
そう言って笑った。
私の元へ行ける魔道具……。なんかこわい。
伯爵夫人がアークの母のようだ。という事は、アークは貴族らしい。
容姿端麗で勇者で貴族……。
オルレア同様、主人公に相応しいキャラクターだ。
「それよりも、勇者アーク。君はレイルちゃんと一緒に戦うことになったらしいね。ちゃんとレイルちゃんを守ってアピールしないとなにも起こらないよ?」
ゼンが笑いを堪えるように言った。
確かに、国民を守る事で勇者は周りから認められる。私がアークのイメージアップに貢献できるかもしれないのか。
「わかってますよ。レイル、俺が君を守るから」
アークは、少女漫画のようなセリフをさらっと吐き出した。
そこにオルレアが割り込んで、
「いいえアークさん。レイちゃんは私が結界で完璧にお守りしますので、アークさんはどうぞ最前線で魔物を倒してください」
そう言うと、私の手を取り、
「レイちゃん。心配しないでくださいね。私と一緒にいれば誰もレイちゃんに指一本触れられないですから」
私を抱きしめようとした所にルルが、
「盛り上がっている所悪いとも思っていませんが、勇者も聖女も結局はご主人様に守られる事になりますよ? 今はその大きなお口を閉じた方が良いかもしれませんねえ」
ルルはわっるい顔をして言った。
まあ実際、私は遠距離攻撃ができる。そして、身体強化で動きも軽い。
近接戦闘のアークと、結界内に留まり治療にまわるオルレアとは戦い方も守備範囲も違う。
そう考えると、それぞれに役割があり、相当バランスが良いパーティに思える。
2人はルルに言われた事を気にしてか、苦い顔をして黙った。
その様子を見て、ゼンはくすくすと笑っている。
「お母さんが王宮の鑑定士だなんてすごいね。それに貴族というのにも驚いたよ。アークは話しやすくて、貴族という感じはしないから」
私は、アークを見て言った。
その瞬間、アークはとても嬉しそうな顔をした。
「本当か? 俺は貴族に見えないか? 俺は自分が貴族であるという事を隠して生きてるんだ。俺が貴族だってわかると、今の仲間達は離れてしまうだろうから」
そう言うと、笑顔が消えた。
アークも過去に色々あったのだろう。
お金持ちの家に生まれれば良いという訳ではなさそうだ。
「そっか。アークにも色々あるんだね。話が逸れて進まないから『核』の話をしよう」
私は『核』の鑑定結果が気になっていた。
「俺に興味ないのか……」
アークが小さな声で何かを言っていたが流した。
「『核』の鑑定結果は、魔人化で間違いない。って言ったよね。そもそも魔人って何?」
私が聞くと、ゼンが、
「それにはぼくが答えよう」と言った。
ゼンは、椅子から立ち上がると、スライドペンをどこからか出し、そのスライドペンで空中に魔物の絵を書き出した。
恐らく空中に書く魔法があるのだろう。さすが大神官。
「『魔人』の前に、魔物の話をしようか。魔物とは、とにかく大きいのが多いんだよ。平均5ミール以上あるかな。大昔だと20ミールもある魔物が街を潰して歩いたという記録も残っているんだ。そいつは当時の勇者が倒したと伝えられているよ」
ゼンは話しながら、魔物ごとに絵を描いている。
描かれたのはどちらも、【ゴウカの魔物】とは似ても似つかない、動物が大きくなった様なものだった。
「ぼくが最後に【ゴウカの魔物】を見たのは50年前だけど、普通の魔物とは違って、あまり見た事の無いタイプの魔物だったからよく覚えているよ」
そう言ってゼンが描いたのは、丸を伸ばしたものに足が左右に3本ずつ付いている、ずっしりしていそうな黒いものだった。
「魔物はなぜ存在するのか、どうやって生まれているのかが不明なんだ。【ゴウカの魔物】も例に漏れずいきなり現れたんだよ」
ゼンは息を吸い込み続けた。
「魔物にしては、動きが遅いし大した脅威ではないだろうと思っていたんだけど、飛ばしてくる毒みたいなのに、触れたものが全部砂になったんだよね。あれには驚いたよ。結局、対処法が無くて、あれから50年間ずっと『聖女の結界』に閉じ込めている状態ってわけ」
ゼンは、家が砂に変わる様子を描いた。
ゼンが描いているものは、私が知っている【ゴウカの魔物】では無かった。




