笑顔の破壊力 lv.122
「ゴウカを取り戻すという目的は達成した訳だから、もう使命は終わったわけだ。僕はまた、大神官として暇な毎日を送らないといけないと思うと気が重くなるよ」
ゼンが言うと、
「大神官とは目指してなれるものでは無いのですから、責任感を持ってください。皆様はこの先も活躍される事でしょう。漠然とでも、何かやりたい事は無いのですか?」
とダンがゼンに注意し、私達に質問した。
「俺は、今は自警団だけど、ちゃんとした組織にして、悪い奴らに甘い、この国にルールを作り、オルカラ王国を守っていけたら最高だなと思う」
アークは照れくさそうに言った。
オルカラ王国には、五人の精霊王がおり、最強の魔法使いがいて、強い騎士団もある。
だからなのか、警察や軍隊が無い。それに、国民を守る法律も無い。
治安維持は、アークが自警団を組織して、市民団体のような感じで活動している。
それを公的な組織にし、法律も作るようだ。
勇者であるアークに相応しい取り組みだろう。
「私は、聖女として人々を救いたいとは思っていますが、ゴウカの問題が無くなった事で、お仕事も減るでしょうし、ニライで果物や野菜や花達を育てたいと思っています」
オルレアも嬉しそうに未来を語る。
「オルレアが育てる植物は特別なものになるだろうね。農業や酪農が盛んなのはサンチって聞いたけど、ニライで良いの?」
と私が聞くと、
「ニライにはレイちゃんがいるので、私はニライにいたいんです。それに、レイちゃんがしたい事のお手伝いも出来たらと思っています……」
少し恥ずかしそうに言うオルレアは、やはり可愛い。
ゴウカの生き残った人達が、ローズを神だと崇めるのも時間の問題だと考えると、ローズもヴェルデと共にニライで暮らす可能性は高い。
オルレアがニライを選ぶのは良い事かもしれない。
「ふふふ、ありがとう」
私はオルレアに笑いかけ、
「私は、冒険者ギルドを作りたいと思ってるんだ」
と、私自身の『夢』を語った。
「この世界には魔物が存在しているのに、退治を依頼できる組織がありませんよね?」
私はダンと目を合わせる。
「そうですね。魔物は場所によっては頻繁に現れますが、大体が、心当たりのある知り合いにラルを支払い対策をしています。全員がタイミング良く引き受けてくれる訳ではありませんので、魔物の襲撃により全てを失ってしまう方も多くいらっしゃいます」
ダンは気まずそうに言った。
ダンが所属する王室騎士団は王家を守るための組織なので、国民のためには動けない。そうなると自警団だが、自警団は魔物退治より、警察のように治安維持を目的としている。
この国には、ゴウカの時のような、不測の事態に対応出来る組織が無いのだ。
「情報を共有して、向き不向きやその人に見合った難易度で、人々の困り事を解決する組織が必要かなと思います。誰かが大切な物を失う前に対応出来る組織を作りたいです」
この世界には、魔法使いがいるため魔法を使う職は多いが、寿命の長い魔法使いは年齢による入れ替わりが少なく、全員が働けているわけでは無いはずだ。
他にも、前にヴェルデが言っていた、大剣・槍・弓使い等、戦闘に特化した者も多くこの国で燻っているだろう。
そこで、冒険者ギルドだ。
冒険者登録をした者をS〜Eまでランク付けし、その者に見合った依頼を受け、依頼を達成すると、報酬が支払われる。
依頼は困っている人がギルドに出し、ギルドが仲介役となり冒険者が請け負う。
ファンタジーの世界では常識となっている、有名な制度だ。
この国に必要では無いかと、少し前から思っていた。
私が、冒険者ギルドがどういうものなのかを説明すると、
「それはすごく楽しそうだ!」
ゼンが嬉しそうに立ち上がって言った。
「なんという画期的なアイデア。さすがレイル様です」
ダンは、相変わらず張り付いた笑顔を見せた。
「俺らも登録したら冒険者になれんのか?」
ジェットが言うと、
「君達には、俺が作る組織に入ってもらおうと思っているんだが……冒険者の方が魅力的だよな……」
アークが残念そうに言った。
