笑顔の破壊力 lv.119
「『名もなき果実』は、世界でぼくしか持っていないんだよ。そもそも『名もなき木』がエルフの国にしか存在しないのと、『名もなき果実』はエルフ族の長に代々受け継がれていて、他には流通しないからね」
ゼンが、『名もなき果実』と思われる白い実を取り出して言った。
世界に一つしか無いのだと思っていたが、ケーキに使った実の他にもまだあるらしい。
「大神官様はエルフ族の長だったのかよ……」
アークが呟く。
確かに初耳だ。エルフの国があるのに、オルカラ王国の大神官なんてやっていて良いのだろうか。
レレが目を輝かせ、
「まだ他にも持ってるんスね! 『名もなき果実』が実在したのにも驚きっスが、複数個収穫されていたとは、この記録は歴史に残さないといけないっスね」
何やらメモを取りながら言った。
「リリ様のお願いは、大神官様により叶えられました」
ダンが言うと、レレはハッとした表情をして、
「そうだったっスね、今はお願いを聞いてもらっていたんスよね。三つ目はレレのお願いっス。どんな病気、怪我でも絶対に治る万能薬、用意できるっスか?」
そう言うとニヤッと笑った。
ここが最大の難関かもしれない、そんな万能薬が存在するとは思えない。
ここは誰が行くのか……。
「わたくしがご用意致しましょう」
ダンがいつもの笑顔で言った。
そして自身の胸の前で右手の平を上に向け、透明の液体を生成する。
ゴウカでの戦いの際に使っていた、『打ち消しの毒』によく似ている。
ダンはその液体を、何処からか出した小さな瓶にいれ、レレに渡した。
「ちょっと早くないっスか? そんな簡単に諦めるんスか?」
レレは、先程のリリ同様、ダンが勝負を諦めたのだと思っているようだ。
確かにあまりにも早すぎる。準備をしていたかのようだ。
「諦めてはおりません。ただ、わたくしはその万能薬をたまたま持っていただけですよ」
ダンが言うと、レレは瓶を手に取り、リリが使っていたソーサーの上に液体を少し垂らし、手をかざした。
ソーサーの上の液体が、淡い光を放つ。
「やられたっスね」
そう言いながらも、レレは笑顔だ。
「これは完全に万能薬で間違い無いっス! この世界では、ポーションで治せないものは治癒魔法に頼るのが当たり前っスよね。まさか万能薬を生成する者がいたとは……完敗っス」
レレは鑑定が使えるようだ。満足気な表情をして、負けを認めた。
これに関しては相手が悪かったとしか言いようが無い。
ダンは毒使いだ。毒は使いようによっては薬にもなるという。
ありとあらゆる毒を作れるのならば、ありとあらゆる薬も作れるという事だ。
「では、レレ様のお願いはわたくしが叶えたという事でよろしいですね?」
ダンが言うと、レレは笑顔で頷いた。
最後はロロだ。
最強の癒しをロロに与える……ロロにとっての癒しとはなんなのか……。
「ロロ様にとっての癒しか……ぼくは思いついたけど、皆はどう?」
ゼンが楽しそうに問うと、
「わたくしも一つ浮かびました」
「俺も……一つ……」
「私も何となくですが、神の子であれば大丈夫じゃないかと思うものが一つあります」
私以外、全員がロロが癒されるものを思いついたらしい。
「え……私全然わからないんだけど、何で初めて会った人が何に癒されるかわかるの?」
ロロが第四の世界担当だとして、モフモフを与えるのは当たり前すぎて却下されそうだ。
恐らく、モフモフは足りているだろう。
だとしたら……何だ?
