笑顔の破壊力 lv.29
私達が会議室のような部屋から出ると、扉の前にダンがいた。
「皆さんで、どこかへお出かけですか?」
張り付いたような胡散臭い笑顔でダンは私達に聞いた。
王様に私達を監視しろとでも言われているのだろうか。
「ええ。私達は【ゴウカの魔物】を実際にこの目で確かめるために、ゴウカへ向かう所です。ダンには関係ないでしょう? では、行ってきます」
オルレアが答えた。かなり警戒しているようだ。
ダンは困ったように、
「聖女様、わたくしは王より、あなた方の頼みを聞いてやってくれと強く言われておりますので、お手伝いをさせて頂きたいだけです。そこまで警戒しないでください」
そう言うと、私達1人1人と目を合わせた。
「わたくしは、レイル様、ルル様、オルレア様、アーク様。この4名様を裏切る事は決してございません。なので、完全に味方だと信じてください」
4名って言い切ると逆に怪しい。
それだと、王様は入ってな………
「ちなみに、4名様と言ったから、この4名様以外の人達を裏切る人間かもしれない、などと考えるのはおやめくださいね」
ダンは何故か私を見ている。
心を読まれた。
ダンは何者なのか。
「レイル様は、表情が豊かですね」
ダンのそのセリフに、私の表情が心の声を漏らしていた事を知った。
もう、ダンの前では真顔でいよう。
「ダンは特に害意や悪意があるような感じがしないから、そんなに警戒しなくても良いと思うんだけど、オルレアの方が私よりダンの事を知ってるのに、何でそんなに警戒してるの?」
オルレアの前で初めてダンの名前を出した時に、オルレアは、ダンが出てくるのは国にとって重要な時というような事を言っていた。
正直、ダンはそんなに強そうにみえない。
オルレアは、私の質問に「毒使いだからです」と一言。
毒使いという存在は、なかなか珍しそうだ。だが、それだけで警戒する理由になるのだろうか。
まあ、今はそんなダンに構っている暇はない。
私は、そうなんだと言った後に、軽く準備運動を始めた。
そんな私を見て、オルレアとアークは驚いたような顔をしていた。
「どうしたの?」
と私が聞くと、2人は笑い出した。
私には意味がわからない。
とりあえず、私が何か面白い事をしたようだ。
「私、今そんなに笑われるような事した? ただ足を痛めたら大変だから、準備運動をしていただけなんだけど」
そんな私の言葉に、2人はまた笑い出す。
理由もわからず笑われるのは、あまり良い気がしない。
「勇者も聖女も、ご主人様を笑うのをやめてもらって良いですか? ルルは今とても不快です。 なぜ笑ったのか理由を言うのが先でしょう。この国から勇者と聖女がいなくなる前に言ってください。10・9・8・7……」
ルルが私のために怒ってくれた。
それは嬉しいのだが、2人を敵に回すような言い回しはやめてほしい。
「レイルごめん。まさかここから走ってゴウカに行こうとしているとは思わなくて……。レイルらしいなと思うとかわいくて笑ってしまった。本当にごめん」
アークが私に頭を下げた。
真剣に謝られると文句も言えないが、『かわいくて』という余計な一言をつけたせいで減点だ。
「レイちゃんごめんなさい! 私は、レイちゃんがここから走って帰ろうとしているのを見て、やっぱりレイちゃんが凄い人だと再認識して、笑ってしまいました」
「 私には、身体強化があるから、私が特別凄いわけじゃないよ……」
それだけで褒められるのは意味がわからない。
「魔法は万能ではありますが、苦手分野もあるんですよ。それが、肉体に限界を無くす、『身体強化』なんです。この魔法は今存在している魔法使いの一握りしか使えない技で、皆、喉から手が出るほど欲しい力なんですよ」
オルレアは身体強化が価値のある力だと教えてくれた。
「ご主人様が凄すぎて笑うしかなかったのですね。それなら笑っても文句を言わないであげましょう」
ルルが言った。
笑われるのは私なんだけど……。
「一握りの魔法使いしか使えない力なら、オルレアもアークも使えないのか……。早くゴウカを見たいから、1番早い方法でいきたい。ワープできるような魔法ないの?」
私が少し投げやりになりながら言うと、
「ありますよ。これは魔法ではなく、魔道具ですが。宜しければ、ぜひお使いください」
ダンが、私に何かを渡してきた。
ブレスレットだ。前回は黒のブレスレットだったが、今渡された物は白だった。
「今日使った魔道具と同じ見た目ですが、色がちがいますね」
私はそう言いながら、やってしまったと思った。
今日、魔道具を使い、ワープして王宮へ来たのだ。これでは催促だと思われても仕方がない。
「レイル様達が来られた時の『黒の輪』は、王宮の位置が記録された物でした。今お渡しした『白の輪』は、黒の輪と情報が繋がっており、『黒の輪を使った場所』の位置が記録されており、その場所に戻れる魔道具です」
ダンは魔道具の説明をした後に、
「これは、わたくし共が勝手にご用意した物ですので、決して用意させられた物ではございません。ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」
優しい口調で私に言ったが、その配慮はただ私の失態を暴露しただけだ。
気持ちはありがたいから頂いておくが。
「黒と白で対になってるんですね。ありがとうございます。じゃあ、早速行ってきますね」
私はブレスレットのボタンを押した。
ダンの「いってらっしゃいませ」という言葉が途中で途切れたかと思うと、少しの浮遊感の後、地面に着地した。
家に着いた。とりあえず植物達に挨拶をする。
オルレアは嬉しそうに植物達に話しかけに行く。
また、植物達の声が聞きたいな……。
この戦いが終わったら、また、オルレアに頼んで植物たちの声を聞こう。
これはフラグにはならない……はず。
「ここはどこだ? 空気がきれいだ。まさか、妖精の国……」
アークはボケで言っているのか、本気なのかよくわからない。
「ここから、ゴウカはすぐだから行こう」
私は先頭に立ち、皆を案内した。
あまりゴウカに近付きすぎると、【ゴウカの魔物】がなにをしてくるか想像もつかない。
少し歩くと、ゴウカとの境界が見え、一面の砂漠に辿り着いた。
結界に張り付いているのも数匹いる。
私は目に集中し、ズーム機能で結界の中を見た。
なんか……。増えてる……?




