【最終話】笑顔の破壊力 lv.126
それから数十年後ーーーー
私が、皆を待つ間、センリのカフェで休憩をしていると、少し離れた席に冒険者と思われる男の子二人と女の子が一人座った。
どうやら私には気付いていないらしい。
三人は例の変わった名前の料理を恥ずかしそうに注文し、頼んだものが来ると、談笑しながら食べ始める。
パーティーの愚痴を言い合ったり、ギルドに張り出されてある依頼の相談等をしている。
本でよく見た冒険者の姿だ。
場所が酒場では無いのが、この世界らしくて思わず笑みがこぼれる。
すると、一人の男の子が二人に近付き、周りを気にしながら話し出す。
「なあ知ってるか? 勇者様と聖女様と大神官様と王室騎士団長、神の子に英雄がいたっていう幻のパーティーの話!」
「何? 凄く有名な話じゃん、逆に知らなかったの?」
「違うんだって! その英雄ってギルドマスターらしいぜ!」
「ギルドマスター……って、いつも引きこもって何考えてるかわからない、あのギルドマスターか? 英雄って感じじゃないだろ」
「それが本当なんだって! アーク様とオルレア様が、ギルドマスターに英雄だって言ってたんだ!」
「もしそれが本当だとして、何で皆知らないのよ?」
「俺も考えたけど……ギルドマスターが目立つの好きじゃないからじゃないか?」
「あー……それはあるかもな。なら、俺らもあまり話さない方が良さそうだ。もし広めたら、あの付き人に何されるかわからないぞ」
三人はコソコソと話す。
彼らが思っている以上に声が漏れているため、話が聞こえてくる。
どうやら、冒険者達の間でルルは有名なようだ。
「あの人、ギルドマスターとタイプ真逆よね? 何であんなにベッタリ……あっ! もう十時よ! 早く行かないと遅れちゃう!」
「今日はサンチの農作物を荒らし回ってる魔物だったよな。早く倒して依頼主を安心させてやろうぜ」
「おう!」
三人は会計をし、
「センリさん美味しかったよ、ご馳走様!」
と言って店を出る。
「はい」
センリはぶっきらぼうに返事をし、私の向かいに座った。
「どうして国民の記憶から『英雄が誰か』を消したんですか? 皆忘れてるじゃないですか。あれだけ活躍したのにもったいないです」
センリは不満気だ。
そう、私は英雄をやめた。
正しくはゼンに頼み、英雄は存在していたが、誰だかはわからない、という風に皆の記憶から私を薄れさせてもらった。
強烈に私を思っている人でない限り、私と英雄は結びつかない。
それでも時折、先程の男の子達のように、風の噂として私が英雄だと耳に入る者がいるようだ。
「私はこの世界の主人公じゃないんだよ。大人しく過ごしてあまり目立たないようにしたいんだよね」
「でも、一部の冒険者の間では、レイル様を『笑う破壊神』と呼び、崇拝してますよね」
センリが言うように、高ランクの冒険者とは、稀に一緒に魔物討伐をする事があり、私の力を見て慕ってくれる者も多くいる。
「それは本当にありがたいよ。私は面白い事も言えないし口下手だけど、そうやって親しみを込めて接してくれる人達がいるから、今ギルドマスターとして頑張れてる」
私の言葉を聞き、センリが微笑む。
「レイル様に関しては、謎が多いので色んな噂が流れてますよね。例えば、ヨウリ殿下との婚約、とか」
センリが、ニヤニヤとしながらこちらを見る。
「そんな話出てないよ! センリは最近よくからかってくるよね……仲良くなれて嬉しいけど」
私が小さな声で言うと、センリの顔が真っ赤になった。
「いきなり何を言うんですか! そろそろ皆さん来られるんじゃないですか? シームに大型の魔物の群れが現れたんですよね。頑張って来て下さい」
そう言うセンリに、私は微笑み頷いた。
チリンと可愛らしい鈴の音が聞こえる。
入り口の方を見ると、ルル・オルレア・アーク・ゼン・ダンがいた。
「レイルちゃん、久しぶりにパーティー復活だよ! 行こう!」
