笑顔の破壊力 lv.124
「それにしても、すごい名前のメニューが多いね。ぼくでも言うのに勇気がいるよ」
「店主はレイル様の大ファンのようですね。わたくしは言葉にできませんので、指さしで注文いたします」
ゼンとダンはメニューのネーミングセンスに苦笑している。
アークはいつものセットを頼み、私とオルレアは前回と同じものを注文した。
ゼンとダンも悩みながらもセットを注文する。
料理が来ると、各々がティーカップやグラスを手に持ち、乾杯をした。
『冒険者ギルドオープンを祝して!』
「ようやくオープンだね。細かい所を考えるのは大変だったけど、ギルドの設立に関われたことを誇りに思うよ」
ゼンが笑顔で言うと、
「わたくしも、あまり出来ない経験ができ、レイル様には感謝しております。冒険者ギルドの視察に来たいと他国から連絡が来ることも増えておりますので、オープン後は、相当忙しくなる事を覚悟された方が良いかもしれませんね」
ダンは恐ろしい事を言う。
「大丈夫ですよ! 私がレイちゃんのお手伝いをしますから。難しい事は出来ませんが、何でも言ってくださいね」
オルレアが私に笑いかける。
「俺も、王国警備隊の奴らが順調に育って時間を作りやすくなってきてるから、いつでも頼ってくれ。冒険者に絡まれたりしたらすぐに呼ぶんだぞ」
アークは真面目な顔で言った。
「皆がいてくれたからここまで来れた。ダンが言う通り本当に大変なのはここからなんだけどね。でも、今まで本当にありがとう。まだまだ助けてもらうと思うから、その時はまたよろしくお願いします」
私は座りながら、頭を下げた。
皆照れたように笑い返してくれるが、オルレアは何故か泣きそうな顔をしている。
「すみません……感極まってしまいました。大変なのはこれからと言っているのに変ですね」
オルレアは、涙を浮かべながら笑う。
「ぼくも、レイルちゃんが頑張ってきたのを知っているから、オルレアの気持ちはわかるよ。でもぼくの場合は、ギルドが稼働した後に、どんな事が起こるのか楽しみしかないよ。もちろん、問題が起きたらぼくに出来る事なら何でもするからね」
ゼンは満面の笑みだ。
逆にゼンが出来ない事とは何なのだろう。
「オープン初日は、わたくし共もお手伝い致しますので、気楽に臨みましょう」
ダンは、私の緊張をほぐそうとしてくれているようだ。
「俺はギルド周辺を巡回して、変な奴を入れないようにする」
アークは少し過保護だ。
それから、冒険者ギルドについて沢山話した。
私は、自分が人と話す仕事に向いていない事を知っているので、ギルドで表に出て動く事は無い。それを勿体無いとゼンが騒ぐのとは反対に、アークは安心したような表情をしていた。
これから先は、できるだけ目立たないように暮らしたい。
「あの、ゼン様。少しお願いがあるんですけど良いですか?」
私は、ゼンにあるお願いをした。
食事を終えると、私達は店の前で解散した。
皆それぞれにやる事があるようで、帰りは一人だ。
ゆっくり歩いて帰る。
家に着くと、庭で植物達に話しかけながら、芝生の上に寝転がる。
最近は忙しかったのもあって、家の事が何も出来ていない。人に見せられない程に散らかっている。
三日後の冒険者ギルドのオープンの事を考えると、焦りと不安と同時にワクワクしてくる。
この日は家で過ごし、そこから二日間はギルドと家を行ったり来たりとソワソワして過ごした。
そしてオープン初日、私が朝八時にギルドに行くと、九時のオープンの予定だが、ギルドの前には既に列が出来ている。
「わあ、すごいねー。注目されていただけあるよ。この国には力自慢が多いから、ランクを付けた事で皆燃えてるみたいだよ」
丁度、ダンと一緒に着いたらしいゼンがニヤッと笑う。
私達はギルドに入り、従業員達と業務内容を確認する。
オルレアは、受付担当の者達と最終確認をしている。
顔採用だと言われても文句が言えないほどに、受付は美男美女になってしまった。
だが、面接に美男美女しか来なかったのだ。私のせいではない。
