笑顔の破壊力 lv.125
ルルが帰ってきた。
嬉しくて、嬉しくて、私は一日中笑顔で過ごした。
ギルドに遊びに来たゼンに、ルルの事を報告すると、喜びのあまりゼンは私を抱きしめた。
すると、ハッとなり私から離れたゼンは必死に謝る。
丁度そこに現れたオルレアが、ゼンに詰め寄り、巡回に来ていたアークも混ざり、騒ぎ出した。
そこで、また私はルルの事を二人にも話す。
「ルルが……本当か? 帰って来たのか。やっと、やっと……」
アークの目に涙が溢れる。
「やっと帰って……嬉しくて、何と言えば良いのか……ルルさんに会いたいです……今日……お家に行っても良いですか?」
オルレアは言葉を詰まらせる。
「皆で来てよ。ルルもきっと喜ぶ」
数年だと言われていたのに、数ヶ月でルルが戻って来た事を伝えても、皆『やっと帰ってきた』らしい。
ルルが、皆から愛されているのを確認できた事で、私は頬が緩む。
ギルドでの仕事は、九時から十八時までだ。
時間外に起きた問題は、全て私が対応する事になっている。
ギルドに用がある者が、ギルドの前に置いてある公衆電話のような魔道具を使うと、私に連絡出来る仕組みだ。
実質、私は時間外限定の冒険者だ。時間外に他の冒険者が見つからない場合は、私が依頼を受ける事になる。
一応冒険者登録もしており、ランクはS。確実に、私の実力に見合わないランクだが、例の魔道具がその時は少しおかしくなっていたのだろう。
今日も十八時に仕事が終わり、皆と待ち合わせをして家に帰った。
「ちょっと緊張するな……」
「私も、緊張しています……」
アークとオルレアはソワソワしている。
すると、ガチャッと家の扉が開き、
「勇者と聖女は何故、人の家の前で固まっているのですか? 大神官と執事まで……女性の家をこんな時間から訪ねるだなんて、非常識ですよ。ぜひ、お帰りください」
ルルが男達に軽蔑の目を向ける。
「はははっ! ルル様だ! 久しぶりだね、ぼくの事を覚えててくれたなんて感激だよ! こうやってはっきり拒絶されるのも嬉しいよ、ありがとう」
ゼンが変な趣味の人に見える。
罵倒されるのを待ち望んでいたゼンに、これはご褒美だ。
私もそういうのがわかるようになったのか、と少し悲しくなる。
「兄さん、その発言は危ういですよ。ルル様、お久しぶりです。無事に帰ってこられたようでわたくしも嬉しいです」
兄弟揃って、ルルが言った事を無視した。
「ルルさん! 会いたかったです! 本当に……」
オルレアが抱きしめようとルルに向かって行くと、ルルはそれを避けた。
オルレアは悲しそうな表情をしている。
「確かに、こんな時間に女の子の家に来るなんて、男として不誠実だよな……ごめん! ただ、ルルに会いたかったんだ! おかえり、ルル」
アークは反省しながらも、ルルと目を合わせ声をかける。
「まったく、少しは成長しているかと思っていましたが、変わらないですね。ルルはご主人様にお会いできればそれで十分だと思っていましたが、こういうのも悪くないです」
ルルは照れ隠しをした。
「じゃあ中に入ろう」
私は扉を開け、皆を招き入れた。
家の中は、ルルが片付けてくれたおかげで、物凄く綺麗になっている。
私はルルにお礼を言った。
「ここはルルの家でもあるのですから、当然です! むしろ、長い間ご主人様に負担をかけてしまいました……すみません」
ルルが、目をウルウルとさせてこちらを見る。
「ルルが守ってくれたから、私は今ここにいるんだよ。ルルがいない間、寂しかったけど、感謝する事はあっても、負担だなんて一度も思ってない」
私はルルの頭を撫でる。
すると、ルルの表情がパッと明るくなり、
「では、この者達に、ルルが腕によりをかけた料理を振る舞ってあげましょう!」
と言い、豪華な料理を並べ始めた。
ゼンが指をパチンと鳴らして、人数分のティーセットを出し、食事会のようなものが始まる。
ルルは、自身が消えているだけで存在はしており、私達の事はちゃんと見えていたと語った。
神力を送らなければ、そのまま消えていたようだ。
もちろん、ヨウリやゼンの告白の瞬間も見逃していないようで、ゼンはチクチクと嫌味を言われていたが、嬉しそうに受け止めていた。
それを見てアークが顔を青くしている。