「お茶をされていたのですね。飲み終わってからで大丈夫ですよ」
「センリはすっかりレイルのお茶友達だな!」
「私も、レイちゃんの一番のお友達であり、お茶友達ですよ!」
「ご主人様のパートナーはルルですけどね! ご主人様! お迎えに上がりました! 行きましょう!」
「もう飲み終わってるよ。じゃあ、センリまたね」
私が会計を済ませると同時に、ゼンが指をパチンと鳴らした。
私達はシームに降り立つ。シームはオルカラ王国で唯一海に面した街だ。潮の香りがする。
「わー! すごいね! あんなにうじゃうじゃと何処から出て来たんだろう」
ゼンは海に大発生している大型の魔物の群れを指さす。
「レイルなら一撃でいけるんじゃないか?」
アークが私を見る。
「いえ、レイル様が魔法を使われますと、海が干上がってしまいます。ここは慎重にいきましょう」
ダンがアークの質問に答えた。
「お怪我をした方は私の所に来て下さいね。すぐに治療します!」
オルレアが笑顔で皆に声をかける。
「聖女の治療を必要とする者などここにはいないので、お茶でも飲んでいてください。ルルは神力を使わなければ戦えるので、こんな奴ら魔法でぶっ飛ばしてやりますよ!」
ルルが張り切っている。
オルレアは、口を膨らませ不満をアピールした。
今日は国からの依頼で、久しぶりにこのメンバーでパーティーを組んだ。
シームの、水を司る『青の精霊王アズール』が困っているらしい。
精霊王といえど、この数を相手にするのは難しいようだ。
貿易の要であるシームを落とされると、オルカラ王国にとって大打撃になる為、私達が呼ばれた。
皆で戦闘服を着て戦うのは久しぶりでワクワクする。
あのゴウカでの戦いの後、クロエは、またこういう事が起こらないとは限らないと、ダンにも戦闘服を用意していた。
スラッと背の高いダンには、黒い戦闘服がよく似合う。
ダンのイメージからか、クロエはダンに黒の戦闘服を用意していた。
当時はゼンによくからかわれていたものだ。
私の視線に気付いたダンが、目を合わせ、いつもの笑顔を見せる。
「では、ご主人様、開戦の狼煙を上げてください!」
ルルが楽しそうに言った。
私は眼鏡を外し、魔物の群れを指さし、左目を瞑る。
「じゃあ、いくよ!」
そして笑った。
私の英雄としての物語はここでおしまい。
この後も長い時を生きる私達は、個性的な仲間のおかげで、話題に事欠かない、楽しい毎日を送る事になる。
クロエのお茶会は大規模なパーティーとなり、王族も参加し、大きな話題となった。
毎年、思話で両親と話すと、二人は毎回私の成長に驚いてくれる。一度母が、私を育てる上で工夫した事や、面白かった事等、少し私が恥ずかしくなるエピソードを披露してくれたのには、素直に尊敬と感謝を伝えた。
神である『あの四人』と話す時は、ルルが必ず乱入し、大騒ぎになっている。
だが、五人は仲が良く、面白い掛け合いをBGMとして聞いているだけの年もある。
私がギルドの時間外にしていた仕事は、睡眠を必要としないルルが対応してくれる事になり、随分と楽になった。
そして、Sランク冒険者として名を馳せるジェットは、全冒険者の憧れとなり、王国警備隊では、魔人二人が剣を持たずに戦うと話題になっている。
ローズは、『ゴウカの女神』として崇められ、ゴウカでのエピソードが国中で語り継がれていた。
先見の明を持つクロエの店からは、次々とヒット商品が生まれ、双子の王子と王女の片想いの話が囁かれ、センリとケイの結婚までの話が感動すると、本になり、劇になった。
そして今、オルレアが初めての恋をしている。
これからも、想像も出来ないような出来事が沢山起こるだろう。
どんな事でも、この人達となら笑って乗り越えられる。
笑顔の破壊力が物理的な破壊力!
これは、そんなおかしな能力を持って生まれた私の始まりの物語だ。