「では、レイちゃん少し失礼しますね」
オルレアが私の手を引き、ロロの所まで歩いて行くと、ゼンが指をパチンと鳴らした。
すると、何故か座布団が一枚床に置かれる。
「ここに正座していただけますか?」
オルレアがお願いするように、上目遣いで私を見る。
何となく察した。
こんなことで癒されるはずはないが、皆が言うのであれば、何か策があるのだろう。
「わかった」
私は座布団に正座をした。
「ロロ、おいで」
太もものあたりを、ポンポンと軽く叩きながらロロを呼んだ。
すると、ロロは嬉しそうにこちらに来て、私の太ももに頭を置いた。
私は、ロロの髪を撫でる。
「もう、ロロはここから動かないのー」
「ロロ! それはずるいんだぜ! そんなの無しだぜ!」
「リリも癒しをお願いしていたら、レイル様に膝枕をしていただけたのですわ!」
「これは反則っスね……羨ましいっス」
他の三人がブーイングのような声を上げる。
ロロを見ると、眠っているように見える。
神の子に睡眠は必要ない事を考えると、目を瞑って落ち着いているのだろう。
ロロの髪を撫でながら、私も寝顔に癒される。
「これは、レイル様がロロ様の願いを叶えられた、という事で良いですか?」
ダンが神の子達に向かい言った。
ララ、リリ、レレは渋々頷いた。
「意外にも早く決着がついたね。じゃあ、レイルちゃんのお願いを叶えてもらおうか」
ゼンは、ワクワクを隠しきれない程の笑顔で言った。
「レイル様の願い叶えるぜ!」
「ルルの為ではなく、レイル様の為なのですわ!」
「ここまで完膚なきまでにやられたんスから、やるしかないっスね!」
「ロロは離れないのー」
私の膝に頭を乗せ、寝転ぶロロが私にしがみつく。
「ロロ、もうおしまいだぜ! 約束は守らないといけないんだぜ!」
ララが、ロロを引っ張り、私から引き剥がした。
左からララ、リリ、レレ、ロロの順に私達の前に並ぶ。
何が起こるのだろう。
ゼンは、目をキラキラと輝かせている。
「ルルを呼び戻してもらえるんだよね?」
私が聞くと、四人は顔を見合わせ頷いた。
「あのっスね、レイル様、非常に言いにくいんスけど、レレ達の力だけではルルを呼び戻せないっス」
気まずそうな表情で、レレがこちらを見る。
それにはゼンがにっこりと笑いながら、
「まさか神が約束を破ったりしないよね? ぼく達もお願いを聞いたんだから、ね?」
と言い、レレに視線を向けた。
ゼンから、静かな怒りを感じる。ものすごく楽しみにしていた事がお預けになりそうなのだ。無理はない。
目の前の四人は、ゼンの気迫に圧倒され、怯んだ様子を見せたが、ララが一歩前に出た。
「お願いは聞くぜ! でも、レイル様の協力が必要なんだぜ!」
ララは、私と目を合わせた。
「今、ルルは神力が無い状態なのですわ。リリ達が存在しているのは神力のおかげなのですわ。このままだとルルは消滅するのですわ」
リリが悲しそうな表情で言うと、
「ルルはこの世界でルールを破ったっス。それにより、神力が没収され、今は、ここに居るのに居ない状態なんスよ。なので、ルルの神力をレイル様に補填していただきたい、という訳っス!」
レレが、私達にわかりやすいように、状況を説明してくれた。
「ルルさんは、今ここにいるのですか?」
オルレアがレレに質問する。
「うーん、いるんスけど、いないんスよ。いても認識出来なければいないっスよね? いなくても認識出来ればいるっスよね? 今のルルはそんな感じっス!」
余計に意味がわからなくなった。
何かの実験のようだ。
「居るのか居ないのかわからないって事だろ。レイルの神力が必要って言っても、どれくらいの量がいるのかもわからないよな。どうするんだ?」
アークが疑問を投げかける。
「レイル様の神力の量は存じ上げておりますが、神の子である、ルル様の神力全てを補填するとなりますと、レイル様の神力が相当持っていかれるでしょう。もし足りないとなった場合に何が起こるのかも不明ですので、承諾するのは賭けになりますね」
ダンは、真剣な表情で私達に向かい言った。
「私は、ルルを呼び戻せる可能性が少しでもあるならやります」
私は何をしてでも、ルルを呼び戻す。