事務担当の者達は、ダンが確認をしてくれている。
営業担当には、ゼンが大袈裟な営業トークを叩き込む。
予想よりも優秀な人材が集まってくれた。ありがたい。
私はギルドで使う備品のチェックをし、落ち着いたのを見て皆を集めた。
「今日は初日だけど、気を張らないで困った事があればすぐに聞いてね。じゃあ、よろしくお願いします」
私が言うと、皆笑顔で頷き、持ち場に向かった。
九時になり、ギルドがオープンする。
想像通りの大盛況で、冒険者登録の列が夕方まで途切れなかった。
今日は登録だけで一日がおわる事を予想して、依頼の受付は明日からにしておいた。
ランク分けは、クロエとゼンが共同で作ってくれた、その者の強さが数値として見える眼鏡のおかげで簡単に出来る。
不正防止の為、数人で確認することにしている。
周りには助けられてばかりだ。
初日は何事もなく終わり、翌日は冒険者への依頼が張り出された。
イチノの街はお祭りのように人だかりができ、受けている依頼は全て出払った。
この調子だと、もっと依頼を引き受けても良さそうだ。
そして、冒険者ギルドはすぐに軌道に乗り、皆が業務に慣れ、数ヶ月が経ったある日。
私がギルドの前を掃除していると、
「こんにちは。優秀で気が利くお世話係が必要ではありませんか?」
背後から声がした。
……私はこの声を知っている。
目に溜まる涙を落ち着かせる為、一度深呼吸をする。
「お世話係って何をしてくれるの?」
私は声の主に背を向けながら聞くと、
「ご主人様のおはようからおやすみまで、身の回りのお世話をさせていただきます! 言いましたよね? ご主人様のお世話係は誰にも譲る気はないと」
「ふふふ。私のお世話係は競争率が高かったんだよね? なら、途中で離脱しちゃだめでしょ?」
「ご主人様のお世話係はルルにしか務まらないですから……もう……絶対に離れません!」
声で泣いているのがわかる。
「ルル!」
私は振り返り、ルルを抱きしめた。
「ただいま戻りました。ご主人様のお世話係であり、永遠のパートナー、ルルです!」
「遅いよ……いつまで待たせるの……でも、戻ってきてくれて、ここに帰ってきてくれてありがとう、あの時、私を助けてくれてありがとう」
「数十年かかるところを数ヵ月で帰ってきたのですよ? 早いと褒めていただけると思っていました。それも、ご主人様の神力の量が規格外だったので、成せた事です! あの時は覚悟しましたが、何百年、何千年先の未来でなく、今、ご主人様にお会い出来て嬉しいです!」
ルルは明るい声で言った。
あの時頼んだ甲斐があった。こんなに早くルルに会えるとは思っていなかった。
最高のサプライズだ。
ルルは抱きしめる私を離し、こちらを真っ直ぐに見た。
「ルルはご主人様をずっと見ていました。ルルの為に泣いてくださっている所も、ルルの為に悩まれている所も、ルルの為に神に願われた所も」
と嬉しそうに話す。
「そして、ご主人様がお家を片付けられていないこともです」
ルルはニコッと笑い、私と目を合わせる。
「それは……最近ちょっと忙しくて……」
私は言い訳をした。
「やはり、ルルがいないとダメですね! ご主人様がお仕事をされている間にルルはお家のお片付けをしておきます! 今日は美味しいご飯を作って待っているので、早く帰って来てくださいね!」
「またいなくなったりしないよね? 私が見ていないと消えちゃう、とかないよね?」
不安で仕方がなかった。
「ご主人様、ルルはもう絶対に居なくなったりしません! ご主人様と共にいつまでも幸せに暮らすと決めているのです!」
笑顔で言うルルを見て、私は気持ちが落ち着いた。
「うん……夢じゃないんだよね。帰って来てくれたんだよね」
また涙が溢れる。
そんな私の背中を押し、
「こんな所で泣くと男共がうるさいですよ! お家でお待ちしていますので、頑張って来てください!」
私をギルドに押し込み、眩しい笑顔でルルは言った。
ギルドの扉が閉じると、私は一度深呼吸をして業務にあたった。