ルルは、今皆がしている事も知っているようで、明日から、冒険者ギルドに私の秘書として出勤してくれる事になった。
「前に、俺の母親のお茶会にレイルとルルを呼ぶって話したよな? この際だから、大きいパーティーにしてもらって皆で騒ごうぜ! ジェット達にもルルを紹介したいしな」
アークが嬉しそうに提案した。
以前、ルルに何も対価を払えなかったアークが、ルルと約束した事だった。
「勇者はやはりいつまでも子どもですね! ですが、あの店主のパーティーには興味もありますし、約束をしたからには、ルルはご主人様と参加せざるを得ません! 魔人共とも話したいと思っていました」
そう言うルルは、ニヤッと笑い、料理を口に運んだ。
相変わらずキャラに似合わず、ゆっくり味わって食べている。
私はオルレアと顔を見合わせた。
「ルルさん、これ何かわかりますよね?」
オルレアは三本のブレスレットをルルに見せる。
ルルは、少し驚いたような表情をした後、
「ルルは、それを聖女とご主人様が買われた所を見ていましたので、知っています。そのオレンジ色の宝石が付いたものがルルの物だという事もわかっています」
ルルは照れ臭いのか、モゴモゴとして、聞き取りづらい。
「ふふ、皆でつけようか」
私はオルレアからピンクとオレンジの二本のブレスレットを受け取り、オレンジのブレスレットをルルの腕につけた後、ピンクの物を自分の腕にもつけた。
オルレアは緑の宝石がついたものを腕につける。
自身の腕を見て、ルルは恥ずかしそうに笑った。
「時計はルルの部屋に置いてあるから後で見てね」
オルレアと買いに行った、オレンジの時計はずっとルルの部屋に置いてある。
「ぼくはこの最高級のお茶しか用意してないけど、沢山飲んでよ」
ゼンは、口調は申し訳なさそうだが、顔は自慢気だ。
「申し訳ないのですが、突然でしたので、わたくしは何も準備できておりません。後日用意致しますので、お待ちください」
ダンが笑顔で言うと、
「俺も! 絶対何か用意する!」
アークが焦ったように続いた。
「ルルにとって、ここに戻って来られた事が一番の贈り物です。それなのに、こんなに歓迎されてプレゼントまでいただけるなんて……戸惑います」
恥ずかしそうに私達を見るルルは、可愛いただの少女だ。
「何故か、あのルル様が可愛く見えちゃったよ。ぼくも歳かな」
ゼンが物凄く失礼な事を言った。
「ルルが可愛く見えたらおかしい、という事ですか? 『歳かな』とはどういう事か教えてください」
ルルがゼンに詰め寄る。
「ごめんね、ぼくの言い方が悪かったよ。ルル様はいつも可愛いよ」
笑顔で言うゼンに、
「別に大神官に褒めてもらっても嬉しくありません」
とルルが突っぱねる。
懐かしいやり取りだ……。
ゼンの表情が生き生きとしている。相当嬉しいのだろう。
まるで、離れていた時間など無かったかのように、自然に繰り広げられる会話が心地よくて、私はずっと笑っていた。
ルルがいるだけで場が賑やかになる。
やはり、ルルは太陽だ。
この会の最後は、ゼンが『名もなき果実』の例のケーキを出した。
ルルの目が輝き出す。
「これは、『あれ』ですよね! ずっと気になっていました! ルルならばどんな味になるのだろうと、何度も想像しました! 大神官!」
ルルはゼンに笑顔を向けると、ゼンは嬉しそうに頷いた。
ルルがフォークでケーキを切り、口に入れる。
モグモグと噛んだと思うと、いきなり顔が青くなり、すぐに飲み込んだ。
「ルル!? 大丈夫?」
私が聞くと、
「大神官を見たからです……大神官と全く同じ事が起きました!」
ルルは悲しそうに言った。
ゼンの、『色んな味がしすぎて不味くなる』現象が起きたらしい。
「ルル様には『名もなき果実』は合わなかったようですね。一度ダメな方にいってしまうと、味の修正が難しいので」
ダンが申し訳なさそうに言うと、ルルは残念そうに俯いた後、顔を上げ、
「この実の事を忘れたあたりで、もう一度必ず挑戦します! 何百年先だろうと必ずです!」
ルルはゼンに言った。
「そうだね。必ず、挑戦してよ」
ゼンは嬉しそうに返事をする。
未来の約束を聞いていると安心する。
ルルが、皆が、ずっと一緒にいてくれると確信をもてる。
私はこの人達と新しい人生を歩んで行く。
何十年、何百年、何千年先だろうと、大切な皆と共に生きていくのだ。




