笑顔の破壊力 lv.19
私が玄関の扉を開けると、執事風の若い男が立っていた。
この男は、笑顔を顔に貼り付けているようで、あまりにも胡散臭い。
私の能力を知った王室が、戦闘系の執事でも送って来たのだろう。
いつものように、音も無く私の真後ろに立っていたルルは、私の様子を見て、表情を引き締めた。
とりあえず早く帰ってほしい。
執事は礼儀正しく頭を下げながら、
「初めまして。わたくしは、オルカラ王家の執事を務めております、『ダン』と申します。こちらはオルカラ国王から、レイル様宛ての召集令状でございます。お確かめ下さい」
そう言って、ダンは、大層な金の封蝋が押された、高そうな赤い封筒を渡してきた。
「拝見します」
私は封筒を受け取り、ルルに渡されたペーパーナイフで封を開けた。
中には便箋が一枚とカードのような物が入っていた。
便箋には、
『準備出来次第、王宮に顔を見せる事』
と書いてある。
遠回しに今から来いと言っているのかもしれない。
本によると、貴族は何でも遠回しに話すらしいが、王族はどうなのだろう。
考えても仕方がない。用意はする。
封筒にもう一つ入っていたカードは、王宮への通行証のようだ。これを見せれば王宮の門を通れるらしい。
「準備出来次第って、曖昧ですよね。今日とか、明日とかじゃないんですか? もしかしたら行かないかもしれませんよ」
私はダンと目を合わせる。
「それは、レイル様が決める事でございます。こちら側がレイル様を強制する事はできませんから。王宮へ向かうも向かわないも、レイル様のお気持ちひとつ。行っても良いと思われた時で大丈夫ですので、じっくりとお考え下さい」
ダンは相変わらず張り付いた笑顔で言った。
そんな軽い気持ちで王宮に向かう人は居ないだろう。
王様なら命令するのではないのか。一国民に対して選択権を与えるだなんて、寛容なのか、試されているのかわからなくてもやもやする。
「準備と言われても、何をしたら良いのかわからないので少し時間をいただきます。出来るだけ急いで向かいます」
私は何も教えてもらえない事に苛立ちを覚えながら、出来るだけ落ち着いた口調で言った。
ダンの張り付いた笑顔が少し崩れ、困ったような表情になった。
「わたくし共は、レイル様に命令する権限を持ち合わせておりません。『わたくし共』の中には『王族』も含んでおります。レイル様に指示も出来ません。逆に言えば、レイル様はどんな準備をしても、しなくても、いつ向かわれても、向かわれなくても良いのです。他意はありませんので、どうか、言葉通りお受け取り下さい」
そういうと、ダンはまた、笑顔を作った。
試している訳ではなく、本当に私がしたいようにして良いらしい。
「なぜ、私にそんなに自由が与えられているのかわかりませんが、出来るだけ急いで行きます。と王様にお伝えください」
私が言うと、ダンは嬉しそうに笑いながら頭を下げた。
「レイル様が王宮へ向かわれる手段ですが、徒歩や馬車では疲れてしまわれるかもしれませんので、こちらでワープの魔道具を用意させて頂いております。宜しければ、ぜひお使い下さい」
そう言うと、ダンは黒いブレスレットを私に差し出した。
「このボタンを押すと、王宮の前にワープする事が出来ますので、いつでもご利用下さい」
説明を受け、ブレスレットを見ると、小さなボタンがついている。間違えて押してしまいそうだ。
私はブレスレットを受け取り、御礼を言った。
「では、わたくしは失礼致します。レイル様のご訪問を心よりお待ちしております」
ダンはお辞儀をして帰っていった。
私は一度家の中に入り、渡されたブレスレットをルルから貰ったバッグに入れた。
そして、ダンが居なくなったのを確認してから、外に出て、植物達に水をやる。
私は丘を下りて、大きな木の下に座った。
「いつ行こうか」
私は、当然のように着いて来ていたルルに言った。
「準備に関しては、ルルにお任せください! 王宮へ行くからといって、着飾る必要はありません! 三日ほどで準備は整うはずです!」
そう言うと、ルルも私の隣に座った。
三日か、思ったより早い……。さすがルルだ。
オルレアに三日後だと言いに行かなければ。
ニライの神殿に行けば連絡が取れるだろうか。
「神殿ってどこにあるか知ってる? オルレアに王宮に行く事を伝えないと」
ルルは、どこにあったのか地図を開き、この辺りだと地図を指さした。
中心街の近くだ。ここからだと中心街に行くより近い。
せっかく外にいるので、このまま行く事にした。
朝食は近くに成っている果物を採って、食べた。
バッグに入れていたキュインをしてから、私とルルは歩き出す。
しばらく歩くと神殿に着いた。
真っ白な建物。ニライにあるのは、大神殿ではなく、普通の神殿だが、思ったより大きい。
恐らく、元の世界でいう、小学校の校舎くらいの大きさか。
オルレアに聞いた感じだと、この世界での神殿の役割は病院と変わらないようだ。
神殿で話を聞くのに待ち時間が発生すると思っていたが、周りには患者らしき人はいない。
皆が健康なのは良い事だが、一人もいないなんて事があるのだろうか。
「神殿って怪我や病気の人が来る場所だよね? 何で誰もいないの? 今日は休み?」
私が聞くと、ルルは
「この世界での神殿はあまり機能していないのですよ。ポーションが存在するので、怪我や病気がよっぽど酷くなければ治るんです。ポーションが買えない貧困層の者がたまに治療してもらいに来るくらいで、普段は暇だと思いますよ」
そう言いながら、神殿の中へ入った。
そう言われると、異世界ものであまり病院や神殿のような場所で治療を受けている人を見た事がないかもしれない。
それでも、神殿はもっと儀式や催し物で人が集まっているのではないのか。現実はこんなものなのか。
私もルルに続いて中に入ると、神殿というだけあって、空気が綺麗で、物凄く清潔感がある。
神殿に入ってすぐが大広間になっている。ここで、儀式等の大勢が集まる行事が行われるのだろう。
ここにオルレアはいないようだ。
「ここに何か御用ですか?」
大広間の奥から誰かがこちらに声をかけてきた。
スキンヘッドで白地に金枠の、いかにも神官といった装束を着ている男性がこちらへ歩いて来る。
なんとなく、神官は長髪の美男子なイメージがあったが、まさかスキンヘッドの神官がいるとは……。
「あの、私達、聖女オルレアを探してるんですけど、ここにいないですか? 話したい事があって」
私は神官に聞いた。
「聖女様ですか。本日はこちらにはいらっしゃいません。いつも予告無しでいらっしゃるので、私にも聖女様がお見えになるのがいつかわからないのです」
神官はツルツルの頭を触りながら言った。
予告無しで現れるのは神殿側に迷惑をかけていそうだ。
「そうなんですね。オルレアに会う機会があれば、ちゃんと連絡してから行くように伝えておきます」
「最近、聖女様にお友達ができたと聞きました。人に心を開かないと言われている聖女様が、お友達の話をする時は楽しそうに話すともっぱらの噂です。あなた方がそうなのですね」
神官は嬉しそうにニコッと笑った。
「それ、本当にオルレアの事ですか?」
と私は神官に尋ねた。