「ボクは安全した生活がしたいので、アークさんの組織に入りますよ。冒険者は依頼が無ければラルが貰えないようですし」
イシスがアークを見た。
「安全じゃなくて、安定なんだろ? グランもイシスと同じ考えなんだろ? 自由すぎると不安になるんだろ?」
意外と、グランはマニュアルに沿って動きたいタイプらしい。
「俺は、自分がしたい事をして生きるって決めてんだ。俺は魔物って存在が嫌いだからな。糞共を殺してラルが貰えるなら最高じゃねえか」
いまのジェットの表情は完全に『悪』だ。
だが、ジェットのようなタイプは冒険者に向いているだろう。
「それで、オルカラ王国の中心はイチノなので、イチノにギルドを建設したいなと思ってます。ギルドが完成したら、黒の輪のワープ場所をギルドに変えて貰えたら嬉しいんですけど……」
今、黒の輪のワープ場所として登録されているのは王宮だ。王宮の登録を消し、ギルドに変えるのは失礼にあたったりするだろうか、と少し不安になりながらゼンを見る。
「問題ないよ。イチノにギルドを建てるなら王宮とも近くなるだろうし、その時になったら登録し直そうか。ギルドの場所が決まったら、ぼくが建ててあげるから連絡してよ。ギルドの細かいシステムはハンス達とも相談しながら決めよう! あー! 今からワクワクするね!」
ゼンは目をキラキラとさせ、嬉しさを爆発させる。
少しは反対意見が出るかと思ったが、ゼンが賛成するのなら、上手くいく確信があるのだろうと思えて安心できた。
「ルルが帰ってきたら驚くだろうな。どんな反応をするか楽しみだ」
アークが笑った。
「きっと大騒ぎですね」
オルレアも楽しそうだ。
「これからまた忙しくなるね。レイルちゃんがこの世界に来てから、ぼくは毎日が楽しくて仕方がないよ。ねえレイルちゃん、ぼくのお嫁さんにならない?」
「お断りします。私はまだそういう事は考えていないので」
私は即答した。
「大神官様……」
アークが今にも泣きそうな顔をしている。
「ははは! 冗談だよって言いたい所だけど、ここは濁しておこうかな。ぼくはハンスに、君たちの未来について話してくるとするよ。またね」
そう言うと、ゼンは指をパチンと鳴らし消えた。
「まさか、兄があんな事を言い出すとは……申し訳ありませんレイル様」
ダンは困ったような表情で言った。
「別に迷惑とかでは無いので大丈夫です。多分からかわれただけですし気にしないでください」
私はゼンの性格をわかっている。
こういう冗談は絶対に言わない人だ。
であれば、今はまだ気づかないフリをする。
「ゼン様が言うように、これから皆忙しくなるだろうから集まる機会は減ると思うけど、たまに集まってお茶出来たらいいね」
私が言うと、皆笑顔で頷いた。
そこからの日々は本当に忙しかった。
私達は、それぞれやりたい事を王様に報告し、褒美として、全てを叶えて貰える事になった。
アークは、自身が立ち上げた自警団の名称を王国警備隊に変更し、国の公的な組織にした。毎日法律の細かい規定をあーでもないこーでもないと、国の偉い人達と議論を交わしているようだ。
オルレアはニライに広い土地を貰い、毎日植物達の世話を頑張っている。作れる数が増えたら販売すると意気込んでいたが、聖女が作ったものにどれ程の値段がつくのか見当もつかない。週に何度かは聖女の務めとして神殿にも通い、忙しい日々を送っている。
ローズとヴェルデは、ヴェルデのよりしろである大きな木の近くに家を建て、二人で仲良く暮らしている。そこにオルレアもよく泊まりに行くようだ。
魔人達は、辛い記憶の残る土地は避けるかと思ったが、三人の強い希望で、ゴウカで住む事を選んだ。
ネロが大喜びで三人をゴウカに迎えたらしい。
ゴウカには人が戻り、それぞれが好きな色に家を塗った事で、鮮やかな街並みが蘇り、砂漠だったなどと思えない程に、明るい街になっている。
イシスとグランは、毎日王国警備隊で訓練に勤しんでいる。ジェットはまだ冒険者ギルドが稼働していない為、暇つぶしがてら、色んな所に顔を出しているようだ。




