笑顔の破壊力 lv.28
アークが【ゴウカの魔物】と戦える。
全く予想していなかった展開だ。
私はこの世界に来てから、一人でゴウカの魔物を相手にする覚悟をしなければいけなかった。
私の他に、神力を使える人がいるなんて考えもしなかった。
元は私が街で神力を撃ったからだが、もの凄く嬉しい。
「ありがとう、アークが一緒に戦ってくれる事がすごく嬉しいよ。一人で抱えるのは、ずっと苦しかったから……」
私が言うと、ルルはこちらを見て目を潤ませた。
「ご主人様ああ! ずっと不安でしたよね! ご主人様がお辛いのを知っていて、ルルは役目の為だと自分に言い聞かせ、ご主人様の気持ちを見ないようにしていました! すびばぜんー!」
ルルは苦しんでいたのだ。
自身が私にもたらした運命に……。
「なに泣いてるの、ルルは悪くないでしょ? どちらかというと、ルルのお父さんの仕業なんだから謝らないで。はい、これ食べて泣き止んで、いつもの笑顔のルルに戻って」
私は、ルルにジェイナからもらったお菓子を食べるようすすめた。
ルルは泣いていても元気だが、やはり笑っている顔が一番だ。
ルルは頷き、ニコッと笑って見せた。
ここでオルレアが、口を開いた。
「みなさんは、ゴウカの魔物を見たことはありますか? 戦うならば、敵のことを知らないといけません。見た事もない敵は敵ではなく、ただの絵です」
ただの絵……。
どうやらオルレアは頭に浮かぶ映像の事を言ったようだ。
「オルレアは見たことあるの?」
と私が聞くと、オルレアは頷き、語り始めた。
「私が初めて、ゴウカの魔物を見たのは幼い頃でした。次期聖女として、顔見せに色々な所を回っている時に、ゴウカの近くに行ったのです。私がいたのはサンチなのですが、サンチはゴウカと接している部分があり、幼い私は、青々とした森の中にいきなり真っ白な砂漠の世界が広がっているなんて思いもせず、しばらく森と砂漠の境界を見つめていました。その時にこんな魔物がいるのを見て驚いた事を覚えています」
オルレアはそう言うと、どこからか紙を取り出し、ゴウカの魔物の絵を描きだした。
その絵に描かれているゴウカの魔物は、全体的に黒く、口の中が真っ赤で、足が六本だった。
私の記憶と違う……。
「オルレア。足の数まちがえてるよ。ゴウカの魔物の足の数は四本だよ」
私はオルレアの絵に書かれていた【ゴウカの魔物】にツッコミをいれた。
すると、
「レイちゃんは直接見た事が?」
とオルレアは私に聞いた。
私は「ある」と言って続けた。
「見た事があると言っても、私も二回だけなんだけどね。長時間しっかり見たとか、そういう訳ではないけど、足は絶対に四本だったよ」
私は、『聖女の結界』にへばり付き、結界を削りながら食べていた魔物を思い出していた。
足が四本だったから、人のように見えて嫌な気分になったのだ。
六本に見えた事など無い。
オルレアは何か考え事を始めた。
するとルルが、
「恥ずかしながら、ルルはゴウカの魔物の詳細を知りません。この聖女が書いた魔物と本物との違いは足の数だけですか?」
と私に聞いた後、オルレアが書いた絵を見た。
他に違う所は……特に無さそうだ。
「うん、見た目が複雑な感じではなくて、ただ見るだけで恐怖心が湧いてしまう大きさと見た目だった。足の数以外は本当にこの絵と変わらない」
私はそう答えてオルレアを見た。
まだ何かを考えている。今回は長考に入るかもしれない。
「うーん……俺も何度かゴウカの魔物を見た事はあるが、足の数はあまり覚えてない。いずれ対峙する事があるかもしれないのに、俺はなんでしっかり見なかったんだ……」
はあっとため息をつき、アークが言った。
ここで、オルレアが立ち上がり叫んだ。
「ここで話していても答えは出ません、行きましょう!」
私は意味がわからなかったが、オルレアなりに考えて、何かあるのだろうと思い、黙って着いていくことにした。
だが、ルルがかみついた。
「聖女は、お話を流れから作り上げる脳がないのですか? 結果だけでは周りは混乱します! しっかりと、なんの話か説明してください!」
ルルの言葉を聞いて、オルレアは我に返ったように少し恥ずかしそうにした後、
「少し取り乱してしまいました。ゴウカの魔物の足が本当は何本なのかを、今から実際に見に行きましょう。ものすごく不安をあおってしまいますけど、もし、四本だった場合、また国王陛下に謁見しなければいけなくなるくらい大事になる事を覚悟していてください」
そう言うと、立ち上がった。
本当に今から行く気のようだ。
確かに、四本だとより一層気持ち悪くて、あまりまじまじとは見られない。
オルレアの言う、『大事』がゴウカの魔物の気持ち悪さな訳はないが、そういったものを見る機会なく育った私には、二回見て、二回とも大ダメージだった。
アークは先ほど、もっとしっかり見ていたら良かったと言っていただけあり、すぐに立ち上がった。
「それは良い考えだな。いずれ俺たちが戦うことになる相手だ、見て損はない」
楽しい事をしにいく訳でもないのに、アークは少し楽しそうだ。
「そういう事なら行きましょう。何か嫌な予感がします。時間が無いかもしれません。急ぎましょう」
ルルが言った。
どうやら、ゴウカの魔物が四本足だと、相当良く無いらしい。
足の数で強さが決まるタイプの魔物なのか……。
いや、前にルルが、ゴウカの魔物は普通の魔物に比べて、情報がないと言っていた。そもそも、見て強さがわかるならそれをまず私に伝えたはずだ。
この世界には魔法があるのに、ゴウカの様子を見る魔法や魔道具は無いのだろうか。
そんなものがあると、倫理的に良く無いなどの理由で使えないのか……。
三人は見に行く気だが、見なくてももう答えは出ている。私は六本足の魔物を一体もみていないのだ。
だが、百聞は一見にしかず。
黙って着いて行くことにした。




